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2013年11月28日 (木)

学生ローン=貧困ビジネス?若者の負うべき負債とは何か

最近では生保受給者増が問題になる中で若年者が生活保護を申請に行きますと「若いんだから働け」と門前払いされると言うのですが、仕事先が見つからないから困っている人間にそういうことを言うのはおかしな話で、むしろ地域に細々している雑用は幾らでもあってその都度いちいち自治体職員が駆り出されているのですから、そうした業務に当たらせて給与を出すという形にすれば皆が幸せになれそうなのに…といつも思います。
ともかくも日本も高等教育を受けるのが当たり前になったということは、裏を返せば単に大学を出ましたでは就労に当たって何らのアドバンテージにならないということでもあるかと思いますが、とは言え高卒よりは大卒の方がまだしもより良い職に就けそうだという期待感が厳然としてある以上、やはり親も子も何としてでも進学をと考えるのは仕方ないところですよね。
その一方で大学教育のモラトリアム化が叫ばれて久しい日本で、数年間を漫然と大学生活に費やすことのコストとその利益とがどれだけペイするのかと言うことは常に考えておかなければなりませんが、今の時代「借金してでも大学へ」と言う考えはかなりハイリスクになってきていると思わせるのが学費ローン問題の広がりです。

奨学金280万円借りた元私大生、生活保護受給者に 「安定収入がないと…」(2013年11月18日産経死ぬbん)

 日本育英会(当時)から無利子で奨学金約280万円を借りた大阪府内の男性(35)は、約70万円を返済した段階で生活保護を受給する身となった。来年夏まで返済は猶予されているが、今後も完済できる見通しは立っていない

 男性は関西の私立大学に入学してから4年間、無利子で毎月5万9千円を借りていた。卒業後は団体職員として働きながら月に約1万5千円ずつ返していたが、4年後に鬱病を患って休職。そのまま退職した

 症状は改善して現在、IT関連会社で1日5時間のパート勤務を続けるが、それだけでは収入が足りず、生活保護を受給する。残る奨学金は約210万円。月に約1万5千円ずつ払っても10年以上かかる計算だ。

 男性は「自己破産での債務免除も考えたが、(奨学金の)連帯保証人の親族らに迷惑がかかると思って断念した。安定した経済基盤がなければ、きちんと返せるか不安だ」と漏らした。

奨学金返還訴訟8年で100倍 「厳しい取り立て、まるで貧困ビジネス」(2013年11月18日産経新聞)

 経済的に苦しい学生を支援する独立行政法人「日本学生支援機構」(旧日本育英会)から借りた奨学金の返還が滞り、利用者が訴訟を起こされるケースが激増、昨年度までの8年間で100倍に増えたことが、同機構への取材でわかった。背景には、不景気などにより貸与額が増加する一方で、非正規雇用や失業など卒業後の不安定な就労から返済が困難となっている情勢がある。機構側も対策を講じているが、専門家からは「学生を支援するはずが、強引に返済させるのは本末転倒では…」との指摘も出ている。

延滞金は年10%!

 機構によると、訴訟への移行件数は16年度で58件だったが、21年度は4233件に急増。24年度は6193件と、16年度の実に106倍に達した

 奨学金には無利子と有利子の2種類があり、特に有利子分の貸与額も、16年度の4100億円から24年度には8100億円に倍増している。返還が滞ると年10%の延滞金が発生。延滞が9カ月を超えると、機構が簡裁に支払い督促を申し立てる。利用者から異議がなければ財産を差し押さえ、異議があれば訴訟に移る-という流れだ。

 “取り立て”る側の事情もある。機構の関係者は「国の行政改革を通じ、奨学金は金融事業と位置づけられた。民間金融機関からの借入金を返すためにも、回収を強化する必要がある」と説明する。

 一方、利用者側の事情は厳しい。経済的理由などで返済が困難になった場合、支払い猶予を申請できるが、機構によると、卒業後の「経済困難・失業中」による猶予は23年度で9万2157件。生活保護受給による猶予の3843件を合わせると、同年度の猶予件数(10万8362件)の約9割を占めた。

