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2013年8月16日 (金)

高年収社員は際限なく働かせてもかまわない?

大学と言えば最高学府というだけに各種社会慣習の改善においても最先端かというイメージもありますが、実際にはそうでもないらしいという記事が先日出ていました。

日本の大学は非常勤講師を使い捨てる「ブラック大学」(2013年7月31日ニューズウィーク日本版)

 早稲田大学が今春から非常勤講師に適用した就業規則について、早大の非常勤講師15人が6月、早大総長や理事らを労働基準法違反で東京労働局に刑事告訴した。原告の首都圏大学非常勤講師組合の松村委員長によると、非常勤講師は今年度から契約更新の上限を5年とする、と大学から一方的に通告されたという。

 大学側は労働基準法にもとづいて意見を聞いたとしているが、講師らは正当な手続きを経ていないと主張し、「早大はわれわれを5年で使い捨てるブラック大学だ」と批判している。大阪大学も今年度から非常勤講師の契約期間の上限を5年とする規定を設け、これに対しても労働組合が告訴する動きがあり、これは一部の大学の問題ではない。

 4月から改正された労働契約法では、非正規労働者が5年を超えて勤めると、本人が希望すれば期間の定めのない「正社員」に転換しなければならないため、多くの企業で契約社員などを5年で雇い止めする動きが広がっている。大学の場合は今まで事実上無期限に勤務してきた非常勤講師が多く、早大の場合は教員の6割、4000人が非常勤だというから、雇い止めの影響は大きい。

 私もいくつかの大学で非常勤講師をやったが、賃金はだいたい一コマ(90分)で7000円ぐらい。準備の時間や往復の交通費や試験などの事務にとられる時間を考えると、コンビニのアルバイトと大して変わらない。ところが専任講師や准教授になると実質的に終身雇用になり、教授になれば年収1000万円を超えるので、常勤と非常勤の格差は非常に大きい

 ある非常勤講師の場合は、1週間に10コマ掛け持ちしても年収は300万円程度で、ボーナスも昇給もないので、50過ぎても生活は苦しい。カリキュラムは毎年変わるので、いつクビになるかわからないが、大学の教師というのはつぶしがきかないので、本当にコンビニぐらいしか働き口がない

 こんなひどい差別があるのは、日本の大学だけである。文部科学省の調べによれば、アメリカの大学教員のうちテニュアをもつのは62%で、助教授では12%しかいない。一流大学ほど要件はきびしく、ハーバード大学では2300人の教員のうちテニュアは870人しかいない。それなのに日本では、准教授になったら1本も論文を書かなくても昇進し、早大の場合は70歳まで雇用が保証される。

 企業のサラリーマンは競争がないようにみえるが、いろいろな部署に配置転換され、仕事のできない社員は左遷されるので、ポスト競争は強いインセンティブになっている。ところが大学教師は専門が決まっているので、仕事のできない教師を左遷することができない。授業も学生しか聞いていないので、勤務評定もほとんどない。だから日本の大学のレベルは、主要国でも最低なのだ。

 文科省は来年度の概算要求で、10校の大学を「スーパーグローバル大学」に指定し、世界の大学ランキングの上位100校以内に入ることを目標にして100億円の予算を要求するという。しかしこのように研究者に競争がまったくない状態で、いくら補助金を出してもすぐれた研究が出てくるはずがない。

 日本の大学は、最低品質のサービスを最高料金で提供する産業である。しかも一流大学も定員割れの大学も一律に私学助成が出る。その総額は約1兆5000億円で、農業補助金に次ぐ。農業補助金が農家を甘やかして農業をだめにしたように、私学助成が大学を堕落させたのだ。助成金は大学ではなく成績優秀な学生に奨学金として出し、海外の大学にも行けるようにすればいい。グローバルに育てるべきなのは大学ではなく、人材である。

 だから日本の大学の競争力を上げるのに、100億円の予算なんか必要ない。世界の大学がどこもやっているように、教授・准教授を含むすべての教員を任期制にし、テニュア審査に合格できない教員は契約を打ち切ればいいのだ。これによって非常勤講師も優秀な研究者は教授になれ、論文を書かない教授はクビになる。それが世界の常識である。

池田信夫(経済学者)

