« 障害児産み分けは悪? | トップページ | 学生ローン=貧困ビジネス?若者の負うべき負債とは何か »

2013年11月27日 (水)

HIV感染者の献血が出回る

この十年ほどアフリカにおける爆発的な感染拡大が危惧されていて、年々平均寿命が下がっていくほどの深刻な社会的影響を与えていることは意外に日本では報じられていない印象ですが、何しろHIV感染率が30%を越える地域もあると言うのですから国が保てるような状況にあるのかという話ですよね
近年先進諸国ではHIV感染症はかなりコントロール可能なものとなってきていますが、それも早い段階できちんと診断を受けた上で適切(かつ高額!)な治療を行った場合の話であって、2001年に南アフリカで大手製薬会社多数による抗HIVコピー薬への特許権侵害訴訟が起きて話題になったのも、年額1万ドルにもなる正規品での治療など発展途上国では夢のまた夢の話であるという現実があるわけですね。
ちなみにこの訴訟は同年に国連も「必要性が極めて高い薬剤の開発のためには特許を無視することもやむを得ない」という考えを圧倒的賛成多数で認めたことから取り下げになりましたが、訴訟継続による業界イメージの悪化や安価なコピー薬に市場を荒らされるくらいなら原価で安売りした方がまだしもと言う、経営的な判断が人道的判断以上に大きく影響したとも言われています。

なまじこのように「命の沙汰も金次第」ということが可能になってきますと貧困者の治療を受ける権利をどこまで保障すべきかと言うことが常に議論になりますが、ともあれアフリカでの蔓延に関しては迷信や民族紛争絡みで意図的にHIVを広げるような行為も行われていると言い、大統領自ら「エイズを故意に感染させた者には死刑を適用すべき」と発言するなど、意図的な感染拡大には罰則で当たるべきという声はあるようです。
先進諸国においても時折HIV感染者が意図的に多人数と性交渉を行っていたとニュースになることがありますけれども、長期的にコントロール可能な疾患となっただけに治療と平行して感染予防策を周知徹底していくべきことは当然なのですが、最近感染者の増加が危惧されている日本においても先日こんな事件が発生したと大きく取り上げられているのは周知の通りですよね。

<HIV血液>数人に輸血 日赤検査すり抜け(2013年11月26日毎日新聞)

 エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、日本赤十字社の検査をすり抜けて出荷され、患者数人に輸血されていたことが25日、分かった。厚生労働省と日赤は輸血された患者を特定しており、感染の有無を調査中。感染者の血液が輸血されたのは、2004年に日赤が対策を強化して以降は初めて

 関係者によると、今月行った検査で、男性献血者の血液からHIVの抗体が検出された。男性は数カ月前にも献血したことから、日赤が保管していた検体を調べたところ、HIVの遺伝子が検出された。その後、この血液が数人に輸血されたことが判明した。

 HIVに感染後約8週間は、ウイルスや抗体が微量で検査をすり抜けてしまう「ウインドーピリオド(空白期間)」と呼ばれる。日赤は1999年、ウイルスの遺伝子を増幅させて感染を見つける核酸増幅検査(NAT)を導入したが、03年にすり抜けによる献血で患者がHIVに感染した。04年、検査の精度を上げるため、50人の血液を一括して検査していた手法を改め、20人分に変更していた。

 今回はそれでも見抜けなかったため、1人分ずつ調べる方向で検討を開始。厚労省も26日、専門家の委員会を開き対応を協議する。問題となった献血をした男性は、性的行動の質問で事実と異なる内容を答えており、厚労省は検査目的で献血した可能性が高いとみている。【桐野耕一】

「100万分の1」の精度すり抜けた「検査目的」の献血(2013年11月26日産経新聞)

 エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が日赤の安全検査をすり抜けて数人に輸血されていた。HIVに感染した献血者の血液がすり抜けた「NAT(核酸増幅検査)」と呼ばれる安全検査は高い検出精度を持つとされる。

