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2013年11月 1日 (金)

「医者が来ないから強制配置」は正しいか?

先日は2013年度の臨床研修マッチングの結果が公表されまして、かつてはほとんど拮抗していた市中病院と大学病院とのマッチ者数の格差が年々拡大し10%にまで開いたのも気になるところですが、それ以上に気になるのが病院間の定員充足率の差で、大学で言えば岩手医大、弘前大、福島県立医大など東北諸大学は軒並み20~30%と全国最低水準の低充足率に甘んじています。
そしてそれ以上に格差が拡大しているのが市中病院で、半数弱の施設で充足率100%を達成している一方で一人も研修医が来ないという施設が少なからずあるという点は以前より言われている「定員を全般的に削減し、地域性等を考慮して戦略的に再配置すべき」という論に一定の力を与えることになるかと思いますね。
研修医もさることながら医師自体の偏在もかねて解消が叫ばれているところですが、一部の若い頃にだけ辛うじて務まるようなハードな修行を課す有名研修病院はともかくとしても、一般論としては研修医にも人気があるような施設の方がその逆の施設よりも一般の常勤医にも評価を受けやすいだろうと推測します。
その意味でマッチングという行為を単に研修医獲得の場で終わらせず、院外からの客観的評価指標の一つとして捉えて業務改善に活用できれば自ずと評判も高まっていくんじゃないかと思うのですが、世間ではどうもそうした「まっとうな」手段に頼らずとにかく国家権力を用いてでも強制的に医師を不人気病院に送り込めばいいんだと主張する方々も多いようです。

医師の計画配置を8割支持、地域医療再生で- 日病が「制度の壁」調査(2013年10月29日CBニュース)

 日本病院会(日病)は29日、「地域医療再生を妨げる『制度の壁』に関するア ンケート」の調査結果を公表し、勤務医不足の解消策として、81%の病院が「医 師の計画配置」を支持していることが明らかになった。アンケートを取りまとめ た日病・地域医療委員会の塩谷泰一委員長は、「地方病院の努力は限界を迎え た。国がガバナンスを発揮すべき」と指摘した。【丸山紀一朗】

 日病では1月、会員である2375病院を対象に、地域医療の再生を阻害する「制 度の壁」についてアンケート調査を実施。339病院から回答を得た。

 勤務医不足の解消策について、「医師の計画配置」のほか、「医学部定員の増員」や「へき地勤務の義務化」などを求める声が多かった。塩谷委員長は、同委 員会が地方の病院長などからなる組織であることを説明した上で、「医師の計画 配置やへき地勤務の義務化をすべき、という委員会の考えをサポートする調査結果だ」と話した。

 また、塩谷委員長は、教師や警察官がへき地勤務を義務化されている例を挙 げ、「命を守る医療ではなぜできないのか」と指摘。国が地域医療にこれまで以 上に関与しなければ、医師不足を解消できないと訴えた。

 このほか調査では、5年前に比べて勤務医が増加したかどうかについても質問 し、約半数が「増加した」と回答する一方で、約7割が依然、「医師が不足」状 態であることが分かった。診療科別には、内科、麻酔科、整形外科の順に不足を 訴える声が多かった。また、医師確保について約9割が「困難と感じる」と回答 した。

