« 胎児の産み分けがすでに行われていたことが判明 | トップページ | ブラックな職場は正当化できるか? »

2013年8月 7日 (水)

働かない働き蟻

今日は本当にどうでもいい話を書いてみますけれども、医師という職業はおもしろいもので、この時代にあってほぼ完全な年功序列制が温存されているのですが、給与や役職は医師を何年やっているかでほとんどが決まってしまうというのはかなり奇異な印象を受けますよね。
特に公立病院などは公務員であるだけに長年勤めているというそれ自体がステータスですけれども、その結果田舎公立病院などでは永年勤続で何も仕事はしない/出来ないのに給料だけはやたら高いという老部長先生が淀んでくることになるという弊害もあります。
さて、昨今特に病院経営者側から医師の待遇改善ということと医療費削減ということが同時並行的に語られる場面も多くなり、マスコミなどもそれを助長するかのように「診療報酬すなわち医師の給料」的な書き方をしていますけれども(実際には医師の取り分は診療報酬のたかだか一割強というところですよね)、本来この二つは別概念であるはずなんですよね。
一般世間でも客単価の高い高級店の雇われシェフよりも一杯500円のラーメン店の親父の方が儲けているということはままあることなのですが、「うちよりはるかに下等な料理しか出せない輩が不当に儲けているのはケシカラン!」という逆恨み?をしていても仕方がないというもので、本当の問題は別のところにあるはずなのです。

パラサイトドクターがブラック勤務医を生む ワープア勤務医の敵は開業医にあらず(2013年7月31日東洋経済)

外食産業のブラック労働が話題になった久しい。特に某居酒屋チェーン店は、トップが選挙などで目立つせいか、各種のメディアでたたかれやすい。私も駅前でビラ配りをしているオネーちゃんなどを見るにつけ、「この人社員?休みちゃんともらえているのかな? ビラ配りはサービス残業かぁ?」などと余計な心配をしてしまう。

この夏の参院選でも「ブラック企業対策」は重要課題として、各党はいろいろな公約を発表していた。だからといって、「ワタミの店員がかわいそうだから、隣の行列のできるラーメン店の大将の儲けを回せば一件落着」やら「同じ調理師なのに給料差があるのはおかしい!」と主張する人はいない

いや……。過去に1度だけ似たような主張を聞いたことがある。ちなみにプレゼンの担当者は、東大法およびハーバード院卒なのだそうな。

2011年、民主党政権の超人気イベントだった「事業仕分け 第2弾」のことだった。「医療崩壊を防ぐには、医療費増額が必要」といった趣旨の分科会で、財務省出身の代議士はドヤ顔で「確かに産科や救急の勤務医は大変だが、開業医はそうでもない。また、開業医の収入は勤務医の約1.7倍ある。同じ医者なのに、こんなに給料が違うのはおかしい。だから、開業医の儲けを勤務医に廻せば、医療費の総額を上げずとも医療崩壊は防げる」とプレゼンし、仕分け人は「来年度の診療報酬総額を据え置くべき」との結論に至った。

今の私は確信している。「ワーキングプア勤務医の敵は開業医ではない。勤務医組織に寄生する、ノンワーキング常勤職員である」のだと。「ブラック労働の勤務医を救うには、開業医の儲けを回せば一件落着」とは「ワタミの店員を救うには、水だけで800円とる人気シェフの儲けを回せば一件落着」レベルの暴論だと思っている。

ワープア勤務医の敵は開業医ではない

いわゆる「医師不足」とは「勤務医不足」であり、もっと正確に言えば、「当直や残業可能な勤務医の実働部隊不足」である。「勤務医のブラック労働」と言っても、すべての勤務医が過労死スレスレではなく、「週2コマの外来以外、何をしているかよくわからん副院長の爺医」的な医師も、それなりに存在している(特に公立病院)。

ワープア勤務医の多くは、開業医を恨んではいない。自分たちを搾取しているのは、開業医ではないことを知っているからだ。事業仕分けでは「開業医は楽で儲かる」と評されたが、あまりに無能・怠惰な開業医からは患者も職員も逃げるので、市場に淘汰される。「儲かっていない開業医は借金がかさむ前に廃業」するので、「目につく開業医は儲かっている人ばかりに見える」とも言える。現在の日本の法律では、常勤の勤務医を「無能である」ことを理由に解雇することは困難だし、日本の大病院の多くは公立病院なので、「下手に患者を任せると死人が出そう」なレベルな人材には、適当な閑職をあてがって問題を先送りしがちである。その結果、「週2回、半日ずつしかオープンしない」開業医は淘汰されるが、同レベルの勤務医は同僚や税金に寄生しながら、定年まで組織にしがみつくことが多い。

