« 意外に身近な場所に人生転落に至る落とし穴が? | トップページ | 閑話休題:押し売りまがい商法にひっかからないためには? »

2013年9月11日 (水)

「変わらなきゃ」から「いつやるか?今でしょ」へ

TPPへの参加に対して最後まで徹底反対を主張していたのが日医と農協であることは知られていますが、いずれにしても日本の医療にしろ農業にしろ長年のやり方が行き詰まって来ており抜本的な改革が求められていると言われながら惰性のようにそのまま続いてしまっている産業の代表格ではあるわけです。
医療のことはさておくとして農業に関して言えば、全国的に就農者の世代交代がままならない状況の中で今後一気に耕作放棄が広がる懸念があると言われているようですから、TPP云々どころではなく一体この国の農業をどうしていくのかというビジョンをまず示さなければならないタイムリミットがあるはずですよね。
先日日経ビジネスに数百ヘクタール規模の大規模農業をやっている農場(と言うよりも営農企業と言うべきでしょうか)の話が出ていたのですが、興味深いのは今の時代こうした大規模農場に「耕作放棄された農地を引き受けてくれ」と言う依頼が相次いでいると言う状況だという話です。

「兼業が日本を支えている」と強弁する罪 農業崩壊に正面から立ち向かうガリバー経営(2013年8月23日日経ビジネス)

(略)
 サカタニ農産と柏染谷農場の歩みはいくつかのことを示唆している。まず経営者の努力と情熱次第で、日本でも数100ヘクタールの巨大経営が実現し、放棄地を再生させることもできるということだ。中規模な専業農家も含め、加速度的に引退していくことを考えれば、時代の風は彼らに有利に吹いていると言える。

政権交代でも変わらないバラマキ政策

 一方で、作り手がいなくなり、放出される農地が彼らの手からこぼれ落ちる恐れも否定できない。1社で引き受けることのできる面積には限りがあるからだ。染谷は「農業者の数が絶対に足りなくなる」と話す。もしそうなれば、日本の農地は放棄地だらけになる。

 それを食い止めることができるかどうかは、大規模経営を可能にする先進的な農業者をどれだけ増やせるかにかかってくる。これからの農政の役割は、そうした経営者の後押しにまず重点をおくべきなのは言うまでもない。

 兼業が悪だというつもりはない。細々とでも農業を続けながら、勤めに出ることも可能になったことは、都市と地方の格差を縮め、地域社会の崩壊を防ぐうえで意義はあった。だが世代交代が進まず、平均年齢が70歳に迫ろうとする農業の実態は、もはや兼業に未来を託すことができないことを示している。

 その意味で「兼業が日本のコメを支えている」と強弁し、すべてのコメ農家に補助金をばらまいた民主党の罪は重い。奥村は「票をカネで買った」と批判する。だが政権を奪還した自民党も、戸別所得補償から経営所得安定対策に名前を変え、同じ政策を続けている。

 自民党は農業の競争力強化もうたってはいる。だが二兎を追う政策のままで、迫り来るピンチをチャンスに変えることはできるだろうか。今後の農政の成否はこの一点にかかっている。(文中敬称略)

長年の農業政策とそれを受けての営農の状況を見ていていつも思うのですが、日本の農業は一体何を目指すのか?と言う長期的なビジョンが全く示されず、それが質なのか価格なのか、自給率向上あるいは国土保全なのかもはっきりしないまま「まあどれもみんなで頑張って改善しましょうよ」とお茶を濁されているという印象が強いということです。
別にそれによって少しずつでも改善が各方面で進んでいるというのであればいいのでしょうが、実際には農家の高齢化がどんどん進み離農者も続出し耕作放棄地が広がっている、一方でやる気のある農家への農地集約も一向に進まず農業で食っていける状況にないというのではまさに虻蜂取らずと言うもので、失礼ながらいっそTPPなり何なりで全部御破算にしてやり直した方が早いんじゃないか?と言う気がしないでもありません。
他方で医療はどうかと言えば、日医などが未だに病院経営への株式会社参加反対などと言っていますけれども、今時経営のことをうるさく言われない医療機関など存在しないどころか、社会的にも「それはどうなのよ?」と言われてしまうような金儲けの手段を各現場が講じて生き残りを図っている事実を無視して「医療は営利であってはならない」などとよく言えたものだと思いますね。
その日医がこれまた長年主張を続け、今度のTPPでぶち壊されるかも知れないと懸念しているのが混合診療解禁の問題ですけれども、先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

