« 働かない働き蟻 | トップページ | 医療改革はまずフリーアクセス規制から? »

2013年8月 8日 (木)

ブラックな職場は正当化できるか?

不景気からようやく上向き加減だと言われる中で最低賃金引き上げだといった話題も出ていますが、先日何気なくyahooを見ておりましたらこんな記事が取り上げられていました。

日米で比較。職業別平均年収事情(2013年8月4日R25)

数ある職業のなかには、その年収を聞いて「意外」と思うものもあるはず。例えば、安倍首相の昨年の所得は3879万円(講演料や印税収入も含む)。高額ではあるが、その立場を考えると安い気もする。

実際どの職業の年収が高いのか。厚労省の賃金構造基本統計調査には様々な職業の平均年収が載っており、それによると、平成24年において平均年収が1000万円を超えた職種は3つ。航空機操縦士(1151万円)、医師(1143万円)、大学教授(1080万円)となった。

また、総務省の「平成22年地方公務員給与の実態」をもとに、東京都の地方公務員の平均年収(全職種の月給・賞与項目の平均を足して算出)を試算すると、その額は768万円。

海外ではどうなのだろう。たとえばアメリカでも医療系の年収が高いが、その額は日本の比ではない。ウェブサイト「CNN Money」によると、トップは神経外科医で約37万ドル(約3700万円:7月25日現在の為替レート、以下同)。以下、石油エンジニアと麻酔看護師が約16万ドル(約1600万円)で続く。

このような差について、人事コンサルタントの山口俊一さんは「海外では専門職の評価が非常に高く、高給になる傾向にあります」と語る。その証拠に、アメリカでは医者に限らず、ソフトウェア開発者や保険計理人の平均年収も1000万円を超える

「海外との比較でいえば、経営者の給料も日本はかなり控えめです。欧米は経営者市場があり、外部から招くのが主流ですが、日本は多くが内部昇格。そのため、経営者になって大幅に年収を上げるのは反発を招き、実行しにくいのです」(山口さん)

そう考えると、専門職の人や「将来は経営者に…」という志の高い人は、世界を舞台に仕事をした方が、将来ずっと高い年収を得られるかも。もちろん、まずは個人の能力ありきですが。(有井太郎)

それにしても近頃では職業別の年収比較表を見ますと、かつて文系高収入職の代表格のように言われていた弁護士が今やすっかり凋落していることが顕著に現れていて興味深いですよね。
個人的感覚としては特殊技能を有する専門職が上位に並んでいるというのは正しい社会のあり方ではないかなとは思うのですが、記事にも現れているように年収の国際比較という観点で考えて見ますと事務員など一般職で日米はほぼ同じ給与をもらっているのに対して、技術職では実に二倍ほども格差があるという興味深い現象が見られています。
日本では経営者と言えども極端な高給を取ることは少なく全社員年収は比較的均等に収まる傾向がありますが、医師など必ずしも組織への帰属が強固でない職種でも国際比較での格差は大きく、国民平均年収との比率で比較すると平均4.4倍のところ日本は2.8倍と低めであることはかねて知られていました(アメリカなどは給料が高くとも医賠責保険料も高いので多少割り引いて考えるべきでしょうが)。
これでもここ数年の医師平均給与の上昇と国民所得の低落傾向の持続とでかつてよりはずいぶんと相対的に医師給与は高くなってきた方で、多くの職業の年収がバブル以降下がってきている中で医師は多少なりとも給料が上がっている数少ない職業に挙げられます(ちなみに他に同様の傾向がより顕著に目立つ職業として記者が挙げられますが)。
だからどうなんだと言うことですが、近年の就職戦線の不活発さもあってどこの職種でも「嫌なら辞めろ」でブラック化が進行していると騒がれている、その中で労働環境は自分が声を出さないと帰られないと目覚め始めたと言われる医師の待遇が改善されつつあるというのは何やら象徴的ですが、その意味をまだ理解していない人もいるようなのですね。

「ブラック企業かどうかは、人それぞれ」――この発言が怖い理由を考える(2013年8月5日ビジネスメディア誠)
より抜粋

(略)
 「長時間の残業を強いる企業だろ」とか「サビ残(サービス残業)ばかりの企業のこと」とか「低賃金で重労働ばかり」「デスマデスマデスマの会社だよね」「パワハラやセクハラが横行している職場のことでしょう」「要は離職率が高い会社のことじゃないの、結果として」「嘘つき企業だよ、イメージ先行で」

 ブラック企業とは? と私の身近な人に質問してみたところ、上のような台詞が返ってきました。どれも的を射ている気もしますし、さりとてすべてを的確に表しているとも言いがたい。持つイメージとは反対に、“ふんわりとした”言葉であるがゆえに、メディアでも頻繁に取り上げられるようになりましたし、ブラック企業を公表することを選挙公約に盛り込むという話が飛び出たりしたのでしょう(結果としては盛り込まれませんでしたが)。まあ、定義が曖昧な言葉を企業にレッテルとして貼るのはどうか、という議論の余地もあると思いますから、ここではその是非は問題にしません。

