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2013年10月21日 (月)

高齢者事故に見る社会的影響

技術的進歩もあってか交通事故の死者数は減少傾向ですけれども、先日こういう死亡事故があったという報道がありました。

2時間半、事故現場に放置され女性死亡 救急気付かず夫が発見(2013年10月17日産経新聞)

 16日夜に島根県益田市の国道交差点で起きた多重事故で負傷した女性が、救急隊員に気付かれないまま事故現場に約2時間半、放置され、その後死亡したことが分かった。益田署が17日、明らかにした。

 益田署によると、事故は16日午後8時50分ごろ、益田市遠田町の交差点で発生し、車5台が巻き込まれた。益田広域消防本部の救急隊員が駆け付けて軽傷者ら2人を搬送したが、軽乗用車の後部座席に倒れていた益田市遠田町、無職田原良子さん(74)に気付かず、そのまま現場を離れたという。

 事故の約2時間半後、捜しに来た夫らが田原さんを発見。病院に運んだが、17日午前0時半ごろ死亡が確認された。

 益田広域消防本部によると、田原さんが倒れていたのは後部座席の足元で、声なども出していなかったため隊員が気付かなかった。同乗の無職女性も事故のショックで受け応えができない状態だったといい、「検索に怠りがあったことは否めない。十分に検証したい」としている。

 事故は、田原さんが乗っていた車が信号待ちで停止中に、後ろから佐賀県武雄市の運転手のトラックが衝突。前方の車や対向車が巻き込まれた。

不幸にして亡くなられた方がどの程度の状態であったのか判らないため救命可能性については何とも言えませんけれども、最近の車は後席プライバシーガラスが常備ですからこうした事故も起こりえるということなのでしょうか、もはや「赤ちゃん乗ってます」ではなく「お年寄り乗ってます」の表示も必要なのか?と思わされるニュースですね。
多重衝突事故の中で発見された同乗者は軽症であったと言うことですからつい気が急いたのだろう心情も理解出来るとは言え、こうした事故は起こりえることですからもちろん検証し教訓とすることが重要なのですが、特に幼児など発見の難しいケースにどこまで現場で捜索時間を費やすべきなのか、救急搬送時間短縮という命題とも合わせて考えるとなかなかに判断の難しい問題ではあると思います。
判断が難しいと言えばこの場合後日係争化した場合にどうなるのかということも気になるのですが、基本的に民事の大原則である「取りやすいところから取る」で消防隊がターゲットになるだろうと予想されるとは言え、軽症であったにも関わらず後席に被害者が乗っていることを伝えなかった同乗者に対しても責任追及の余地があるとは言えるのでしょうね。
もちろんそれをしたからと言って誰が幸せになるわけでもないと言う点で何ともやるせない話ですけれども、同じく高齢者の絡んだ事故でこれまた司法の判断が降った責任追及の矛先が何ともやるせなく誰の得にもならなさそうだと静かな反響を呼んでいます。

特集ワイド:認知症事故と損害賠償 介護現場に衝撃の判決(2013年10月16日毎日新聞)

 ◇認知症老人が列車にはねられ死亡→地裁が遺族に720万円支払い命令
 ◇「行動を一瞬も目を離さず監視することなど不可能」…遺族から怒りの声

 「ある判決」が介護の現場に衝撃を広げている。91歳(当時)の認知症の男性が線路内に入り、列車にはねられて死亡した事故。裁判所は遺族に対し「注意義務を怠った」として、鉄道会社に720万円を支払うよう命じた。認知症の老人は閉じ込めておけというのか−−介護関係者からはそんな怒りの声すら聞こえてくる。【浦松丈二】

