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2013年8月 2日 (金)

議論分かれる高齢者への医療・介護サービス体制のあり方

本日の本題に入る前に、先日ちょっとした衝撃と共に報じられたのがこちらのニュースですが、ご覧になりましたでしょうか?

「車いすの天才科学者」ホーキング氏に安楽死を提案 85年 英紙(2013年7月29日産経ニュース)

 28日付英サンデー・タイムズ紙は「車いすの天才科学者」として有名な英ケンブリッジ大のスティーブン・ホーキング博士(71)が1985年に、体調悪化のため医師に安楽死を勧められていたと報じた。博士が新しい記録映画のインタビューで明らかにした。

 60年代に難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断を受けたホーキング氏は85年、滞在先のスイスで肺炎のため重篤な状態に陥った。医師が生命維持装置を外し安楽死させる選択肢を提案し、当時の妻、ジェーンさんが拒否したという。

 ホーキング氏は当時、世界的なベストセラーとなる「ホーキング、宇宙を語る」を執筆中だった。ALSは体を動かす神経が徐々に侵され、全身の筋肉が動かなくなる難病だが、ホーキング氏はブラックホールなどについての研究や活発な執筆活動を継続。英ヴァージン・グループが開発中の民間宇宙船にも搭乗する予定だ。(共同)

しかしホーキング博士もすでに70越えということにおどろきましたが、どうも診断が間違っているような気がしないでもないんですよね…
それはともかく、いわば世に名前が出る前のことであったとは言え安楽死というものを考えるにあたってなかなかに示唆的な事実で、特に当時の奥さんが今まで必ずしも評判がよかったとは言えなかったことから「実は大変よいことをしていた!」などと言われてもいるようです。
日本でも時に「何故こんな人が小児科で…?」と思うような歳のいった入院患者を見かけますけれども、生まれつきの病気などで非常に厳しい状態だと判っていてもやはり若いということ自体家族は元より医師にとっても忍びがたいところがあってついつい濃厚医療に走ってしまう、その結果両親も当時の担当医も先だった後で一人きり残された患者だけが延々引き継がれつつけているという状況であるようです。
格闘技であれば心技体それぞれを充実させる必要があるなどと言いますが、人間も心と体のバランスということが非常に重要なようで、ALSのように体がどんどん弱っていけば引きずられて心もどうしても弱っていきがちですし、認知症のように体は元気でも心ばかりが先にダメになってしまうのも特に家族にとっては大変に悲惨な状況ですよね。

日本の高齢者医療・介護体制は未だにこれが!という確たるものに至っていない理由の一つに「自力で食べられなくなったらそれまでとあきらめる」北欧方式のような割り切りが出来ていなかったことがあると思いますが、高齢者に過分なほどの濃厚医療をして長生きさせても家族は損をするどころか年金差益で金銭的メリットがある、そして医療機関側でも「植物園」の運営で損にはならなかったという制度的な側面もあります。
ただそれで本人や家族、あるいは医療従事者が幸せになっていたかと言えばむしろ逆であって、それが故にこのところ急に終末期医療のあり方が世間をも巻き込んでの議論になってきたとも言えますが、とりあえず患者がどんな年齢、状態でも何か具合が悪くなれば救急車に乗せて病院に運び込むのが正しいのかどうかという議論もようやくタブー視されず出来るようになってきました。
一方では老健施設不足で急性期病床にまで待機患者に浸食されているだとか、明らかに手のかかる認知症患者の介護度認定が身体的機能低下の場合に比べて低すぎるだとか、より望ましい状態に移行していくことを阻害している制度的な問題が少なからずあったのも事実ですが、それでは状況を改善するためにシステムをどう変えていくべきかという議論もこれまた一筋縄ではいかないようですね。

深刻化する認知症患者急増の裏側?入院医療めぐり深まる、医療現場と厚労省の対立(2013年7月31日ビジネスジャーナル)

