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2013年8月 6日 (火)

胎児の産み分けがすでに行われていたことが判明

最近は出生前診断の発達でいよいよ子供の資質に基づいた産み分けと言うSF的なネタが現実化するかと思っていましたら、すでに行われていたというニュースが飛び出して話題になっています。

異常胎児選んで減胎手術36件…長野の産科医(2013年8月5日読売新聞)

 出産の危険が高まる双子や三つ子などの多胎児を妊娠した際、胎児の数を減らす減胎手術の実施を公表している諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町、根津八紘院長)で、異常が見つかった胎児を選んで手術を行ったケースが、これまでに36件あることがわかった。

 8日から大分県別府市で開かれる日本受精着床学会で発表される。母体保護法は減胎手術について定めておらず、国も具体的な指針を作っていないが、こうしたケースが初めて明らかになったことで、今後、議論を呼びそうだ。

 同クリニックによると、減胎手術の理由は、ダウン症などの染色体の病気が25件、胎児のおなかや胸に水がたまる胎児水腫などの病気が11件だった。31件が不妊治療による妊娠だった。

 いずれも、夫婦が「減胎できなければ、すべての胎児を中絶する」との意向を示したという。今回の減胎手術について、根津院長は「一人でも命を助けるために、やむを得ず行った」としている。

 ◆減胎手術=多胎妊娠となった場合に、母子の安全性を高めるための処置として始まった。超音波で確認しながら、子宮内で一部の胎児を心停止させる。通常、胎児の異常がほとんどわからない妊娠初期(12週未満)に行われる。

学会でも発表するということで特に隠れてどうこうという話ではないようなのですが、ともかくも昨今出生前診断の技術的進歩が何かと議論の種となっている中で、これはなかなかに話題を集めそうな行為ではありますよね。
胎児の権利というものがどの段階で発生するかということには諸説ありますけれども、現在の日本では法的に見ると出生し人間として登録をされてからようやく国民としての権利を得られるようになるわけで、胎児の権利尊重ということに関してはあくまでも人倫、道徳といった側面から捉えられているに過ぎないのが現状と言えるでしょう。
言い方を変えれば妊娠中絶とは親子の問題ではなく親の問題と見なされているということであって、胎児にとっては不都合な選択が一方的になされることもあり得ると言う点ではなかなかに難しい側面もあるかと思いますが、ほとんどが不妊治療を受けていたこともあり「産む気がないなら最初からやらなくても」といった厳しい声も少なからずあるようです。
また件の医師が過去にも何かと話題になる業績を積み上げてきたことも知られていて、今回もわざわざこの処置のために遠方から受診している人がいることから当該医師の暴走ではないかという批判もあるようですが、ともかくも当事者もこうした結論を出すに当たってそれぞれに葛藤を抱えていたようで、決して簡単な選択ではなかったということですね。

「この道しか」減胎手術、苦渋の選択…自責も(2013年8月5日読売新聞)

 「自分を責めたが、この道しかなかった」――。
 諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)で、異常が見つかった胎児を選んで減胎する手術を受けた夫婦3組が、読売新聞の取材に応じ、苦渋の決断をした胸中を語った。一方、ダウン症の子どもの家族からは「障害を受け入れない社会にも問題の背景がある」との声が聞かれた。

 「2人とも産むか中絶するか、なるべく早く決めてください
 2010年夏、中部地方の主婦(39)は、おなかの中の双子の羊水検査の結果を聞いた。
 結婚3年目、体外受精で待望の妊娠だった。だが、妊娠10週の超音波検査で、1人に染色体異常の疑いがあると言われ、羊水検査を勧められた
 結果は、ダウン症。10歳上の夫と話し合った。主婦は、ダウン症のいとこがおり、おじおばが愛情を注ぎながらも、苦労する姿を見てきた。
 「将来、私たち夫婦が亡くなったら、同時に生まれてきたきょうだいに大きな負担をかけてしまう」
 病院で中絶手術の日程を予約したが、「年齢的にも最後かも」と思うと簡単にはあきらめられなかった。諏訪マタニティークリニックのことを知り、減胎手術を受けた
 11年春、女児を出産した。亡くなった胎児は、火葬し、故郷のお墓に入れた。
 墓参りのたび、「ここに妹がねんねしているよ」と、家族で手を合わせる。「目の前にいる娘を救えた意味を深くかみしめている」

