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2013年10月16日 (水)

社会補償制度改革 高齢者支出増で必要に迫られる

こういう記事が出ていたのですけれども、一見すると何でもない昨今日本でもよくある健康寿命延長論に見えますよね。

医療方針のパラダイムシフト「加齢を遅らせて病気をおこさせない」という方法論(2013年10月9日GigaZINE)

Google社が健康と人間の幸福を改善する目的で新しい会社「Calico」の設立を発表しましたが、それに呼応するかのように、今後の医療政策を大きく転換させるかもしれない調査結果が公表されました。そこでは現在の医療に見られるような、病気ごとに個別に行われている研究や治療ではなく、より根本的なところで人間の加齢による老化を遅らせて、人々の健康状態を良好に保つ施策を採るほうがメリットをもたらすとしています。

Delayed aging is better investment than cancer, heart disease

この発表は、アメリカの健康関連のジャーナル誌である「Health Affairs」誌に掲載されたものです。同誌は、米ワシントン・ポスト紙から「健康政策のバイブル」とも呼ばれており、大きな影響力を持っているといわれています。
加齢による老化の速度を遅らせることができると、65歳以上の健康な人の割合が2030年から2060年の30年間にわたって少なくとも毎年5パーセントずつ増加し、2060年には健康なお年寄りの数が1170万人増加するという試算が出ています。また、健康な人の割合が増加することで医療費を1.25パーセント削減できると見込んでおり、長期的に見れば大きな恩恵を受けることができるとしています。

◆増加する老齢人口と医療問題
今後の50年間で、アメリカ国内の老齢人口は現在の4300万人から1億600万人と2倍以上になることが予想されています。そして、そのうち約28パーセントの人が健康に問題を抱えるといわれています。医療政策・経済学を研究する南カリフォルニア大学・Schaeffer Centerの所長で報告書の筆頭著者でもあるDana Goldman博士は「これまでの50年間は、数ある病気ごとに個別の対処方法を開発することによって寿命を延ばしてきましたが、結果的に長生きはできても健康に問題を抱えながら老後を送るケースを増やすことになってしまいました。もし加齢による老化そのものを遅らせる研究が進むと、そのような病気の発生と進行そのものを防ぐことが可能になります」と語り、従来のような「今後数十年間でガンの発生率を25パーセント減少させる」というような方法を続けても、人々の健康面と費用面の両方でのメリットはほとんどないと指摘しています。
研究チームの一員であるイリノイ大学のS. Jay Olshansky氏は、この新しい医療のあり方についてこう語っています。「加齢を遅らせることに関するどんな小さな発見でも、健康と人生の質(クオリティ・オブ・ライフ)に大きなインパクトを与えることになるでしょう。この方法論は人々の健康に対する根本的に新しい考え方であり、あらゆる病理に共通して横たわる問題の根本に立ち向かうものです。今すぐにでもこの研究を開始するべきです。どのメカニズムが加齢を遅らせることに関連しているかはわかっていませんし、おそらくいくつもの解決策があるはずですが、まずは『取り組む価値のあるもの』として認識を行うことが必要なのです」
100歳を超える長寿の人に共通する遺伝子の研究から、加齢を遅らせる方法が少しずつ明らかになってきています。また、動物実験レベルでは、薬剤やカロリー制限などの方法で老化を食い止める兆候を確認することもできました。

◆加齢速度を遅くすることによるメリットとそのコスト
それでは、新しい方法にはどのようなメリットが期待できるのでしょうか。報告書では、51歳の患者がガンまたは心臓の病気を患っている場合の例を挙げて説明しています。従来の方法では平均して寿命を1年上乗せすることができるのに対し、加齢を遅らせる方法をとっていれば寿命を2年以上長くすることが可能で、しかもその間の健康状態は、より良好な状態をキープできるとしています。
また、この方針転換により向こう50年間で7兆1000億ドル(約690兆円)の経済的メリットがあると試算しています。しかし同時に、人口一人あたりにかかる医療費は減るものの、65歳以上の人口が増加するために医療費全体の削減にはつながらないということも述べています。
「特定の病気ごとに研究を集中させる従来の方針から、老化の速度を遅めて根本的に病気の発生を避ける方法へとシフトすることで、人々の健康状態が改善され、社会との関わりを持ち続けることができるようになると考えています。ここにはとてつもなく大きなメリットがあり、その恩恵は将来の世代にまで及ぶでしょう。財政的には大きな挑戦になりますが、施策の転換と、無視できないほど大きい経済的価値を見いだすことによって実現されると思っています」とGoldman氏は語っており、新しい施策への転換を促しています。