まあ事実関係以外の部分に関しては池田氏の意見に異論がないわけでもありませんが、ともかく天下の有名大学が何ともせこい真似をしているなと誰でも思うのがこの大学の非常勤講師という地位ですよね。
年収300万もあれば良い方だ、大学病院の医員を見ろなんてまたぞろ奴隷自慢を始めたがる人もいるかも知れませんが、ともかく法的ルールはこうなっているのだからそれをかいくぐるためにこういう内部ルールにしますと堂々と宣言するというのは、改めて法的ルールでもなければ労働者の権利はなかなか尊重されないということを示しているように見えます。
大学のように労働法規についても平素偉いことをしゃべっている方々がそろっている場所でもこうだと考えるべきなのか、それとも詳しいからこそ抜け道は幾らでも考えつくのだと見るべきなのか微妙なのですが、一般の会社でも大企業と呼ばれるところになればきちんとした法務部にその筋の専門家が揃っているだろうし、こうした法律の条文の隅々まで精通した上で就業規則を練り上げているはずですよね。
そんな手ぐすね引いて待ち構えている企業に大きな手助けをすることになる話が出てきたとちょっとした話題になっているのですが、「金もしっかりもらってるんだからいいじゃないか」と簡単に済ませられないものであるようにも覆えます。

週40時間の労働規制に特例 政府検討 トヨタ、三菱重工など導入へ(2013年8月15日産経ビズ)

 一定水準以上の収入がある会社員を対象に、政府が週40時間が上限といった労働時間の規制を適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の規制除外制度)」の実験的な導入を検討していることが14日、分かった。

 年収800万円を超えるような課長級以上の社員を想定しており、一部の大企業で特例的に認める方針。経済産業省によるとトヨタ自動車や三菱重工業など数社が導入を検討しているといい、仕事の繁閑に応じた柔軟な働き方の実現による生産性向上を狙っている。

 規制除外制度の適用を受ける社員は、労働基準法で定められている時間外労働に対する残業代が支払われないほか、休日や深夜勤務の割り増しなどもなくなる。その代わり、仕事の繁閑に応じて自分の判断で働き方を決めることができるようになる。例えば、繁忙期に休日返上で集中的に働き、閑散期にはまとまった休みをとるといった働き方が可能になるとみられる。自宅勤務の活用が進むことも見込まれる。

 政府は、今秋の臨時国会に提出予定の「産業競争力強化法案」に、先進的な取り組みを進める企業に規制緩和を特例的に認める「企業実証特例制度」の創設を盛り込み、それを活用して労働時間規制の適用除外の実験導入を行う。法案の成立後、制度導入を希望する企業からの申請を受け付け、早ければ2014年度にも実施する見通しだ。

残業代ゼロ実験導入 政府方針 年収800万円超想定(2013年8月15日東京新聞)

 政府が、一定水準以上の年収がある人には週四十時間が上限といった労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の実験的な導入を、一部の企業に特例的に認める方向で検討していることが十四日、分かった。

 年収八百万円を超えるような大企業の課長級以上の社員を想定。時間外労働に対する残業代は支払わない上、休日、深夜勤務での割増賃金もない。経済産業省は自分の判断で働き方を柔軟に調整できるようになり、生産性向上につながるとしている。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは第一次安倍政権が導入を狙ったが、二〇〇七年、労働組合の反対で見送られた経緯がある。今回も労組は「過労死を引き起こす」と反発しており、政府内でも厚生労働省からは疑問の声が上がっている。

 経産省は今秋の臨時国会に提出予定の「産業競争力強化法案」に、先進的な技術開発などに取り組む企業に規制緩和を特例的に認める「企業実証特例制度」の創設を盛り込む方針。この一環で、労働時間規制の適用除外の実験的な導入も認める。

 法案成立後、導入を希望する企業から申請を受け付ける。経産省によると、トヨタ自動車や三菱重工業など数社が導入を検討しているという。実際に適用することになれば、本人の同意や労使合意も必要となる見込み。

 労働基準法は労働時間の上限を一日八時間、週四十時間と規定。これを超えると残業代の支払いが義務付けられ、休日や深夜の勤務には賃金を割り増す。現行でも実際の労働時間とは関係なく、一定時間働いたとみなして固定給を払う「裁量労働制」があるが、休日、深夜の割り増しはある

 東京管理職ユニオンの鈴木剛(たけし)書記長は「多くの管理職に裁量はない。サービス残業が常態化しているのに、際限なく働かされることになり、過労死を引き起こす」と批判。厚労省幹部は「労基法は全ての事業者と労働者に適用され、特例を認めるのはなじまない。労働条件は労使が加わった審議会で議論するのが原則だ」としている。

