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2013年11月 8日 (金)

診療報酬改定の時期迫る

そろそろ診療報酬改定の作業が本格化する中で、先日その大きな基礎資料となるだろう医療経済実態調査のレポートが出ていたのですが、それに対して日医がこんなコメントを出したと報じられています。

診療報酬改定で中小病院などの待遇改善必要-医療実調受け、日医・鈴木常任理事(2013年11月6日CBニュース)

 厚生労働省が6日の中央社会保険医療協議会で示した医療経済実態調査(医療 実調)報告を受けて、日本医師会の鈴木邦彦常任理事は同日の記者会見で、医療 法人の経営は改善しておらず、次期診療報酬改定での中小病院や有床診療所の待 遇の改善が求められているとの考えを示した。

 医療実調は診療報酬改定の前の年に実施され、今回は2011、12年度それぞれの 通年での収支状況を比較した。それによると、一般病院の12年度の医業収益は、 国立病院が前年度比3.1%増、公立病院は同2.3%増だったのに対し、医療法人は 0.8%増と、ほぼ横ばいだった。また、税引き後の総損益差額構成比率は、国立 病院では前年度から8.7ポイント改善して0.4%へとプラスに転じ、公立病院も 2.7%と0.9ポイント上昇した。しかし、医療法人は2.1%と0.1ポイントしか改善 しなかった

 12年度の職員1人当たりの平均給料年度額(一般病院)の伸び率は、医療法人 で医師が前年度比2.8%増(1506万7637円)と最も大きく、次いで歯科医師が同 1.9%増(911万4221円)、院長が同1.7%増(3055万1052円)の順だった。同様 に、医療法人が運営する一般診療所での伸び率は、薬剤師が同5.1%増(694万 2518円)で最も大きく、医師が同1.6%増(1315万7145円)でこれに続いた。一 方で、院長は同1.1%減(2778万3258円)と、前年度に比べて給料額が減った。 これについて鈴木常任理事は、「診療所では、院長の給料を減らしてでも職員の 給料を上げて、何とか職員を確保していることがうかがえる」と分析している。

 一般病院の病床規模別の医業収益の伸び率は、500床以上が最も高く前年度比 3.6%増、次いで300-499床が同2.6%増。一方、299床以下は1%にも満たなかっ た。鈴木常任理事は、「300床以上の大病院での医業収益の伸びは依然として高 い」とした上で、収益改善があまり見られない中小病院や有床診療所に対して 「次期診療報酬改定での待遇改善が必要」との見解を示した。

データ自体は全体に組織としての経営が堅調に改善している中で診療所の院長だけが微減という中々に興味深い数字で、日医の言う「診療所では、院長の給料を減らしてでも職員の 給料を上げて、何とか職員を確保している」のかどうかはこればかりははっきりしませんけれども、大病院に比べて中小病院・診療所の医業収益が伸びていないことと併せて日医的には非常に不満足なのだろうなということは理解出来ますよね。
もっとも日医にこの種の業界団体の常でどのような数字が出てこようが現状に不満を鳴らし改善を要求するのが仕事といった趣もあって、同じデータを取り上げて世間ではこう報じたということが日医の見解とはかなり好対照であるように思われます。

医療機関の収支「全体的にやや改善」(2013年11月6日NHK)

昨年度・平成24年度の全国の医療機関の収支は、国公立病院で依然として赤字が続いているものの、全体的にやや改善したことが厚生労働省の調査で分かりました。

厚生労働省は、医療機関に支払われる診療報酬の改定に向けた基礎的な資料とするため、医療機関の経営状況を調査し、6日に開かれた中医協=中央社会保険医療協議会に報告しました。
それによりますと、昨年度・平成24年度の一般病院の収支は、いずれも平均で、民間病院が前の年度より215万円多い、7621万円の黒字となりました。これに対し、国公立病院は前の年度より赤字幅は減少したものの、国立病院が397万円、公立病院が3億1897万円の赤字でした。
一般診療所では、いずれも平均で、入院施設のある診療所が前の年度より67万円少ない2503万円の黒字、入院施設のない診療所が前の年度より132万円多い1726万円の黒字でした。
この結果、全国の医療機関の収支は全体的にやや改善しました。
また、医師の平均年収は、民間病院の勤務医が1590万円、国立病院が1491万円、公立病院が1517万円、医療法人が経営する一般診療所が1336万円、個人経営の一般診療所が1345万円でした。

診療所などの収支改善 12年度、診療報酬アップ効果(2013年11月6日朝日新聞)

 【高橋健次郎】厚生労働省は6日、医療機関や薬局の経営状況を調べた「医療経済実態調査」の結果を公表した。2012年度は、病院や、歯科以外の一般診療所で収支が改善した。医療サービスの公定価格である診療報酬を、12年度から全体的に引き上げた効果とみられる。

 調査結果は、政府が2年ごとに診療報酬を見直す際の基礎データとなる。その内容を話し合う中央社会保険医療協議会で、厚労省が示した。財務省はこの結果などをもとに、来年4月の次期改定で引き下げを主張する構え。改定率をめぐる攻防が激しくなりそうだ。