もちろん健康寿命が延長すれば高齢者にかかる社会保障コストは一見して節約出来るように見えるし、人間の根源的欲求としていつまでも若くいられる技術はどんどん開発したらいいのでしょうが、一方で加齢による各種疾患の続発とそれによる高い医療支出というイベントを回避出来たとしても結局は一時的な先送りに過ぎず、将来的長期的に見ると結局新しい社会年齢分布に基づいて先送りした高齢者向け支出がのし掛かってくるという意見があります。
そしてもう一つ気になるのが健康寿命を延ばし元気になった高齢者に何をさせるのかと言うことで、例えば日本においては高齢者の入り口に差し掛かった頃には勤めを終えて社会的には隠退生活に入る、そしてそこからは多額の公費も投じられた年金によって扶養されるわけで、結局のところ非生産年齢の扶養人口が増えることによってトータルでの社会保障支出はむしろ増す可能性がありますよね。
いやいやそんなことはない、高齢者の老化が抑制できればもっと長く働けるようになるじゃないかと言う声もあって、事実近年は政策的にも定年延長が盛んに唱えられているところですけれども、基本的には仕事の需要は人口比で決まるのだと考えれば限られた雇用総量というパイの切り分け先が若年者から高齢者へと移行すると言うだけで、最も生産的であるべき若年者にとっては何らメリットはなさそうです。
結局のところ働けなくなったらさっさと退場いただくのが一番効率的と言う構図に変わりはないし、いくら健康需要を伸ばしても高齢者にコストはかけないというコンセンサスもセットで普及しなければ意味がなさそうなのですが、そう考えると先日出ていた文科省の体力・運動能力調査で「70歳代の体力が12年前の5歳若い世代と同等になった」などといったニュースを見ても素直に喜べなくなってしまいますね。

ところで主に大企業を対象とする健康保険組合においては昨年度全国1431組合の7割超で合計2976億円の経常赤字だったと言う記事が出ていて、一見すると前年度よりも赤字額が減ったようにも見えるのですが過去最多の609組合が保険料率を引き上げたことがその理由だとも言い、保険料収入の半分近くを占め増え続ける高齢者向けの医療費支出が重くのし掛かっている格好です。
こうした状況から健保組合側では政府の言うところの「もっと大企業に医療費を負担させよう」という社会保障改革案には反対だと言うのですが、表向き法人税引き下げなどの「アメ」もセットで打ち出されてきている以上は雇用の促進や社会保障費の負担など相応の見返りも要求されるというところで落ち着きそうに思えます。
厚労省の宇都宮啓医療課長が先日の講演で医療従事者に対して「超高齢社会で医療は変わらなければならない」と言ったそうで、高齢者は「治すための医療「Cure」よりも、支える、場合によっては看取るための医療「Care」が求められる」のに「今の医学部教育や医療現場は治すことばかり教えている」と批判したそうですが、「治すことばかり」考えなければ経営が成り立たないよう誘導する診療報酬体系もその一因ですよね。
他方で山形大の嘉山孝正先生はこれまた講演で医師確保のために必要な方策の一つとしてドクターフィー導入などにも言及した後で、「医療における既得権益は医師ではなく国民」であると言い、「国民が安い医療費で最高の医療を受け続けている現状を変えないようにしている」と語ったそうですが、こちらの方が現場感覚としてはより近いイメージがないでしょうかね?

