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2013年11月14日 (木)

医療費抑制の議論と生活習慣病自己責任論

アメリカは「医療費」が高いと言う話はよく聞きますけれども、先日はこんな記事が出ていたのをご覧になりましたでしょうか。

医療保険も自由競争の米国は日本の約2.5倍の医療費がかかる(2013年11月9日NEWSポストセブン)

 医療費が高く、貧乏人は満足な治療が受けられないのが当たり前というアメリカ。皆保険制度がないのが原因と言われるが、その制度を改革しようとした“オバマケア”が原因で米政府は混乱を続けている。
 長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』ほか著書を多数持ち、最近『○に近い△を生きる 「正論」や「正解」にだまされるな』(ポプラ新書)を上梓した鎌田實氏が、アメリカの医療保険について解説する。
 * * *
 アメリカが揺れている。債務不履行は回避したが、この間の政府一部閉鎖によって米経済は2兆円を損失、経済成長率を0.6%押し下げる予想だ。なぜ政権与党の民主党と野党共和党が泥沼の闘いを繰り広げるのか。
 医療保険制度改革“オバマケア”がその原因である。アメリカには国民皆保険制度がなく、無保険者がなんと5000万人もいる。アメリカの診療は自由診療が基本なので、国民約3億人のうち半数は企業が加入している民間保険に入っている。勤めていない高齢者はメディケア、貧困層はメディケイドに1965年から加入するようになった。さらにこれ以外の国民の2割が無保険になるリスクが高いという現状だ。

 日本でも医療保険は資本主義のルールに従って、自由競争にしたほうがいいという意見も多い。普通に考えれば、自由競争を促すと、良いものが安く手に入るようになるのだが、医療の世界では別のことが起きる。
 自由な競争をしたことで、アメリカでは医療費が高騰してしまった。実に日本の約2.5倍の医療費がかかっているのだ。

 医療費高騰の最大の理由は、診療報酬を医療機関が自由に決められるから。日本では、中央社会保険医療協議会という厚生労働省の諮問機関が診療報酬を決めることで、医療費高騰に歯止めがかかっているのだが、アメリカでは各々の医療機関任せなのだ。
 またアメリカでは医療過誤訴訟に備えて医師が加入する保険料が高く、その保険料のために患者が支払う医療費も高騰していく。
 さらに生活習慣病の急増で医療費がかさみ、医療技術の高度化がまたもやコストを上げる結果になっている。普通、医療費をかければ健康で長生きになるはずなのに、突出してアメリカは医療費が高いわりに、寿命は延びていない。

 オバマ大統領は無保険者をなくすよう、国民に保険加入を義務付け、企業にも保険負担の義務を課した。共和党は10年間で約93兆円にも達する“オバマケア”関連費用がアメリカの財政を圧迫すると主張して徹底抗戦に出たのである。

記事を読んでいて思ったのですが、医療費高騰ということを語る上でしばしば混乱するのが語る主体によって医療費という言葉のイメージが異なることで、財務官僚であれば医療経済における公的支出の総額でしょうし、医師なら普段の医療行為に対する診療報酬が幾らになるか、そして患者にとっては病院窓口での支払い額が幾らかといった話になるのでしょう。
ではアメリカで医療費が高いと言った場合にどうなのかですが、「アメリカの医療費は高い」ということはよく言われますが実はその過半は民間保険(および自費)の扱いで、公的医療支出に関しては総医療費が半額以下の日本とほぼ同規模と言う意外な事実はあまり言われることがありませんよね(まさにそれが故にオバマケアに対するこれだけ根強い反対論があるのだとも思えますが)。
窓口の自己負担額に関しては保険の種類によって様々でちゃんとした保険ほど自己負担額は減らせる(当然保険料も高い)わけですが、それでも総医療費がこれだけ大きいのだから保険料+窓口負担という個人負担の総額は概して高いのだろう?と思えばさにあらず、大企業などは労使交渉で賃上げの代わりに社員保険を充実させているケースが多いと言いますから、こうした方々の場合決して医療費が高いと言う実感はないでしょうね。
そして医師にとってはどうかと言えば確かにドクターフィーの効果もあって全般的に収入は多く家庭医でも15万ドル、専門医ならその倍も取っているなんて景気のいい話を聞きますが、一方で医賠責保険が年間数万ドルも取られるとなれば決して日本と比べて高いとも言い切れず、メディカルスクールは学士入学で日本より実働期間も短いことを考えると必ずしも高い金を取っているという認識はないかも知れませんね。

