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2013年8月28日 (水)

正しくない医療が蔓延している? 朝日の一連の報道に絡めて

不正請求と言えば聞こえは悪いですが、いわゆる査定に引っかかったというタイプの不正請求とは有名な「エリスロポエチン訴訟」のように不正とする方がおかしいようなケースである場合も多く、保険診療というものの暗部として多くの臨床医達を憤慨させてきたものであることは周知の通りです。
また非代償期の肝硬変にアルブミンをいきすぎたような「切られるのは判ってるけど有効だから使っちゃった」不正だとか、あるいはジェネリックに変更したところ保険適応症が変わっているのに病名変更をしていなかったと言った単純な無知から来る不正も多く、これらは患者さんの利にはなっても一般臨床医、中でも勤務医にとっては不正を働いたからと言って給料が増えるというわけでもなく何らのメリットもない行為ですよね。
もちろん保険診療のルールを知らないという単純な無知は論外ですが、不正請求で返還を求められる金額は30数兆にも及ぶ膨大な医療費の中で数十億円規模とごくわずかですから総じて日本の保険診療は請求に関しては健全であると言え、正直わずかばかりの不正を追及するためにどんどん人員を増やし査定を厳しくすることは費用対効果の上ではどうなのかという気もします。
ただもちろん、きちんとルールを知っていながら明らかに犯罪的な意図を持って行われる本来の意味での(と言っていいのでしょうね)不正請求というものも数は少ないながらもあるわけで、先日朝日新聞がこんな記事を載せていました。

はり治療、覚えないのに年160日 鍼灸院が架空請求か(2013年8月26日朝日新聞)より抜粋

(略)
鍼灸院を舞台に不正請求か

 患者紹介ビジネスを手がける業者と契約し、患者を集めて医師の診療を受けさせていた鍼灸院を大阪市南部の住宅街で見つけた。

 50代女性は昨春、整体治療も行うこの鍼灸院で腰のマッサージを受けた。終了後、「保険診療にすると安くなる」と誘われ、2階へ連れて行かれた。

 案内されたのは、狭い給湯室だった。スーツ姿の男性がテーブルの向こうで丸イスに腰掛けている。対面に座った。「どこが痛いですか」と聞かれたが、触診はなかった。話はすぐに終わり、帰り際に名刺の拡大コピーを渡された。大阪・心斎橋の開業医だった。

 昨年末、医療費通知が届いて驚いた。あれから医師に会っていないし、窓口負担分を払っていない。それなのに、医師から毎月1~2回の診察を受けたことになっていたからだ。無料でマッサージを受けたこともあり、後ろめたくて苦情を言えなかったという。
(略)

露骨な犯罪行為を行うケースはどこの業界でもありますが、今回の場合は見るからに舞台設定からして怪しい中で行われた素人目にも明らかな不正なのですが、一般的にはここまで露骨な不正ではなくもう少し巧妙に行われるケースが多いはずです。
そもそも同じ保険を使いながら一般医療機関に比べ柔道整復師等に対しては査定が甘いということが以前から指摘されてきたところで、「保険が使える安上がりなマッサージ」などと安易に考えていると実は不正請求であったという可能性があることは利用者側も留意すべきですけれども、今回は露骨な不正を患者紹介業者と結託して組織的に行っていたというのがポイントであるということですね。
このところ朝日新聞は医療関連業界に関する患者紹介ビジネスの問題を相次いで取り上げていますけれども、明らかな不正とは言い切れないまでも何かしら釈然としないこんな話もあるようです。

高齢患者紹介ビジネス横行 「先生いい話あります…」(2013年8月25日朝日新聞)

 【沢伸也、月舘彩子】高齢者施設で暮らす患者をまとめて紹介してもらい、見返りに診療報酬の一部を紹介業者に支払う医師が増えている。訪問診療の報酬が外来より高いことに着目した「患者紹介ビジネス」に加担している形だ。法令の規制はなく、厚生労働省は「患者をカネで買うような行為は不適切」として規制の検討に乗り出した。

