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2013年10月28日 (月)

枝葉の問題ではない皆保険制度の本質的な危機

いささか個人的な話しですけれども、最近利き腕の指を痛めまして少しばかり不自由な状態が続いていまして、ためしに口述筆記を併用してみたりしているのですが、おかしなところがありましたらご容赦下さいませ。
さて、アメリカでは医療制度改革、いわゆるオバマケアの問題が未だに続く大きな議論になっていますけれども、先日こんな記事が出ていましたのをご存じでしょうか?

米下院共和党、 オバマケアの保険未加入者への罰金導入延期を主張(2013年10月24日ロイター)

[ワシントン 23日 ロイター] - 米下院共和党指導部は23日、 米医療保険改革法(オバマケア)の下で保険加入を怠った場合に科される罰金について、導入を遅らせることにコミットしていると表明した。

オバマケアの核心であるオンライン保険購入システムで不具合が発生しているが、共和党のカンター下院院内総務は記者団に対し、保険加入を怠った場合に来年から罰金を科す条項について、少なくともオンライン保険購入システムをめぐる問題が解決するまで導入しないよう働きかけると述べた。

同院内総務は「多くの疑問が残され、多くの問題が発生しているなかで罰金を導入することにまったく意味はない」と述べた。

政府は今月1日、オンライン保険取引所(エクスチェンジ)の運営を50州で開始。ただ同システムでは不具合が発生しており、共和党指導部は不具合をめぐる情報開示が十分でないと主張している。

共和党のベイナー下院議長は、共和党は監視権限を利用し、オンライン保険取引所の不具合に関して公聴会を開くこともできると指摘。オバマケア導入にあたり企業が社員向けの医療保険を廃止しているとの報告が出ているが、こうした問題も公聴会を通して検証できると述べた。

もちろんオンラインでの不具合云々は言い訳で、実際には共和党はオバマケアの概念そのものに反対していることは言うまでもありませんけれども、ここで注目いただきたいのは皆保険制度という国民の利益のために導入されるはずの制度に未加入に対する罰金という不穏な表現が出てくることです。
ご存じのとおり国民皆保険制度のような保険のシステムというものはいわば国民すべてが小さなデメリットとには目をつぶって支えることによって成立するものであって、例えば今現在医療を必要とする有病者ばかりが加入を望むということにでもなればたちまち出費ばかりがかさんで保険財政が破綻してしまうことは言うまでもありませんよね。
その意味で「自分は病気になどならないし医療を利用することもないのに、高い保険料ばかり負担させられるのは不公平だ」と考える人も多いかも知れませんが、そうした不利益を甘受し制度を支える多数の方々が存在しなければ皆保険制度などというものは機能しないという、本質的な矛盾を抱えている制度だとも言えるでしょう。
そうなると介護保険制度とは国民にとって重要な権利であると同時に、国民にとって大きな負担となる義務であるという考え方もできると思いますが、このことを端的に示していると思うのが先日出ていましたこちらのニュースです。

年金支給日差し押さえ70件 国保料滞納に充当、島根(2013年10月24日日本経済新聞)

 島根県内の市町村が2011年度、国民健康保険料の滞納者に対し、年金口座の預貯金を差し押さえた81件のうち、年金支給日当日に差し押さえをしたケースが70件に上っていたことが24日、県の調査で分かった。

 国民年金法は、年金の差し押さえを禁止しているが、県は「年金が預金口座に振り込まれ、一般財産となった場合は差し押さえが可能とした最高裁判例に基づいた対応」と説明、問題がないとの見解を示している。

 厚生労働省は「差し押さえ実態を調査した例は把握していない」としている。

 県は全19市町村を対象に11年度の実態を調査。このうち11市町で、預貯金口座に振り込まれた年金を差し押さえたケースが計81件あり、このうち年金支給日に差し押さえたものが70件あった。

 市町から県への報告によると、年金の差し押さえは健康保険料の滞納分を分割で支払うと約束しながら、実際に支払わなかったり、連絡が取れなくなったりした住民に限った措置という。〔共同〕

あらためて皆保険は義務か権利か?という疑問が提起された形なんですけれども、現実的に低所得で保険料も支払うような余裕がない、なおかつ様々な事情から医療の給付を受ける予定もないという方々にとっては健康保険も純粋な持ち出しにしか過ぎず、強制的に取り上げられることには納得がいかないという考え方はあるでしょう。
中には「どうせ病気になったところで病院にかかる金などない。それなら乏しい年金収入は少しでも生活費の足しにして、いざその時が来たら世間の厄介にならずにさっさといこう」などと考えていたご老人もいたかも知れませんが、この強制徴収によってそうした考えは強制的に修正を余儀なくされたということになるのでしょうね。
年金や保険料未納といった問題が大きくなっていなかった一昔前までは国民年金と国民健康保険は役所がセットで扱っていたものでしたが、その後は社会保険庁が年金を扱うようになったせいか両者をセットでという感覚が薄れたようで、中には年金だけあるいは保険料だけを納付しているという人もいるようです(強制的にこうしたコストを支払っているサラリーマンには面白くない話しでもありますが)。
もちろん本来ならこうした制度は利用者利益のために存在するという建前になっている社会的サービスであって、あくまでも利用することは権利であり利用しなければ損となる建前なのですが、例の年金疑惑などが社会問題化してからというもの年金の先行きに不安を感じ未納率が高まった、その結果制度そのものが破綻を懸念されるようになり不安を裏付けたという経緯もありましたね。
冒頭の記事を見るとアメリカにおける皆保険制度がちょうどそうした状況にあるように感じられますが、制度が理想的に機能すれば全体としてはデメリットにもメリットの方が大きいという計算が成り立ったとしてもそれは統計的な話で、個々人にとってみればデメリットばかりでメリットがない人も確かにいる、そしてそのことに気づいた人々が制度を離脱してしまえば制度そのものが崩壊してしまうという怖さを改めて感じます。