ともかくもアメリカの医療費がそもそも高いのかどうかは置くとしても、保険が自由競争だから高いのかと言われるとむしろ保険会社の支払いが渋くて医療に制約を受けることが多いという話しか聞かないし、一方で商売の基本として保険会社も少しでも料金を安くした方が顧客が増えると考えるでしょうから、どうも自由競争悪玉論というべき考え方にはいささか不思議な思いを感じざるを得ません。
では何が医療費を押し上げているかと考えれば、例えば何をするにしても医療訴訟を念頭に置いた過剰なコストがかかる、あるいは医療費未払いに対するマージンとして過剰な支払いを求める傾向がある、そして一般に日本人ほど患者が我慢をしない(プライバシー無視の日本の大部屋は彼らには耐えられないし、大腸内視鏡一つで全麻だとか言った話は有名ですよね)ことなど広い意味での社会事情そのものが医療費を押し上げているのでしょう。
ひるがえって公的皆保険の日本では国が「儲けにならなければ医者は患者を手放すだろう」と診療報酬を切り下げる、すると病院窓口の支払いは減って患者は今までよりも気楽に病院にかかりやすくなるし、病院側は病院側で顧客単価が減ったものだから数で補おうと「もっと患者を大勢診てください」と医者の尻を叩くといった具合で、かえって医療費支出が増えてしまうなんてこともありますよね。
もちろん日本の公的皆保険制度が強力な統制管理により医療費を安く抑えてきた実績は認めるにしても、そもそも出来高払いなどという「売れば売るだけ儲けになる」制度である上に患者側も諸外国では例がないほど濃厚医療を期待するところ大であるのに世界的にも高いコストパフォーマンスを維持出来ているのは、制度が云々と言うよりもむしろ医師ら当事者の自主的な抑制が働いていたからだと考えれば、これもまた日本の社会事情こそがその背景だったと言えるかも知れません。
逆に言えば日本の医療体制は各人の自制があるからこそ何とかこの程度のコストで収まっていると言うことで、いわゆるナ○ポ問題があれほど忌避されるのも制度上許されている権利を全く自制無く最大限利用しようとするからとも言えると思いますが、こうした権利至上主義?的考えが過剰になると「性善説」によるほどほどの自制を前提にした制度そのものも破綻するでしょうし、何より世間の反発も強まってくるということですね。

健康保険に逆マイレージ制を導入しよう(2013年11月10日JBpress)より抜粋

人間の寿命がまだ短いときに大きな効果を発揮した西洋医学だが、寿命が延びるとともにその効力が相対的に低下してきた。糖尿病などの生活習慣病や腰痛、膝痛など、西洋医学では根本的な治療が難しい疾病が増えてきているからだ。
 そのような時代に入ってもなお、西洋医学一辺倒の医療体制を敷くのが日本。そして、医師を尊敬するのはいいが頼り切ってしまうため、いつまで経っても先へ進めない。
 日本の医療改革が進まないのもそうした背景がある。医療費削減もかけ声だけで、メタボ健診など逆に医療費を増やしてしまっているという弊害まで生まれている。日本の医療は変われるのか。先週に引き続き、東京女子医大の川嶋朗准教授に聞いた。

問 今回は川嶋先生のご専門である腎臓病についてお聞きしたいと思います。腎臓病は糖尿病などの生活習慣病の増加によって増えているようですが、ここにも日本の医療制度の深刻な問題点が隠されているそうですね。

答 現在、人工透析を受けている人は日本全国に約30万人います。そして、その数は年間3万5000人ずつ増えている。その約40%の人が糖尿病の患者さんなのです。
 糖尿病は万病の元と言われますが、コントロールがよければ人間の体に深刻な事態を引き起こすような病気ではありません
しかし、糖尿病を放置しておくと、様々な合併症を誘発し、最悪の場合には死に至ってしまいます。
(略)
 腎臓は人間が生きるために極めて重要な臓器なのですが、糖尿病になって血液中の糖の濃度が高い状態が続くと、腎臓の中にある糸球体と呼ばれる血管の集合体に大きなダメージを与えてしまうのです。
 その状態を放置すると、末期腎不全となって腎臓が機能しなくなってしまいます。そうなると老廃物を体外に排出できなくなってしまう。そこで人工透析が必要になるのです。
 しかし、糖尿病は生活習慣病ですから、きちんと体をコントロールしていれば人工透析に頼って生きていかなければならないような状況には陥りません。これは本人の心がけの問題です。
(略)
 でも、もっと問題があるんですよ。人工透析には多額の費用がかかります。ざっとどうでしょう。1人が1年間に500万円くらいかかる

