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2013年11月15日 (金)

事実先行で進みつつある生殖医療の現状

最近は未婚女性の間に卵活がブーム?!なんてちょっと怪しげな記事も出ていましたが、今までであれば既婚夫婦の不妊医療や疾患治療の必要上やむなく行われるという手段であった卵子保存という行為を、将来子供を産みたいが今現在それを望んでいないし予定もないという未婚女性にも拡大しようということは、学会においても指針を設けて認めるべきという声も出てきていますよね。
その背景には卵子の老化が不妊の大きな要因となることが一般にも広く知られてきたこと、そして他方で結婚・出産年齢は相変わらず上昇を続けていてにわかに引き下げられる気配がないことなどがあるかと思いますが、実際にそれを担当する現場医療機関では現状ですでに「未婚女性の卵子保存はあり」と考えている施設が多数派であるという調査結果が先日出ていました。

9施設で健康な独身女性に卵子凍結を実施(2013年11月10日NHK)

不妊治療をする夫婦などに限るべきだとされている卵子の凍結保存について、国内の少なくとも9つの医療機関が、健康な独身女性を対象に実施していることが岡山大学のグループの調査で初めて分かりました。
グループは「ルールが決まっていないなか、なし崩し的に広がっており、懸念される状況だ。実施すべきかどうかを含めてルール作りを急ぐ必要がある」と指摘しています。

卵子の凍結保存について、関連する学会は不妊治療をする夫婦とがんの治療で卵子に影響が出るおそれがある患者などに限るべきだとしていますが、晩婚化が進むなか、健康な独身女性の間でも関心が高まっています。
このため日本生殖医学会はことし8月、40歳以上は推奨できないとしたうえで、年齢などが原因で不妊になる可能性が懸念される場合、健康な独身女性にも認めるガイドラインの案を示しましたが、確実に妊娠する保証はないことなどから反対の声も出ています。
岡山大学のグループは、ガイドラインが示される1年前の去年8月、日本産科婦人科学会に登録している医療機関を対象に、卵子凍結などについてアンケート調査を行い、415施設から回答を得ました。
その結果、36の医療機関が卵子凍結を希望する健康な独身女性の診察を行い、このうち9つの医療機関が、卵子凍結を実施したと答えたということです。
また、独身女性の卵子凍結に倫理的な問題があるか聞いたところ、62%の医療機関が「問題はない」とし、17%が自分の施設でも行う可能性があると答えたということです。
健康な独身女性を対象にした卵子凍結の実態が明らかになるのは初めてです。
調査を行った岡山大学大学院の中塚幹也教授は「ルールが決まっていないなか、なし崩し的に卵子凍結が広がっており、懸念される状況だ。女性の人生設計に与える影響を検証したうえで、実施すべきかどうか、実施するならばどのように行うべきか、議論を急ぐ必要がある」と話しています。

配偶子の凍結保存「問題ない」6割 岡山大が全国医療機関調査(2013年11月13日山陽新聞)

 生殖医療における配偶子(卵子、精子)の凍結保存について、岡山大が行った全国の医療機関を対象にした意識調査で、6割の施設が健康な未婚者への実施であっても「倫理的な問題はない」と考えていることが分かった。健康な未婚者への凍結保存は卵子9カ所、精子15カ所で実績があり、今後行う可能性があると回答したのは約17%。同大は「調査結果をルールづくりに向けた議論の材料にしてほしい」としている。

 凍結保存については日本産科婦人科学会が、対象を不妊治療中の夫婦や、がんの放射線療法で機能を失う可能性のある患者らに限るべきとの指針を出している。今年9月には日本生殖医学会が未婚女性が将来の妊娠に備え、卵子の凍結保存に関して事実上容認する指針案を公表。早ければ年内にも正式決定するが、いずれの指針も拘束力はなく、各機関の裁量で行っているのが現状だ。

 調査は岡山大大学院保健学研究科の中塚幹也教授、山陽学園大看護学部の井上理絵助教らが昨夏、日本産科婦人科学会に登録する1157機関の代表者に質問書を郵送。有効回答は415だった。

 凍結保存を行う対象者について「倫理的に問題はない」と考えるのは、悪性腫瘍の既婚男性が89・2%、同未婚が78・8%。悪性腫瘍の既婚女性が81・0%、同未婚が81・9%。一方で、健康な未婚男性は60・0%、女性も61・9%に上った。

 「自身の施設で行う可能性がある」と回答したのは、健康な未婚男性が16・9%、女性が17・1%。悪性腫瘍患者については24・8~34・2%に上昇した。

 凍結保存した卵子を使用してよい女性の年齢も質問。全体の63・6%が年齢制限を設けた方がよいとした上で、年齢は「41~45歳」が30・4%、「46~50歳」は19・5%、「40歳まで」が12・5%だった。