 こうした状況を受け、機構側は24年度から無利子の奨学金について、卒業後の年収が300万円を下回るなど一定要件を満たした利用者の返還期限を定めない方式を導入。文科省も26年度の予算要求で延滞利息の引き下げを盛り込んだ。

 奨学金問題に詳しい大阪弁護士会の山田治彦弁護士は、機構側の姿勢を「卒業後も困窮する利用者に対し訴訟を起こしてでも取り立てようとするのは、貧困ビジネスのようでおかしい」と批判。一方、利用者側についても「奨学金がローンだという認識が薄い。返済が行き詰まる前に相談するなど、早期に手を打つべきだ」と指摘する。

しかし育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金も医科系大学院で丸々4年受けると600万近い金額を延々20年からかけて返還していくことになるわけで、「月に約1万5千円ずつ払っても10年以上かかる」と言うのは奨学金の返還方法としては別にそう珍しい話でもないように感じますがどうなんでしょうね?
それはともかく以前にも取り上げた通り、日本では何故か世界的には単に学生向けローンと呼ばれるものが奨学金などという美名で呼ばれていて、当然ながら単なる借金と言う認識が乏しいまま漠然と借りてしまう学生が今や過半数に達していると言うのは驚きますけれども、高卒者に対する求人が激減している中で親の支援も期待出来ないとなればどうしても利用者が増えてしまうのは仕方のないところなのかも知れません。
よく言われるように外国人留学生に対しては返済無用の給付型奨学金が充実しているのに、日本人には勝手に借金しろではおかしいのではないかと言う意見もありますけれども、双方の数と投じた費用に対する効果と言うことを考えると外国人優遇にもある程度の理はある話ですし、膨大なコストを考えると日本人向け奨学金を充実させるにしても成績や受講態度などそれなりに厳しい基準は問われることになるかと思います。
ただこうまで一般化してくると「奨学金と言うから受給したのであって、正しく学生ローンと言われていれば手を出さなかったのに…」と騙されたように感じる人もいるでしょうから、やはり本当の奨学金と学生向けローンとは制度上も名称上もきちんと分け、借金が嫌ならしっかり勉強して奨学金を取るように誘導していくのが妥当なのかなと言う気がします。
ところでいささか話は変わりますけれども、医学部の学生教育というものも年々移り変わっていくのは当然なんですが、最近はこんな感じになってきているという記事が出ていたのを紹介してみましょう。

医学部 改革進む育成策(2013年11月25日読売新聞)

臨床実習「参加型」に、へき地研修 必修化も

 医師の地域偏在の解消や資質向上を目指して、多くの医学部が教育改革を進めている。
 へき地での研修を必修化したり、臨床実習期間を長くしたり……。社会の要請に応えられる医師の育成に向け、奮闘する現場を取材した。

 10月下旬、島根県雲南市の同市立病院。病室ベッドに横たわる高齢者の背中を見て、島根大学医学部5年生の山口巌史(よしふみ)さん(27)が息をのんでいた。床ずれが広がっているのだ。
 同大が5年生全員を対象に約2週間、泊まり込みで県内の中山間地域の医療機関で現場体験させる「地域医療実習」。気を取り直した山口さんは、手当てをする医師の手元を見つめながら「大学病院のような『流れ作業』でなく、トータルでケアできるのが地域医療の魅力だと思う」と話した。東京出身だが、島根に根を下ろすことも考えているという。

 地域医療に従事する医師を増やしたいと、工夫を凝らす大学が増えてきた。その地域で医療に貢献することを前提にした「地域枠」を入試に設ける大学は68大学に上る一定期間、県内で医師として働くことなどを条件に奨学金を貸与する大学も多い
 島根大も7年前に「地域枠」の推薦入試を導入した。県内の都市部を除く地域の出身者が対象で、医療機関や福祉施設で研修をした上で市町村長らの面接を受ける必要がある。さらに、この枠での入学者を含む学生全員に、地域実習を課すことにした。

 卒業後の支援にも力を入れる。地域で働きながら留学や専門医を目指した勉強もできるよう、県や医師会などの協力で今春、大学構内に「しまね地域医療支援センター」を開設した。
 その結果、昨春卒業した入試改革1期生で、国家試験に合格した89人のうち31人が県内で研修医として残った。地域枠の4人は全員が残った。だが、2期目は87人のうち31人が県内を選んだものの、地域枠は10人のうち5人が県外へ移った
 「首都圏の病院に対する学生のブランド志向は仕方ない」と大谷浩医学部長。今後どう意識改革を促すかが課題だ。
(略)