勤務医と開業医、年収格差1.75倍(2013年11月7日産経ビズ)

 厚生労働省は6日、医療機関の経営状況などを調べた「医療経済実態調査」を中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)に報告した。

 2012年度の医師の平均年収は、医療法人が経営する民間病院では院長が3098万円と11年度より53万円増えた。病院勤務医は1590万円で43万円増。一方、医療法人経営の診療所では院長(主に開業医)の年収が2787万円と31万円減ったが、それでも病院勤務医に比べ約1.75倍の格差があった

 実態調査は診療報酬改定の参考にするために実施。14年度の改定率(増減幅)が決まる年末に向け、財務省を中心に報酬引き上げへの反対姿勢は一層強まりそうだ。

もちろん一般マスコミの報道もそれなりのバイアスがかかっていて、例えば産経などは例によって病院の一般勤務医と診療所の院長とを比較して「開業医はこんなに儲けている!」などと印象操作を図っていますけれども、他紙の報道にあるように院長同士勤務医同士のカウンターパートで比較すれば病院勤務医よりも診療所開業医の方がそれぞれ一割程度は給料が安いということが判りますよね。
それはともかくとして、医療費抑制政策が続けられていた旧自民党政権時代の平成17年頃から一貫して医師の年収増加傾向が続いていること、小松先生が「医療崩壊――立ち去り型サボタージュ」とは何か」を出し医療崩壊が社会現象として語られ始めたのが平成18年であったことを考えると、医師らスタッフの給与上昇は診療報酬改定よりも医師不足など人材難を反映したものが主体で診療報酬の上下に絡めて語るのは不適切かなと言う気がします。
それでは医療機関の経営状態を元に診療報酬を論じるのが妥当なのかということなのですが、未だに公立病院の赤字が慢性化しているように利益性の乏しい医療も含めて経営状態を評価すべきなのかも議論の別れるところですし、そもそも日医を始めとする医療系諸団体にしても医療で金儲けをすべきではないと言っているのに、儲かっていないからもっと診療報酬を上げろと言うのは世間的に通用しない話ですよね。
ともかくも現行の診療報酬水準で医療機関の経営状態は徐々に持ち直してきているとは言えるわけですから次回改訂では少なくとも大幅引き上げは考えにくい状況で、特に財務省筋からは強硬な反対が出ていることもあり恐らくは消費税アップ分をどのように反映させるべきかという議論が中心になって終わるのではないかと言う気がします。

診療報酬改定基本方針 骨子案まとまる(2013年11月7日NHK)

厚生労働大臣の諮問機関の社会保障審議会の部会は、来年度の診療報酬の改定では、医療全体の重点化、効率化を図るため、病院や診療所などの役割分担を進めることや、がん治療、認知症対策の充実を重点にすべきだなどとした基本方針の骨子案をまとめました。

骨子案は医療機関に支払われる診療報酬の来年度の改定で、重点にすべき項目をまとめたものです。
それによりますと、医療全体の重点化、効率化を図るため、救急患者を受け入れる病院、容態が安定している患者を受け入れる病院、それに小規模の診療所など、医療機関ごとの役割分担と連携を進めるようにすべきだとしています。
また在宅医療の向上のため、訪問看護ステーションの大規模化などを促すべきだとしています。
一方、具体的に充実を図るべき分野として、がんや精神疾患の治療、認知症対策、リハビリなどを挙げています。
さらに、医療費の適正化を重要な課題と位置づけ、価格の安い「後発医薬品」の使用を増やすことや、患者の入院日数を減らすなどの取り組みが必要だとしています。
この骨子案は、今週開かれる社会保障審議会の部会で示され、来月中に診療報酬の改定に向けた基本方針が取りまとめられる見込みです。

診療報酬増額を否定 財政審、高コストを問題視(2013年10月22日産経新聞)

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関、会長・吉川洋東大大学院教授)の分科会は21日、保険診療における医療サービスの公定価格にあたる診療報酬について、平成26年度の増額は行わないとの見解を示した。26年度は診療報酬の改定年にあたるが、医療費が膨らみ財政を圧迫していることを問題視した。

 高齢化や医療の高度化などから、医療費は25年度で約42兆円にのぼっており、毎年約1兆円ずつ膨らんでいる。診療報酬を1%引き上げた場合、患者や国の負担は4200億円増えることから、委員からは「影響が大きく国民の理解は得られない」など、増額に否定的な意見が相次いだ

 分科会では、緊急・重症な患者に高度で専門的な医療を行う「急性期医療」を強化し、患者に早期の社会復帰を促すべきだと指摘した。また、安価な後発医薬品の活用を加速するなど合理化を進め、高コスト体質を是正すべきだとした。
(略)

