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2013年7月11日 (木)

厚労省、終末期医療ガイドラインの徹底を図る

本日の本題に入る前に、ちょうど参院選の真っ最中で社会保障政策をどうするかということは世間の関心も高い割にあまり争点になっていないと不満を感じている方も多いんじゃないかと思いますが、そんな中で今さらながらにこういう報道が出ていました。

来年4月から70~74歳医療費窓口負担増も 田村厚労相(2013年7月9日産経ニュース)

 田村憲久厚生労働相は9日午前の記者会見で、現在1割に据え置いている70~74歳の医療費窓口負担を本来の2割に戻す時期について「本則に戻すのは既定路線だ。来年度も視野に入れている」と述べ、早ければ来年4月から実施する考えを示した。

 また、「参院選が終わった後、与党としっかり議論する」とも述べ、医療費負担増に伴う低所得者対策も合わせて検討する考えも明らかにした。

 70~74歳の窓口負担は、平成18年に成立した医療制度改革関連法で、20年4月から2割に引き上げることが決まっていた。しかし、 。それ以19年の参院選で大敗した自民、公明両党が高齢者の反発を恐れて1割のまま凍結降、特例措置が続いている。

来年度から引き上げることも検討するという何年も続いている話がまたもやといったところで、とっくに決まってる話をいつまで検討しているんだかと思うのですけれども、この件に関しては日頃高齢者医療のダンピングに熱心なマスコミ諸社や国民の大多数もさっさとやれの声が高いというのに、未だに先送りしかねない勢いなのはよほどに羮に懲りたということなのでしょうか。
この特例廃止については今春の段階で来年度以降へ先送りするということになっていて、その際には夏の参院選を前に高齢者を刺激しないようにしようという話だったはずなので、わざわざ参院選の真っ最中にこうしたことを言い出すのは整合性がないようにも聞こえますが、あるいはずるずると先送りを続けることでかえって反発を招きかねないという判断なのかも知れません。
とかく昨今では社会保障費増大の続く中でも高齢者医療費をどうするかということに世間の関心も集まっていて、以前のように「現代の姥捨て山か!」などと批判していれば済むものでもなくなっていますが、例えば先日も厚労省の有識者会議で癌治療を年代別に差別化する、特に高齢者では体への負担の少ない治療や苦痛緩和などを研究すると、なかなかに含みのある10カ年戦略が示されています。
小児科の有名な格言に習って言えば老人は単に年齢を重ねた大人ではないということが医学的にも、社会的にもようやく認知され対策が始まっていると言えますが、そんな中で高齢者終末期量に関してこんな気になるデータが出ているということです。

厚労省の終末期GL、医師の34%が「知らない」(2013年7月9日日経メディカル)

 厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室は7月1日、厚労省が07年5月に策定した終末期医療のガイドラインについて改めて周知を図るため、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインについて(周知依頼)」との事務連絡を発出した。

 事務連絡は、6月27日に開催された開催された終末期医療に関する意識調査等検討会(座長:上智大生命倫理研究所教授町野朔氏)の中で公表された「人生の最終段階における医療に関する意識調査」の集計結果(速報)を受けたもの。同調査は、無作為に抽出した20歳以上の一般国民、医師、看護師、施設介護職員、施設長を対象に、2013年3月に実施された。

 その中で、医師(921人)と看護師(1434人)、施設介護職員(880人)に対して、終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインの利用状況を聞いたところ、ガイドラインを参考にしている割合は、いずれも20%前後で、施設介護職員の22.7%が最も高かった。ガイドラインを参考にしていないと答えた割合も、同様に20%前後だった。さらに、ガイドラインを知らないと回答した割合は、医師が34%、看護師が41.4%、施設介護職員が50.2%に上った。

 厚生労働省はこの結果を受け、ガイドラインの普及が不十分だと判断。事務連絡を発出して、関係機関などに周知・指導するよう改めて通知した。

思い返せば2011年末に厚労省が高齢者終末期患者に経管栄養を導入しないこともありなのでは、ということを言い出してから、直後の年明けには老年医学会から指針が出るなど非常に足早に話が進んだように、近年の社会的関心の高まりを反映して今や各関連学会で終末期医療のガイドラインという形で整備されているわけですね。
昨年末には救急医学会の調査で「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」が順調に臨床現場に普及してきているという肯定的な評価が出てきたところでしたが、この時点で救急医の8割超がガイドラインの存在を承知しているものの、実際に運用するとなるとやりづらい部分があるといった否定的な声も少なくなかったのは過渡期故のやや過剰に抑制的な内容も一因だったかと思います。
また実際にガイドラインを知ってはいてもそもそも適用しようと考えなかったという医師が相当多数に上っていたと言いますから、想像するに熱心にガイドライン通りでやって症例数を稼いでいる先生もある一方、今までのやり方と異なり使いにくいといった理由であえてガイドラインを無視している先生も多いのではと考えられますね。

