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2013年9月 4日 (水)

医療のアクセス規制論 患者頼りのやり方はそろそろ限界?

紹介状なしで大病院にかかると余計なお金を取られるという選定療養加算も患者の大病院集中を防ぐシステムとしてすっかり定着してきた感がありますが、確かに導入によって特に時間外の不要不急の受診に対してそれなりの患者減少効果が認められているようです。
ただ基本的に幾ら加算を取るかは各施設の裁量に任されていることから、地方の公立病院などはスポンサーたる市民に配慮した議会の同意が得られなかったということなのか、そもそも加算を取っていなかったり到底実効性あるとも思えない金額に留まっているところもあるようで、少なくとも1000円程度の自己負担では患者行動は変化しないと言う意見が多いようですね。
そんな中で国はさらにこのシステムを強化すべく、全国大病院で一律1万円を加算することにしようと言い出しているようですが、まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

紹介状なしで大病院なら1万円 厚生労働省が改革方針(2013年8月31日税金と保険の情報サイト)

患者の集中を防ぐために

紹介状を持たずに大病院を受診した場合に徴収できる「初診時選定療養費」を一律1万円に設定する方針を厚生労働省が固めた。患者の集中を防ぎ、大病院が救急患者や重症患者の治療に専念できるようにするのが狙い。30日付けで日経新聞が報じた。

現在の平均は1998円

風邪など軽度の症状で、大病院を受診する人は多い。検査など二度手間になることを嫌うためだが、患者が集中する大病院では、人手をとられるため、本来治療すべき救急患者や重症患者の治療に専念できない、というジレンマが生じている。
この集中を防ぐため、大病院では紹介状を持たない患者に対して「初診時選定療養費」と呼ばれる負担金を課すことができる。大学病院等の特定機能病院については1988年から、200床以上の病院については1996から、この制度が導入された。
現在、全国に約2600ある200床以上の病院のうち、約1200の病院でこの負担金を徴収している。自由に設定できる負担金の金額は、平均が1998円。最高は北野病院(大阪府)の8400円となっている。
厚生労働省はこのたび、この負担金を一律1万円に定める方針を来年の通常国会にかける健康保険法改正案に盛り込むことを決めた。

紹介状費用との矛盾

軽症患者はまず「かかりつけ医」を受診した上で、必要があれば大病院を受診する流れを作るのが、初診時選定療養費をとる目的だ。経済的負担を避けるため、かかりつけ医に相談するようになる、という変化を意図しているわけだが、大きな間違いがある。
まず紹介状、正式には「診療情報提供書」をかかりつけ医に書いてもらうためには、費用がかかる。保険点数で250点と定められているため、3割負担の人なら750円必要だ。
これに病院への交通費や、二度手間になることなどを費用換算して加算すれば、初診時選定療養費の平均値である1998円など、簡単に超えてしまう。
1万円に改定することで、ようやく患者を分散する効力は現れるだろうが、なぜ最初から効力のある金額に設定しなかったのか。大いに疑問視される。

記事にもあります通り、選定療養加算で高いところでもだいたい5000円程度、全国最高値で8400円と言いますから一律1万円という金額設定がかなり破格だと言うことが容易に理解出来ますが、要するに紹介状なしでは大病院に受診してはいけないと言う実質的なフリーアクセス規制であると言うことですよね。
先日の社会補償制度改革国民会議の報告書でも「医療機能の分化と連携を推進すべき」だと謳われ、今までの「いつでも、好きなところで」医療を受けられたフリーアクセスについて疲弊する医療現場を守るためにも「必要なときに必要な医療にアクセスできる」ことへと変えていくべきだと明示されている、これもその同じ文脈上に出てきた施策であると理解出来そうです。
当然ながら日医などは「国民の基本的権利の侵害には断固反対する!」とこのフリーアクセス制限論に反対論を唱えてきたのですが、興味深いことに日経の調査では医師の9割、患者の8割がフリーアクセス制限に賛成しているという好対照な結果があって、コストやクオリティの悪化に比べればまだしもアクセス制限の方が受け入れられると考えている人々が圧倒的であるということですよね。
ただもちろんフリーアクセスを制限するとしてもその方法論には様々な考え方があるべきだと思いますが、一例としてつくば市でクリニックを開いている坂根みち子氏が今回の「1万円」案を批判してこういうことを書いています。

同日多科受診の診察料見直しをして医療の正常化を(2013年9月2日医療ガバナンス学会)

勤務医の過重労働が大きな問題となっている。
病院から診療所に患者の流れを変えるシステムを作らなくてはいけないということで、政府の社会保障制度改革国民会議は、「一般的な外来受診はかかりつけ 医、大病院の外来は紹介患者が中心というシステムの定着も図る。具体策として、紹介状のない患者による一定病床数以上の病院の外来受診について、一定の定 額自己負担を求めるような仕組みを検討すべき」とした。つまり具体策として、紹介状のない患者の入口のハードルを上げようと言っているだけで、ほぼ無策に 等しい。これだけでは患者の流れは変わらない。病院の問題の一つとして同日多科受診があるが、いったんゲートをくぐれば受診を抑制するものはなく言った者 勝ちで、病院での診療が既得権益化する
勤務医の過重労働解消が主眼ではなく医療費の節約しか考えていないからこんなお粗末な提言しか出てこないのだろう。