いずれにしても何十年も前の日本が上り調子で成長していた時代に出来上がった現在の社会保障システムが、21世紀になってもそのまま続けられると考える方がどうかしているというもので抜本的改革が不可避であるという認識は多くの人達が共有している、一方で現実問題一番お金を持っている高齢者が自己負担においても一番優遇されているのはおかしいんじゃないか?と言う考え方はあって当然でしょう。
ちょうど政府が来年度からの高齢者医療費自己負担1割という特例をとうとうやめる(と言っても、来年度以降70歳になる人は2割負担にする方針を固めたというだけですが)という報道があったところで、相次ぐ高所得者への負担増とも合わせて社会保障負担は年齢による階層化から所得による階層化へと移行しつつある気配がありますが、では「お年寄りでもお金持ちは負担してもらいます」でいいのかどうかです。
結局のところ高齢者向けの給付が際限なく増えていくのに何ら抑制のためのシステムが働いていない(厚労省課長が医療者向けに「年寄りにはあまり金を使った医療をしないでね」と説教して何が変わるのか?というものでしょう)という根本的原因を放置したまま、お金を出せる人なり会社なりがいるんだから出してもらえばいいじゃないかと言う考えでいると何が起こるのかということです。

高所得者の国保保険料上げ議論へ(2013年10月13日NHK)

厚生労働省は、自営業者などが加入する国民健康保険について、来年度から所得が高い世帯が年間に支払う保険料の限度額を引き上げる方針で、今後、対象となる世帯の範囲や引き上げ幅などを議論していくことにしています。

厚生労働省は、先にまとまった社会保障制度改革国民会議の報告書を踏まえ、経済力に応じて負担を求めることを基本に、医療制度などの見直しを進めています。
このうち自営業者などが加入する国民健康保険については、来年度から所得が低い世帯の保険料の軽減措置を拡充することにしていて、夫と専業主婦の妻、それに子どもの3人の世帯の場合、▽保険料が5割軽減される年収の上限を今の147万円から178万円に、▽2割軽減される年収の上限を今の223万円から266万円に、それぞれ広げ、対象の世帯を増やす方針です。
一方、所得が高い世帯は、より多くの負担を求める観点から、年間に支払う保険料の限度額を現在の65万円から引き上げる方針で、今後、対象となる世帯の範囲や引き上げ幅などを議論していくことにしています。

基本的に無保険者の増加が医療現場にとっても大きなリスクになっているのですから、低所得者対策が何よりも優先されるのは当然なのですが、その財源としてお金持ちからもっと取ったらいいじゃないかと言う意見は一見するともっともらしいようにも見えますよね。
ちょうど今現在交渉が進行中のTPPで医療も一つの焦点になっていて、特に国民皆保険制度というものがどうなるか注目されているところなんですが、民間保険主体のアメリカから今後日本にも保険会社が様々なプランを携えて進出してくることになった場合、こうした富裕層への負担増加政策がどのように影響するのかに注目しています。
もちろん日本の皆保険制度は保険会社の中の人も「最善最良の医療保険」と評価したと言う話もあるくらいで、それはこれだけ赤字続きになっても手厚い給付が行われ何らの制約も受けないとなれば特に利用の多い高齢者ほどありがたいものですけれども、一方で質的平等を追求するあまりお金持ちであっても一文無しの貧困者と同じ医療しか受けられないという、パフォーマンス面での制約があるわけですね。
仮に民間保険でより高い質の医療をカバーするプランが登場したとして、その時点で富裕層の健康保険負担がこれら民間保険と同等水準にまで高まっていたりすると、「それならもっといい医療が受けられる民間保険にしようか」と富裕層による皆保険制度離脱が起こってもおかしくはないという話になります。
実のところ今後さらに大きな負担を求められそうな「お金持ち」大企業中心の健保組合などは以前から支出の増加に伴って保険料がどんどん高騰し、これでは独自の企業保険を用意する意味がないと組合解散するケースが増えているのですが、その結果かえって国庫負担が増えることになるのですから調子に乗って「取れるところから取ればいい」では必ずしも望んだ結果が得られるわけではないということですね。

