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2013年9月21日 (土)

進路上に横たわる思いがけない難関

そう言えば最近色覚検査の話を聞かないと思っていましたが、いつの間にか学童にしろ社会人にしろ色覚検査を受けなくてもいいと言うことになっていたそうで、そのせいか最近ではこういう話も出ているようです。

色覚異常、半数気づかず 検査中止10年、進路断念も(2013年9月19日朝日新聞)

 【今直也】色覚異常の子どもの2人に1人が異常に気づかぬまま、進学・就職時期を迎え、6人に1人が、進路の断念などのトラブルを経験していることが、日本眼科医会の調査で分かった。学校での検査は10年前に中止された。幼児期や小学校で周囲の理解不足に悩むなどの例も相次いでいた。同会は、希望者は学校で検査できるよう国に求めることを決めた。

 生まれつきの色覚異常は男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合で見られる。小学4年を対象に全国で色覚検査が行われてきたが、2003年度に中止された。検査が社会的な差別にもつながりかねず、異常があっても生活に支障がない人が多いことが理由だ。

 国は01年の労働安全衛生規則の改正で、雇用者が雇用時に色覚検査を行う義務を撤廃。色覚異常があるだけで、採用を制限しないよう指導してきた。だが、航空や写真関係、食品関係の一部、警察官などの公務員では、色の識別が難しいと職務に支障が出ることを理由に現在も制限されている

あまり科学的な根拠のない偏見を撤廃していくことはもちろん結構なことなのですが、基本的に世の中色覚が正常な人を対象に仕組みが出来上がっていますから、色覚異常も学童の学習能力などにも関わってくる場合があるようで早期のスクリーニングくらいは残しておいてよかった気もしますけれども、ともかくこれも90年代頃からの患者側の働きかけもあって次第に制度が改められてきたと言うことのようです。
実際問題色覚異常によって就労等にどの程度制限があるのかということですが、いわゆる偏見レベルのものは除き制度的に色覚異常は駄目と言うことになっているのが船や飛行機なども含めた乗り物の運転を業務とするもの、警察や消防、ふぐ調理師を含む毒物取扱者などと言い、実際にどの程度業務に支障が出るのかはともかく支障が出てしまっては取り返しがつかないからという考え方で今も制度的に残っているのでしょう。
長年こうした職業を目指してきたのにいざ就職や資格取得という段になって生まれ持った性質から認められないのでは泣くに泣けませんが、色覚異常に限らず資格職というものは様々な要件を満たしている必要がある場合が多いですから、本格的に進路に思い定める前にまずは自分がその要件を満たしている、あるいは満たせるかどうかをきちんとチェックしておくべきなんでしょうね。

さて、意外にこうした身体的な制限がありそうでなかったのが医師と言う商売なんですが、医師免許には元々色覚異常に関する制限がなく(それでも多くの大学で入学時に色覚検査を行っていたと言います)、頸椎損傷で車椅子生活を余儀なくされていながら医師として活躍している先生もいたりと、比較的この方面では進歩的な考え方の職場と言ってもいいんじゃないかと思います。
言葉は悪いですが人格人品がどうであれとりあえずペーパーテストである程度の点数が取れれば入学から国試合格まで多くの者がこなせ、就職してもそれなりに根性さえあれば割合に将来安泰ということで昨今この医師稼業というものは進路指導担当者などからも狙い目だと目されているそうですが、逆に言えば試験の偏差値が高かったから医学部に来ましたという学生は古今東西少なからずいたわけですよね。
案外そうした学生の方が世間知らずな分医療の現場では使い勝手が良かったという現実もあるやなしやに聞きますが、それはともかく目的意識の乏しい者も少なくないだろう学生がどこで挫折するのだろうかというおもしろい調査結果が先日出ていました。

医学部留年、2年生が最多- 専門課程前に悩む傾向・医学部長病院長会議(2013年9月19日CBニュース)

 全国医学部長病院長会議の調査によると、医学部の留年者は2年生が最も多いことが分かった。専門教育課程を前に医学部を志望したことに悩み始めることが原因の1つとみている。同会議が19日に開いた記者会見で明らかにした。