病院で同日多科受診した場合、診察料は2科目が半額になり3科目からはただとなる。2科目が半額とれるようになったのも、2012年の改定からで、それまでは何科専門医を受診しても受診料は1科しか取れなかった
ずいぶん専門医を馬鹿にした話だが、病院でしか働いたことにない医師は保険診療に疎く、多科受診や受診料に無頓着である。多くの医師は診察料さえ知らない。

多科受診になるには2つの理由がある。1つ目は、医師側の問題。患者から何らかの訴えがあった時、自分の専門外の疾患に関しては、些細なことでもリスク回避のために同じ病院内の専門科受診を勧めがちであること。患者数が増えてお互いの首を絞めている。
2つ目は患者側の問題。健康への不安が過剰診療を引き起こす。その場合患者側からすると1回に全部済ませたいので、なるべく同じ日に受診できるように希望 する。実際には同日多科受診のほうが安くなることを知っていて経済面からそれを希望する人も多い。時間はかかるが、病院のほうが安くてそれぞれの専門医に 診てもらえるのだから、専門医を必要とする科以外の疾患でもすべて同じ病院で診てもらおうということになる。
安価な医療は安易な受診を生む。

これを病院だろうが診療所だろうが、各科受診したらその分受診料はいただきます、という単純に平等なシステムにすればいいだけの話である。今まで同日なら 無料だったものが、各科受診するのにお金がかかるようになると、患者側もちょっと様子を見てからという流れが必ず出てくる。「安心」のための過剰診療にブ レーキがかかる。

支払い側の代表である健康保険組合連合会専務理事は、前回の改定会議にて「診療科は、病院の都合で分けているにすぎない。我々は複数科にかかっても『病院 を受診した』と思っているだけ。確かに大学病院の外来の伸び率は高く勤務医の負担は大きい。しかし、患者が大病院を受診するのは、複数の診療科があり、優 秀な医師がいるなどの理由から安心感を抱くからだろう。」と発言した。
本当に必要な受診かどうかは二の次で「安心」のための多科受診を容認しておきながらそこに発生する費用については認めないとは。語るに落ちる。

そもそも、外来診察料はたったの700円である。病院では専門医の診察が、1科目700円、2科目350円、3科目以降無料奉仕!! これをそれぞれの科 で支払うことにしても2科目を受診して1割負担の人なら、支払いが70円増えるだけである。どうしてこれは認められず、前回の改定では1回受診するごとに (高額医療費の相互扶助という名目で)100円の窓口定額負担は導入しようとしたのか。専門性に対するリスペクトが全く感じられない
これに対して、調剤薬局では薬剤師の技術料は薬剤の数に比例して加算され、一処方箋平均2000円となっている。
誰が考えてもおかしい。
(略)
診療所では再診時これに外来管理料が加算される。その代わりに基本的に何でもまとめて診るが、自分の手に余るものは他の診療所や病院を紹介する。患者に とっては、その度に初診料や再診料がかかるが、信頼関係ができていれば大抵納得していただける。現場感覚から言うと、病院に掛かる場合だけ診療所より安く なるという不可思議な特典を付与する必要はない。勤務医の負担軽減と逆行する。日本の医療制度はヨーロッパの国々と比べ患者の自己負担が大きいと患者の負 担が増えることに対しては反対する人たちがいるが、それとこれとはまた別問題である。
(略)
なによりも、急性期病院や高度機能病院は本当に必要な人のためにあるべきものである。必要な人が必要なときに受診できなくてはいけないところである。それ なのに現在は混んでいて必要な人のためになかなか予約が取れない。この状態を改善し、勤務医の過重労働を阻止できなければ、いざという時のセーフティネッ トの崩壊を食い止めることは出来ない。
(略)

実のところ現状でも開業医に一見さんの患者がやってきて「今度○○病院にかかりたいから紹介状を書いてくれ」と言ってくることは少なくないと思いますが、一見するとアクセス規制を行っているようで単に一手間余分にかければ抜け道があるというのでは、選定療養加算を引き下げるほど抜け道に逃げていく人が増えるだけにもなりかねませんよね(それはそれで開業医の手間賃が増えるという考え方もありますけれども)。
もちろんここで書かれている複数診療科同日受診の問題などもごく限定的な話ではないかと言う意見もありますが、とりあえず一度何とか大病院にかかっておけばゲートキーパー機能が働かなくなる制度設計というのは、かつて大病院による時間外救急の受け入れ制限が議論されていた頃に「とりあえず風邪でも何でもいいから一度大病院にかかっておけばかかりつけだと言い張れる」などと抜け道を言われていたのと同じ構図です。
厚労省としては診療報酬を安くすれば病院側は他科同日受診をさせないように動くだろうと言う考え方なのでしょうが、かつて病院の診察料を安くすれば患者を手放して開業医に送るだろうと考え料金格差を儲けて壮大に失敗したことと同様、ここには「どの施設を受診するかを選ぶのは患者である」という視点がすっぽり抜け落ちているような気はします。
患者側にも色々と言い分はありますが、あちらこちらと紹介されて出向かなくても一日で全部済んでしまう、しかもその方が安いということになれば誰だってそちらを選ぶのは当たり前というもので、そろそろ金銭的な抑制だけではなく制度的なアクセス規制も考えるべき時期ではないかという気がします。

