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2013年8月21日 (水)

高齢者医療介護サービスに統合の動き

医療や介護など高齢者の生活支援に関わる諸制度を一体的に運用する「包括地域ケア」と言うものが提唱され各地でモデル事業が進められているところですけれども、ちょうど読売新聞に解説記事が掲載されていましたのでまずはこちらを紹介してみましょう。

地域包括ケアシステムとは(2013年8月20日読売新聞)

 高齢化が進む今後、「地域包括ケアシステム」の導入が必要だと聞くけれど、どういうこと?

サービス五つ 一体的に

 「地域包括ケアシステム」とは、介護が必要になった高齢者も、住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるように、「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の五つのサービスを、一体的に受けられる支援体制のことだ。

 団塊の世代が75歳を超える2025年に向け、「速やかに導入を」と政府の社会保障制度改革国民会議も報告書で指摘した。病院に長期入院する高齢者が増えれば、必要な治療を受けられない人が増えてしまう。高齢で認知症や慢性疾患を抱えても地域で暮らせる仕組みは、全ての国民にとって急務となっている。

 全世帯に占める高齢者のみの世帯(単身・夫婦)の割合は、10年の20%から25年には26%に高まると予想されている。日常生活に支援や介護が必要な認知症高齢者も、280万人から470万人へ増えるとみられている。

 ただ、高齢者の総数は、ピークを過ぎると長期的には減少していくため、入居型の介護施設を多く整備すると供給過多になることが予想される。厚生労働省の調査では、「介護を受けながら自宅で暮らしたい」と望む高齢者が7割を占めており、政府は在宅介護を軸に整備していく考えだ。

 今後の実現で課題になるのが、医療や介護をはじめ、五つのサービスを必要に応じて届けられる提供体制の整備と、医師や福祉専門職などの連携だ。こうした体制があれば、大病を患った高齢者の多くが早く退院し、リハビリ施設などを経て、再び自宅で生活できるようになる。

 政府は、おおむね30分以内に必要なサービスが提供できる環境を目指しており、各地の地域包括支援センターには調整役が期待されている。

 具体化するには市町村の力量が問われる。東京都世田谷区では、低所得者向けの老人ホームや、空き家を活用した高齢者サロンの整備などが進められている。熊本県上天草市は、高齢世帯に緊急通報システムを設置している。

 在宅介護を広げるには、低所得者も利用できる高齢者向け住宅がまだまだ不足している。また、介護保険財政の逼迫(ひっぱく)が予想されるなか、民間ボランティアの力も必要となる。こうした人材の発掘や育成も急務だ。(樋口郁子)

医療と介護に限ってみてもその境界線は極めて不明瞭で、しかも常時その境界線上を行ったり来たりしている方々も多いのですから実際的には不可分にサービスが提供されている、となるとこれらを一体的に運用した方がよほど効率的でもあるし、利用者の利便性の上でも有益だろうなと言うことは誰でも判る話だと思います。
もちろん各サービスの実施主体はそれぞれ異なっていて、例えば行政側が提供しているサービスと民間からのサービスを一体的・統合的に運用するというのはなかなかに面倒なところもあるでしょうが、どちらにせよこうした社会福祉は自治体レベル以下の小さな単位で小回り良く運用されるべきものですから、地域内での立場を越えた緊密な連携無くしてサービスの充実など図れるものではありません。
国がこうした話を持ち出してきたのはもちろん提供体制の効率化に伴うコスト削減ということに着目してのことだと思いますが、利用者側からすれば何をするにも「それはうちでは判りませんから」でたらい回しにされるよりは何でも一体的に面倒を見てもらえた方がありがたいのは当然ですから、分断されていた各業種の連携をどんどん強化していく方向で考えた方が皆が幸せになれそうな予感がありますよね。
となるとその実現に至るまでのハードルをどう越えていくかという話になってくるのは自然な話だと思うのですが、先日大阪市内で開かれた「大阪府市医療戦略会議」の席上で、こんな意見が出たということを紹介してみましょう。

医療機関と介護事業者の「グループ化」提案- 東京医科歯科大・川渕氏「大 阪で実現可能」 (2013年8月19日CBニュース)

 中長期的な医療・健康関連産業の振興策などを検討する「大阪府市医療戦略会 議」(会長=上山信一・慶大教授)が19日、大阪市内で開かれ、超高齢社会に向 けた医療・介護サービスの在り方について、有識者からヒアリングを行った。こ の中で東京医科歯科大大学院の川渕孝一教授は、大阪で実現可能な施策の一つと して、保健・医療・介護を一体化する医療機関と介護事業者の「グループ化」を 提案。委員からは反対意見も出たが、上山会長は府内でのモデル事業の実施に前 向きな姿勢を示した。