混合医療全面解禁への懸念?経営難の病院、診療報酬増狙い保険外薬使用増やす可能性も(2013年8月23日ビジネスジャーナル)

 8月15日--新聞紙面の多くは、閣僚の靖国神社参拝や終戦記念日に関する記事に割かれていた。そんな中、産経新聞の一面に『米、混合診療求めず 株式会社参入も』というTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に関する記事がひっそりと、しかし存在感をもって掲載されていた。
 内容は、「米国型の市場原理は日本の医療の世界にはそぐわない」と、TPP参加絶対反対を掲げる日本医師会や、遅ればせながらTPP交渉に懸念を示し始めた日本薬剤師会を一時的でさえも喜ばせるものだった。

 記事の具体的内容は、

・日米2国間協議で、保険診療と保険外診療の併用を認める「混合診療の全面解禁」について議論の対象としない
株式会社の病院経営参入解禁も求めない

という内容で、日本医師会と日本薬剤師会は、「日本が世界に誇る国民皆保険制度の崩壊につながるという」という理由で、「混合診療の全面解禁」「株式会社の病院経営参入解禁」に反対している。
 だが、そもそも混合診療はすでに一部で解禁されており、今でも十分患者にかかる負担は大きい。がんや難病など、未承認薬を多く使用しなくてはいけない(または希望する)患者以外に、混合診療の大幅な拡充を求める理由はないはずだ。

 例えば、30代で胸に持病のあるAさん(独身/自由業)の場合、保険が適用される薬と併用して、非適用の薬も服用しなくてはいけない。月に2回の診察で1回で14日分の薬をもらう。診察代金は再診料と投薬料で590円、帰りに調剤薬局で安価なジェネリック薬の購入金が1280円。その他、保険外金額(10割負担)の薬が2800円。合計すると、ひと月で9340円かかる計算だ。年間で11万2080円。確定申告時に医療控除がなされるとしても、バカにならない金額だ。
「この1年で、薬代と診療代で月200円ほど上がった気がする」と語るAさんの通うクリニックは、都内でも有数の高級住宅地にある。しかし、そんなクリニックですら、
診療代金を節約したいので、月に一度の診療にしてもらえませんか。できれば、薬は一度にひと月分出してほしい」
 と、掛け合っている患者さんの姿を見ることが増えたという。

 都内は、開業医で溢れているが、
患者さんは争奪戦に近いですし、診療報酬が低くて、経営はギリギリです。医師が大儲けするのはいかがなものかとは思いますが、まったく金儲けするなという風潮に疑問を感じざるを得ない
 と、打ち明ける開業医は決して少数ではない。こうした状況で混合医療を全面解禁すれば、保険外の薬を積極的に処置し、検査の数を増やして診療報酬を増やすなどする医師が増える可能性は否定できない。
 仮に今回全面解禁が見送られたとしても、解禁を求める医師が日本国内でも少なからずいる以上、いずれこの問題は再燃するだろう。
「自分は治療だけに専念したい、経営は経営のプロに任せたい。そして、自分の腕に見合った年俸を手にしたい」
 という考えを持つ医師も今後は出てくるはずだ。そうなると、株式会社の病院経営参入問題も再び顕在化する。
(略)米国で最もロビー活動が盛んなのは、医薬品企業と保険会社だ。いずれも多国籍企業で、多額の献金を行っている。保険会社と医療機関の問題はまた別の機会に書くとして、巨大な医薬品企業が、虎視眈々と日本という市場を狙っているのは周知の事実であり、こうした企業が日本国内市場でのパイ拡大を狙い、混合診療全面解禁の圧力を強めてくる可能性もある。
 以前、筆者のインタビューで「TPP交渉は日米の2国間ではなく、日本vs.多国籍企業だ」と語った医師会会長の言葉が耳に残る。(文=横田由美子/ジャーナリスト)