 同会議は昨年4月から1年間、全国の国公私立医科大学医学部の医学部長や教育担当責任者を対象に、在籍学生に関するアンケート調査を実施した。

 それによると、昨年の53校(国立30校、公立2校、私立21校)の2年生の留年者は472人(前年比31人増)で、09年から4年連続して増加。2番目に多い3年生の留年者(277人)の1.7倍に上った。

 会見で別所正美会長(埼玉医科大学長)は、専門教育を学び始める3年生に進級するのを前にして、「医学部を志望したことに迷いなどを感じる学生がいる」と分析している。

 また、アンケート調査では、多くの教員が医学生の学力低下を実感しており、その理由として、▽遅刻や欠席、授業態度が悪いなど社会規範の欠如▽メンタル的な問題▽モチベーションの低さ―などを挙げている。各大学は、成績下位の学生に個別の指導員を付けた学習・生活面の支援や、基礎科目の補習などで対応しているという。【松村秀士】

この結果をどう考えるかですが、さすがに医学部では少ないながら解剖見学に来た看護学生などが真っ青になって倒れたりするといったケースは毎年のようにある訳ですから、いざ医学について学び始めたところで「これは思っていたのとちょっと違う」と感じてしまう人は案外多いのかも知れませんね。
ただ医学部の教育は通常2年単位で大まかに教養、基礎、臨床といった感じで区分されていますけれども、実際には教養の講義もそこそこの1~2年次から基礎医学の講義が詰め込まれていたりですから「専門教育を学び始める3年生に進級するのを前にして」迷いを感じるというのもどうなのかと思うのですが、大きな進級チェックが2年単位で行われているところが多いとすれば2年から3年への進級が最初の難関ではあるのでしょう。
その場合むしろ医学云々というよりも単純にモチベーションが低下しているという場合も多いんじゃないかと思いますが、人間きっかけはどうあれ学んでいくうちに興味が出てくる、知れば知るほどおもしろくなるということは普通にあるわけですから、特に旧態依然とした講義を万年繰り返しているだけの教官方は学生の留年に対しても自らの指導力の欠如を恥じるべきなんじゃないかと言う気がします。

ただ最近は旧帝だ、旧六だと言った古い伝統ある医学部でもかつてのような誰でも卒業できるザル状態ではなくなり進級チェックがどんどん厳しくなってきているようで、特に文科省の指導もあってか出席率ということはかなり厳密に言われるようですけれども、その理由の一端に記事中にもあるように「医学生の学力低下を実感」する教員が増えているということがあるようです。
ちなみに一部大学はもともと進級チェックが厳しいと言い、特に毎年の進級チェックで留年するとその年に取った単位が全部取り消しになってまた一から全部取り直さなければならないという怖いシステムが悪評高いせいか、いわゆる低ランク私大ほど2年次がと言うよりも卒業試験など非常に厳しく対処されているようですけれども、近頃では進級が楽だったはずの有名国立大でも10人単位で留年者が出ることも珍しくないそうですね。
さらに某私立医科大学が留年や除籍の年次推移を公表しているのを見て驚いたのですが、退学や除籍、中退といった数はさほど変わっていないにも関わらず留年に関しては平成19年から平成24年までのわずか5年間で実に13人から35人へと激増しているというのは、意図的に落としにかかっているのでなければ入試が正しく学力選抜として機能していない証拠なのかも知れません。