結局のところ支出(給付)をどうやって抑制するかという議論なしに誰が負担するかと言う話ばかりをやっていても仕方がないし、逆に高い給付水準を今後も求めるなら応分の受益者負担もあってしかるべきだろうと言うことなのですが、特に後者の場合自己負担増加はそのまま受診制限という二重の支出削減に結びつきますから、かねてあちこちで議論はされてきた(ただし、なかなか実現はしない)ところです。
医者がどんどん病気を見つけて治療してしまうから医療費が増えるのだという考え方も確かに一面の真実なのですが、現実問題として80歳90歳の高齢者だろうが保険診療の制度上は若者と同じ一患者に過ぎず、病気を見逃せば若年者と同じように巨額の賠償金を請求されるという仕組みになっている以上「あなたはもう歳だからこれくらいの適当な診療でいいですよね」とは医療側からはちょっと言いにくいですよね。
医療の受益者たる患者=国民は同時に医療のスポンサーでもあるわけですから、もっと有意義に医療費が使われるように当事者意識を持つべきだと思うのですが、現代の姥捨て山だとか散々に言われ骨抜きにされてきた高齢者医療制度なども本来若年者と高齢者とは制度的にも別物で、負担も給付も違う扱いなのだということを示すよい道具立てになっていたはずなのに十分活用されているようには見えません。
制度的改変が一向に進まないのであればせめて現場レベルで対応出来ることから何とか始めていくしかないのかも知れませんけれども、国民の8割が延命治療を希望していないのにそれを文書化していざという時に備えている人はわずかに1%、半数の人はそもそもリビングウィルを作成する意志もないという調査結果を見るに付け、いい医療が誰でもただ同然で受けられたことが自主的判断力を奪ってきた側面も感じてしまいます。

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コメント

「65歳以上の人口が増加するために医療費全体の削減にはつながらない」が全てなんでしょうね。
ただ医師みたいに実質生涯現役に近い職業はアンチエイジングの効能が大いに期待出来ます。
あとは頭の老化と体の老化のバランスがとれていればいいですね。


投稿: ぽん太 | 2013年10月16日 (水) 09時08分

リタイア後の人生が長く続くと判ってたらますます老人が金を貯め込むようになって世の中金回りが悪くなりそうな気が…
どうも元になった試算が本当に正しいのか疑問に感じてしまうのですが

投稿: 鎌田 | 2013年10月16日 (水) 09時37分

「加齢を遅らせて病気を起こさせない」
明らかに自然の摂理に逆らった迷信ですね。アンチエイジングというのはきわめておろかな考えだと思います。
自然の摂理(病気・加齢)の前には人間の所業など全く無力なものであるという当然のことを理解すべきです。
これからの日本で、仕事を定年退職した多くの高齢者が病気にならず死なずにみな長生きしたら大変です。


投稿: 逃散前科者 | 2013年10月16日 (水) 10時55分

いつまでも若々しくという技術開発自体には大いに賛同するのですが、それが社会保障費の抑制につながるという論調には賛同しかねるものがあります。
単純に何ら生産的行為を行わず年金等の給付を受けるだけの世代が増えるわけですから、現役世代は今以上にその養育のための負担にあえぐようになると言うのが当たり前の考えだと思いますが。
技術自体は否定されるべきものではないと思いますから当然放っておいても研究は進んでいくはずで、元気になった高齢者がいかにして自活できるか、そして若者の雇用を奪わずにいられるかを同時進行で研究すべきです。

投稿: 管理人nobu | 2013年10月16日 (水) 11時04分

人間の加齢による老化を遅らせて、人々の健康状態を良好に保つ施策、なら爺ちゃん、婆ちゃんもフルタイム勤務でバリバリ働いて頂かなきゃ。
当然、働けなくなるまで年金支給なし、税金もばっちり納めてください。

それが、社会貢献です。

投稿: Physician | 2013年10月16日 (水) 11時19分

世の中元気な年寄りばかりになって政治家もますます連中の言いなりだね
若者はさっさと発展途上国にでも逃げ出した方がいいんじゃない?

投稿: | 2013年10月16日 (水) 12時16分

発展途上国は社会的インフラがダメ、健康保険が未整備、医療リソースが不充分。
よって年寄り過剰国家の日本にいたほうがまだマシ。

投稿: (笑)非低偏差値非馬鹿医大卒 | 2013年10月16日 (水) 15時12分

アメリカなら老後も自助志向が強いだろうからまだしも、国がすべて養ってくれて当然という感覚の日本でそこまでの経済的メリットがあるものだろうか?
日本の状況を考慮しての試算が出ないことには、際限なき社会保障費増大の悪夢がぬぐい難いわけで

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年10月16日 (水) 21時18分

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