 中塚教授は「日本生殖医学会が指針を正式決定すれば、実施する医療機関はさらに増えるだろう」と予測。「一般の意識も調査で明らかにした上で、卵子の凍結保存や使用する年齢などの議論を今後続けるべきだ」と主張している。

 配偶子の凍結保存 排卵誘発剤で卵巣を刺激して採取した卵子や、精子を極低温(マイナス196度)の液体窒素の中で凍らせ保存する。将来の人工授精や体外受精に使用するのが目的。卵子は細胞膜が弱く、凍らせると染色体が損傷する恐れがあり、精子や受精卵の凍結に比べて技術的に難しかったが、技術の改良で可能になった。

意外とと言うべきなのかこの程度と見るべきなのか微妙な数字ですけれども、卵子保存に関しては技術的には十分可能でありさして深刻な健康上の生涯もなく行える手立てであるということに加え、やはりすでに独立した生命とも言える受精卵ではなくあくまでも卵子は細胞に過ぎないという認識が実施のハードルを引き下げているのでしょうか。
不妊医療と言いますととかく「人はいつから人として扱われるべきなのか?」と言う問題とも絡めて、しばしば生命倫理ということが問題視される場合がありますが、世界的にみても配偶子(精子と卵子)の段階ではまだ人ではないという認識が標準的なものとなっていますから、現状では保険診療外であることとも併せて各人がリスクとメリットを勘案し実施の是非を決断すべきことと言うしかありません。
ただもちろんコスト的にも決して気軽に出来るほど安いものではありませんし、施設側でも引き取り手が現れない場合にいつまで保存を続ければよいのか、あるいは将来的に本人ではなく代理母での使用を求められた場合にどうするのかと言った課題は山積していて、これらに対してそれなりのルール作りをしておかなければ余計なトラブルも増えるだろうとは予想できますよね。

不妊のかなり多くのケースで「もっと若くから始めていれば何も面倒はなかったのに…」と医師を嘆かせる現状にあるとも言い、それ故に生物学的適齢期に妊娠・出産を行えることが理想的だという筋論は判るのですが、長年国が音頭を取って少子化対策だと言いながらも一向に目立った成果が現れていない以上、少なくとも今現在不妊の悩みを抱えている方々に即効性ある対策とはならない話です。
最近の不妊治療の技術的進歩と社会的応用とは目を見張るものがあって、卵子だけでなくすでに男性不妊等の理由で第三者からの精子提供で生まれた子供が日本国内だけでも1万5千人に上ると言い、国内外を問わず精子バンクはどこも不足気味だと言いますから、より「質の良い」精子や卵子が高値で売買されるということはすでに想像上の未来絵図でも何でもない、現在進行形で展開されつつある現実に過ぎません。
凍結卵子などは単に時期を変更するだけで結局自分の遺伝子で自分の子供を産むということには変わりがありませんけれども、こうした遺伝的なつながりを持たない親子関係の広がりが子供のアイデンティティ喪失にもつながると危惧されているように、技術的な進歩が社会の変革をもたらすというこれはよくある一例になりそうな勢いですよね。
「そんなことはケシカラン!断固認められない!」と熱心な反対運動を展開している方々も一部にいらっしゃるのは事実ですけれども、すでに諸外国ではもっと先にまで話が進み海外渡航してその恩恵にあずかっている日本人も少なくないと言われる中で、やはり変わりつつある現実を前提にした施策が必要であると我々も腹をくくらなければならないようです。

代理出産、自民に容認論…生殖補助法PT検討案(2013年11月11日読売新聞)

 自民党のプロジェクトチームが検討している生殖補助医療法案の骨子が、明らかになった。

 日本産科婦人科学会が認めていない代理出産を限定的に認めるほか、精子や卵子、受精卵の第三者への提供を容認するなど、大きく踏み込んだ内容となっている。党では骨子をたたき台に議論を進め、公明党とも協議の上、来年の通常国会に議員立法として提出したい考えだ。

 生殖補助医療を巡っては、第三者の精子、卵子の提供による出産や、夫婦の精子と卵子でできた受精卵を別の女性に移植する代理出産などが、法的な位置づけがないまま国内の一部の医療機関で行われている