 JR東海から遺族が突然、手紙を受け取ったのは事故から半年後だった。<平成19年(2007年)12月7日に東海道線共和駅内(愛知県大府市)に人が入り、快速列車に衝撃し列車が遅れるという事故が発生しました。本件により弊社に別紙の通り損害が発生しております>。列車遅延による損害賠償の協議申し入れだった。
 別紙には「損害額一覧表」として、事故に対応した職員の人件費、他社に振り替えた運賃、払戻金など720万円の内訳21項目が列挙されていた。受け取った横浜市在住の長男(63)は「正直、驚きました」と振り返る。
 事故当時、男性は要介護4。介護なしでは日常生活が困難だったため、85歳(当時)の妻と、介護のために横浜市から近所に移り住んだ長男の妻が世話していた。男性が自宅を出たのは長男の妻が玄関を片付けに行き、そばにいた妻がまどろんだ一瞬のことだった。
 「手紙が届いた後、JRの要請で、かかりつけ医師の診断書と『認知症があり線路上に出たと考えられる』と認定した警察の死体検案書を送りました。重い認知症だった父に責任能力がないことはJRも分かってくれると思っていた。ところが、専門医の診断書ではないから疑いがあるなどと言ってきた」と長男。事故から1年後、JRから内容証明郵便で正式な賠償請求が届き、その後、裁判所を通じて不動産の仮差し押さえを申し立ててきた。こうした対応に「父の墓前に線香の一本でも上げてくれていたら……父をはねて殺しておいて」と怒りがこみ上げてきた。

 JRはどのような基準で列車事故の損害賠償を請求しているのか。JR東海広報部は「責任の所在や事実関係を十分に調査の上、原因となった方や遺族に、車両の修理実費、特急料金の払い戻し、他社への振り替え輸送の費用や人件費の増加分など、明確に因果関係が説明できるものだけ請求しています」と回答する。
 しかし、JRは「要介護認定4であっても病状を示すものではない」などと、責任能力があったと主張して提訴した。JR東海広報部は「損害の処理について繰り返し遺族の方に協議を申し入れたものの、残念ながら理解いただけず、熟慮を重ねた結果、裁判所の公平公正な判断に委ねることとした」とコメントする。
 提訴から3年半。名古屋地裁(上田哲裁判長)が今年8月に出した判決は、男性の認知症は重く、事故当時の責任能力はなかったとJRの主張を退けた。ところが、その一方で、介護していた妻に「まどろんで目をつむり、夫から目を離していた」と過失による賠償責任を認めた。長男については「法定監督義務者や代理監督者に準ずる」と位置付け、民間施設やホームヘルパーを利用しなかったと指摘して賠償を命じた。
 長男は「父親は住み慣れた自宅で生き生きと暮らしていた。行動を一瞬も目を離さずに監視することなど不可能。こんな判決が確定したら、子どもが親の面倒を見られなくなる。介護を頑張った者ほど責任が重くなるのは理不尽です」と訴える。遺族は高裁に控訴。今でも父親を在宅で介護して良かったと思っている。
 認知症の人と家族の会(本部・京都市)の高見国生代表理事は「こんな判決を出されたら家族はたまったものではない。認知症の人はどこかに行きたい、ここを出たいと思い立ったら必死に出て行く。家族がどれほど注意していても徘徊(はいかい)は起きてしまう。家族の責任を問うべきではない。何らかの公的補償制度を検討すべきです」と訴える。

 そもそも事故は防げなかったのか。現場の共和駅。駅員は日中2人、早朝と深夜は1人だ。高さ1・1メートルのホームの先端から線路に下りる階段があった。判決後、階段の柵は施錠されているが、事故当時は施錠されておらず、簡単に線路に下りられた
 遺族代理人の畑井研吾弁護士は「男性の自宅周辺には踏切など線路に入る場所はなく、柵を乗り越えて線路に入る体力もなかった。男性は現金を持っていなかったため、自宅前の大府駅の改札をすり抜けて列車に乗り、隣の共和駅で降り、ホーム先端の階段から線路に下りたとしか考えられない」と話す。この場合、駅員に遭遇するのは大府駅の改札1カ所だけだ。
 大府駅改札で駅員に勤務態勢を尋ねた。「たまたま今は2人ですが、通常1人です。もうかつかつですよ」と苦笑した。改札は自動だが、切符売り場が併設され、駅員は横目で改札を監視しながら切符を売っていた。これでは人がすり抜けないか常に監視することは不可能だろう。大府駅と共和駅のホームには監視カメラが設置されていたが、駅員は常駐していなかった。
 判決は男性がどのように事故現場の線路に入ったかは「不明」として判断を避ける。JR東海広報部は事故後の原因調査について「名古屋高裁に係属中であり、コメントは差し控えさせていただきます」としている。原因不明では再発防止策もおぼつかない。事故から9カ月後には、大府駅の隣の逢妻駅(愛知県刈谷市)でも認知症の女性(当時83歳)が列車にはねられて死亡した。
 大府駅前の商店主(72)は介護される男性の姿をよく覚えていた。「よく若嫁さん(長男の妻)がおじいちゃんとおばあちゃんの手を引いて、ゆっくりゆっくり散歩していました。私も認知症になったら住み慣れた家で子どもたちに面倒をみてもらいたい。そう思わせてくれた人が事故で亡くなって本当に残念です」
 認知症はひとごとではない。厚生労働省研究班(代表者・朝田隆筑波大教授)の調査によると、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推計15%で、昨年時点で約462万人に上る。認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も推計400万人。65歳以上の4人に1人が認知症とその予備軍なのだ。社会全体が自らの将来として認知症とその介護を考える時期を迎えている。