 医療法人と社会福祉法人の制度見直しをめぐっては、政府の社会保障制度改革 国民会議がまとめた報告書の中で、「法人間の合併や権利の移転等を速やかに行 うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある」と明記され、 「ホールディングカンパニーの枠組み」が例示されている。

 川渕教授は「一医療機関が保健、医療、介護を全部やった方が、安上がりで質 がいいということがデータで分かってきた。いろんな議論があるが、これは『範 囲の経済政策』だ」と指摘。公益性の高い医療を担う社会医療法人が府内で多い ことなどを挙げ、グループ化の促進は可能だとの見方を示した。

 これに対し、茂松茂人委員(大阪府医師会副会長)は「例えば『選択と集中』 で、いわゆる米国のコングロマリット(複合企業)みたいなことをすると、やは り企業優先的になる。医療が逆にコントロールされてしまう」との懸念を表明。

 また、有識者の一人として出席した大阪府私立病院協会の生野弘道会長は、 「医療と介護を一緒にやると効率が良いように見えるが、これは限られている」 とし、地域の医師会と自治体によるネットワークの構築が重要だとの考えを示した。

 上山会長は「全国的に見ると、M&A(合併・買収)やコングロマリットのセン スにたけたお医者さんが大阪には多いので、私立病院が結構繁栄している。そう いう意味では、医療資源の在り方としては非常にユニークだと思う」と指摘。そ の上で、「民のアセットを中心としたモデルというのは描ける。場所を決めて、 丸ごとどこかの法人がやるという手もあるし、医師会と自治体で連携してやる手 もある」と述べた。【敦賀陽平】

ここで注目していただきたいのは大阪医師会の茂松茂人氏が「例えば『選択と集中』 で、いわゆる米国のコングロマリット(複合企業)みたいなことをすると、やは り企業優先的になる。医療が逆にコントロールされてしまう」と反対意見を述べている点で、さすがに医師会と言う気がしますけれども、医療がコントロールされるほどとはどれくらいの規模のグループ化を想定しているのでしょうか。
もちろん今時どこの医療機関であっても経営的視点を持たない運営ということはあり得ない話で、例えば検査入院等々と称し関連の養護施設との間で患者を随時出入りさせることで平均在院日数を調節するといったことは当たり前に行われている以上、こうした行為を医療法人の利益優先的に「医療がコントロールされ」ていないと主張するのは無理があるという気がします。
要するに医師会という組織はあくまでも経営的視点から成立しているものであって医療主体で成り立っているものではないということなのでしょうが、この懸念表明に対して大阪にはそういう手練手管に長けたお医者さんが多いから大丈夫でしょ?という会長の切り返しはうまいなと思いますね。
医療・介護サービスも実施主体が国家規模の巨大組織になってくるともちろん「医療が逆にコントロールされてしまう」弊害も大きいでしょうが、日本の場合か ねて中小の民間医療機関が乱立していることが医療の効率を下げていると指摘されている訳ですから、むしろある程度の統合合併を進めていった方がよろしかろ うと言う考え方も出来そうです。
ただその場合今までは「我が輩は医療法人○○会の理事長である!」と好き放題権勢を振るってきた経営者側の方々は数多くが肩書きをなくすことになるでしょうから、表向きの理由をどうつけるかは別としても医師会としては到底賛同できる話ではないのかなとも思います。

医師会という組織の利点として考えて見ますと、本当のところでは経営者視点での利益誘導ということであるにせよ、表向き医師というものへの世間の信頼に乗っかることである程度公共性が世間では認められている、その結果そこらの単なる営利企業等に比べれば自治体との連携なども行いやすいんだろうなとは思います。
中小介護業者などはどこもかつかつで必死に経営に苦労している中で、同業の他事業所からM&Aだ、買収合併だと言われてもなかなか決心もつかないでしょうが、そこに「医師会が仲立ちに役所がサポートして地域の高齢者サービスを再編成します。どうです貴事業所も参加しませんか」などと言われれば長いものには巻かれろの日本人的心情に訴えるところ大ですよね。
その意味では医師会としてはむしろどうやって統合された事業の中での主導権を握るかを考えた方が建設的かつ実利的だと思うのですが、とりあえず制度変更には何でも反対しておくという習慣が根っから身についてしまっているということなのでしょうか。

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コメント

てか普通に病院が介護施設経営してません?
病院のバックアップなかったら毎日大変でしょ?