 重要なのは、ブラック企業という曖昧な言葉であっても、そこで行われていることの多くは「適法ではない可能性が高い」ということ。なぜ違法な状態がまかり通ってしまうのか、そのいくつかの理由を本記事で考えてみましょう。

「ブラック企業がどうかは人によって違う」という風潮はなぜ怖いのか

 劣悪な環境で働いている、その結果過労死になった、とニュースなどで報じられ、その労働環境の数字(主に残業時間などですが)が出た途端、こういう反応を示す人は少なくありません。

俺なんて、普段からもっと残業しているぞ

 理解に苦しむリアクションですが、周囲にこういう発言をする人は意外とたくさんいるはずです。自分だってもっと働いている、残業時間はハンパない、この程度でブラック企業というならば、自分の会社は漆黒だよと揶揄(やゆ)する人もいます。自分たちの若いときの話を持ち出して、会社のソファーで寝たとか、朝起きたら自室のベッドでスーツ姿のママだった、という武勇伝を話しだす人もいます。そして、この類の話をする人たちは、こういう台詞で話をまとめるケースが多い点が見逃せません。

 「まあ、ブラックかどうかなんて、人それぞれだからね」

 先にも書きましたが、ブラック企業という言葉の定義は曖昧で、「これをやったらブラック企業認定」という基準もありません。しかし、法令遵守がなされない労働環境を、同じ働く人が「そういうこともあるよね」と済ませてしまうどころか、それを認めた上で「それを乗り越えることを美化する」のはいかがなものでしょう? そう反論すると、“ブラック企業なんて人それぞれ派”は、こう続けます。

 「過酷な労働条件の中、一生懸命働いた経験が、その後のビジネスパーソンとしての糧になるというケースはいくらでもある。理不尽な思いや、辛いことを乗り越えて成長するのが人間。それをしなくてもいい、となってしまうと人は成長しない」

 だから、人によってはその経験が「素晴らしい糧」になるかもしれないし、ブラック企業にいて限界だった、と判断するかもしれないと。もっともらしい理屈ですが、だから法律を守らなくても良い、という理由にはなりません。皆さんも学生時代に、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法のいわゆる「労働三法」について習ったと思います。それらは、そもそも、企業と労働者との力関係を比べたときに、どう考えても働く人が弱くなる、それを守るために最低限これだけは守ってください、と決められたルールです。そう、自分自身を守ってくれる決まりごとを、とらえ方次第だよと曖昧にしてしまい、返って自分たちの首を締めてしまっているのです。

就活生が、企業研究や自分探しと同じようにやるべきこと

 少なくとも法律が守られるようにするために、多くの人ができることが一つだけあります。それは、その法律をきちんと理解することです。以前にもある場所で書いたのですが、働き始めるときに就業規則に目を通していない人が多すぎる気がします。自分たちがどういう条件で働くのか、なにを要求され、遵守しなければならないのか。一定規模の企業はその規則を作成しなければなりません。しかし、それを「見たことない」という人は多いはず。まずは、そこから関心を持ち、目を通す必要があると思うのです。

 →モデル就業規則について(厚生労働省、参照リンク)

 その上で、最低限「労働基準法(参照リンク)」という法律があるのを知っておくこと。時間が許せば簡単に目を通しておくと良いでしょう。就活生の皆さんは、企業研究や自分のやりたいこと探し、自己分析も大切です。ブラック企業とインターネットで検索して、そこに入社しないという行為も重要でしょう。しかし、それと同じくらい、自分たちの立場を守る決まり事があり、そして、それらを企業が守っているかどうか知ることも、就活には必要不可欠なのです。
(略)

何やら耳に痛い話が多い中で、特に「過酷な労働条件の中、一生懸命働いた経験が、その後の糧になる」とはどこかでよく聞いたような台詞だなと思うのですが、某業界には「本気で外科医になりたいなら40までは親に養ってもらうつもりでいろ」なんてことをおっしゃる偉い教授先生もいらっしゃったと聞きますから、少なくとも「一生懸命働かせる」側にとってはある程度普遍的な価値観として共有されているのかも知れません。
ただ職業体験によって何らかの人生経験を得て今後につなげることと、職場として関連法令無視の労働体制を強要することは全くの別問題なのですから、「私はこれを買ってから恋人が出来ました」と怪しげな石を高値で売りつける商売並みには因果関係を無視した暴論と言ってもいいかと思います。
ましてや働かせる側がそうした暴論を理由に若い労働力を搾取し使い潰すというのではどんな野麦峠か蟹工船かと言う話で、部活の後の自主トレーニングの如く自ら求めてオプションの苦労を背負い続けることとの根本的な違いをまず認識しておく必要があるでしょうね。