 ここ数年、認知症に関する報道が増えているが、実際、認知症有病者数は急速な増加傾向にある。

 厚生労働省の調査では、65歳以上で「日常生活自立度Ⅱ」(日常生活に支障をきたす症状や行動が見られても、誰かが注意すれば自立できるレベル)の認知症高齢者数は、2010年に280万人だったが、15年に345万人、20年に410万人、25年には470万人に達する。65歳以上人口に対する比率は、10年の9.5%に対して25年には12.8%に拡大する。

 これを受けて、厚労省は昨年9月に「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)を発表し、今年4月から実施に入っている。計画は、

(1)標準的な認知症ケアパスの作成・普及
(2)早期診断・早期対応
(3)地域での生活を支える医療サービスの構築
(4)地域での生活を支える介護サービスの構築
(5)地域での日常生活・家族の支援の強化

など7つの視点で作成された。この7つのうち、地域での支援強化に3項目を割いていることから明らかなように、在宅による有病者サポートが施策の目玉である。ところが、高齢者世帯には独居世帯や高齢者のみ世帯が多く、退院後に自宅での生活が困難なケースが急増中だ。

 この問題を補おうとする施策のひとつが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)である。2011年、それまでの高齢者住宅だった高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)の3つがサ高住に一本化された。サ高住はバリアフリーの構造で、安否確認と生活相談などのサービスが付く。

 所管する国土交通省は20年までに全国60万戸を建設する計画で、建設費の10分の1、改修費の3分の1の補助金を支給することから、社会福祉法人や医療法人、介護事業会社のほかに異業種からの参入ラッシュが続き、今年1月にはすでに10万戸を突破している。

 サ高住には、土地オーナーが建設して、介護業者に運営を委託するサブリース方式もクローズアップされ、都内に複数のオフィスビルを所有する不動産管理会社の社長は「銀行から『運営委託先を紹介するから、今のビルをサ高住に改装しないか』と持ちかけられた」と話す。黒田東彦・日銀新総裁の金融緩和策次第では、ちょっとした“サ高住バブル”になる勢いだ。

●態勢整わないサ高住

 ところが、医療や介護の専門家の評価は必ずしも芳しくない。この3月22日に開かれた厚労省の老人保健健康増進等事業「認知症の人の精神科入院医療と在宅支援のあり方に関する研究会」(以下、研究会)で、全国老人福祉施設協議会の鴻江圭子副会長は「老人施設の入居者の80~90%は認知症」と説明した上で、「サ高住に重度の認知症患者が入居しようとしたら断られた例もあり、まだ態勢が整っていない」と指摘した。

 同様に、日本医師会の三上裕司常任理事もサ高住の限界を取り上げた。

「認知症の入居者が夜中(注:日中は介護福祉士など専門スタッフが常駐)に1人で部屋にいて本当に大丈夫なのだろうか? また、認知症の人はなじみの環境で暮らすことが大切だが、サ高住は、自宅でない所で暮らすことで、なじみでない環境での生活になってしまう。なじみの環境を提供するには、グループホームと小規模多機能型居宅介護の強化が必要だ」

 サ高住の評価が問われてくるのはこれからだが、認知症への対応力強化が求められるだろう。

●深まる医療現場と厚労省の対立

 さらに認知症対策では、精神科病院への入院医療も深刻な問題になっている。だが、厚労省と医療現場の認識に大きな乖離があることが、研究会で明らかになった。厚労省の原勝則老健局長は、研究会の目的に「精神科病院に入院が必要な状態増の明確化」があることに触れ、こう問題提起した。

「普通、入院の基準は医療の専門家が考えるものだが、認知症に関しては、わざわざ研究会を開かざるを得ないほど基準が単純ではない。医療の専門家が出す結論だけで、認知症対策が具体的に進むだろうか?」

 この発言に、すかさず日本精神科病院協会の山崎学会長が反発したのだ。

「精神科病院では医師が診察をして入院が必要かどうかを判断しているのに、政府の文書に“入院基準がない”と書かれてあることは理解できない」

 入院日数も俎上に載せられた。厚労省が調査した「認知症入院期間の国際比較」によると、入院期間は米国6.1日、イングランド72.2日、オランダ19日、スウェーデン13.4日、デンマーク7.8日などに対して、日本はアルツハイマー病による認知症で349.8日、血管性などによる認知症で251.5日。驚くような差が開いているのだ。精神科病院は、入院期間短縮化の時流に逆行しているのだろうか?

