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2013年10月22日 (火)

東北への医学部新設 地元市長会のびっくり要求

東北への医学部新設がどうやら非常に前向きに検討されているらしいという話を先日お伝えしたところですが、当然ながら地元では期待論一色に近いものではあるものの、全国的に見れば実にほとんどの声が医学部新設など必要ないとして一致しているという状況です。
そんな中で敢えて新設の意義があるとすれば地元への定着を期待してということになりますが、そもそも医師流出地域であった東北に本当に医師が根付くものだろうか?という不安も見え隠れしていて、歓迎一色に見えたマスコミなどもようやくその現実に気付き始めたようで「人材育成のやり方を工夫すべき」式の論調が目立ってきています。

医学部新設検討/隅々に行き渡る育成策を(2013年10月19日河北新報)

 東北で医師不足が叫ばれたのはいつごろか。大学医学部を供給源とし、郡部の自治体病院などに派遣されていた不動のサイクル。崩れ始めたのは10年ほど前だった。
 新人は卒業後に修業する研修、就職先を首都圏に求め、人気のあった東北大医学部でさえ、「若い人が残らない」と声が上がる。大都市に集中する偏在、いわゆる医療崩壊である。
 そんな中でも医療費抑制を掲げる国は、医師数をコントロールし医学部の新設は認めてこなかった。いま、その流れが変わろうとしている。
 文部科学省は東北に新設する方向で具体案に着手した。東日本大震災からの復興を一つの理念に、宮城県などの訴えが国を動かし、風穴を開けた形だ。
 地域に確実に定着させられるか、新しい医学部の役割はそれに尽きる。隅々で活躍する人材育成こそ使命と考え、思い切った誘導策を工夫してほしい
 新設方法をめぐり、安倍晋三首相は下村博文文科相に検討を指示。同省の告示を見直して認める案が取り沙汰されている。立地場所は宮城県が有力視される。東北大には宮城だけでなく岩手、福島各県などから派遣要請が舞い込む
 近くにもう一つできれば、負担は和らぎ、東北全体を見渡す余裕が生まれよう。先進的な研究に力を注ぎやすくなる面でも意義は大きい。
 新設校には仙台市の財団法人厚生会仙台厚生病院と、私大の東北薬科大が名乗りを挙げている。双方とも、大規模病院を有する特性を生かし、実践講義や研修を受けられることを利点に挙げる。入学定員の一定割合を地域枠とし、東北に勤務するよう支援する制度もある。
 その意気やよしとしたいが、末永く残るかどうかは疑念が湧く。都会志向がすぐにやむとは思えず、一時的な充足で終わりはしないか。実効性を高めていかなければ、普通の医大が一つ増えるだけだ。
 斬新で多様な誘導策、若い人が腕を試したくなる地元ならではの実践メニューがあっていい。それには自助努力のほか、外部の協力が欠かせない
 宮城県医師会などは、新設されると病院から医師を教員に引き抜かれると反対する。そうならないように知恵を出し合い、長い目で卒業生を受け入れるなど好循環の形をつくれないか。教員には首都圏から古里ゆかりの医師を招くのも一策だろう。
 小児科、内科など敬遠されがちな診療科単位の偏在を正すにも、医療圏レベルでの調整が重要さを増す。
 軌を一にし、地域ニーズに合うベッド数や病院ごとの機能分担など提供体制については、都道府県が決められるようにする方針が、国の社会保障制度改革国民会議最終報告で示された。
 医療政策は国、医師育成は大学、保健衛生は自治体と縦割りできたが、医も分権の時代である。その流れの中でできる医学部は新しい潮流をつくることが期待される。責任もまた重い。

失礼ながら「入学定員の一定割合を地域枠と」する程度の策では不十分で、それこそ定員全部地元枠にしてしまうか東北限定版自治医大方式にでもしないことには単に医師免許取得目的の国内留学を増やすだけになると思いますけれども、ここに注目していただきたいのは新設の意義として震災復興が錦の御旗として掲げられ、崩壊ぎりぎりの医療現場に対する支援の役割が期待されているということです。
その意味でかねて言われているように少なくとも短期的には医学部定員増による医師補充効果よりも教員たる医師の引き抜きによる現場の供給減少の方が問題になるんじゃないかと言うことなんですが、この観点からの新設反対論者の中心的役割を果たしてきた医師会などは地元宮城医師会ですら「すでに被災地沿岸部の医師数は震災前の状態に回復した」などと、まるで余計なことはするなと言わんばかりですよね。
東北諸県とすればもともと医師不足傾向が強い中で今回の震災復興でいわば多少の我が儘も通りやすくなっている事情もあり、それならばと特例での医学部新設を認めてもらえそうだという形なんですが、この賛否両論ある医学部新設問題に関して地元市長会があまりに率直すぎる要望を打ち出してきたことが報じられています。

東北新設医学部に地元医師採用しないで…市長会(2013年10月17日読売新聞)