この点でも興味深いことに医師と言う職種では近年例の臨床研修制度が導入され、「研修医は学ぶべき存在であって、安価な労働力ではない」ということを制度的に担保したと言うことは研修内容の是非に対する議論は別として英断だったと思いますが、実のところその反動としてその上のレジデントクラスが以前以上に酷使されているという悲しむべき現実があります。
もちろん激務で知られ「あそこで研修を完遂すればどこの職場でも戦える」とOBOGが引く手数多の奴隷病院が今も大いに人気を博しているように、自ら何年間と年限を区切ってそうした環境に身を置くというのはそれが各人の全く主体的な判断に基づくものであるかぎり問題ないでしょうし、それこそ「その後の糧になる」ことも少なからずあるでしょう。
しかし書類上は日雇い雇用で週3日20時間未満の非常勤扱いにしておいて、実際には365日24時間酷使するといったやり方は全く許容されるものではなく、「常勤医師の定数が」云々と言い訳をしながら未だにそうした勤務体系を強いている国公立病院が逃散相次ぎ医師不足にあえいでいるというのは全く当たり前の話だと思いますね。

医師という職種は激務ではあっても相応に報われているのだからいいじゃないかと言う意見もあり、実際に医師に対する調査でも「金銭的にはもう十分」という声が過半数に達していると言いますから「なんだ、もうこれ以上待遇改善なんて必要ないんだ」と勘違いする病院もあるかも知れませんが、同時に転職願望は相変わらず根強く「忙しすぎないこと」を最優先と考える医師が多いということも忘れてはいけませんよね。
幸い昨今では医師雇用市場の流動化が著しく(その先鞭をつけたのが例の臨床研修制度導入であるという点も注目すべきですね)、いわゆる奴隷病院にはそれこ そ奴隷である以上のメリットでもなければまず人が集まらなくなってきていますけれども、それでは奴隷であるということ自体に何かしら価値観を見いだす人々 をどう考えるべきかですね。
あたら高給を取っていながら当直残業で全く金を使う暇がない、そもそも院外に出られる時間帯には店など開いてないなどと笑い話のような自虐自慢話が一昔前までは珍しくありませんでしたが、そうした過酷な労働環境が職業人としてのパフォーマンスにも重大な悪影響を及ぼすというエヴィデンスが揃ってきた今の時代、そうした環境に甘んじている人間は単に「馬鹿なの?死ぬの?」と言われて終わりでしょう。
技術系専門職に多く見られる美点として自らの仕事に誇りを持ち仕事の完成度を追求することに生き甲斐を感じるということがあって、日本人の場合国民性とも相まってこれが良い方向に作用していたことが今日の日本を築いたとも言えるのでしょうが、自ら求めてパフォーマンスを引き下げるような状況を甘受している人間はプロフェッショナルとしての自覚を問われるべきなのかも知れませんよね。

|

« 働かない働き蟻 | トップページ | 医療改革はまずフリーアクセス規制から? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

>>ブラックな職場は正当化できるか?
雇用主にとっては正当化できると思います

投稿: teru | 2013年8月 8日 (木) 08時25分

正確にはメリットがデメリットを上回っていれば正当化できるってことじゃないかと。>雇用主
というわけでメリットを減らしデメリットを増やしてやることがブラック企業対策になると思いますが。

投稿: ぽん太 | 2013年8月 8日 (木) 09時28分

高度経済成長と終身雇用制度のもとでは正当化できた、というか労働者側も受け入れてきたのではないでしょうか。

投稿: JSJ | 2013年8月 8日 (木) 10時03分

基本給できちんと生活できて残業すると生活にゆとりができるならいいですよ
でも今のブラックってめいっぱい残業してやっと食っていけるってとこでしょ
そんな扱いでもっとやる気になれって言われても無理ですから

投稿: | 2013年8月 8日 (木) 10時07分

嫌なら辞めろ
代わりはいくらでもいる

投稿: aaa | 2013年8月 8日 (木) 10時36分

ブラック企業に何故勤め続けるのかと言われれば、おそらくそこに勤め続けることによる不利益と再雇用先の不安といった不利益とを天秤にかけてということだと思います。
その点では医者という稼業はどちらかというと利益と利益を比べられるようなところがありますから、恵まれているというのは確かでしょうね。
ただ恵まれているんだから多少ブラックでも我慢すべきだと思うのか、恵まれているからこそ他業種の模範となるよう改善していこうとなるのか、その辺りの考え方の違いはありそうです。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月 8日 (木) 11時23分

>神経外科医で約37万ドル
wiki見ると4000万より全然上っぽいんですが

投稿: | 2013年8月 8日 (木) 11時47分

人間の仕事に対する耐久力みたいなものが下がってきてるんじゃ?
近所の店屋も昔は盆と正月以外やってたのに今は定休日ができてます。
週一回の休みが当たり前になったら今度は週休二日にしたくなるんでしょう。
人間って基本怠け者ですよ。

投稿: まる | 2013年8月 8日 (木) 12時53分

ブラック企業は社名を公表すると聞くが病院はいくつ名前があがるのだろう?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年8月 8日 (木) 22時46分

自分のところはブラックじゃない といいたいなら、少なくとも働かせた分の給料は払わなきゃね
夜勤を当直だなんて強弁しないでさ

投稿: REX | 2013年8月 8日 (木) 23時21分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/57944156

この記事へのトラックバック一覧です: ブラックな職場は正当化できるか?:

« 働かない働き蟻 | トップページ | 医療改革はまずフリーアクセス規制から? »