医師ら現場の殺到する患者で死ぬような奴隷労働に従事していても経営者にはまた別の考え方があって、日本では医療のほとんどが民業ですから患者殺到で外来がパンクしかけている病院でも未だに患者を増やすにはどうしたらいいかなんてことが経営会議で議論されていたりもするものですが、そもそも高度医療を担うような医療機関については患者の自己判断で受診できるのがおかしいという考え方はあってしかるべきですよね。
先日は厚労相もかかりつけ医に許可をもらわなければ病院を受診できないイギリスのような強力なゲートキーパー導入は考えていないと言い、また施設毎の専門分化が徹底されていない日本の医療制度下で単に病床数等を基準に受診制限の対象にするというのも無理がありますけれども、少なくとも大学病院やナショナルセンタークラスの施設であれば「ご紹介のない一見さんお断り」で何ら差し支えない気がします。
ただ前述のように何故そうなっていないかと言えば経営的な理由も大きかった訳ですから、国が本当に医療崩壊への対策としてアクセス規制と言う道を選ぶのであればいつまでも患者の自主的な判断に頼るのではなく、御新規さん開拓に精出さなくても経営が成り立つ報酬体系に改めた上で制度としての受診制限に踏み込む必要も出てくるのかとも思いますね。

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コメント

数十円の負担額の違いで患者の動きがそう違うとも思えないが。
だが初診だけ制限しても仕方がないってことは同意。
患者都合による受診は全部自己負担割り増しにしとけよ。

投稿: tomo | 2013年9月 4日 (水) 07時49分

すべての治療を3割負担にしている現在のルールが、改善を難しくしているような・・・
単純に、大病院の自己負担割合を少し増やすだけでもだいぶん違うように思います。

あと、初診時選定療養費もそうですが、生活保護受給者をどうするかというのも悩ましいところです。

投稿: クマ | 2013年9月 4日 (水) 08時20分

生保は受診できる医療機関指定でいいのでは?
大阪のローカルルールは本決まりになったんでしたっけ?
ただ医師の側がルール破りに協力しかねないって懸念もあるんですよね…

投稿: ぽん太 | 2013年9月 4日 (水) 09時06分

でもなあ、開業医サイドで、わざわざ一揃い検査、診断して患者を紹介しているのに、また一から全部検査しました、って報告書が帰ってくるから、結局ほぼ医療費削減に役に立ってない。
まあ、紹介もととしては、紹介加算が付くからいいんだけどね。

投稿: | 2013年9月 4日 (水) 11時19分

検査の種類によっては精度等の問題でやり直さざるを得ないものもあるでしょうが、血液検査などは二度手間は無駄だと思いますね。
最近ようやくデータ共有が始まってますが、システムも違えば電子カルテ入れていないところもあってあまり役立っていないようです。
開業の先生は検査は外注が多いでしょうから、検査センターのデータをあちこち配信できれば紙カルテの施設でも共有できそうですが。

投稿: 管理人nobu | 2013年9月 4日 (水) 11時41分

>開業医サイドで、わざわざ一揃い検査、診断して患者を紹介している

っていうのは、開業医が稼げるところ全部稼いでしまった上で搾りかすを病院に放り投げてあとよろしくって言ってることになるのかと思ってた。違うのか。

投稿: | 2013年9月 4日 (水) 14時57分

違うでしょうね

投稿: | 2013年9月 4日 (水) 15時19分

そもそも急性・慢性にかかわらず、入院適応の可能性がないような患者は病院に外来受診する必要など全くないでしょう。
病院医療は重症や難病患者のためのものに限定すべきでしょう。病院外来における単なる風邪で初診、生活習慣病など慢性疾患で病状安定している患者には初診料・再診料を上げるべき。
むろん救急車も入院適応にもならない重症以外の患者のみ有料化すべき。
病院の医療を疲弊させないためには無駄な仕事を徹底的に排除しないと病院勤務医がもたないでしょう。
フリーアクセスは一日も早くやめるべき。このままの現状を何もせずに放置していると私がかつて在籍した病院みたいに、あちこちで勤務医が大量逃散して病院医療が崩壊していくだけです。

投稿: 逃散前科者 | 2013年9月 4日 (水) 16時02分

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