いやそれは何らの努力も伴わず医師を抱え込むという結果だけを求める地方の病院長達にたずねれば「医師の計画 配置やへき地勤務の義務化をすべき」という考えに傾くのも当然ですけれども、一般論として公共の利害が絡む問題に直接の利害関係者が自分の都合のいいような制度改定を主張するのは世間的にはあまり好意的な目線では見られていないとは思いますね。
「教師や警察官がへき地勤務を義務化されている」というのも実際には公務員だからこそで、医師も国公立病院に勤務する者にはそうした義務付けを行うというならまだしも話は判りますし、あるいは開業という「逃散経路」を認める要件として僻地勤務歴を問うとかいった話なら日医以外からいささかの理解は得られるかも知れませんが、要するにこれは若い医師を人身御供として田舎に差し出せという要求でしょう。
ちょうどその日医も必死に関与を主張している新専門医制度がこうした医師強制配置計画の一環を担うことになるのではと言われていて、先頃の社会保障制度改革国民会議の場で「医師が自主的に強制配置をやらないなら国がやるしかないけどどうよ?」などと言う話が飛び出してくるというのも、日医が全医師に好き勝手な強権を振るおうとすることへのいわばお墨付きにもなりかねないですよね。
実際には有名な亀田の例を見るまでもなくド田舎僻地にあろうが全国的な人気を集めている病院は少なからずあるのであって、そうした人材招集の努力を果たさない施設がくれくれ君になっている以上働きやすい職場への現場改革の努力など全くもって期待薄なんですが、最近は腰の重い病院の代わりにということなのか危機感を抱いた自治体側から様々な試みも行われているようです。

産科医の地域偏在なくせ 医療機関や自治体が対策(2013年10月24日日本経済新聞)

 お産を支える産婦人科医の地域偏在に拍車がかかっている。東京や大阪など大都市部への集中が進み、産婦人科医不足の地域が増加。「激務」や「訴訟リスクが高い」などを理由に、産婦人科医を志す医師の卵たちは少なく、医師数の少ない地域の医療現場では悲鳴が上がる。「安心して地元でお産のできる環境を整えたい」。少子化の中、地域偏在の解消に向けた模索が続く。

 青森市の「青森県立中央病院」から徒歩5分。公務員住宅の1、2階部分を改装した宿泊施設「ファミリーハウスあおもり」がある。県内遠方に住む妊婦や家族らが市内の医療機関で出産する際、宿泊できるように、昨年、青森県が開設した。11部屋を整備、1部屋には新生児用の小型浴槽を備え、1泊2500円から利用できる。今年5月に次女を出産した青森県八戸市の主婦(27)は約20日間、宿泊。自宅から県立中央病院まで車で2時間はかかり、「とても通えない距離。ありがたかった」と振り返った。

 施設を開設したのは、青森県内の産科医、産科医療機関の絶対的な不足がある。「県の面積が広く、産科医や分娩が可能な施設が少ないため、少しでも安心して出産してもらいたいという狙いがある」(県の担当者)。

 日本産婦人科医会(東京)によると、県内の産婦人科医数は2012年時点で計94人。人口10万人当たりの人数は6.9人と全国平均(8.6人)を下回り、全国で2番目に少ない。現在の分娩施設数も、八戸市の2つの診療所が今年、分娩を休止するなど、1996年に比べ、18減少。県内30施設で年間約9300件のお産を支えている。

■「危機的な水準」

 その1つ、県立中央病院内の県総合周産期母子医療センター(青森市)は早産などを中心に年間約500件の分娩を行う。7人の産婦人科医のほとんどは全国平均を上回る月7、8回の当直をこなし、3日連続で院内に宿泊することも日常茶飯事だ。近隣で1施設でも分娩を中止すれば、多くは同センターが引き受けざるを得ない。「今でもギリギリなのに……」と佐藤秀平センター長は危機感を募らせる。地域周産期センター「八戸市立市民病院」でも今年の分娩数が2、3年前の2倍に当たる1200件を超える見通しだ。今井紀昭センター長は「全く余裕はない」と話す。

 産婦人科医数は増加傾向の一方で、都道府県別の医師数の格差が大きい。日本産婦人科医会によると、人口10万人当たりの産婦人科医数をみれば、全国平均を下回る道府県は06年の20から12年には23と増えており、地域偏在は顕著だ。「全国の多くの地域で、産婦人科医数は危機的な水準にある」と同会の医師たちは口をそろえる。

 地域偏在の背景には、新人医師の臨床研修先として都市部に人気が集中、どの地域で働くかは医師が自由に選択できるため、そのまま研修先に勤務するケースが増えている実情がある。それに加え、産婦人科を希望する新人医師数も2年連続で減少している状況だ。