「患者、金づるか」 過剰診療の恐れ

 紹介業者は高齢者施設の患者を一挙に大量獲得し、訪問診療をする開業医に話を持ちかけることが多い。紹介料の相場は、患者1人あたり診療報酬(月約6万円)の2割だ。

 兵庫県の診療所。毎週金曜日、午前の診察が終わると、待合室で製薬会社や医療機器メーカーの社員らが医師に次々と自社製品を売り込む。昨夏、ひとりの営業マンが「患者を紹介したい」と切り出した。医師は意外な提案に驚き、順番を後回しにして最後に彼だけを応接間に招き入れた。
 「先生にいい話を持ってきました。喜んでもらえると思います」
 営業マンは医師と患者を「マッチング」させていると言った。「これからは在宅医療の時代ですね」と笑顔で話し、高齢者施設で暮らす患者を紹介するから訪問診療してほしいと提案した。そして続けた。
 「収入(診療報酬)が入ったら、2割をコンサルタント料として頂きます。ウチは完全成功報酬制です」
 さらに診療所のリストを見せ、「たくさんのお医者様にも契約して頂いています」と続けた。関西の医師50人ほどの名がある。訪問診療をしている医師をインターネットで調べて営業していると明かした。1時間粘ったが、医師は断った。

 福岡県の診療所にも別の業者が来た。医師は不審に思い、ひそかに録音した。営業マンの声は柔らかい。
 「コンサルタントフィーという形で、毎月税込み合わせると1人1万5750円をちょうだいさせて頂きます。検査で先生の報酬がどんどん上がっても、うちは1万5750円と固定にさせて頂いているんですよ」

「患者、金づるか」 紹介ビジネス、過剰診療の恐れ(2013年8月25日朝日新聞)

 高齢者施設で暮らす患者は、施設が薦める医師の診察を受けることが多い。患者紹介ビジネスに組み込まれて「売買」されていても、気づいていない人がほとんどだ。そればかりか、過剰な診療を受けたり、診療水準が落ちたりする恐れもある。

高齢患者紹介ビジネス横行

 「施設に入ると医者は決まっていました。お願いするしかありませんでした」
 茨城県にある有料老人ホームに入所していた女性(82)の長女(55)は、3カ月前を振り返る。
 医師は血圧と血糖値を測って「現状維持です」と伝えるだけで、母はどんどんやせた。家族が声をかけても母の反応はにぶくなっていった。長女は不安にかられ、2カ月後に施設を変えた。今は別の医師から丁寧な診察を受け、自分で食事をし、会話もできるようになった。
 「いま考えれば、粗末な診療でした。私たちが払った医療費から紹介料が払われているのなら、許せません。いい金づるなんでしょうか」

 通院することが難しい患者を月2回訪問したら、医師が受け取る診療報酬は6万円を超える。外来の15倍だ。高齢者施設の30人をまとめて訪問すれば、月180万円が入る。業者はその2割程度を毎月、自動的に手に入れることができる。
 東京都世田谷区の診療所には、3年前に紹介業者が訪ねてきた。「患者を紹介するので、料金を払って欲しい」。医師が医師仲間にメールで相談すると、仲間の診療所にも同じ業者が営業に来ていた。
 厚生労働省にも複数の情報が寄せられている。愛知県では、有料老人ホームの運営会社自体が、医師に入所者を優先的に紹介する見返りとして診療報酬の20%の支払いを要求していたという。
 NPO法人高齢社会をよくする女性の会・樋口恵子理事長は「高齢者や病人の人身売買だ。体が弱っていく時期に、営利だけを追求する人々の利権によって食い物にされるのかと思うと許せない」と憤る。
 一方、紹介業者の多くは「うちだけでない。ほかもたくさんやっている」と言う。大阪府の業者は「医師の要望で始めた。医師支援の一環だ。我々も人件費などコストがかかっているので(紹介料を)もらっている」と反論した。