診療報酬の議論と言うとともすると総額で幾ら上がった、下がったと言う話に終始する傾向がありますが、各種加算で汗を流している現場スタッフに配慮しましたなどと言われても実際の給料に反映されなければ意味がないのと同様、働いている人間にとっては病院の経営よりも自分の懐に幾ら入るかの方がよほど切実な問題ですよね。
もともと診療報酬と言えばマスコミなどは好んで「医師の給与などにあてられる」と言う表現を使いますが、実際には医師の取り分は報酬のうち1割強で全体の中でのごく一部であり、看護師その他スタッフ全体を含めた人件費で見ても(一部の人件費率8割超などと言う終わっている公立病院は別として)4割~5割程度と言うのが真っ当な医療機関における数字でしょう。
未だ人材不足がこれだけ取り沙汰される状況にあって人件費は減らすのも難しいと考えると、残り半分のコストをどのように使うかという議論も非常に重要なのは言うまでもないことなのに、国際的にも極めて高いと言われる日本の医療機材コストなどにさっぱり言及しようとしないのはおかしいですし、診療報酬分がまるまる機材コストに持って行かれるという状況をどう改めるかの議論もむしろ医療系団体から仕掛けてもいいはずです。
薬剤費にしても相変わらずゾロ比率をもっと上げましょうなどと言っていますけれども、国も本気で「同じ成分同じ薬」だと考えているのであればゾロが出た時点で先発品の薬価をゾロと同水準に引き下げれば済む話なのに、とっくに減価償却も終わっているような古い薬にいつまでも高い薬価を付け続けるのは今時言うところの製薬企業の既得権益とも言われかねませんよね。
ともかくもせっかく世間の関心が医療崩壊等々の報道を通じて「医療現場も大変なんだな」という方向に向いているのに、相変わらずの十年一日で「とにかくもっと報酬を上げろ」では誰からもまともに相手にされないのは当たり前ですから、医療系団体も単なる業界圧力団体の自分勝手な我が儘だと言われたくなければもう少し戦略を練り直した方がいいように思います。

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コメント

あいも変わらず、開業医と病院勤務医の給与の単純比較には辟易とします。まず、あしき歪曲統計における"平均値"をどうにかなりませんかね?中央値や最頻値などを用いることがなぜ、できないのでしょう?まるで小学生の算数授業と変わりがない発表形式であり、いかに日医幹部が、統計分析をわかっていないか、を表しています。

投稿: striker | 2013年11月 8日 (金) 08時04分

追記しますが、三次レベル、つまり、濃密なる高度先進医療を展開してくれる大学病院で働く現場医師の多くは、事業所保険さえない場合もあり、針刺し事故において労災申請も病院に拒否されたり、大学附属病院からの待遇は年収600万にすら届かないです。実際には、多くの医局員は睡眠不足を耐えに耐えて、別病院への当直という副業をするわけです。これが地域最後の砦とを守ってくれる最高の治療技術をしている医師の多くの実態です、と報告したらいい。

投稿: striker | 2013年11月 8日 (金) 08時19分

たぶん細かく改訂内容に注文つけられるほど制度を詳しく研究していないのでは?って気も少しばかり。
報道されてるのが増えた減ったとかそういうことだけで実際にはもっと細かくやりあってるのかも知れませんけど…
検査や処置だけでなく医師の技術や知識自体がもっと評価されるようになってもらいたいです。

投稿: ぽん太 | 2013年11月 8日 (金) 09時33分

>三次レベル、つまり、濃密なる高度先進医療を展開してくれる大学病院で働く現場医師の多くは~

そんなところに勤めちゃう奴は糞喰ったりするのが好きなのと同様な変態性欲者だからして自己責任、を通り越して手前の変態趣味で労働ダンピングやらかす全労働者の敵だからして縛り首にすべし、でとうの昔に決着ついてる話を今さら蒸し返されても…(困惑)

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年11月 8日 (金) 09時53分

逆にそれだけ冷遇されてもなお大学に残りたい人ってどんだけ?っておもう
うちの母校でもどこにもマッチングできずに大学に残る奴がいるらしいけどそんな手合い?

投稿: | 2013年11月 8日 (金) 10時13分

まあ学位だとか教授への野心だとか、大学には大学なりに心くすぐる要素が少なくとも特定階層に対しては未だ残っているということでしょうけれどもね。
ともかく診療報酬改定については日医だけが医療側の意見代弁者のようになっているのは正直不安と言うしかありません。
日医があたふたと未熟ぶりを見せれば見せるほどますます求心力は弱まっていくということを自覚しているのかどうか?

投稿: 管理人nobu | 2013年11月 8日 (金) 11時21分

開業医と病院勤務医の給与比較ほどナンセンスなものはないですね。笑止。
まあ病院勤務医はもっと報酬もらうべきだとは思いますが、開業医の報酬減らせとか言うのは?
多額の借金をしてリスクを背負って開業する医者が減ったら、多くの勤務医が定年まで病院に残るとでも?
むしろモチベーション低下した動けない使えない老害が増えるだけじゃないかと?
普段使うような薬が薬局もしくはネット販売されて、さらに消費税も電気代も上がるこの時代に開業医の報酬減らすような事したら、開業医がバタバタ潰れて難民化する患者も増えるのではないかと思います。
専門報酬とかつけて実力によって差がつくようにしたほうがいいのですが、医師会は反対なのでしょうが。
医師会も何をしたいのかサッパリわからず迷走してるようにしか思えません。

投稿: 逃散前科者 | 2013年11月 8日 (金) 11時22分

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