 平成16年に日赤がそれまで50人分の血液をまとめて調べていた検査方法を、20人分に見直してからは、さらに精度が向上し、すり抜ける確率は「100万分の1」に下がったとされる。

 だが、今回はその検査すらすり抜けた。関係者は「HIVの感染を恐れた男性が、検査目的で早期に献血に来た可能性がある」と指摘する。

 一般にHIVに感染してから抗体ができるまで約8週間かかる。抗体ができる直前の11日間の血液であれば、ウイルスを増やして検出精度をあげるNATで検出可能だが、それ以前では血中のウイルス量が少なく、検出の可能性が著しく低下する。

 献血時の検査でHIV感染が判明しても、基本的には献血者への告知はしない。だが、関係者によると、告知をされると勘違いをして、検出の可能性が低い感染後1カ月などの早い時期に献血に訪れる人が後を絶たないといい、「すり抜けの危険性が高まる一因になっている」といい、保健所の無料検査などを利用するよう促している。

100万分の一の可能性と言えば年間500万人規模の献血者数を考えると「大丈夫なのか?」と言いたくなりそうな数字で、それだけに日赤側もより感度の高くなる個別検査に改める意向なのでしょうが、しかしこうしたコスト増でまた血液製剤の価格が高騰しそうですよねえ…
もちろん性行動に起因する感染症ですから血液検査だけでなく問診が非常に重要で、昨今献血と言えば海外渡航歴から性習慣まで事細かに訊ねられ「疑わしきは排除する」方向で対策が講じられていますけれども、ひとたびそうした事情があったと報告してしまうと以後習慣が改められても献血拒否の対象になりますから、熱心な献血者にとっては深刻義務と貢献意欲の葛藤でなかなか悩ましいところではあるようですね。
献血者の善意も大切だし血液製剤も極めて貴重なものなのですが、うっかり感染リスクのある製剤を流通させてしまうとこのように大騒ぎになってしまうと言う事情を改めてご理解いただきたいと思いますけれども、その意味で今回の献血者が「性的行動の質問で事実と異なる内容を答えて」いたと言うのは大変に問題ある行動だと言えるわけです。

こうした「検査目的での採血」と言うことが非常にリスクを高めることに加えて、そもそも検査システム上検査目的とはなり得ないことは記事にもある通りですけれども、HIV感染は告知されないという情報が周知徹底されていないのか理解出来ていないのか、ともかく一定確率でこうしたことが発生してしまうのは原理的に避けられません。
ところでこの場合供血者の身元は判っているわけですから、例えば後日誰かがHIV感染を確認された際に民事なり刑事なりで供血者の罪を問えるのかと言うことが気になるところですが、ちょうどHIVに関連した質問が「弁護士ドットコム」に寄せられていたので紹介してみたいと思います。

病気と知っていて(弁護士ドットコム)

HIV陽性の人が、本人はそれを知っているが、相手方にはその事実を隠して、あるいは騙して、感染の危険がある性行為に及び、その結果相手方がHIVに感染した場合、何か罪になりますか?
相手に伝える義務は無いから、聞かれなかったから、というのはダメですか?
故意ではないが、重過失になってしまうのか、いくら陽性でも感染するかは分からないから、伝える義務も過失も無いのか、移された相手も検査に行こうと言わないで行為に及んだから過失とみなされ喧嘩両成敗みたいになりますか?どうですか?
ただ、移された相手を特定できたと仮定してです。
最後に、故意に移そうとして不特定多数と危険な性行為をし(コンドームなし等)、それで移された相手が怒り狂って、移した人を探すときに、被害届は成立し、警察は捜査するのでしょうか?