半ば都市伝説のように語られてきた「列車に飛び込んで自殺したら遺族に巨額賠償金請求が来る」という話も実は嘘ではなかったのかと思わされる話なんですが、記事にもあるとおり司法判断としてはこういう考え方になるのかも知れませんけれども、実社会への影響ということを考えると何ともやりきれない話ですよね。
若年者の自殺で後日損害賠償が来たといったケースも家族にとってはダブルショックですが、こうした高齢者の場合もう少し複雑な問題があって、例えば遺族に巨額の賠償請求が来た場合に一般的には相続放棄という形で負債を受け継がないという選択枝がありますけれども、認知症であっても高齢者の場合土地や家屋などの名義人になっているケースが非常に多いですよね。
昨今では高齢者の死蔵している資産をもっと社会に灌流させようという考えから生前贈与ということももっと活発に行われていいんじゃないかとも言われていますけれども、大多数の庶民は死亡時に一切合切の資産を精算し相続するという形を取っているはずですから、下手をすると認知症老人が一人死んだで終わらず家族も家を失い路頭に迷うということにもなりかねません。
そしてもちろんこうした司法判断が出るほど「ちょっとでも危ない高齢者はとにかく閉じ込めておけ」という考え方が社会的には正しいのだと言うことにつながりかねず、昨今話題になる事の多い「健康寿命を長くして高齢者社会保障費を圧縮する」という考え方とは全く真逆のことにもなってしまうでしょう。

損害賠償ということから考えるとこの場合JR側を「線路への侵入が容易に果たせる状況を放置した責任がある」と逆告訴すれば相応に勝てる可能性はありそうですし、その結果賠償金額を相殺できる程度のものを取り返せる可能性もありそうに思うのですが、結果としてまさに誰得?と言いたくなるような泥仕合にしかなりません。
本来的には記事にもあるように個人で負担するのは大きすぎる金額なのですから会社側が保険で処理すべきだと思うのですが、そのコストを利用者である乗客に運賃という形で負担してもらうとしてどのような理屈付けをするのかが問題で、例えば代替交通手段の提供などは利用者利益になるとは言え基本的に列車が止まって一方的に被害を受ける側であるのに、この上乗客が事故処理コストまで負担するのかと言われるでしょう。
ただ統計的に見ると鉄道での人身事故はほぼ年1件のペースで発生していて、損害賠償金額は遅延等事故処理の影響を受けた人数にもよりますが数百万円といった単位が多いようですから、自動車の保険料などから考えると鉄道会社の収益規模からするとほとんど無視出来る程度の保険料に収まるのではないかという気はしますがどうでしょうか?
ともかくも鉄道会社を悪者にしてすむという話でもないだけに、社会に当たり前に存在しているリスクを誰がどのように負担していくべきなのか、それにどの程度妥当性を見いだせるのかということを考える上でも貴重な症例になったという気がします。

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コメント

自動車事故だったら普通に運転手の方が訴えられると思うんですが鉄道事故だと逆になるんですね。
線路部分は他人の持ち物だから勝手に立ち入った方が悪いってことなんでしょうか?
でも損害賠償は億単位だって聞いてたので意外と普通の金額でちょっとほっとしました。

