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2013年10月11日 (金)

金のない老人は捨てられる時代 だが金をかけることが目的ではないはずで

先日こういうニュースが出ていたのですが、ご覧になりましたでしょうか。

スイス与党議員が「姥捨山」構想 コストが安いモロッコに「年金老人」を移住させる(2013年10月5日J-CASTニュース)

 高齢化社会で脹らむ一方の「老人コスト」は万国共通の課題だが、欧州では「現代の姥捨山」ともいえる構想が持ち上がり、波紋を広げている。高齢者を北アフリカに移住させるというのがその構想だ。
 ここまで極端ではなくても、ドイツではすでに高齢者が隣国ポーランドの施設に入所するケースが報道されており、コストの安い国に「老人輸出」する動きはすでに具体化しているようだ。

■「モロッコの方が住宅費、医療、社会保障費がずっと安い」

 ジュネーブの英語専門局「ワールドラジオ」や地元紙「ジュネーブ・トリビューン」が2013年9月下旬に報じたところによると、構想を披露したのは与党・スイス国民党のイブ・ニデッケル議員。アフリカ北部のモロッコに居留地を作って、年金受給者や亡命希望を断られた人を住ませる、というのがその内容だ。ニデッケル議員は、
  「モロッコの方が住宅費、医療、社会保障費がずっと安く、(自らが地盤とする)ジュネーブにとって経費節減になる
と、その理由を説明した。また、居留地が雇用を創出するため、若いモロッコ人にとっても利益になるとも説いた。ニデッケル議員は、ウエリ・マウラー大統領もこの構想を支持していると主張している。
 物価の違い以外に、ジュネーブでもモロッコでもフランス語が使用されていることも背景にあるとみられる。現地報道からは、自発的な移住を促すのか、ある程度強制的に移住させるのかは明らかではない。

すでにドイツでは「老人の輸出」が問題化

 ジュネーブとモロッコとでは直線距離にして1900キロ程度あるが、隣国同士、とりわけ介護が必要な高齢者にとっては、この動きはすでに現実化しつつあるようだ。ブルームバーグは13年9月16日、ドイツの認知症の女性(94)がポーランドの介護施設に入所したケースを紹介している。ドイツでは、このような「老人の輸出」が問題化しており、ミュンヘンの主要紙は「老年植民地主義」と批判しているという。それでも国民にとっては、背に腹は代えられないようだ。ポーランドの介護施設の場合、ドイツと比べて費用が3分の1に抑えられるということもあって、調査会社「TNSエニムド」の調査によると、5人に1人が国外で介護サービス利用を検討しているという。
 欧州委員会の12年の調査によると、ドイツ人の長期介護にかかる費用は、現在は国内総生産(GDP)比1.4%なのに対して2060年には3.3%に大幅に増える。このような背景もあって、今後「老人の輸出」がさらに加速しそうだ。

外人さんはストレートだなと感じてしまうかも知れませんが、記事にもありますようにこの高齢者にかかる医療・介護コストの高騰は万国共通の悩みではあるようで、日本においても昨今年金世代は東南アジアで暮らそう!物価も安くて満足のいく生活が送れます!なんて話がまことしやかに取り上げられる機会が増えましたよね。
国内でもこのところ自治体の枠を越えて高齢者を他地域の施設へ送り込むということが話題になっていて、先日は厚労省が医療費制度を改正して送り元の自治体がコストを負担することで地方移住を円滑化させられる見込みだと記事になっていましたが、今後更に制度的な後押しを拡大することで都市部から地方へと高齢者移住を促進させようと検討しているようです。
興味深いのはひと頃であれば「現代の姥捨て山だ!」などと大騒ぎしそうなマスコミ諸社が案外平静を保っているということで、さすがに社会保障費増大を平素から問題に取り上げてきただけにそれに対する対案を無碍には批判出来ないということなのでしょうが、ともかくこれもアクセスの制限によって質を保ち、コストを切り下げるという最近流行りのやり方と言う解釈も出来るでしょう。
ただもちろん良い話ばかりではないのは当然で、すでに世の中「お年寄りならどれだけコストをかけても許される」という時代ではなくその中身が問われるようになり、むしろ無駄なコストの切り下げが重要視される時代になってきますと、当然ながら儲けにならないお年寄りはいらないと言う考え方も出てくるでしょうね。

追い出される「償却切れ老人」 介護施設がもうけ優先?(2013年10月7日朝日新聞)

 「介護を成長産業に」の陰で、入居者が苦しんでいる例はこれだけではない。
 入居が長く、一時金の取り崩し(償却)が終わりかけ「もうからない客」になった「償却切れ老人」が、退去を迫られる例もある。