問 えぇっ。そんなにかかるんですか。

答 ええ。だけど自己負担はゼロ。国が全額補助してくれるのです。簡単に計算してみましょう。日本には人工透析をせざるを得ない患者さんが30万人いて、1人500万円かかる。費用総額は1兆5000億円にも達するんですよ。
 人工透析を受けなければ生きていけない患者さんは、1級身体障害者の指定を受けることになります。つまり、自己負担がゼロで透析費用は全部国が出してくれる
 国の負担はそれだけにとどまりません。1兆5000億円というのは医療費だけです。1級障害者になると、例えば東京都営の交通機関は無料になるし、飛行機代は半分、高速道路料金も大幅な割引になります。
 さらには障害者年金も支給される。これに国民年金とか厚生年金がプラスされれば、年金だけで生活が十分に成り立つのです。
 確かに病気になったのは気の毒ですが、暴飲暴食などで糖尿病になり人工透析が必要になる人の場合には、果たしてこれでいいのかなと思いますよ。だって、自分の不摂生で招いたことでしょう。それなのに国が手厚く保護するというのはどうなんでしょう。

問 確かに、自分の体を鍛えて健康を維持している人にすれば不公平感が募りますよね。言葉は悪いけれど「泥棒」と言いたくなる。

答 本当に。日本の場合は糖尿病でも2型の人が圧倒的に多いから、つまり先天的なものではなくて生活習慣によって糖尿病になる人が多いから、自業自得な人が多いわけです。節制していれば糖尿病にならないし、人工透析だって必要がない。
 そういう患者さんが、仕事ができないからと生活保護を申請して認められたりすると、なんやかんやで月に30万円くらいの給付が受けられたりする。それだけもらえるなら、あくせく働く必要がなくなってしまいますよね。
 たくさんとは言いませんが、人工透析の患者さんを日頃診ていて、そういう方がけっこういることは事実です。中には生活保護を受けるために偽装離婚している人までいる。

問 膨れ上がる一方の社会保障費をどうにか抑えなければならないときに、国は大盤振る舞いですね。厚生労働省はもちろん、そのような実態を把握していると思いますが、手は打たれているのでしょうか。

答 正直、手つかずというのが実態です。そもそも人工透析の患者さんに身体障害者の1級が指定されているのもどうかと思います。だって、透析しているとき以外は普通に働けるわけですから、等級を下げるくらいは少なくともしてもいいのではないかと思います。
 でもほとんど議論されたこともない。いま認定を受けている人たちまで下げろとは言いませんが、例えばこれから人工透析が必要になる人の等級は考え直してもいいのではないでしょうか。
(略)
 だって普通に動ける人ばっかりなんだもの。生活保護を取るために偽装離婚している人などを見ると本当にいいのかなぁこの国は、と思ってしまう。
(略)

元記事はかなりの長文ですので参照いただきたいと思いますが、それにしてもなかなかに挑戦的な内容と言うのでしょうか、「ああ言っちゃったよこの人は(笑)」感が漂う記事という感じはしますが、透析患者の「過保護」問題については透析施設を多大に潤してきた(最近はうまみもかなり減ったとは言いますが)側面もあって、それが故にか日医ら医療系団体も患者保護を手厚くとは主張しても抑制しろとは絶対に言わないですよね。
それこそ政治的配慮でそれなりの補助は続くにしても、近年の高齢者医療の流れや諸外国の例から考えると今後例えば一定年齢以上の高齢者に対しては新規透析導入はしないといったことも考えられるのではないかと思いますが、透析導入患者が60代以降に急増するという現状を考えるとそれこそ患者や支援団体から多大な反発があるでしょうし、むしろ若くして透析導入する人が増えかえって医療費増になるかも知れません。
ともあれ、今後日本でもTPP等に絡んで医療に民間保険が参入すれば自動車保険で最近盛んになっているように各種インセンティブが導入される可能性は高まるでしょうから、例えば健康たるべく努力した人はより安価な民間保険を選び公的保険を離脱する、一方で有病者が公的保険に集中する結果国保などはますます採算性が悪化し一層の公費投入を招くという可能性も出てきますよね。
さらに進んで公的保険ではここまでしか保険診療で扱えないが、民間保険ならここまでカバーできると言うことになってようやく「それじゃ努力して民間保険に入れるくらい健康になろうか」と言うモチベーションにも結びつくのか、どうせ保険などあてにならないんだから太く長く生きてやると今まで以上に無茶をするようになるのか、どうも記事にあるような典型的糖尿病患者の場合後者の比率が高まりそうに思えるのは偏見でしょうか。
いずれにしても至れり尽くせりの支援が患者の病識を乏しいものにしてしまっている一方で、それによる公費負担の増大が健康であろうと努力してきた人達に余計な負担を強いることにつながっているのであればおかしな話で、先の麻生大臣の「放言」に対する反応を見ていると案外世間の大勢は声の大きい人々に過剰配慮しがちな政治家が考えているよりも、少し厳しめに自己責任ということを考えているのかなとも感じています。