         ◇

 関東地方の主婦(31)は10年末、排卵誘発剤による不妊治療で、三つ子を妊娠した。不妊クリニックの院長から、「このままだと、流産の危険が高い」と説明を受け、妊娠8週で減胎手術を受けた。
 出産する病院で、残った2人のうち1人がダウン症だとわかり、諏訪マタニティークリニックで2度目となる減胎手術を受けた
 「欲しくてたまらなかった子どもなのに、自分たちの都合で、ひどいことをしていると自分を責めたけれど、この道しかなかった」と主婦。「出産をあきらめていたら、妻の精神的ショックは計り知れず、立ち直れなかっただろう」と夫(34)は話す。

         ◇

 12年夏、関西地方の夫婦は、妻(35)のおなかの双子のうち1人の脳に障害があると告げられた。重度で、寝たきりになるという。
 異常がある胎児の脳が大きく、もう1人も順調に成長できないおそれが高い。「元気な子どもを出産できる可能性を高める方法」として、主治医に紹介状を書いてもらい、減胎を選んだ
 夫(37)は、「子どもを授かり元気に生まれてくることは奇跡のようにありがたいとわかった。思いがけない現実に突き当たり、深く考えて、やむを得ない選択をした夫婦がいることをただ知ってほしい」。

         ◇

 異常のある胎児を選んで手術が行われていたことについて、ダウン症の子どもを持つ父親(53)は、「個々の夫婦の選択や、技術の否定はしない」とした上で、「ただでさえ育児の負担が大きい双子や三つ子で、1人の異常がわかれば、より産むことをためらうだろう」と想像する。
 「背景には、障害を持った子どもを持つ親が、希望しても、なかなか通常学級に入れないなど障害を容易に受け入れない社会がある。障害を持つ人と共に学び働いた経験の有無が、選択に影響を与える。社会を作る一人一人が考えるべき問題だ」と話す。

減胎手術自体は排卵誘発剤による多胎妊娠などで過去にも少なからず行われてきたことですけれども、その場合は多胎妊娠によって妊娠継続に支障があるといった母子共にデメリットが大きいという状況でやむなく選択されてきた、しかしそれはあくまでも無作為に行われてきたことであって、そこに診断技術の進歩によって価値判断が加わってきたということが今回の事例のポイントかと思います。
「どうせ間引くのであればより生きる力の強いものを残すのが生物として当たり前のことだ」という考え方も一面の真理で、例えば明らかに出生後の生存に支障のある重度障害が認められた場合に健常胎児への悪影響を避けるため減胎を選ぶといったケースであれば判りやすい話ですよね。
しかしダウン症など生きること自体には何ら支障がない場合はどうなのか、もちろん周囲の支援を得なければ日常生活上支障があるという点で生きることに支障があるとは到底言えないという考え方もありますけれども、ではダウン症が減胎の対象となるのであれば他の疾患・遺伝的素因はどうなのかと考えていくことも出来そうです。

例えば将来的に様々な診断技術が進化してこの子は目が悪くなるとか成績が良くないとか言ったことも予測出来るようになるかも知れない、その場合「この子はどうせブサ面で三流の学校にしか行けないし人生負け犬決定だから」といった理由で選別が行われるようになるのではないかという優生学的社会の到来を危惧する声も当然にあるでしょうね。
必ずしもそうした行為が問答無用で悪いというわけではなく、むしろ我々自身も品種改良という形で他の種に対してはそうしたことを当たり前にやっているわけですが、それが何となく尻の座りが悪く感じられるのは誰しも「世が世ならオレも本来間引かれる立場だったのかも…」と考えてしまうからかも知れません。
SFなどで古来定番のネタとしてそうした人為的セレクションによる世代間の断絶(いわゆる新人類ものですね)ということがありますが、仮にそうして生まれた子供が成長し社会の主流派となった時、同様の考え方で「役に立たない出来損ないの老人達」を間引き始めることに反対することが出来るかどうかと考えて今から薄ら寒い気がしている人もいるでしょうね。