投稿: 克也 | 2013年8月21日 (水) 07時56分

ん〜コングロマリットとか大げさなこと言わなくても民間団体が経営してたら企業的になるのは当たり前のような。
私立の病院はどこも儲けにはうるさいけど儲けを追求=悪ってことでもないし儲け度外視の公立病院が理想的な医療ですかね?
自分だったら私立で自分も儲けながら患者さんにも幸せになってもらいたいです。

投稿: ぽん太 | 2013年8月21日 (水) 08時28分

話の先は、中小の医療・介護施設の統廃合ということでしょうか。
管理人さんの仰る通り、『今までは「我が輩は医療法人○○会の理事長である!」と好き放題権勢を振るってきた経営者側の方々は数多くが肩書きをなくす』ということになって、医師会としては賛成はできないでしょうね。

投稿: JSJ | 2013年8月21日 (水) 08時59分

小回りがきく小規模事業所の魅力も捨て難いのではないかと

投稿: | 2013年8月21日 (水) 10時41分

医療介護の場合どうしても常時対応可能であることを求められますので、あるていどの規模はないと効率以前にスタッフの負担が大変ですからね。
未だに離職率も高いわけですから、最低限チームとしてローテーションが組める程度の規模は必要かと思います。
まあしかし、反対のための反対にしてももう少し口実にふさわしいものはなかったのかと今回ばかりは恐れ入りました。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月21日 (水) 12時24分

茂松茂人はよい仕事をしてる

<時間外診療>厚労省調査で医療現場混乱 回答拒否の医師も
9月7日3時8分配信 毎日新聞

 08年度の診療報酬改定を見据え、厚生労働省が開業医を対象に実施中の、時間外診療実態調査が医療現場の混乱を招いている。「夜間、休日の診療状況を調べ、時間外の報酬を検討する」というのが厚労省の言い分。しかし、「時間外診療をしない開業医の収入を減らすのが目的」と受け止めて回答を拒否する医師が相次ぎ、大阪府医師会が「非協力」を組織決定するという異例の事態になっている。
 問題の調査は、夜間診療に積極的な愛知、京都、大阪と、そうでないとされる岩手、山口、熊本の6府県の開業医が対象。日本医師会を通じ、7、8月の14日分について(1)夜間、休日の受付患者数(2)時間外加算額(3)時間外往診件数――などを回答するよう求めている。普通のアンケートにみえるが、回答する側は「厚労省の本音が透けている」と警戒している。
 厚労省は次期診療報酬改定で、開業医の時間外報酬を手厚くする代わりに初・再診料を引き下げ、夜間や休日に診療をしない開業医の収入を抑える意向だ。同省の思惑を感じ取ったという大阪府医師会は、理事会で「調査への非協力」を決定。茂松茂人理事は「厚労省調査では、昼間の努力が反映されない。開業医が夜診に積極的でない印象を与え、報酬を減らす方へ誘導する狙いがうかがえる」と話す。
 医師個人の拒否も増えている。熊本県の医師は「所得記載欄まである。夜診をしている医師の収入を知りたいというが、余計なお世話だ」と話す。周囲でも回答していない医師が多いという。
 厚労省は騒動に沈黙したままだが、大阪府医師会は昼間の往診件数なども独自に調べ、厚労省から回答を求められれば、独自調査の結果を示すという。

投稿: | 2013年8月21日 (水) 16時14分

日医会長、医療再編に慎重姿勢 首相と会談
2013/8/22 20:14日本経済新聞

 日本医師会の横倉義武会長は22日の定例会見で、政府の社会保障制度改革のプログラム法案骨子に盛り込まれた病床や医療法人の再編など医療提供体制の見直しについて「各地域の実情に応じて進めるべきだ」と述べた。同日午前、首相官邸で安倍晋三首相と会談し、慎重に進めるよう要請したことを明らかにした。

 再編を急ぐと、病院同士が過度に競争したり、競合の結果、病院経営が立ちゆかなくなって医療提供の空白地帯が出たりしかねないと指摘。医療サービスの維持向上のため慎重に進めるよう求めた。横倉会長は安倍首相と環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について意見交換した際、首相が国民皆保険の維持で「譲る気はない」と述べたことも明らかにした。

投稿: | 2013年8月23日 (金) 07時32分

ところで医療と介護を統合したら診療報酬と介護報酬の仕分けをきっちりしないと取り分で揉めそうなんだけど

投稿: kodama | 2013年8月27日 (火) 17時56分

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