HIV感染経路が特定されているのであれば、傷害となります
被害届、告訴があれば、捜査はされると思われます。性交渉は、感染の経路として一般的に知られているものであり、可能性にすぎないとしても、感染を認容する未必の故意があります

今回のケースであれば検査目的で献血をした本人がどこまで感染を確信しているかが問題になりそうですが、故意に嘘をついてまで禁止されている行為を行い不特定多数に危害を加えたと言うことであれば社会一般においては許容されざる行為だとして刑事罰に問われる余地はありそうですし、民事的にも例えば日赤側から損害賠償請求をされる余地はありそうですね(無論、日赤としてはそうした行為には至らないでしょうが)。
ただHIVではさすがにそうそうは遭遇しないでしょうが、実地臨床の場での肝炎で通院している患者が彼女の調子が悪いと一緒になって来院する、調べて見ると彼女もばっちり肝炎罹患しているということは時にあることで、医療従事者としては感染性疾患の蔓延リスクに対してどこまで責任を持つべきなのかということも迷わしいところではないかと思います。
特に不特定多数への感染拡大という点でしばしば話題になるのが検診などで引っかかった人が結核だと診断され専門医療機関に紹介されるケースで、もちろん厳重にマスクをしてなるべく車で行ってくださいね云々と指導はなされているでしょうが、大都市部ではそんな人達が満員電車に揺られて病院に向かっていくことも少なからずあるだろうことを考えると何かしら釈然としませんよね。

それではこの種の感染拡大に対しては厳罰をもってでも阻止に臨むべきかと言う話になりますけれども、てんかん事故問題に関連して厳罰化が議論された時にも話題に上ったように厳罰化を推し進めれば隠す人間が増えるというのは飲酒運転厳罰化においても見られた現象で、その結果何が起こったかと言えば飲酒で事故を起こせば厳罰を恐れて取りあえずひき逃げをするといったケースが増えてしまったわけですね。
そもそも先に挙げたような献血の問診そのものもしかりですが、やはり正直に申告することで何かしらのインセンティブが働かないことには隠した方がメリットが大きいと言うことになりかねず、これを防ぐためには例えばHIVに関しては保健所の無料検査など「正しいルート」を通じて診断された人間には以後の治療費に補助を与えると言った、物的メリットが必要になるかと思います。
そうなればなったで進歩的な方々からは「患者を差別するのか!」と言ったおしかりが来るかも知れませんけれども、感染症と言うものは一定数以上に患者が拡大してしまうと非常に対応が厄介なものになってしまうもので、世界的傾向に反して増加が懸念される日本のHIV感染に関しても制御不能な蔓延に陥ることを防ぐために何らかの対策を講じるとすれば、まさしく「いつやるか?今でしょ!」という状況になりつつある気がします。

|

« 障害児産み分けは悪? | トップページ | 学生ローン=貧困ビジネス?若者の負うべき負債とは何か »

心と体」カテゴリの記事

コメント

 HIV=エイズウイルスに感染し、献血した人の血液が検査をすり抜けて輸血されていた問題で、輸血を受けた60代の男性がエイズウイルスに感染していたことが分かりました。田村厚生労働大臣は、「善意の献血で被害が広がってしまう」と今回の問題を重く受け、本格的な対策に乗り出しました。日本赤十字社によりますと、今月に献血を行った40代の日本人男性の血液からエイズウイルスが見つかりました。この男性は2月にも献血をしていましたが、その際は血液検査に合格していました。日赤が保存していた血液のサンプルを調査したところ、血液は2人に輸血されていて、そのうち慢性消化器疾患で輸血を受けた60代の男性がエイズウイルスに感染していました。輸血によるエイズウイルスへの感染は2003年以来で、10年ぶりです。もう1人は、まだ検査を受けておらず、感染の有無は分かっていません。献血をした男性は、2月の献血直前に行われた問診で、男性と性的な関係を持っていたことを隠し、嘘の回答をしていました。

投稿: | 2013年11月27日 (水) 08時33分

感染された方は本当にお気の毒ですがHIVだから騒ぎになったってだけで他にも隠れて大勢がやってるんじゃないかと…
輸血業務に要する手間を考えたら血液を作る努力ももっとお金をかけていいんじゃないかな。
赤血球だけでも何とかなったらずいぶんと輸血が減らせそうだし災害時に慌てずにすむんですが。

投稿: ぽん太 | 2013年11月27日 (水) 09時14分

今回の件、なぜHIVに感染していた供血者に感染の事実を伝えたのでしょうか?
そんなことをすれば、「教えないとは言っているけれど、結局は教えてもらえる」と勘違いする人が出てきてしまいます。