日本の医療制度は国際的にも安上がりで済んでいる成功した医療モデルということになっていますが、諸外国に比べると「聖職者さながらの自己犠牲」などと言われてしまうような医療スタッフの過剰なまでの努力はその背景にあるという、これも冷静に考えると損得勘定はかなり難しいシステムでもあります。
昨今社会的にも問題視されている医療崩壊という現象も、現場スタッフが「あれ?俺たちのやってることって何かおかしくね?」といわば醒めてしまったのがその原因だと言えそうですが、長く続く不景気の時代にあっても雇用先には不自由しないという安定感等々のメリットはそうしたデメリットを甘受させるには当事者的にいささか不十分であったということでしょうか。
ひとたびこういう醒めた人々が一定割合以上に増えてしまうと、制度の持つ「何かよくわからないけども加わっておいた方が得そうだよね」というある種の幻想が崩壊してしまい制度の前提が揺らぐ、そして益々制度に対する疑問をいだきはじめる人とが増えるという悪循環に陥ってしまいますが、それを避けるには目に見える形での制度の改革、それも不公平感を是正するような方向での改革が象徴的に求められるし、それはマスコミのいう「弱者いじめ」などとは真逆で制度に依存しなければならない弱者にとってこそ最も必要な制度持続のための改革であるということです。
年金制度改革は結局よくわからないままに中途半端なものとなってしまったようで、年金保険料の納付率が一向に上向かないのも制度的不信をあらわしているのだと思いますが、今現在は皆保険制度がそうした不信の目にさらされ根本が揺らぎつつあるということを認識した上で、次回は診療報酬上げだ、いや横ばいだといった毎度毎度の枝葉ではない対策がそろそろ必要になると思いますね。

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コメント

「年金が預金口座に振り込まれ、一般財産となった場合は差し押さえが可能」ておもしろい理屈だな。これ応用したら未納取り立ても楽になるんじゃない?そもそも年金差し押さえが許されないって理屈もさっぱりわからないけどね。

投稿: 駒田 | 2013年10月28日 (月) 08時45分

保険っていざというときのために普段から備えておくものですから何もなかったら無駄金でしょ。
それでも保険料払っておかないといざというとき保険で助けてもらえないからしかたなく払うだけでしょ。
でも日本の健康保険じゃ保険料払ってなくても事後払いで通ってしまうから無駄金払い続ける意味ないですね。
契約社会のアメリカじゃそのあたりどういうことになってるんでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2013年10月28日 (月) 08時51分

ぽん太さまへ
>日本の健康保険じゃ保険料払ってなくても事後払いで通ってしまう
日本の健康保険制度が特殊を通り越して異常と言える部分です。他にそのような例は聞いたことがありません。
もし存在したとしても、保険という体裁ではないと思われます。

投稿: クマ | 2013年10月28日 (月) 09時48分

年金などもそうですが、最近この種の社会保障のコスト負担は払わない方がいい、払ったら損という感覚が蔓延してきているのが気になりますが、保険という名称からすると損なら払わない自由があると考えますよね。
今年金の掛け金にも遅延加算をだとか徴収の強制化が進んできていますが、そこまで強制的なものとするなら徴収コスト削減の意味でも保険という紛らわしい名称を改め税金化した方がいいのではと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年10月28日 (月) 11時10分

日本じゃさぼった人間ほど得するのは小学校の掃除でさんざん学んだだろうにw

投稿: aaa | 2013年10月28日 (月) 12時04分

オバマケアは民間への保険加入を義務づけるものであって、日本のような国民皆保険制度ではありません。
すなわち、国民皆民間保険制度です。
これじゃ保険会社を儲けさせるだけですが、オバマ大統領選挙の時の報償といわれています。
アメリカは本当に終わっていると思いますが、TPPでアメリカを追いかけている安倍政権では笑うことはできません。

投稿: | 2013年10月28日 (月) 17時16分

結局、全ての社会福祉は強者への搾取なしに成り立たない(費用対効果が極端に低い保険は、民間では淘汰される。金持ちが100万の保険料を搾取されて期待値が10万なら、アホらしくなって脱退しますよね)。

筆者は弱者弱者というが、じゃあどこまで弱者様に献上すればいいのか。働いたら負けだよなジャップ国は

もう北朝鮮に朝貢して官僚社会主義国の弟にしてもらうべき。バカ貧民も中流や上流のまともな勤労者を憎んでいるのだから、納得するに違いない!

投稿: | 2013年11月 2日 (土) 20時19分

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