投稿: ぽん太 | 2013年10月21日 (月) 08時28分

遺族は責任能力を持ち出していますが、責任能力は刑事事件に関わる物であって、民事の場合は責任能力があろうがなかろうが何らかの形で本人かその関係者が賠償義務を負うことになるような気がします。
個人的にはたとえ泥仕合になっても、駅設備の瑕疵を訴えた方がいいんじゃないかと思います。

投稿: クマ | 2013年10月21日 (月) 09時00分

最初の話題の、車内で見つけてもらえなかった女性のケースは、シートベルトを装着していたのか否かを知りたいと思いました。
シートベルトを装着していても座席の足下に投げ出されることがあるのか、シートベルトをしていなかったからそうなったのか。
報道機関には、こういう交通事故のニュースではシートベルトや(小児が関わっている場合には)チャイルドシート等を装着していたか否かの情報を付記することを望みます。

次の認知症高齢者の事故は、自分は被害者になる可能性も加害者になる可能性も考えられるので、さてどんな制度設計がよいものやら。
しばらく考えてみます。

投稿: JSJ | 2013年10月21日 (月) 09時21分

今回のように事故発生の際、車内で見つけてもらえず、結果として死亡した場合(要するに事故発生時に救助されていれば助かった蓋然性が高い場合)、事故の発端者(事故原因で一番責任が重い人)の責任範疇はどうなんでしょう。やはり業務上過失致死になるんでしょうか。
それとも、適切な救助がなされていれば助かった蓋然性が高いのだから、そこまで責任を問えないということで、業務上過失傷害にとどまるのでしょうか。道交法上での処罰(いわゆる免許の減点制度ですね)も含めて、どうなるのか知りたいものです。

投稿: | 2013年10月21日 (月) 11時03分

>適切な救助がなされていれば助かった蓋然性が高いのだから、そこまで責任を問えないということで、業務上過失傷害にとどまるのでしょうか。

なかなかに微妙な問題なのですが、運転手が責任を問われる場合には仮に過失致死容疑であってもある程度事情を考慮され求刑に軽減があるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年10月21日 (月) 11時55分

>鉄道での人身事故はほぼ年1件のペースで発生していて

この表は乗客に対して発生し、鉄道会社に責任が認められた事故の件数のように思います。
非乗客の事故の件数ならこんな少ないことはないでしょう。

ところで以前から気になっていたことですが、要介護度認定の地域差です。
私の住んでいる地域では、完全に寝たきりで意思の疎通も全くできない。
栄養は胃瘻に依存している人に要介護度4がつくことが結構あります。

この事件のご老人。歩けていたのに要介護度4ということに大変驚いています。
もっとも歩けるからこそ介護が大変ということもありますけど。

投稿: 嫌われクン | 2013年10月21日 (月) 12時06分

>繰り返し遺族の方に協議を申し入れたものの、残念ながら理解いただけず、

この文章。ちょっとわかりにくいですが、JR東海としては協議に応じてくれていれば
少々おまけして示談していたのだけれど、一切話し合いを行ってくれなかったという
ニュアンスではないでしょうか。

マスコミ特有の片方に肩入れするための省略が行われていた結果、出来上がった文章のように思います。

また請求額が満額が認められていたということは遺族は裁判も
無視していたんじゃないでしょうか。

投稿: 嫌われクン | 2013年10月21日 (月) 12時24分

民事は争わなければ相手の主張が全面的に認められますからな
もちろんこのご遺族も個人としては善良な良い人なのでしょうが

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年10月21日 (月) 16時12分

嫌われクンさまへ
もし裁判を無視していたら、「責任能力があった」とするJR東海側の主張が認められた判決が出ます。
今回はそのような判決ではないので、裁判を無視したわけではなくきちんと裁判で争われたのではないかと思います。

投稿: クマ | 2013年10月21日 (月) 17時43分

>介護していた妻に「・・・」と過失による賠償責任を認めた。

とありますけど、東海が奥さんに対する賠償責任を主張してなかったら
それを認めるって事あるんでしょうか?
言い換えれば、結局は東海の主張が認められたわけじゃないんでしょうか。


もっとも「遺族は高裁に控訴」とありますから普通に争ってたのかなぁ。

投稿: 嫌われクン | 2013年10月21日 (月) 21時37分

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