大学病院など、ほとんどの大病院は、今なお典型的な日本型報酬体系を取っている。すなわち報酬額は年齢でほぼ決まり、同期の間では大差はなく、高齢になるほど高額になる。当然のことながら人間の能力は均一ではなく、仕事は有能者に集まり、「あの人に頼むとヤバい」と自他ともに認める無能者は定時に帰宅できたりする。その結果、実質的な時給は、無能なほど高くなりがちである。特に麻酔科は仕事の発注者が外科医であり、その道もプロである。患者(=シロート)相手ならば、話術や身なりで誤魔化せても、外科医や看護師には有能無能はバレバレである。
(略)
アラフォーでフリーになるまでの過酷な日々

私は手術や麻酔が好きだった。難しい長時間手術も心肺停止の蘇生も、それなりに楽しんで対応していた。だからといって、40時間連続労働や、それを40代以降も続けることに、そしてそれが改善される見通しのないことに、だんだん疲弊していった。当直明けかつ40時間連続労働の帰り道、うっかり居眠り運転をして赤信号無視で交差点を渡り、激しくクラクションを鳴らされてハッとしたこともあった。

世間では「40代小児科勤務医が過労を訴えて病院屋上から投身自殺」「30代医師が当直明けに交通事故死」といったニュースが散見されていた。「これ以上、こんな勤務医生活を続けたら、過労死か医療事故は必発」と思い、アラフォーで逃げるようにフリーランスに転身した。

その結果、私の年収は約3倍になり、1年のうち350日は自宅で寝られるようになった。と同時に、私がかつての同僚たちにいかに貢いでいたかを実感した。かつて私を苦しめた医師不足は、フリーになった今となっては追い風となり、営業などせずとも仕事の申し込みが途切れる気配はなさそうだ。中堅医が辞めた後の大学医局はますます弱体化し、そのことも麻酔科医不足にさらなる拍車をかけ、フリーランス医師への仕事の安定供給の一因となっている。この転職者の体験記には、とても親近感を覚えている。
(略)

色々と解釈の余地がある記事だと思いますけれども、「無能な勤務医は存在を許されるが無能な開業医は廃業するしかない」と言うのはその通りで、どんな環境にあろうがきちんと仕事をこなしている職業人が相応に報われるということには多くの人が異論がないはずです(もちろん、評価の基準はきちんと公平にされるべきでしょうが)。
ただここで特に注目しておきたいのは「人間の能力は均一ではなく、仕事は有能者に集まり、「あの人に頼むとヤバい」と自他ともに認める無能者は定時に帰宅できたりする。その結果、実質的な時給は、無能なほど高くなりがちである。」という一文で、確かにその通りと頷きたくなる方々も世の中には多いことでしょうね。
世に「働き蟻の法則」というものがあって、一般的には「働き蟻の中でよく働く蟻とサボっている蟻の割合は集団によらず一定であり、よく働くorサボっている蟻を集団から除外すると新たなよく働くorサボり蟻が同じ比率で出現する」と言われているようですが、これを称して「一見無駄な人材に見えてもそれは非常事態における集団としての余力として存在するのだ」と肯定的に捕らえる向きもあるようです。
ただ一説には元論文(というよりもちょっとした観察記ですが)では少し話が違っていて、働かないサボり蟻は別の集団に移してもやはり同じようにサボっていたとも言いますからややイメージが異なりますけれども、ともかくも集団の中では必ず一定数サボっている者が存在する、故にリストラなど無意味なのだという主張の根拠になっている話ではありますよね。