■“誘致”の条例施行

 産科医不足に悩む地域では、医師確保策など様々な知恵を絞る。12年時点の産婦人科医数が80人と06年比で約7%減少した山梨県。昨年度から、県内で分娩を行う7病院が合同で統一研修プログラムを導入した。2年間の初期研修を終えた新人医師を対象に、高度医療などを学べる点をアピール、後期臨床研修医の受け入れ増を図る。例年、後期研修の希望者はせいぜい1人。それが昨年度は4人、今年度は2人と滑り出しは上々だ。山梨大医学部の平田修司教授は「将来、何とか地域の産科医療を支えてほしい」と訴える。

 静岡県富士市は、市内に産科施設を開設する医師らに対し、最大1億円を助成する全国初の“誘致”条例を施行。土地建物など2億~3億円の初期投資の負担を軽減する。今春、この条例で初めて2施設が開業。第1号となった富士レディースクリニックの中山真人院長(37)は「安心して出産できるように地域の役に立ちたい」と意気込む。

 医師数が恵まれるとされる大都市でも医師1人の負担は少なくない。

 東京女子医大母子総合医療センター(東京・新宿)では、帝王切開や高齢出産などリスクの高い妊婦のお産が全体の3分の2を占めている。産科の担当医師は13人で、当直は3人体制。帝王切開などになれば、医師を呼び出して対応せざるを得ない。育児などでフルタイムで働けない女性医師も少なくなく、同センターの牧野康男准教授は「一人ひとりの負担は大きい」と説明する。

 東京都は11年~13年度、短時間勤務の導入や当直体制の見直しを進める病院に助成金を支給、産科を含めた医師不足の解消を狙う。都の担当者は「厳しい勤務環境の改善につなげ、少しでも希望する医師を増やしたい」と話す。出産を取り巻く状況が厳しい中、行政や医療機関が連携し、いつでもどこでも、誰もが安心して出産できる環境整備が求められている。
(略)

記事中にも幾つか重要な試みが登場しているのですが、産科全般に言えることとして例の緊急帝王切開30分ルールなどという現場での実現性を無視したような無謀な「努力目標」がJBM的に取り上げられるようになっている時代にあって、従来のようにあちらに一人、こちらに二人と医師を分散配置するようなやり方は非効率どころか危険極まりないものであるということは容易に理解出来るかと思います。
一方で産科診療の受益者たる妊婦側には当然ながら家から近い場所で産みたいという欲求があるわけで、これに呼応して「我が町ではこのたび産科医を捕獲…もとい、招致することに成功しました!」式の行政側の住民サービス拡充方針が尾鷲のような悲劇?を招くことを思うと、やはり病院のみならず自治体にとっても「医師の負担を軽減するにはどうすべきか」という視点こそが望まれるはずですよね。
住民の求めるまま医師を僻地に強制配置するのではなく、少しでも無理なく勤務が続けられるよう集約化した医師の元へ住民のアクセスを容易になるよう整える、あるいは助成金といった形で病院側に勤務体系改善を促すといったやり方であれば医師と患者双方にとってメリットがあるでしょうし、何より強制配置などと違って医師のモチベーション向上にも寄与することが期待出来るでしょう。
自分達の都合のいいように制度改変を狙う偉い先生方は「俺達の若い頃はもっと厳しい仕事も平然とこなしてたんだ」「お前達若造が立派になるように敢えて厳しくしてやっているんだ」などと思っているかも知れませんが、21世紀にもなって未だにおしんをいびり倒す姑のようなやり口が通用すると本気で考えているのだとすれば、生まれてくる時代がいささか違ったのではないかとご同情申し上げるしかありませんね。