考えてみれば昨今大流行のいわゆる地域枠なども厳しい取り立てどころではなく、強制的に負債を回収する制度を公的に用意するというびっくりな話で、事実かつて似たようなことをやっていた看護業界では御礼奉公=悪だとさんざんにマスコミからもバッシングを受けていましたけれども、何か地域枠に関してはいいことをしているかのようなマスコミの称讚ぶりが不気味ではありますよね。
それでも地域枠で入学して結局地域に残らなかった学生が決して少なくないという点に注目いただきたいと思うのですが、制度的に言えば「卒後○年間は地域医療に貢献する義務を負う」と言った文言は「卒業後すぐに」と言うことを求めているわけでもないと解釈出来る余地があって、例えば「いずれは地域での診療に従事する予定です」と言い続けていれば契約違反ではなく単に契約未履行に留まるとも言えます。
もちろんこうしたケースが増えるほど大学側も契約の文言を変えてくることにはなるでしょうが、ともかくも後で返すからとお金を受け取った学生が返せなくなれば「貧困ビジネスだ!」と擁護される一方で、後で働くからと言ってお金を受け取った学生が返せなくなれば「約束違反だ!」と叩かれる風潮というのは、考えてみると何か不公平と言うのか釈然としないものがありますね。

「貧乏苦学生がワープア化するのと訳が違う。医者はいつだってどこだって好きに稼げるじゃないか」と言う意見はあるかも知れませんが、地域枠に残らず県外流出した若者達もどこかの地域で住民の健康を守るために大いに貢献している訳で、ド田舎の僻地で一日数人のお年寄りを診るよりも昼夜分かたず毎日100人の患者を捌いてる方がよほどトータルで考えると医療に貢献しているという考え方もありますよね。
そう考えると地域枠なのに地域に残らないのは悪い奴だと言うのもちょっとどうなのかで、むしろ地域住民は地域枠で「おらが町の病院にもお医者さんが来てくれるようになる」と思っているのに、地域とは名ばかりで大学病院本院や地域基幹病院でばかり居残って御礼奉公年限を満了してしまうようなタイプの方がよほど地域の裏切っているという考え方もあるでしょう。
結局地域枠離脱と言うものが問題視されるのはぶっちゃけ「俺達が金を出したんだから俺達の為に働くのが当然だろ?」と言うことなのでしょうが、そもそも国立大学などが特定地域のために便宜を図るというのも考えてみるとおかしな話ではあって、田舎の医師不足解消が本音ならいっそ地域枠指定医療機関なりを各地に設定して全国国立大医学部の地域枠を相互に融通出来るようにすれば済むだけの話なのかも知れません。
最近は研修指定病院なども次第に定数が削減される方針だそうでマッチングなどもどんどん難しくなっていくのでしょうが、地域枠にしても今は「地元に残ると言えば多少成績が悪くても入れてくれる」おいしい入学枠扱いですけれども、研修先を絞ることで競争が激しくなれば結果として良い医者がより多く育つと言うことにつながるかも知れないですね。

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コメント

育英会の契約ってどこからどうみても借金契約なんですけど、何をどう解釈したら「借金という感覚が乏しく」契約できるのか謎です。あと、

>自己破産での債務免除も考えたが、(奨学金の)連帯保証人の親族らに迷惑がかかると思って断念した。

自己破産しなくても連帯保証人に請求出来るってことをいい大人が知らないのも気になります。

投稿: クマ | 2013年11月28日 (木) 08時00分

自分達の周りでは育英会の無利子奨学金が多かったですけど最近はシステムが違うんですかね?
医学部は奨学金申請が少ないから通りやすいとか聞いた記憶があるんですが。
でもそんなに希望者が増えたら条件の悪い奨学金になっちゃう人が多いんでしょうね。
いっそ企業が唾つけた学生に学費を出すシステムにした方が間違いって気も(究極の青田刈り?)。