先日以来取り上げているように高齢者を施設から在宅へという近年の大きな流れが出来つつあって、その中で在宅患者訪問診察料というものもかなり高く設定されるように改訂された訳ですが、ポイントになるのは施設に入居している患者であっても高い報酬が得られるという点で、大きな施設に入居しているご老人を毎月2回みて回るだけで高い報酬が得られるのですから多くの施設が飛びつく道理ですよね。
ただ往診しての診療内容についてはここでは触れませんけれども、もちろんこんな金額を設定しているというのは病院に受診することが難しいという前提条件を満たしている場合であって、単に外来に連れてくるのが面倒くさいというだけで往診に切り替えると言うのは極めてグレーゾーンなやり方ではないかとは思います。
もちろん国にすればこの際多少高くつくことには目をつぶっても往診をやる医師を増やそうとしているのでしょうが、ここまで極端な差をつけられると外来で診るということ自体が馬鹿馬鹿しいですし、施設のスタッフにしても患者さんを連れて行くよりは医師が来てくれた方が手間も省けるのですから、確かに雪崩を打って往診に切り替える医師が増えているというのも理解出来る話です。
ともかくこうして記事にも大きく取り上げられた以上、次回の診療報酬改定ではこの辺りの報酬体系も改められるなり条件が厳しくなるなり何らかの手入れが入れそうですが、施設入居者全員を外来に毎月2回連れて行くなどということは非現実的で、アクセスという点で高い往診料設定が入居者の医療環境を改善しているという評価は出来るかとは思いますから、どの辺りを落としどころにしていくかが問題ですね。

最もありそうなのは同一施設内で同日に複数患者を診察した場合には大きく報酬を割り引くというやり方ですが、病院併設の老健に毎日一人ずつ往診にいくといった対処法は出るでしょうし、複数施設を掛け持ちして各施設一人ずつみてまわるなど、その気になればまだまだ儲ける道は残りそうに思います。
国にしても老人は施設入所よりも自宅でと考えていることは明らかですから、本当であれば高い往診料を取れるのは自宅への往診に限るべきなのでしょうが、この場合は時間効率が悪すぎて余程に暇な医師でなければ少々の報酬では腰を上げないでしょうから、国全体でも到底施設往診のような総数をこなせそうにないというのは痛し痒しなんでしょうね。
ただ往診の報酬が高すぎるというより本来は外来診療単価の方が極端に安すぎるということの方が問題で、高齢者が受診する場合はほぼ例外なく誰かの付き添いが必要となるのですから、付き添いスタッフのコストも込みで外来診療単価を評価していなければおかしいという話で、特に入居型の施設を併設しているような医療法人は大抵が在宅のサービスもやっているわけです。
その場合は在宅患者の外来受診と言っても連れてくるのは家族ではなく訪看やデイサービスのスタッフである場合も多いのですから、往診にも見劣りしない十分な報酬を外来受診時に医療側と介護側とで分け合えるようになれば理屈にも合い、法人全体として損にもならない道だと思うのですが、万一そんな話が出た日にはさっそく日医あたりが「医科の報酬削減には断固反対!」と潰しにかかるんでしょうね…

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コメント

しょせんアカヒソースだからねえ。。。

投稿: | 2013年8月28日 (水) 08時21分

高いって聞いちゃいましたけど往診2回で6万も取れるとは知りませんでした。
これ儲けたい先生がやるのは勝手だけど往診させられる勤務医は泣くだろうなあ。

投稿: ぽん太 | 2013年8月28日 (水) 08時48分

二階に上げて梯子を外すいつもの作戦w
いつまでぼろもうけさせてくれると思ってるんだww

投稿: aaa | 2013年8月28日 (水) 10時29分

朝日も連日記事にするくらいですから、今後も一大キャンペーンを張る覚悟かも知れないですね。
議員さんが食いつけば炎上する可能性はありそうですが、正直厚労省がいささか大盤振る舞いし過ぎた印象です。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月28日 (水) 11時34分

毎月六万も取られたらクレーム入りまくりでは?

投稿: | 2013年8月28日 (水) 13時06分

自己負担はそのうち1〜2割
下手すると自己負担分サービスしてるかも知れずですな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年8月28日 (水) 16時51分

最近は訪問診療専門の診療所が増えました。これだけ報酬が多いと誰でもすぐにウハクリになれるので当然です
訪問診療専門だとたいした設備投資もせずにリターンが返ってくるので非常においしいです。
一度味を覚えたら、報酬の安い通常の地域限定の外来診療などバカバカしくてやってられないですよね。

投稿: 逃散前科者 | 2013年8月28日 (水) 17時20分

六万の二割でも一万二千
毎月これだけ取られたら厳しいだろうに

投稿: | 2013年8月28日 (水) 19時52分

消費者庁は27日、高齢者に嘘の電話をかけて、健康食品を強引に送りつけて販売したとして、特定商取引法に基づき、日本ヘルスケア、ケア食品および健美食品の3社に対し、一部業務の停止を命じた。