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コメント

自分は安全な場所にいると思ってる人間はいくらでも他人に残酷になれるもの
み○も○たも偉そうに他人の批判ばかりしてたのに自分のことはいいわけばかり

投稿: | 2013年11月 1日 (金) 08時50分

医学部定員増加と人口減少で人口あたりの医師数はOECD平均となり、医師も充足する。
にもかかわらず、医師が来ない、強制配置と騒ぐ病院集団がある。
単に病院の数が多すぎるだけ。
ならば、医師不足の病院を整理統合して、医師を集約化すれば良い。
産婦人科もしかり。

日本病院会のやることは、ただひとつ。
自らの加盟メンバーの病院のリストラによる病院の整理統合。

投稿: とある内科医 | 2013年11月 1日 (金) 08時53分

医師が来ない田舎病院で町の病院ほど患者殺到してるとこって見たことない気が。
単に人口少なくて供給も需要も少ないだけなんじゃないかってのは偏見ですかね?
偏在かどうかは医師一人当たり患者数で議論した方が実りあるように思います。

投稿: ぽん太 | 2013年11月 1日 (金) 09時06分

人口当たり医師数じゃ定住人口見てるだけで交流人口は計算に入らないから感覚と違ってくるんですよ
都市部は日中周辺から人が流入して人口何倍も膨れあがってるのが当たり前、昼は爺婆しかいなくなる田舎の人口とは意味が違うでしょうにね

投稿: 鎌田 | 2013年11月 1日 (金) 09時47分

大抵の場合は自分にとって都合のいいデータを元に議論するのが普通ですから、理屈と膏薬はどこにでもつくということなんだろうとは思います。
ただこの場合厚労省にしても医師への管理を強化できるのは悪い話ではないですし、業界団体自ら恐れながらと願い出たということであればよろこんで国家による統制強化に進む可能性がありますね。
それもまた数多の勤務医にとって進路選択を決定する際の一判断要因として機能することになるでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月 1日 (金) 11時20分

まず隗より始めよでFAw

投稿: aaa | 2013年11月 1日 (金) 12時14分

自分が卒業する18年度あたりには強制配置が実施されてないのを祈るしか無いですねw

投稿: | 2013年11月 1日 (金) 14時31分

あのさあ、人身の自由、職業選択の自由、居住・移転の自由、奴隷的拘束及び苦役からの自由 に反しまくっているのだが?

民間人である医師に、国が僻地勤務を命じることができるなら、ラーメン屋や靴屋に僻地での開業を命じることもできるはずだ。

バカ医師会は中国に行って寒村で労働してこい(怒(怒(怒

投稿: | 2013年11月 2日 (土) 20時23分

欧米先進国と比べて日本では人口の割には病院の数が多いので、臨床研修病院であっても医師が足りない。
ならば、臨床研修病院を統合して1か所~2か所に医師やコーメディカルを集約化すればよいのですが。
病院団体みずからがそれをすることはないので、医療行政レベルで臨床研修病院や急性期病院の集約化はあり得る。
それなら病院の数が減るにの合わせて、医師不足の病院も減ることになる。

医師を強制配置ではなく、病院の強制統合・集約化でしょう。

投稿: とある内科医 | 2013年11月 4日 (月) 14時14分

医師会が発言力高めるために大勢の医師を囲い込みたいのと同じで、病院団体も少しでも多くの病院を囲い込みたいはずだから難しいのでは?>病院削減
彼ら業界団体の言う「国民のための医療」って医療の実情を知ってる医師に対しては説得力ある方針を打ち出せないから素人の名前を持ちだしてるようにみえてならない・・・・

投稿: 鳥山 | 2013年11月 4日 (月) 18時12分

日医については国民に対しては医師の専門家集団という顔をし、医師に対しては国民の声の代弁者のような顔をするという二面性は感じますね。
大昔の本当に強権発揮していた頃の日医はもっと専門家集団っぽさが濃厚で、世の中の声がどうあれ我々の言うやり方が正しい医療だと言い切るくらいの迫力があった気がしますが。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月 5日 (火) 12時07分

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