注意していただきたいのは混合診療を認めようが認めまいが日本の現行の診療システムが続く限り、各医療機関は経営を続けるためには「薬を積極的に処置し、検査の数を増やして診療報酬を増や」さざるを得ないという事実が厳然としてあるということです。
先日の厚労省の医療施設調査で病院が減った一方で診療所が初めて10万施設を越えたことが報じられていましたが、特に診療所のように経営基盤が脆弱な場合どうしても日々着実に金を稼がなくては生きていけませんし、医療は営利ではないなどと綺麗事を言ってばかりな方々はすでに経営破綻し退場されていると見るべきでしょう。
そもそも日本の医療制度はどんどん検査も処置も行い薬も出さなければ儲けが出ない出来高払い制度を取っている一方で、医療費抑制のために出来高算定を切り下げてきたものですから薄利多売をしなければ食っていけないがしたところでさして儲からない、しかもその結果医療現場の労働量は増加する一方で一生馬車馬の如く働き続けない限りすぐに赤字になってしまうというおかしな状況にあるわけです。
日医が本気で医療においては一切の営利をやめろと言うのなら、例えばイギリス式のかかりつけ患者一人頭幾らといったやり方のような代替案を提示するというならまだしも、保険診療の大枠を変えることには一切反対というのですから意味がわかりませんけれども、ともかくも現場の医師にしろ患者にしろ「日医方式」がベストであるとは考えていないということはそろそろ認めてもらわないことには仕方ないですよね。
そんな中で日医からは徹底して目の敵にされているのが混合診療問題ですけれども、今のところ日本では先進医療に限って認めるという限定的なやり方を行っているところなのですが、先日興味深い医療技術が先進認定されたというニュースが出ていました。

造影剤腎症発症防止の医療技術を先進Bに(2013年9月6日CBニュース)

 厚生労働省の先進医療会議は6日、横浜栄共済病院が申請した、腎機能障害を伴う患者に対する造影剤腎症を防止するための医療技術を、先進医療Bとして了承した。尿の重量を測定し、同量の輸液を投与する医療機器を用いることで、造影剤を早く体外に排出し、造影剤腎症の発症を50%程度抑制できると期待されている。

 この技術は、冠動脈形成術、末梢動脈形成術などのカテーテル治療を受ける中等度、高度の腎機能障害を抱える造影剤使用患者が対象。これらの患者に、薬事未承認の尿量計測機能付き輸液ポンプ「リーナルガード」(PLCメディカルシステムズ)を使って造影剤腎症を防止するものだ。

 医療現場では、腎機能障害患者に造影剤を投与すると、急性増悪を起こして人工透析につながりかねないという懸念がある。心臓カテーテル治療の際、狭窄の状況や処置の仕上がりを見たくても、造影剤の投与を躊躇することも少なくないという。

 同会議の委員からは、「先進的な医療機器ではない」と指摘する声が上がる一方、「医療従事者が目視で尿量を横目でにらみ、輸液を調節するのは負担が掛かる」との反論もあった。下部組織で事前評価した山本晴子委員(国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター 先進医療・治験推進部長)も、「この医療機器の革新性を評価するというより、社会的、経済的な影響を前向きに検討していくべき」と述べた。
(略)

現状でもすでに混合診療が行われていると言う先の記事ですが、その混合診療と言うものの実態がこの先進医療であることは言うまでもなく、要するにまだ保険収載は出来ないけれども使ってもいいよという最先端の医療に関してはとりあえず自費でやっておいてもらおうという考え方ですよね。
その先進医療に認定することへの「先進的な医療機器ではない」と言うそのものズバリな反対論が非常に興味深いと思うのですけれども、確かに個々の技術はさしたる目新しさも感じさせない既存の技術の組み合わせであって、言わば特許ではなく実用新案的なアイデアに過ぎないではないかと言われればそれはその通りだと言うしかありません。
ただ実際にこういうことをやろうとすると記事にもあるとおり大勢のマンパワーを投じて行うしかなく(出来ればいいですが多くの施設ではそれも無理でしょう)、たとえ既存技術の組み合わせに過ぎずともそれが事実効果があるのであればきちんと認め報酬を払ってやればいいじゃないかと、治療を受ける患者側の立場で考えても思いますよね。
ともかくもここで注目していただきたいのは、混合診療と言えばどうしても最先端の高度な医療、新薬と言ったものばかり注目されますけれども、実際には保険診療の縛りによってやれば有効なのに出来ないという治療もまた少なからずあるということで、こうしたケースが多く国民に認識されるほど混合診療導入への後押しになるのかなという気はします。