同庁によると、3社は主に高齢者の自宅に電話をかけて、「凰寿(おうじゅ)」等と称する健康食品の電話勧誘販売を行っていたが、その際に嘘をついて契約させたり、注文した覚えのない商品を強引に送りつけたりしていたという。このうち、日本ヘルスケアは購入を断った相手に対し、脅迫めいたことを告げるなど、消費者を威迫し困惑させる勧誘を行っていたという。3社の事務所は東京都新宿区の同じマンションの1室にあり、実態は同一と見られる。

注文した覚えのない往診押し売りしてボロもうけのクソ医者どもは取り締まらないのかよ

投稿: | 2013年8月29日 (木) 06時43分

消費者庁は27日、高齢者に嘘の説明をかけて、嘱託医を強引に送りつけて往診したとして、特定商取引法に基づき、日本ヘルスケア、ケア食品および健美食品の3社に対し、一部業務の停止を命じた。

同庁によると、3社は主に高齢者施設に電話をかけて、「マッチング」等と称する医師往診の電話勧誘販売を行っていたが、その際に嘘をついて契約させたり、注文した覚えのない往診医を強引に送りつけたりしていたという。このうち、日本ヘルスケアは往診を断った相手に対し、脅迫めいたことを告げるなど、消費者を威迫し困惑させる勧誘を行っていたという。3社の事務所は東京都新宿区の同じマンションの1室にあり、実態は同一と見られる。

投稿: | 2013年8月29日 (木) 10時31分

うちも今年から往診させられてます。
関連施設多いからあちこち行かされてみんな大ブーイング!
こんなに大問題になってるって医局会で紹介しますね!

投稿: まるさん | 2013年8月29日 (木) 15時16分

これあくまで通院困難な患者が対象だから、あとでごっそり切られても文句は言えんのよね
それまでにもうけるだけもうけて撤退するつもりなんだろうけどさ

投稿: 藪 | 2013年8月29日 (木) 21時11分

訪問の診療点数高いから専門にしたらボロ儲けですよね。いくら規制しても抜け道あるさ。「外来患者待たせて緊急で訪問診察しました」とかね。
訪問診察と在宅看護ごり押ししてきますと社会福祉原論の要約みたいな記事ですね。

投稿: | 2013年8月29日 (木) 23時55分

無知で悪いが保険証持参で健康診断を無料で行い捕まったりレセ不正請求がわんさかあるしそれが出来なくなると訪問なのかと。不正なく保険者に請求し患者に負担なく診察してくれるところもあるが例えば総合病院ではない個人の接骨院は診察点数があまり高くないのでレセ不正請求で返還命令は今年はじめにあったし、こんなことする病院も増えてきたりしてね。
関係ないがなぜ二●イが支持政党を変えたかは、変えた政党の方が補助金貰えるからだそうです。また二●イや医師会に都合よい法律作ってくれるのが与党でしょう
社会主義国から福祉や医療制度の思想が入ってきて支持政党ではないが共●党はどうお考えなのか。ああ、ちなみにいつかは無知の私に懇切丁寧な応対をありがとうございました。

投稿: | 2013年8月30日 (金) 00時29分

http://www.asahi.com/national/update/0829/TKY201308290046.html
患者紹介ビジネスに懸念 日本医師会「患者の選択制限」
2013年8月29日11時22分 asahi.com

医師に患者を紹介した業者が診療報酬の一部を受け取る「患者紹介ビジネス」について、日本医師会は28日、「患者の医療機関の選択を制限する、望ましくないケースがある」との懸念を表明した。

石川広己常任理事が記者会見で見解を述べた。朝日新聞の報道で、施設で暮らす高齢者をまとめて医師に紹介するケースが明らかになった。
こうした事例に対しては、行政側に実態把握を進めるよう求めた。また「(診療報酬の)不正請求が判明した場合は厳正な対処が必要」とも指摘した。

投稿: | 2013年8月30日 (金) 11時32分

問題になってるのは紹介ビジネスであって往診じゃないぞ

投稿: ヤガラ | 2013年8月30日 (金) 22時39分

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