 国が復興支援策として東北地方に医学部の新設を検討していることに対し、東北6県の75市長でつくる東北市長会(会長=奥山恵美子仙台市長)は17日、医師不足を助長しないためにも、東北で勤務する医師を教員に採用しないよう求める特別決議を全会一致で採択した。

 宮城県石巻市の亀山紘市長が、岩手県花巻市で開かれた総会で「医学部新設の検討は大変心強いが、医師不足が生じない方策が必要だ」として提案した。特別決議は学生についても、多くは将来長期間、東北の地域医療に携わることなどを条件に募集するよう求めている。東北市長会は11月、国への要望活動を行う予定。

医学部新設 東北の医師採用禁止を 教員確保で緊急決議(2013年10月18日河北新報)

 東北75市の市長でつくる東北市長会(会長・奥山恵美子仙台市長)は17日、花巻市内で総会を開き、東北への大学医学部新設が実現した場合、教員に東北の医師の採用を禁じるよう国に求める緊急の特別決議案を全会一致で承認した。
 提案した亀山紘石巻市長は「医学部設置には教員となる医師の確保が必要だが、東北各地の医師を教員や診療スタッフにすることで、さらなる医師不足が生じてはならない」と説明した。
 出席した市長からは「医学部新設には200~300人の教職員が必要になる。東北からの採用禁止が確約されなければ賛成できない」(山本正徳宮古市長)などの意見が出た。
 亀山市長は総会後の取材に対し、「医学部新設が医師不足を招いては本末転倒だ。認可へ向け、不安を払拭(ふっしょく)したかった」と述べた。採用禁止の実現性に関しては「東北以外の医師のほか、外国の医師を招くことも考えれば不可能ではない」と述べた。
 特別決議には新医学部の相当数の学生が、地域医療に長期間従事することを義務付ける仕組みの導入も盛り込んだ。
 医学部新設をめぐっては、安倍晋三首相が今月4日、下村博文文部科学相に検討を指示。これまで財団法人厚生会仙台厚生病院(仙台市青葉区)と東北薬科大(同)が医学部構想を発表した。宮城県医師会などは「教官に多数の医師が引き抜かれ、東北の医療は崩壊する」と反対している。
 総会には68市の市長らが出席した。特別決議はほかに、復興特別法人税の前倒し廃止が実施された場合の代替財源確保や、国際リニアコライダー(ILC)の国を挙げた誘致の推進、福島第1原発の汚染水漏えいの原因究明など6件が承認された。

もちろんこうした意見が出たことの背景事情は相応に理解は出来るものの、要するに医学部新設による医師数増加という果実は欲しいがそのために必要となる犠牲としての自前の医者は使いたくないから他所に出してくれと言うことであって、別に医師が余っているわけでもない他地方からすれば「東北はどこまで甘えているんだ」と批判されても仕方がないほど「虫のいい」要求に他なりません。
もともと自前の大病院があって新たにスタッフを抱え込む必要がないからと言うことでとんとん拍子に話が進んできた形なのですから、逆に今から大規模に医師を集めなければならないのであれば話が違うだろうと言うもので、それなら他地方にもっといい条件の物件もあるのに…と言う声も上がってきそうですよね。
逆に開学準備をしている2団体からすると仮に教官の手当は十分に進んでいたということであれば、地元自治体からこんな余計なことを言われることで妙な逆風にもなりかねないと思いますけれども、いずれにしても東北か東北でないかだけを基準に教員を選ぶということが常識的に考えがたい以上、自治体側の要求は浮世離れした空論と言うしかありません。
それではその空論によって開学準備にどれほど影響があるかと言うことですが、現実的に東北部外者のみでの開学などは不可能であり、いわば地元自治体が一切の「自助努力」を拒否している形ですから対外的イメージが悪化するのはもちろん、下手をするとこうした非現実敵要求を打ち出すということは実質的に地元では開学反対なのだと解釈される余地は十分ありそうですね。

そもそも論として医学部教官に求められる資質とはどのようなものであるかと言うことなんですが、冒頭の記事のように「東京から呼べばいいじゃない?医者多いんだし」などと言う声も出ていて、基礎系や社会医学ならこうした地域に偏在する非臨床系医師免許所持者にも相応に期待出来るかも知れませんが、問題はやはり臨床系の教官ですよね。
大学病院の離床系の教官はもちろん学生の相手をしてばかりいるわけでもなく、むしろ大部分は大学病院でしか相手が出来ないような高度な医療を担う臨床専門家でもあるわけですから、大学教官レベルの専門医を数百人規模で全国から引き抜き東北に集められるというのであればそもそも異論反論多数の医学部など開かず、彼らに東北各地で臨床医として働いてもらえば皆がもっと幸せになれるはずです。
そして医者を取られる側の全国各地とすれば優良な人材を送り込むなど期待薄で、むしろ一般臨床家としての活躍が到底期待出来ず外の病院に出すことも出来ないまま、長年大学病院で飼い殺しになっている人材の在庫処分先として向いていると考える可能性もあるかと思いますが、果たしてそんな大学で誰が何を学びたいと思うかですね。