投稿: クマ | 2013年11月27日 (水) 10時36分

この方の場合嘘をついてルール違反を犯すということでモラルも低いと思われますし、当然不特定多数のパートナーに罹患させるリスクも高いと思われます。
それらを防ぐという意義と検査目的の供血者が増えるリスクとどちらが高いのかと言うのはなかなかに難しく判断の分かれそうなところではありますね。
ともかくも被害者に対する今後の補償がどのようなものになるのかも非常に気になるところで、そもそも民事にでもなった場合に日赤が訴えられることもあり得るかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2013年11月27日 (水) 11時10分

「命より金儲けを選ぶのか?」といった貧困者/貧困国による恫喝から知的財産を守るために、TPP早期発効を期待します。

国連様が、「貧乏で死にそうなら、盗んでも良い」と言ったということは、貧困国の住民はまずは富裕な国連職員を襲撃して財産を奪えと言う理解でいいですか?

投稿: 記者 | 2013年11月27日 (水) 12時15分

まずは自称中流な記者氏から財産を奪うほうが効率がよろしいかとw

投稿: | 2013年11月27日 (水) 12時48分

日本の中流=世界の上流ww

投稿: aaa | 2013年11月27日 (水) 13時46分

献血からHIV55件…輸血には使われず

 厚生労働省エイズ動向委員会は27日、今年1~9月に献血された約390万件の血液のうち、
エイズウイルス(HIV)検査で陽性となった血液が55件あったと発表した。

 55件の血液はすべて廃棄され、輸血には使われていないが、日本赤十字社は2月に1件の
血液が検査をすり抜けて患者2人に輸血され、1人がHIVに感染したことを、26日までに
確認している。厚労省は「HIV検査を目的とする献血が、依然として続いている可能性がある」
として、HIV検査は保健所などで行われる無料の匿名検査を利用するよう呼びかけている。

 エイズ動向委によると、今年9月までの献血数は390万8307件。献血のHIV検査の
陽性率は10万件当たり1・41件で、国内でHIVの新感染者が見つかる割合より約2倍高い。
昨年は1年間で68件検出され、陽性率は同1・29件だった。

(2013年11月27日21時59分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131127-OYT1T00998.htm?from=ylist

投稿: | 2013年11月28日 (木) 14時52分

虚偽申告に刑事罰
http://www.j-cast.com/2013/11/27190217.html?p=all

投稿: | 2013年11月28日 (木) 22時49分

京大、iPSから赤血球を量産 血液の難病治療に道 2013/12/6 2:00

 京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授らは、血液中で酸素を運ぶ赤血球をiPS細胞から大量に作り出す技術を開発した。赤血球のもとになる細胞を作って増殖させる。輸血に使う血液の確保のほか、白血病など血液の難病の治療に役立つ成果という。米科学誌ステムセル・リポーツ(電子版)に6日掲載される。

 iPS細胞に「c―MYC」と「BCL―XL」という2種類の遺伝子を組み込んだところ「不死化赤血球前駆細胞」と呼ぶ特殊な細胞ができた。この細胞はほぼ無限に増殖し、80日ほどで細胞の数が100億~1000億倍に増える。

 その後、2つの遺伝子の働きを止めると、増殖した細胞は赤血球のもとになる細胞に育った。酸素を運ぶ能力もあった。マウスの血管に注入すると体内を循環して赤血球に育つことを確かめた。

 これまでもiPS細胞から赤血球を作ることはできたが増殖できず、量産できなかった。研究グループは、ほぼ無限に増殖できる赤血球のもとになる細胞の段階で増やすことで課題を解決した。
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63677690W3A201C1CR8000/

投稿: | 2013年12月 6日 (金) 09時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/58647138

この記事へのトラックバック一覧です: HIV感染者の献血が出回る:

« 障害児産み分けは悪? | トップページ | 学生ローン=貧困ビジネス?若者の負うべき負債とは何か »