投稿: ぽん太 | 2013年11月28日 (木) 08時53分

借りたものは返さなくちゃいけないって当たり前のルールをまず学ぶべきw
これだからゆとりはって言われちゃうぞww

投稿: aaa | 2013年11月28日 (木) 09時09分

結局はそこに行き着くんですよね。>借金なんだから借りたら返す義務がある。
ただ同時に借金ではないかのように振る舞って人に貸し付け、返済の時になったら借金だからと言い立てるのもアンフェアと言うもので、結局はこれまた説明と同意が不十分なのかなと言う気がする問題です。
世間的(と言うかマスコミ的?)にはこうした場合不十分な説明しかしていない側が一方的に叩かれているという構図が多いようですけれども、やはり説明を受ける側も理解もせず利用するのもどうなのかとは感じますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月28日 (木) 11時03分

奨学金=返済義務のないお金
学費ローン=利子を含めて必ず返す義務のあるお金

日本では奨学金と学費ローンが混同されています。

返すあてもなく、将来の見通しもなく、借りた金を返せないと、さも弱者のように振る舞う愚かさ。
水商売や風俗産業で働いて借金返せとは言いません。
自己責任ですから、周囲に迷惑をかけずに、法律に触れない仕事を必死にして返しましょう。

投稿: physician | 2013年11月28日 (木) 13時26分

地域就業義務・・・オーストラリアみたいに卒後すぐに地元限定10年間ではなく、専門医をとってからあと、診療所または病院勤務で奨学金受領年数だけ働くとすれば良いのです。その前と、その後の移動は自由。
9年とか10年とか、ストレートに医学部を卒業した6年より長いでしょう。
日本の地域就業義務制度は制度設計が悪いのです、地域に長期間、しばりすぎ。

投稿: physician | 2013年11月28日 (木) 13時36分

もう税金で食ってる奴を甘やかすのは止めろ!

奨学金? 低利ローンで十分やろw

大卒=世界規模で見ればエリート  なぜエリートでありながら奨学金を返せないほど無能なのか?

おそらく、東南アジアの庶民には理解できない話と思う。

あと、診療報酬の技術料を値下げするべき。

投稿: 記者 | 2013年11月28日 (木) 16時08分

>なぜエリートでありながら奨学金を返せないほど無能なのか?
東京なんて大学進学率70%超えているんだから、それだけで理解できるのでは?

投稿: hisa | 2013年11月28日 (木) 16時52分

借りた金は返す
自分と家族の生活は自助努力で守る

人として当たり前のことですよね。
一部のエセ弱者には理解できないのでしょうけど^^;

投稿: TPP推進 | 2013年11月28日 (木) 17時15分

physicianさまへ
そういう制度設計にすると、受け取った奨学金を全額返却する医者が増えるような気がします。
支給額が小さすぎて縛りになっていないという問題もあるのですが。

投稿: クマ | 2013年11月28日 (木) 18時07分

>借りた金は返す
>人として当たり前のことですよね。

個人対個人ならその通りですが、金融機関対個人の場合それはビジネスだからしてそこに道義が入り込む余地はなく返せないような奴に貸す奴が無能なだけ、って宮崎学先生がおっしゃっておられたような…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年11月29日 (金) 09時24分

鼻持ちならない虫が湧いているようで少し気分が悪くなります。。。世間で相手にされない腹いせなんだろうけど、構ってチャンは見苦しいな

それはそうと、卒業生の殆どが就職入試来ないような『大学』が、高い授業料を設定していても、馬鹿な学生が奨学金背負って入学して来てくれるとは、『大学』にとっては笑いが止まりませんね

しかも憲法違反の私学助成も馬鹿な学生が危機感覚えない程度に補助したり、馬鹿を自覚させずに推薦にやら、AO入試やら、企業にとっては使い物にならない高卒を『大学』にロンダリングしているだけだものなぁ

昔、図書館司書になりたくて大学に奨学金で入った女子学生が、奨学金が払えない!と、NHKで訴えてたけれど、図書館司書になったところで奨学金が払える給料もらえないだろうに。。。と、一人でツッコミ入れてました

甘いよなぁ。。

投稿: Med_Law | 2013年11月29日 (金) 21時13分

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