国際比較は恣意的なデータで、厚労省が出すのは大きな問題である」

 またしても、山崎会長が不快感を示したのだった。

欧米では認知症患者は病院に入院せず、専門の施設に入って治療を受けている。ドイツでは山奥にあるリゾートホテルを改装した施設に入る。デンマークでは居住系の施設で治療していて、その数は日本の3〜4倍もある。そうした事実を踏まえないのは恣意的なデータだ」

 研究会に厚労省からは原局長のほかに、老健局の関山昌人認知症施策総合調整官、社会・擁護局障害保健福祉部の重藤和弘精神・障害保健課長など10人近くが出席していたが、山崎会長への反論は出なかった

 このデータからは、医療費抑制に向けた入院期間短縮化に精神科病院が逆行していると読めてしまう。全国在宅療養支援診療所連絡会の新田國夫会長は「日本では退院しても帰れる場所がないから入院しているのだろう」と入院期間が長期化する背景を述べた。

 議論の前提となるデータの欠陥が明らかなことに対して、研究会座長の国立長寿医療研究センターの大島伸一総長も厳しく糾弾した。

「データの信頼性が乏しいことは大きな問題だ。データをきちんと取ることは専門家の責任であり、その責任を果たさなければ専門家を名乗る資格はない」

 政府が不都合な真実を隠蔽して、関心の矛先を変えてしまうのは、お決まりのパターンだ。しかし、いまや認知症対策は待ったなしの状況に追い込まれている。研究会は医療・介護関連の主要な団体代表者など12人の委員で構成され、5〜7回の討議を経て13年度内に報告が出される予定だ。厚労省の思惑に影響されず、医療・介護の現場視点で、ぜひとも有効な施策が報告されることを期待したい。

まあしかし、さすがに認知症で入院までさせるというのに入院期間が1~2週間というのは明らかにやっていることが日本と全く異なるんだろうなとは誰にでも想像できるところですし(認知症がたった一週間で改善するのだったらそれこそノーベル賞ですよね)、こういうデータから「日本の医療現場はこんなに国際常識から外れたことをやっている」式の議論に持ち込むのはフェアではないかなとは思います。
一方で必ずしも全てを政府陰謀論に帰着させていくのが正しいのかどうなのかで、例えば医療従事者の多くは老人患者をみて「あ、この人は以前は自立だったのに今は足腰が弱って立てなくなった、これは施設に入れなければ」と言い出すと施設入所が半年待ち、一年待ちになってくる、そして事実そういう高齢者があちらこちらの病院を2~3ヶ月毎にたらい回しにされているというケースは珍しくないですよね。
ところが地域によってはこういう人はさっさと家に帰してしまう、そしてヘルパーが毎日のように自宅に出向いて這いずり回ることしか出来ない人でも何とか自宅生活が出来るように援助するということをやっているのですが、こうしたことは医師ら医療関係者や本人家族はもちろん、地域の文化的背景として「それもあり」だというコンセンサスが必要になってくるんだろうなと思います。
「そんなことをしたらコストや手間が大変じゃないか」と言う意見もあるかも知れませんが、どんなに手厚い在宅介護をしても明らかに入院医療よりはずっと安くすむ、そしてご近所の老人が不便そうにしていれば何かと気になるのが人情と言うものですが、そうした個人の配慮レベルだった手助けを制度に取り込めば手間賃も払えるようになるのですから、人の入れ替わりの少ない田舎などではどんどん試してみていいことだと思いますね。