特にこれだけ留年者が出ているにも関わらず途中で辞めていく学生が増えていないという点に注目いただきたいのですが、すでに2010年の段階で早大医療人類学研究所の杉原正子氏が大量留年で学生の間に不安が広がっていると指摘しており、特に私学の場合文科省の補助金規定の関係か国試に合格出来ないレベルの学生は進級させないにも関わらず高額な授業料だけは取り続けるのは倫理的にもどうなのかですよね。
近年ご存知のように医学部定員が急激かつ大々的に拡大していて、しかもその定員のうちの多くが従来型の学力選抜から比較的緩い選抜方法に変わってきていますけれども、少子化が進む中で元々理系トップクラスの学生をごっそり集めていた医学部が大きく定員を拡大した結果、医学部に入れる学生の最低水準がずいぶんと下がってきたという指摘は多いようです。
だから進級を厳しくしてどんどん足切りすべきだと言う考え方も極端だし、そんなに多くの学生を留年させなければならないのであれば入試だけ間口を広げて妙な夢を抱かせるのも罪ではないかと思うのですけれども、試験の難易度などしょせん教員のさじ加減一つでどうにでもなるものである以上、どのような考え方と基準に基づいてこうした極端なことをやっているのかきちんと説明をする必要がありそうに思いますね。

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コメント

私の場合、純粋に語学で2年生と3年生で留年の危機がありました。英語とドイツ語とラテン語です・・・
私の母校は、個別の事情ははっきりしませんが私が在学していた頃は2年生と3年生に留年が多かったです。

あと、色覚異常ですが、「異常」と呼称するには数が多すぎるという議論があったと思います。

投稿: クマ | 2013年9月21日 (土) 09時01分

うちの大学の最高記録は大学20年生ですたOrz

投稿: | 2013年9月21日 (土) 09時18分

20年はスゴイですねえ…。
我が母校は確か最大でも10年だか12年だかでしたが、私が卒業する頃まさにその在籍年数リーチがかかってる方がいて不憫に思われた教授先生方が最大限に温情を発揮した結果、足きりなしで全員卒業させる羽目に…。
当然のごとく、その年の国試合格率は燦々たるモノでしたが、私はその時程、3流私大である我が母校を誇らしく思った事はありませんw

現在はさすがに背に腹は代えられず、そのような甘っちょろい事はやっていないようで、医学部人気で偏差値も比較にならんくらいに上がってる筈なんですが国試合格率は相変わらずで、教官やってる友人が頭抱えてますw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年9月21日 (土) 10時29分

たしか在学年数×2倍で12年が最大だと聞いたのですが大学によって違うんですね。
でも学生増えても留年増やしても国試合格率はあんまり変わらないんですよね。
ひょっとして全員ストレートで卒業させちゃっても合格率は変わらなかったり?

投稿: ぽん太 | 2013年9月21日 (土) 10時32分

うちは進級ゆるゆるだったけど、制度上も3年で落ちるってことはなかったような?
でも落第したら単位全部とりなおしってひどいことないですか?

投稿: わたみん | 2013年9月21日 (土) 10時49分

全部取り直しは大変だとは思いますが、取得単位の持ち越しを認めてしまうと一年間遊び暮らす学生が続出しそうな気もしますので難しいところでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年9月21日 (土) 11時26分

>取得単位の持ち越しを認めてしまうと一年間遊び暮らす学生が続出しそうな気もしますので難しいところでしょうね。

恥ずかしながら2年と3年を2回ずつやってるんですが、2回目の2年は教養はクリアー済みだったので専門課程(解剖、生理、生化)のみ受講すればよく、週休4日のまるで大学生のような1年でしたw。3年は全科目やり直しだったのでまるで医学部のような以下ry

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年9月21日 (土) 13時49分

大学入学までがゆとり教育世代でユルユルだから、大学入ってからもユルユルなのでしょうね。
このままのユルユルのメンタルで医師免許とって臨床現場仕事始めたらヤバそうですね。
医学部人気とはいうが、あまり苦労知らずのユルユルのが医者になられると医療現場のモラルが低下しそうで。
今の時代現役世代は都市圏だと新設私大卒医者のほうが断然多いわけで。私大卒の医者を除外したら現場は回らないでしょうね。

投稿: 逃散前科者 | 2013年9月21日 (土) 16時44分

とくに勉強した覚えもなく趣味と部活だけで医者になった身には耳が痛い話ばかりで……
おかげで大学院時代には死ぬような目にあったから許してもらえるかな……

投稿: 有 | 2013年9月21日 (土) 17時05分

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