やや話が脱線しましたけれども、本来中絶という行為自体が刑法にも規定のある犯罪行為である中で「経済的事由」という法律の文言の拡大解釈によって実施されてきたように、いわゆる普通の妊娠中絶も長年曖昧なグレーゾーンの中で行われてきた経緯があって、そうであるが故に「これこれの理由での中絶だけは絶対駄目」と言うことが言いにくい状況になっているとは言えそうですよね。
個人的には一部の中絶絶対反対論者のように胎児の権利ばかりを過度に尊重すべきという考え方にはさほど賛同するわけではありませんけれども、実際問題ここまでのことが現実的に行われていると明らかになった以上は、様々な胎児情報に基づいた産み分けという行為はすでに現実のものとなっていると見なすべきでしょう。
そうした事実を認めた上で何をどう考え環境整備を行っていくのか、例えば親の考えで産み分けをしてしまうのは仕方がないとして各種出生前診断の精度を高め「誤診に基づく中絶」を少しでも減らそうと言う考えもあるでしょうし、そもそも胎児のことをあれこれ調べすぎるからそうなるのだと胎児診断自体を制限すべきだと言う考え方もあるでしょう。
ただどちらにしても少子化がこれだけ問題になっている時代に何故十分生きられる子供まで間引かなければならないのか?という問題が根本にあるわけですが、最も単純な解決法としてはそうした子供を持つことが負担どころかメリットになるようなシステムを用意しておく、といったことになるのでしょうか。

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コメント

お祖母ちゃん代理母にしたてたとこですよね。
ここはもうなんでもありなんだな。

投稿: 亀 | 2013年8月 6日 (火) 08時16分

他院じゃやってくれないものだから何でもありのこちらにお願いした?
そういう施設だって有名だから患者も集まるんだろうけど何か釈然としない…
てか胎児異常だからやったと公表しちゃったら法律違反になりません?

投稿: ぽん太 | 2013年8月 6日 (火) 08時50分

こんなもん臓器移植と一緒で第三者がどうこう言う問題じゃないと思いますがねえ…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年8月 6日 (火) 09時27分

より生命力の強い方を残すのは当然の判断だろw
これが逆だったらそのほうが問題ww

投稿: aaa | 2013年8月 6日 (火) 09時34分

なんとなく釈然としないのは、すでにここまでの事が行われているのであれば、技術的に可能なことはまだまだあるのだからそれも行われる(行われている)のだろうなと感じる点でしょうか。
もちろん制度上はそれまた当事者の判断に委ねるしかないのですが、クローンだiPSだといった先端技術に対してはあれもこれも規制しているのに比べて、こっちはこんなに自由なのは不公平感も覚えます。
ともかくも生まれてくる子供達にはせめて健やかで幸せな人生を送ってもらいたいですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月 6日 (火) 11時19分

こどもがほしくて治療までしたのに中絶って壮大な無駄・・・ごめいふくをいのります

投稿: まあや | 2013年8月 6日 (火) 12時08分

技術的にじゅうぶん可能なことで
別に法律に触れるわけでもなく
それが誰かの幸せにつながるなら

べつにやって問題ないことない?

投稿: | 2013年8月 6日 (火) 14時14分

熊本の病院が養子あっせん…初参入、寄付金なし
読売新聞 8月8日 3時27分配信
 特別養子縁組のあっせん事業を巡り、熊本市の福田病院(161床)が日本医師会の要請を受け、病院として初めて事業に乗り出していたことが分かった。

 ほかに少なくとも3県の3医療機関が参入の準備を進めている。同事業では、一部の民間団体が養父母から寄付金などの名目で多額の現金を受け取った問題が浮上しているが、病院側は寄付金は受領せず、透明性の高い事業運営を目指すという。

 日本医師会は、0歳児の虐待死が相次いでいることから、産婦人科病院で望まない妊娠をした女性の子どもの特別養子縁組を積極的に進める方針を決め、昨年8月に熊本県医師会に同事業の実施を打診。福田病院が今年5月から事業を始めることになった。同病院の福田稠理事長は同医師会の会長をつとめている。

投稿: | 2013年8月 8日 (木) 13時24分

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