最近では制度に頼っていては理想的な自宅での看取りは出来ないということから、保険外で好きなように訪問看護を受けられるといったサービスも登場しているようですが、これなどはさすがに24時間のフルサービスで利用すれば月数百万単位のコストがかかると言いますからおいそれとは利用できないものの、もっと安価で簡易なサービスなら日常的にちょくちょく利用したいという人も相応にいるでしょう。
庭木の剪定や草刈りなど身の回りの仕事を頼むのに安くて便利だからとシルバー人材センターを利用するという方も多いと思いますが、例えば看護師などもあれだけ離職者が多いと問題化しているのですから、フルタイムでは無理でもちょっとした手助けなら出来ますよという人を組織化して活用したらいいだろうにと思うのに、許認可の問題や何かあった場合の責任問題などでなかなか実現は難しそうなのが現状です。
それでもあったら便利だろうに制度的にちょっと難しいと言うサービスがあるのなら、条例などでそれを認め何かあった時には公的に補償をするといった行政のバックアップを行うだけでどんどんサービスは充実していくだろうし、特に医療を初めとする社会資本が不足しがちな地方の自治体などでそうした柔軟なやり方をどんどん試してみる価値はあると思うのですけれどもね。

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コメント

ADL自立だからとグループホームに入れたら後でトラブルになることって多いんですよね。
これくらいは出来るだろうってレベルよりかなり低めに見込んでおかないと老人には難しいみたいです。
それに家族もこれくらいのことはしてくれるだろうって高めに期待してますしね。
サ高住なんかも増えたら増えたでまたトラブル続出するんでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2013年8月 2日 (金) 09時16分

ALSの平均余命は3-5年呼吸器つけても10年だからホーおじさん長生きだよね

投稿: | 2013年8月 2日 (金) 09時53分

いやまさに、なんだかんだで未だに呼吸器もつけずに元気にしてるのが不思議なんですよね。
実際よく誤診されやすいケネディ病じゃないかって説もあるようですが、初めてケネディ病が文献記載されたのが1968年で博士が診断されたのはそれ以前の1963年だそうですから仕方なかったのでしょう。
何にしろあの発声システムのレスポンスにはいつも感心するのですが、一般の患者にどんどん還元してもらいたいですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年8月 2日 (金) 11時05分

ホーキング博士っていつ死ぬかわからない難病のレッテルなけりゃあんなに有名にならなかったと思う。

投稿: アトラス | 2013年8月 2日 (金) 15時37分

日本の一般的なALSだと徳洲会みたいな経過を辿るのが普通。ホーキング博士はALSかどうか怪しい気がします。違う運動ニューロン疾患ではないでしょうか?ぜひ病理解剖を試みてほしいです。
神経変性疾患の生前臨床診断ほど当てにならないものはないです。

サ高住やグループホームのスタッフって経営者も使用人も介護のプロでも何でもないドシロウトばかりで、介護家族以下ですからね。医療側とのトラブルが絶えない。こんな所に大事な家族を預ける人間の気がしれないですよ。
粗造乱立で認知症収容所みたいなハコだけボコボコ作るくらいなら、姥捨て山でも作ったほうがマシなわけで。

投稿: 逃散前科者 | 2013年8月 2日 (金) 17時20分

医療現場視点だと、良い慢性期病院を選ぼう 武久洋三 がためになりました。
TPP開始の時に、医療制度を自民党と官僚と外資がスクラムを組んで変更しそうですね。
外資禿鷹にとって、医療と介護の毎年増え続ける予算は、おいしい。国は、限界だから新しくして誤魔化せる。
増え続ける高齢者を巡った医療現場の崩壊は、既にやばいのかもしれないです。

投稿: | 2013年8月 3日 (土) 05時49分

高齢者医療を完全独自財政にして中身も高齢者向けにカスタマイズすればいい
現役時代に保険診療あまり使ってなかった分は持ち越せるようにして

投稿: | 2013年8月 3日 (土) 07時49分

>現役時代に保険診療あまり使ってなかった分は持ち越せるようにして
 そんなの公的資金で赤字補填している健康保険でやったらだめでしょ。
健康保険の公的負担を引っぺがして年金を手厚く、の意味なら了解。其れがよいかどうかは人それぞれ。

投稿: | 2013年8月 3日 (土) 10時43分

社会保障は何をやっても持ち出しにしかならないのだから税金でやったほうが面倒がないと思うのです。
年金手続きの面倒くさいのを見てるとその人件費を削って何歳以上一律いくらにしろよって気が。

投稿: ぽん太 | 2013年8月 3日 (土) 12時21分

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