医師の世界で教授だ、病院長だと言うポストに執着する人は昔から決して少なくなく、教授選に破れた一派がごっそり大学を去っていくなどと言う光景が未だにありますけれども、そうしたポストが必ずしもよい待遇を約束するというわけでもないということに気がつく人が増えてきたせいでしょうか、昨今の若手からはあまりポストに執着する声が聞かれなくなったという話をよく聞くようになりました。
前出の記事の筆者氏も別記事で国公立大学教授ですらリストラされる時代に、若手にとってこうしたポストの魅力はなくなってきたと書いていますけれども、一方ではそうした話が通用するのは単なるヒラだろうがそれなりの好条件を期待出来る医師という職業が特別であるからで、大多数の企業では役職につかなければ給料も上がらないという声も当然あるでしょうね。
例えば日本の企業の約半数で一定年齢に達すると管理職ポストから解かれてしまう役職定年制度というものが導入されていますが、当然ながら社員の数よりも役職の数は少ないはずですし、誰もが順調に昇進していけるわけでもないのですから、こうした制度がなければ若手は昇進しようにも上がる先のポストがないということになってしまいますよね。
そうした意味では非常に合理的な制度であるとも評価出来るのですが、手に職のある専門職はともかく単なるホワイトカラーの場合役職を解かれた途端に燃え尽きてしまうという人も多いようで、むしろ役職定年制度が社内の不良債権を増加させているという声もあるようです。

「給料泥棒は退職しろ?!」 働かない役職定年社員が招く負の連鎖(2013年8月6日日経ビジネス)

(略)
 「私、会社で倒れちゃったんです。完全な過労です。3月末で、うちの部署で3人が役職定年になった。彼らがちっとも働いてくれないんで、その分をカバーしているうちに倒れてしまった。疲れているという自覚はありましたけど、自分でも驚いています」

 200人ほどの中小企業に勤めるこの男性は、47歳。彼は3月末に係長から課長に昇進。一方、前任の課長は役職定年になり、部下となった。3月末まで同じ係長で横並びだったベテラン社員2人も役職定年を迎え、同じく彼の部下になったそうだ。

 「役職定年になると、うちの会社では3割くらい賃金が下がるんです。だから、会社も彼らに遠慮して、無理な仕事をさせなくなる。でも、頭数は変わらないので、その分の仕事は誰かがやらなければならないわけです」

 「しかも、役職定年になった人が、明らかに働かなくなった。完全に“余生状態”。『30年以上会社に尽くしてきたんだから、これからは楽をさせてもらうよ』なんて堂々と言う人もいて。締め切りがある仕事が終わっていなくても、平気で放り出して定時になるとさっさと帰ってしまうんです。毎回、それをやられるとこちらも困るので、『締め切りは守ってください。もし、間に合いそうにない時には、早めにSOSを出してください』とお願いしました」

 「すると返事だけはいいんです。『はい、分かりました』って。ところがまた締め切り当日に終わらせないまま帰宅をしたり、中にはそれを派遣さんに、『やっておいて』と頼んで帰ったり。これじゃ、まるで給料泥棒です。しかも、私が過労で倒れたときに、『マネジメント能力を彼につけさせるように、会社は教育した方がいい』と、上層部に言っていたそうです」

 「確かに、自分の能力のなさなのかもしれないですけど、人のことをとやかく言う前に、とにかくもう少し働いてくれと言いたい。仕事の締め切りくらい守ってほしい。こんなことを思ってしまうのはイヤだし、年上の方に失礼かもしれませんけど………、さっさと退職してほしいです」
(略)

ちなみに筆者氏によるとこういったベテラン社員の処遇問題に突っ込むのはある種のタブーなのだそうで、下手なことを書くと読者から「そうなった人たちの気持ちが分かっていない」「触れてはいけない話題に触れた」と意見が届くのだそうですが、仕事をしない名ばかり管理職と仕事をしない元管理職のどちらがよりタチが悪いかと言われるとなかなか究極の選択だなという気がします。
医師の場合はどちらかというと専門職、ブルーカラーに近い気質の方々が多いですから、名ばかり管理職のご老人が部長会議など面倒な仕事を引き受けてくれるから助かるという側面もあるのかも知れませんが、同時に専門職らしく能力があるかどうかにはシビアですから、仕事が出来ない連中の方が高い給料をもらっているというのはあまりおもしろい感情は抱けないでしょうね。
それでも数の限られた資格職ですから病院に在籍しているだけで意味があるというケースもままあるのが難しいところで、昨今手術や処置の件数に応じて報酬を出すという病院が出てきているのも頭数という施設要件をクリアしつつ、バリバリ働ける人も働けない人もそれなりに満足出来る職場環境を模索しているということなのでしょう。
ちなみに筆者氏は結局重要なのは本人に自立心があるかどうかだと書いていますけれども、医師免許を取った時点で診療に従事する能力はあるものと国が認めてくれたわけですから、周りが「あの先生はああだから」と変に気を遣って仕事を引き受けたりするのもかえって本人のためにならないという場合もあるのでしょうか。