日医の会員と言えば病院院長や診療所所長といった経営者ばかりですから、これなども「そんな高い道具を使わなくてもスタッフが手動で全部やれば同じじゃないか」と言い出しかねませんけれども、機械を組み合わせれば自動的に最適にやってくれる作業をそれぞれ人間がやるとなればどれだけのマンパワーが必要かということですよね。
医師などは実質的な年俸制で幾ら働かさせても残業代など出ない場合が多く、日医的視点で見ればむしろどんどんただ働きをさせて元を取らなければ損だと言う考え方になりますから現場の労働環境改善には積極的にはなれないでしょうが、本来機械がやれる作業を人間がやることは看護師や事務員がやれることを医師がやるのと同様、高度専門性を有する労働力の無駄遣いに他なりません。
先日は坂根Mクリニックの坂根みち子氏が医療政策に末端臨床医の意志が全く反映されないことを端的に「現在の制度が、医師の過重労働を前提に出来上がっており、ここから一時的にでも後退するような変革は、勤務医以外誰も望まない」と看破されていましたけれども、現状が続く限り現場で地道に働いている多くの臨床医にとっては「日医が言うから反対」が万事においてFAと言うことになりそうですよね。

|

« 意外に身近な場所に人生転落に至る落とし穴が? | トップページ | 閑話休題:押し売りまがい商法にひっかからないためには? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

これ薬事未承認ってのがポイントなんでしょうか。こういうのが認められたら参入メーカー増えるんじゃ?

投稿: tomo | 2013年9月11日 (水) 08時23分

田舎の細切れになった田んぼって機械入らないんじゃ?
ああいうのもまとめて大規模化できるもんなんですかね?

投稿: ぽん太 | 2013年9月11日 (水) 09時05分

>混合診療と言えばどうしても最先端の高度な医療、新薬と言ったものばかり注目されますけれども

そうですね、ニンニク注射も立派に混合診療になりえます。全面解禁すればですけどね。
混合診療解禁を唱える方々は、有効とは言えない(自称)医療をどのように混合診療から排除するかの方策を明示してから、混合診療解禁を唱えるべきでしょう。
「高度であるなしにかかわらず、認められたものだけ混合診療を可とする」というのならは、それはとても「解禁」とは言えず、実態は単なる保険診療の縮小を
言葉で誤魔化しただけであると認識すべきですね。

投稿: hhh | 2013年9月11日 (水) 10時58分

補足ですが、別に保険診療の縮小に反対という主張ではありません。
誤魔化しは良くないという主張です。

投稿: hhh | 2013年9月11日 (水) 11時19分

混合診療だと有効とは言えない治療を排除しなければいけないって理屈はないでしょ
有効でない医療を受けながら有効な医療をちゃんと受けるかどうかが問題なんであって
ちゃんとビタミンk使うならレメディーに大金払うかどうかは自由

投稿: | 2013年9月11日 (水) 11時21分

議論の別れる多くの問題と同様に、混合診療の是非もまた立場や思想信条によって何が正解とも言い切れない問題だと思いますね。
現状ですでに限定的に混合診療が認められつつありますが、少なくとも医科においては混合診療無しで診療することも十分可能な状況にあります。
混合診療の拡大に際しては歯科の状況なども考えると、この選択肢をどこまで維持確保出来るかが一つのポイントかなと思って見ています。

投稿: 管理人nobu | 2013年9月11日 (水) 11時36分

現在のどんな医療を誰がどのような価格で行うか?というのを全て国が決める配給制度みたいな
皆保険制度はもう無理でしょ。確実に制度疲労を起こしていますしね。
今現在の出来高制だと少ない投薬で治したという部分は評価されないし
患者さん側の選択肢を広げた上で相応の負担をしてもらうってのが一番じゃないかな?

投稿: | 2013年9月11日 (水) 13時28分

保険診療が今まで通りに認可が続くのであれば個人的には混合診療に反対する理由はないなあ
そこが保証されないのが大きなネックではあるのだろうが
学会がガイドラインに載せた治療は保険収載するといったルールを認めさせればどうだろう?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年9月11日 (水) 14時33分

「混合診療」特区申請へ 大阪府・市「先進医療を推進」2013年9月11日

大阪府と大阪市は10日、保険診療と自由診療を組み合わせる「混合診療」を国家戦略特区の要求項目に盛り込むことを決めた。
国家戦略特区は安倍内閣が成長戦略の目玉として自治体や民間から提案を募っており、府市は提出期限の11日、内閣官房に案を示す。

http://apital.asahi.com/article/news/2013091100001.html

投稿: | 2013年9月12日 (木) 08時32分

↑こういうので実際にどうなるか試してみたらいいですね!
でもどういう治療をしてもらいたいか患者も詳しく勉強してないとだめってこと??

投稿: 亮 | 2013年9月12日 (木) 11時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/58164572

この記事へのトラックバック一覧です: 「変わらなきゃ」から「いつやるか?今でしょ」へ:

« 意外に身近な場所に人生転落に至る落とし穴が? | トップページ | 閑話休題:押し売りまがい商法にひっかからないためには? »