ま、実際に勤務時間を柔軟に使い分けて忙しいときは働き、暇な時はしっかり休むなんてことができるのかどうか、それなら月あるいは年単位で総労働時間なりを規制した方がいいんじゃないかと色々と突っ込みどころがあるのですが、とりあえずここで気になるのが「高収入を得ている役職持ちは事実自分の業務内容を自分で自由に管理できるのか?」という点でしょうか。
大企業の役職付きの方々との付き合いがそれほどないので実際にどうなのかは何とも言い難いですが、昨今どこの職場でも人員削減でスタッフ全員身を粉にして働いている中で管理職だけが自由に時間をコントロールできるかと言えば怪しいものですし、自分が暇になっても部下あるいは上司との絡みで休みなど取れないというケースが容易に想像できそうです。
要するに年俸制に近い雇用スタイルを考えているのでしょうが、年間の休日が何日で連続何日の休みを取れるといった契約をきっちり結ぶ習慣のない日本の叩き上げ労働者にこうしたスタイルが馴染めるかどうか、まずは該当者に対する労使契約をきちんとルールづけることから始めないことには単に残業代なし、時間上限なしで会社側だけが得をするということにもなりかねません。

医療の世界について言えば以前から「医師は管理職か?」という有名な命題があって、一般には部長以上の役職にある医師は管理職として扱われていると言いますが、一般の会社員と違って労働者としての独立性が高い医師という仕事では、小さな診療科で部長一人だけでやっているようなケースが決して珍しくないわけですよね。
その場合に「これ以上はオーバーワークになるから外来を制限しますね」だとか「残業が多すぎるからしばらく入院患者は引き受けません」だとか言えるものなのかどうか、個人的には実際にそれに近いことを言い出した先生も知っていますがしばらくすると病院を辞め開業されていたあたりを見るにつけ、少なくとも多くの病院で本当に自分の仕事量を管理できているような医師は存在しないように思います。
そもそも応召義務があるのに仕事量の管理など出来るはずがない、全ては患者次第じゃないかと言われればその通りで、患者を大勢待たせても外来を急がないといった自主的な手段で何とか業務量をコントロールしようとしている先生方もいらっしゃるでしょうが、それも「こんなに待たされるなら他に行く」と行列から外れていく患者さんがいてこそ成り立つ話で、現実的にはなかなか難しいでしょうね。

この話を聞いて真っ先に思い出したのが、ちょうど今年の初めに奈良の県立病院で産科医がちゃんと残業代を払え、労基法を守れと訴えを起こし、最高裁まで戦ってやっと勝訴を勝ち取ったという有名な事件があって、これによって全国の病院で当直業務などが大幅に再編されることは避けられないのでは?と大変な騒ぎになりました。
そこにこんな話が舞い込んできたことから思わず深読みしてしまいたくなりますが、例えば日本においても高年収の労働者は関連法規に縛られず純粋に雇用主との契約に従って働きましょう、などという方向に話を進めていきたい「労働規制改革派」の方々が旗を振っているのだとすると、ちょうどそのあたりで法律違反だと大騒ぎになっている医師という職種は格好のターゲットですし、判決に頭を抱えていた全国数多の病院側にも渡りに船ですよね。
もちろんアメリカなどでは医師は契約に従って高い年俸をもらい休みもしっかり取れる、日本もアメリカを目指そうなんてことを言い出してもおいそれと踊らされる医師もいないでしょうが、とりあえずは自分の労働環境は自分で守るという姿勢を自ら示していかないことには、幾らでも仕事を押しつけられいずれ押しつぶされてしまうという未来絵図を容易に想像できそうです。
高い給料をもらっているんだからもっと働けばいいじゃないかと主張する方々もいらっしゃるでしょうが、したり顔でそうしたことを言う方々よりも多くの医師達の方がずっと沢山働いていて、もうこれ以上は金をもらっても働けないと考えていることを思い出していただくべきだと思います。

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コメント

日本じゃ仕事中毒ほど出世するんだから仕方ない
効率重視の評価にかえるべきだ

投稿: こま | 2013年8月16日 (金) 09時31分

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投稿: timbangan digital | 2013年8月16日 (金) 11時28分

課長クラスが自分の仕事をコントロールできないでしょうに。
へたしたら昇進して死ぬまで働くか飼い殺されるかの二者択一になりますか。

投稿: ぽん太 | 2013年8月16日 (金) 11時41分

今のところ一部企業で実験的に行うようですが、いずれ医療業界に拡大されたとき何がどうなるかを考えると行方を注視しておく必要がありそうです。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月16日 (金) 13時47分

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130815-00017634-toyo-soci

投稿: ブラック企業のトンデモな実態 | 2013年8月16日 (金) 15時16分

ところでこれ、高給もらってる公務員も当然残業代カットするんだよね

投稿: | 2013年8月16日 (金) 17時51分

 別に高年収じゃなくても、社員は奴隷と同じと考えている経営者は多いかと。
 時給バイトでもサービス残業、定時前出社が当たり前と考えられてる国ですから。

投稿: む | 2013年8月19日 (月) 14時56分

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