 先日亡くなった作家で精神科医のなだいなださんは、「現代の不安の多い社会では、一人ひとりが自立し、こころの自己教育をする必要がある」と常々語っていた。そんななだいなださんが、自立の必要性を感じたエピソードが実に面白い。

 アルコール依存症の治療に長年関わってきたなださんのもとに、「東京大学の教授に診てもらった」と自慢する患者が来た。その患者に、なださんは、「それで」と促した。するとその患者は、「それでも治らなかった」と答えた。

 そこで、「それじゃ、僕にも治せない。日本一の先生が治せなかったのだから、誰も治せない。覚悟を決めなさい。治らなかったら死ぬしかないでしょ。死ぬつもりなら、酒をいくらでも飲もうとあなたの勝手」と言い放った。

 ところが、その患者はその日以来、ぴたりとお酒をやめた

 そこで半年たったころに、「日本一の東大教授に止められなかった酒が、なぜ止まった?」と聞いたそうだ。

 するとその患者はこう答えた。

 「先生のおかげです。この先生に頼っていても仕方がない。自分がしっかりしないとダメだと思ったんです」と。

|

« 胎児の産み分けがすでに行われていたことが判明 | トップページ | ブラックな職場は正当化できるか? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

働かなくて高給もらえるんだから勝ち組じゃん

投稿: | 2013年8月 7日 (水) 08時30分

> 「先生のおかげです。この先生に頼っていても仕方がない。自分がしっかりしないとダメだと思ったんです」と。

なんという正論www

投稿: aaa | 2013年8月 7日 (水) 09時02分

ワープア医師の敵は自分自身でしょう。
時給換算で云々ということはあっても、収入総額でワーキングプアと呼べるような状態にいる医師は自己責任かと。
将来への野望だか、プライドだか、義理だか、惰性だか、金にもならんような何かを捨てればいいだけ。

投稿: JSJ | 2013年8月 7日 (水) 09時04分

このところ手に職を持ってるありがたみをひしひしと感じてます…
そのうち特別なスキルを持たない医師は肩身が狭くなってきますかね?
外科の先生は手術引退してからが大変だろうなって思います。

投稿: ぽん太 | 2013年8月 7日 (水) 09時38分

>働かなくて高給もらえるんだから勝ち組じゃん

者ども!好きなだけ褒め称えてよいぞw

>将来への野望だか、プライドだか、義理だか、惰性だか、金にもならんような何かを捨てればいいだけ。

元々そんなもんなかったのに何故4年も奴隷やっちゃったんだろう…?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年8月 7日 (水) 09時46分

学生時代さんざん鍛えられすぎて社会人生活がぬるくてぬるくて仕方ないオレの立場はいったい

投稿: もーやん | 2013年8月 7日 (水) 10時24分

今の大学教授とか病院長とかは金になるんでしょうか?
アメリカだとどうなんでしょうね?

投稿: | 2013年8月 7日 (水) 11時06分

以前に聞いた話だと大学教授で1500万くらい(本給のみ)だそうで、病院長は施設によって違いますが2500万くらいでしょうか?
病院長はともかく金のことだけで言えばそこらの下っ端臨床医の方が教授よりももらっているということは珍しくないでしょうね。
まあしかし、ああいうのは教授であること=pricelessな人々もいるわけですし、肩書きがあればその気になれば副収入は稼げますしね。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月 7日 (水) 11時13分

べつに働かないことはいいんだよ
それでも雇ってくれるって言ってるんだから
働きに見合った給料になってないのが問題なんだ

投稿: 働いている働き蟻 | 2013年8月 7日 (水) 12時40分

>働きに見合った給料になってないのが問題なんだ

給料に見合った働きをすればよろしいw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年8月 7日 (水) 13時53分

1500万は安いですね。
ただ確かに講演や本でも書けば副収入はそれなりになりそうです。
あと他国の場合講座制で無いので小児科に教授は10人とかいるみたい
しかも研究費は大学から出るのではなく自分でスポンサーを見つける必要があるとか
日本も教授会は大反対するでしょうがそのうちそうなるでしょうね。
よく考えれば教授にさえなれば殆ど一生安泰っておかしいですし

投稿: | 2013年8月 7日 (水) 15時11分

大変参考になる記事の掲載、ありがとうございます!

投稿: ipoqi | 2013年8月 7日 (水) 23時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/57937854

この記事へのトラックバック一覧です: 働かない働き蟻:

« 胎児の産み分けがすでに行われていたことが判明 | トップページ | ブラックな職場は正当化できるか? »