 「もう入ってもらう部屋はない。受け入れは無理です」。受話器の向こうで施設長の乾いた声が響いた。父親(当時77)が入居していた50代の女性は一方的に通告され、途方に暮れた。
 「日本ケアリンク」(東京)が運営する老人ホーム「せらび新横浜」に入っていた父親は昨年6月、外出先で転んで入院。四肢まひが残り、医師から要介護度が「1」から「5」になる見通しを知らされた。退院が決まり、施設に「戻ります」と連絡した際の、思いもよらぬ返事だった。
 入居契約には施設側が退去要請できる条項もあるが、父は該当しなかった。

 施設に戻ることを拒む正当な理由はない。「父のような入居者はなるべく追い出して、新しい入居者を入れたかったのだと思う」。いまも女性はそう疑っている。入居時に納めた一時金1440万円は、すでに3年半が過ぎて償却が進み、約300万円を残すだけだった。「あと1年半、つまり入居して5年がたてば、家賃は入らなくなる。施設にとっては『資産価値』がなくなったんでしょう」

取り上げられているケースの場合は介護度が顕著に上がって明らかに老人ホームで対応出来る対象者ではなくなったと言えそうですし、高齢者の場合年と共に身体的に衰え対応出来る施設を転々とせざるを得ないということはままあることですから必ずしも問題視するには適切ではない気もしますが、朝日的には実名を挙げて糾弾するに値すると考えたということなのでしょうね。
ただ他にも注意すべきなのはこうした施設に入る場合には当然ながら様々な入居費用というものが必要なのですが、例えば何かイベントが起こって病院に入院する、状態が落ち着いて退院しようとすると施設側ではすでに「次の入居待機者を入れましたから」と契約が切られていて、再入居するためには順番待ちすると共にまた新たな入居コストを負担しなければならないというケースもあるということです。
一般的に施設側としてはなるべく手のかからない元気が良く安定している利用者を歓迎するでしょうが、こうした手口が行われているとなればたびたび入退院を繰り返しそのたびに余分なお金を払ってくれるお得意さんを何人か囲い込んでおいた方が儲けが出るというもので、利用者側も最初の契約時にこのあたりはしっかり確認しておく必要があると思いますね。

どこも営利でやっている以上当然ながら儲けが出なければ施設自体存続出来ませんが、よりよい介護体制を整えようと優秀なスタッフを集めようとすればそれだけコストは余計にかかり価格競争力もなくなってしまう、一方で何しろ「介護だけは死んでも嫌」と言うほど求人難の業界ですからスタッフの奪い合いにもつながりかねないと、とかく介護業界を取り巻く状況は厳しいものがあります。
先日は暴れる高齢者を押さえつけたところ腰椎骨折による出血性ショックで亡くなってしまったという残念なニュースがあって、一部メディアが「お年寄りの腰を伸ばしたらショック死」などと非常に紛らわしい?見出しをつけていたことで気になったのですが、当然ながら優秀な人材が乏しい現場ほどこうした思いがけない事故も増えてくるでしょう。
ただ介護の場合注意したいのは医学的に正しい対応をしているということと、利用者の満足度とは全く別問題ということがあって、よくあるケースですが認知症老人の訴えで家族が怒鳴り込んできたといった場合でも医学的には全く妥当な対応をしているしっかりした施設であったり、逆に非常に患者受けがいい施設でも医学的観点から見れば実に稚拙なことを平気でやっていたりするということもあるわけですね。

理想的には高級クラブのママ並みに接遇能力も高く、看護師並みに十分な医学的知識も兼ね備えた人材が取りそろえてあれば言う事はないのでしょうが、現実的にそんなことが不可能である以上施設を利用する側も何を優先してその施設を選ぶのかをきちんと決めておくことが重要だろうし、施設側も何が売りなのかということを明示しておくべきかなと思います。
医療と介護どちらに主体を置くかと言う議論と同じで、急性期基幹病院でもの凄いコストと労力を払って最後までがんばってもスパゲッティ症候群などと嫌われたりする、一方でろくに医療もやってない老人病院で最後まで介護だけしっかりやっていると家族が泣いて喜んだなんて話もあって、やはり高齢者においては家族の心情的にも財政的要求の上でもキュアよりもケアが主役にならざるを得ないんだと思います。
冒頭に取り上げたような「姥捨て山」じみた話でも地元を離れることや安上がりに済まされることが問題なのではなくて、その結果顧客満足度が上がるのかどうかと言うことの方を問うべきなのであって、金もないのに高級レストランで一番安い一皿だけをみんなで分け合っていいものを食べた気になるくらいなら、安い大衆料理屋で賑やかに飲み食いした方が楽しく満足も出来るということも知っておいた方がいいでしょう。