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コメント

糖尿病の患者はねえ…
もちろんみんながみんなアレなわけじゃないでしょうけど透析なんてしてるような人はたいてい濃いめで…
やっぱりみんなあれは問題だと思ってたわけですね。
でも人格ってガイドラインに反映させられないし評価が難しいですよねえ?

投稿: ぽん太 | 2013年11月14日 (木) 09時12分

2型糖尿病、高尿酸血症、高脂血症、手術が必要な症例における高度肥満例は食事療法を指導したうえで、当人がコンプライしないなら、以後自費負担としたほうがいい。食べ過ぎない、飲みすぎない、で体調維持に努める真面目な人間が浮かばれない。救急車も実際に利用してくる大多数はDQN、一律有料化を。銀座でも田舎僻地でも同じ報酬点数であることが、そもそも無理があります。TPPでもうそろそろ皆保険制度は終焉ですが…

投稿: striker | 2013年11月14日 (木) 09時19分

なにかと評判の悪いメタボ検診ですが、会社でなく本人に対して義務を負わせる形にしたらどうでしょう?
生活習慣病関連の数字が悪化するほどペナルティーが発生すれば少しは努力するんじゃないかな?
ペナルティーがむずかしいなら数字のよくなった人にはごほうびがもらえるようにするとか。
とにかく今のように努力しない人ばかりが社会から優遇されるのは逆差別ですよ。

投稿: たま | 2013年11月14日 (木) 09時40分

ずばり重量税の導入でw

投稿: aaa | 2013年11月14日 (木) 10時35分

メタボ健診も本来ああしたデータによって本人の自助努力が発生することをそれなりに期待していたんだと思うのですけれども、現状では単に面倒くさい義務としてしか受け取られていないのはもったいないですね。
ただ病院にかかったり通院治療を受けたりでそれなりに手間ひまとコストを要求しているのも事実なので、その上でさらにペナルティーと言うのは反発がありそうにも思います。
生活習慣病と言うくらいですから何かしらの生活習慣改善を義務づけることが出来れば理想的かなとは思うのですが、例えばジムに毎月○時間通えだとかランニングを○時間しろとか言うことに強制性があるかどうか。
ともかく壮大な社会実験として何をどうやったらトータルの社会保障コストが減るのか、ある程度検証できるようになった段階でエヴィデンスに基づいた制度改定が必要になるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月14日 (木) 10時45分

こんなレベルの准教授って女子医大丈夫?あるいはマスゴミお得意の脳内変換炸裂パターン?

投稿: 放置医 | 2013年11月14日 (木) 11時31分

透析患者は年寄りばかりなのが現実ですから年齢制限はきついかと。
それでもさすがに超高齢者の維持透析は自粛する方向では?
透析の報酬がどんどん切り下げられれば自然もっと抑制されるでしょう。

投稿: 近藤進 | 2013年11月14日 (木) 14時22分

いや医療全般に自己責任を導入すべきでしょ
弱者を慮るふりをして強者からむしり取った保険料・税で贅沢する開業医・医師会。これらを仕分けするべき。
金持ちも無職乞食も同じ医療という「平等利権」を粉砕すべき。
(格差反対、高所得者は重税を払え、市場主義反対と叫びつつ、勤務医との格差には「経営者だから」と市場主義ゴリゴリの二枚舌を持って国民をだまくらかす劣悪医師を日本から叩きだし、tppで実直勤勉な欧米アジア各国のお医者さんを招待しましょう)

投稿: TPP推進 | 2013年11月15日 (金) 16時13分

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