 法案は、第三者が関わる生殖補助医療を明確に規定することで、必要な人が適正に治療を受けられ、商業化への一定の歯止めをかけるなどの狙いがある。

こういう生命倫理も絡むような話になってきますと誰もが「かくあるべし論」に傾いてしまい現実的な問題を処理できないような絵空事に近い方向に迷走しがちですし、そうでなくとも厳しくすることばかりを考えて実質禁止の扱いになどすれば臓器移植と同様、これまた「日本人が海外で優秀な配偶子を買い漁っている!」と批判されるネタにもなりかねず、なかなかに政治家の皆さんとしても頭が痛いところだと思いますね。
代理出産なども法的にもあれはどういう契約形態になるのか気になるのですが、例えば医療などと同じく仕事完遂義務のない準委任契約であれば「現状渡し」でいいのでしょうけれども、家を建てたりするのと同じ請負契約扱いとして捉えられているとすれば「この子供は望んでいたのと違う。引き取れない」なんてことが起こっても不思議ではないし、仮に訴訟沙汰になったとして法廷がどちらの肩を持つのかです。
配偶子提供の商業化規制と言うことで言えば日赤の献血業務の方がよいモデルケースになるんじゃないかと思いますが、それなりに体にも負担がかかり手間暇も取る作業であるにも関わらずあれだけ多くの協力者がいて、採取した血液の匿名化も十分に行われているし誰もあれで一儲けしようと思っておらず、なおかつ希望する万人がまずまず平等に公平感を持って利用できているというのはなかなか出来ない仕事ですよね。
ただ一方で子供の髪の色や血液型など使用者から求められる資質について一定の情報を含んだ方が望ましいはずだと考える意見ももちろんありなのですが、これまた海外でも聞くように「学歴はこの程度、身長容姿はこんな感じで…」と注文の多いクライアントの出現につながりかねず、幸い日本では外観的にはほぼ全国民共通という利点があるのですから条件付けなしでやり取りさせるべきだと言う考え方もあるでしょう。
ともかく議論のネタには事欠かない上に、記事を見る限りでもいかにも緊急性を感じていない話であるいは予定通りの来年にはまとまらない可能性も高いかとも思うのですが、いずれにしても一定のルールの必要性は誰しも認めるところであり、かつ時を経れば経るほど既成事実がどんどん積み重なってトラブルのネタも増えていくことを認識するならば、学会と政治とを問わず決してのんびり構えていられるような話でもないと思いますけれどもね。

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コメント

婦人科の先生には思ったより抵抗感少ないのかなって感じですね。>卵子保存
そのうち投資話と同じくらい身近に卵子保存しませんかって勧誘されるようになったりして…

投稿: ぽん太 | 2013年11月15日 (金) 09時07分

冷凍庫に保管しておくだけで料金取れるなら固定収入としておいしいのかな?

投稿: | 2013年11月15日 (金) 09時35分

誰に迷惑をかけるわけでもない個人の深刻な問題を他人が勝手にルール作りする不思議w

投稿: aaa | 2013年11月15日 (金) 10時30分

保守管理コストの負担も問題なのですが、それよりも気になっているのはかなり長期に渡ってのことになるだろう期間で、ちゃんと顧客と精子・卵子とで1:1の対応を保ったまま保管が出来るのかということです。
どうせ匿名化されるような実験用の検体であれば多少入れ替わっていてもさしたる大事にはいたらないでしょうが、この場合万一取り違えでも起こった日には大変な騒動になることが目に見えていますからね。
倫理的問題と言えばそうした後日の家族関係崩壊のリスクなども含めて考えるべきだし、それがためにもやりからには十二分に厳重管理された方法で行ってもらう必要があると思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月15日 (金) 11時04分

これって成功率はどうなんでしょうか?
高い金払って卵子凍結してもあまり成功率高くない場合
色々もめそうですね

投稿: | 2013年11月15日 (金) 12時28分

これって妊娠に失敗しても卵子が悪いのか妊婦さんが悪いのか判らないような。
すごく適当に保管しておいても運が悪かったですんでしまう気がします。
だいたい冷凍庫に入れた肉もそんなに長持ちしないのに卵子が長くもつんだろうか…

投稿: てんてん | 2013年11月15日 (金) 13時23分

産婦人科医です。

生殖の専門医ではないので大きな口は叩けませんが、
未受精卵凍結はまだ臨床レベルで勧められるレベルではないと思いますよ。
文科省 科学技術・学術審議会のHPより
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu0/toushin/seimei/06082810/004.htm

京野アートクリニックや広島HARTクリニックなど積極的に発表されていますけど、分娩成績まで出すにはnが少なすぎですよね。

採卵でひと山儲けて、保存料として定期的な収入が10年単位で保証されるとすればビジネスモデルとしては魅力的かもしれませんけど。

一部開業医や韓国系ベンチャーが既に凍結保存に動いていますけど、
10年くらいしたら「若い時の卵子だから大丈夫だと思っていたのに妊娠しない!」とか問題になってたりして。。。

投稿: もるー | 2013年11月16日 (土) 21時14分

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