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コメント

21世紀型の輸出産業創出か
日本に看護師呼び寄せて老人の世話させるより現地で雇用したほうがずっと安上がりだよね

投稿: | 2013年10月11日 (金) 08時05分

最終的には利用者がどこまで納得出来るかでしょう。>老人輸出
日本は陸続きのドイツと違って海外にいくのも大変だから本人はともかく家族は嫌がるのでは?
だからといって身寄りのない孤独老人ばかり輸出するんじゃマスコミが黙ってないと思います。

投稿: ぽん太 | 2013年10月11日 (金) 09時07分

んー、今の日本は、金のない老人は国内に残って、金のある老人を輸出している状態だからねぇ。

逆にしないとだめなのに。

投稿: | 2013年10月11日 (金) 09時46分

年金10万以下で貯蓄もない老人が国内で生保もらって暮らすよりも、東南アジアで悠々自適の生活がありますよって持ちかければ乗ってくる人も出るでしょう
でもこういう話は国が関わるとよけいにもめそうなので、民間企業主体で事業展開すべきじゃないかな?

投稿: tama | 2013年10月11日 (金) 10時32分

50年間働いてそこそこ高給を稼いでた方と怠け者貧乏人が介護医療を受ける年になるとほとんど変わらない処遇になるのはおかしい
特養優先権など貧民は無償で高給な介護・医療を保障されている

高いカネ取られた上に貧乏人と同じ医療・介護しか受けられないとなれば、努力して国の経済に貢献してきた優秀な人はどうなるんだ?

こんな悪平等は絶対おかしい


医療や介護は裕福な人から貧乏人まで各種取り揃えて格差をつけるべきだ。富裕な人はどんどん良い医療を受けるべき

逆にナマポには遠慮して貰うとか。努力してこなかった人に高級な介護をばら撒く余裕は無いし悪平等で税金の無駄と思う

まあ医師会は自称弱者に無償で高給医療を配るという赤ひげごっこが好きだから反対するんだろうな(この「赤ひげ」の行動をしつつ裏では善良な勤労者や企業からちゃんと搾取して元を取ってるんですけどねw)

投稿: 剤師 | 2013年10月11日 (金) 11時54分

マレーシアなどは一定条件を満たせば高齢者受け入れも積極的に行っていて、国か何らかの事業体が仲立ちをすることで庶民にも十分利用可能になるかと思われます。
http://www.degivide.info/0340-1/
観光地などで居を構えるということになればむしろ国内で田舎の施設に入れるよりも魅力的で、海外旅行がてら家族一同で老親に会いに来るといったこともあるかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2013年10月11日 (金) 12時03分

富裕層はよりよい医療を受ける権利があると思います。格差をつけるためには混合診療の解禁でしょうね。
一方で生保にはより厳しい医療制限を設けるべきで、特に高齢者に高額医療を実施請求する場合は、医師の意見書を書かせて、審査をパスしなければ、保険請求不可というシステムにしてもいいのではないか。
交通・生活インフラが乏しく生活が不便な今の田舎に高齢者を強制移住させようというのは?都会に住むか田舎に住むかは当人の意思が尊重されるべきで、国家権力によってある場所に強制配置しようというのはナチズムと同じ考え方ですね。ファシズムのような危険な徴候を感じます。

投稿: 逃散前科者 | 2013年10月11日 (金) 14時05分

都会の老人を地方で面倒みさせるのがありなら日本の老人を外国で面倒見させるのもありという理屈かな?
日本のような皆保険でなく年金も日本が支給するのであれば相手国の負担は案外少ないのかもですな
まずは海外で老人ホームなりと建設して募集をかけてみれば需要の有無が判るのではないかと

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年10月11日 (金) 15時08分

フィリピンで建設された老人ホームに入って、でもホームの経営が傾いて、スタッフもいなくなり建物が壊れても補修されず、状況が悪いので新規入居者も集められず、ろくに世話も受けられず日本に帰ることもできずって事例をTVで紹介してましたけど、何が悪かったのかはよくわからんかった
超高齢者連れたリタイア夫婦がフィリピンでメイド3~4人雇って超高齢者の世話してもらってる事例も紹介してて、そっちはとりあえず幸せそうだった

投稿: | 2013年10月22日 (火) 13時35分

何が悪かったかと言えば金があったかどうかなんでしょうねえ…

投稿: てんてん | 2013年10月22日 (火) 14時25分

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