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コメント

クレクレ厨かよ

投稿: | 2013年10月22日 (火) 08時14分

なぜ医者が続々と逃げ出すか自ら立証するかw

投稿: aaa | 2013年10月22日 (火) 08時54分

実際の影響力はないんでしょうけど禁止とまで言い切るのは穏やかじゃないですね。
こんな特別扱いをおおやけに言っちゃえば東北のイメージが悪くなりそうですけど構わないのかな…
ところで他人の育てた医師を引き抜けと言うのだからとうぜん見返りは用意してあるんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2013年10月22日 (火) 09時35分

爺医捨山にならなければいいね。

つか、長期にわたる地域限定就職を求めるのなら、学費や待遇などでのインセンティブがいると思いますが、私学でそれができるのですかね。それとも、国公立並の補助金を最初からあてにしてるのでしょうか。だとしたら、サトウキビをメープルシロップに漬けて食べるくらい甘い話だと思いますが。

投稿: | 2013年10月22日 (火) 09時48分

全国の医師達にとっては東北赴任を躊躇する新たな理由の一つにこれはなりますかね。
ただ現実問題として教官と言えども大学病院の医療スタッフですから、地元出身者ゼロの寄せ集めメンバーでまともな医療が出来るのかどうかは気になりますが。
こういうことを言うくらいですから医療の問題にそれなりに興味も関心もある人達なのでしょうが、何か中途半端に知識を身につけただけで現場に疎い素人発言という印象を受けます。

投稿: 管理人nobu | 2013年10月22日 (火) 13時05分

逝きたい人が逝けばいい
私は逝かない

投稿: コウ | 2013年10月22日 (火) 17時23分

何故 首都圏に医師が集中するのか。東北圏から医師が流出してしまうのか。また、限られた診療科に医師が集中し、産科、小児科、特定の外科などの医師数が減少するのか。根本を考えないと問題の解決にはならないと思います。

投稿: koma | 2013年10月23日 (水) 00時20分

医者だけが流出とかいうが、東北に限らず、東日本出身の60歳以下のエリートとか呼ばれる人達は大学から東京か首都圏の大学に入って、首都圏で仕事して生活する人間が大半だと思う。
そういう首都圏だけに人や物が集中してしまう社会構造が悪いのであって、そのストロー現象は新幹線の利便性向上によってますます悪化している現実があります。医者もその流れだというだけで。
たかだか宮城に医学部を1つ新設したところで、新幹線で仙台からたった90分で行けてしまう東京に医者が流出してしまうのは自明の理。
卒後、地元に縛り付けておけるような人権無視の法律でも作らないかぎりは解決にならないでしょ。

投稿: 逃散前科者 | 2013年10月23日 (水) 13時58分

人口減少している東北で以前並みの水準を保っているのならむしろ医師はよく残っていると言えるのでは
人口が半減しようが医師だけは増やせと言うならそれは逆格差と言うものでしょうな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年10月23日 (水) 15時13分

そうですね。人口比で言えば、首都圏でも医者が足りてると言えない。何せOECD諸国最低ですから。
特に千葉と埼玉は東北以上に医師不足が深刻で全国最低レベルとか言われますね。東京に行くしかないのかも。

投稿: 逃散前科者 | 2013年10月23日 (水) 15時43分

医師歴23年です。医学部は30年以上も新設されなかった事の心理的影響はかなり大きいです。受験生が医学部人気なのは医学部に入りさえすれば医師になれるし医師になれさえすれば一先ず人並み又はそれ以上に安定した生活が保障される!人気由来はこの1点だけだと思うのです。新設されると今後弁護士の様になりかねないという不安から一気に医学部人気急落あり得ます。実際みんな医師も昔のように恵まれていないのは薄々分かっています、、ただ他に代わりとなる保障された資格が無いのです。。。特に私大医学部はある意味投資先的な意味も有りますから他に良い資格が出来たり医師の将来の雲行き怪しくなれば直ぐに暴落します。皆医師会は分かっているので気が狂った様に反対しているのでしょう。。。。でも限界ありますね。。。1つ出来れば医師もダメか???って溜息と共に医学部人気暴落、、、そして医学部予備校倒産。。。目に見えてますね。
看護学科が増加して今年から人気難易度急落しています。多分看護学科と同じ運命辿りますね。本質としては医師は十分足りていますそして医師を取り巻く環境は悪化しています、他業種との関連や社会情勢で今まで以上に注目される資格になっただけで医師待遇改善なき医学部人気は本質では無く偽物なのは当然、何かのはずみで簡単に崩壊します。砂上の楼閣ですな。。。あーあ子供に何を勧めましょうか???

投稿: 北海道 | 2013年10月27日 (日) 12時32分

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