いくら学会が指針を出したとは言っても実際に法律の上で何かが変わったわけでもなく、またガイドライン通りに終末期医療を中止すれば罪に問われないという判例の蓄積もない以上は現時点で運用が抑制的になるのは仕方がないし、ガイドラインそのものも万一訴えられても負けないようにあえて抑制的な内容に留まっている印象ですが、問題は今回こうした通知をわざわざ厚労省が出しているということです。
かねて必要性は言われていた高齢者終末期医療指針なども元々厚労省が声を上げてからあっという間に話がまとまったように、この分野でかなり積極的に主導権を発揮しているということは明らかだったわけですけれども、いわば人の死なせ方という非常に個人の意識差が大きい問題に関して厚労省がわざわざガイドラインを周知徹底し普及させなさいと言い出すというのは、これまたなかなか含みのある話ですよね。
冒頭の高齢者医療費の問題にしてもそうなんですが、これまで政治にしろ医学界にしろこと人の死が絡むような問題に関しては非常に歩みが遅いというのでしょうか、国民世論の高まりを待って徐々に慎重に話を進めてきた印象がありますが、このところの終末期医療問題に関しては行政主導で非常にトップダウンでの推進の動きが目立つように感じます。
別にそれによって国民世論の反発があるとか、マスコミがケシカランと声を上げているというわけでもなく、むしろ今まで公的な指針すら存在していなかったのは問題だったのではないかと関係各方面の腰の重さを叱責されかねない勢いですから、この分野に関しては実のところ国民の意識の方がはるかに先を行っていたということなのでしょうか。

患者の自己決定権尊重を建前にしている医療側がいわば「正しい死に方」を決めつけるかのような話を推進すると言うのもやはり筋が通らない話で、そうであるからこそ今まで患者家族も担当医も誰しも「これはおかしいんじゃないか」と疑問に感じる終末期医療が延々と続いていたというのも事実ですから、政府や厚労省が主導権を握って話を進めてくれるというのは現場にとってもそれなりにありがたいことではあるはずですよね。
ただここまで前のめりで進まれると一体厚労省に何があった?と疑問に感じるのも確かで、このままではガイドライン通りにお看取りをしないと終末期医療費を事後に査定しますなんてことを言い出すんじゃないかとも(半ば冗談ながら)危惧するのですが、いずれにしても終末期にどれだけ無茶な医療をやったところでどうせ患者側の支払いは同じだという制度的側面が日本の終末期医療を歪めてきた側面は大きいと思います。
諸外国では医療にあたりまずは患者家族の支払い可能な限度額というものがあって、何をするにもその限度内で選択枝を考えないことには「先生、俺たちにまで首を吊らせる気か」と言われてしまいますけれども、明らかに寿命を過ぎている高齢者と先の人生に実りが多いはずの若年者とでも同じ医療をしたから報酬も同じという考えが果たしてよいことなのかどうか、この際一緒に国民的議論の対象としてみてもいいかも知れませんね。

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コメント

(公約を問う:7)医療・介護 進む高齢化、「痛み」語らず 2013参院選
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307100762.html

投稿: | 2013年7月11日 (木) 08時27分

ガイドラインってとかく頭を冷やして冷静に判断しようって考えかたが根底にあるようにみえます。
でも臨床の現場じゃ流れをつくって家族の気持ちをもっていくことに意を注いでるってところありますからね。
現行のガイドラインを絶対視しないでどんどん使いやすく改訂していってもらいたいです。

投稿: ぽん太 | 2013年7月11日 (木) 08時50分

まだまだ過渡期のたたき台だという認識は、もちろん当事者の誰もが持っていることだと思いますよ。
ただ国が率先してこうした話をするようになったという時代に、実は一番保守的なのは当の医療関係者なのかなという気もします。
すでに公的にやっていいことになったものであれば、かねがねそうあるべしと考えてきた人ほどどんどん声を出して制度の改善に協力していったらいいと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月11日 (木) 12時07分

税金も払えず差し引きマイナスに転落した方はさっさとお引き取りいただきたいってことでしょ

投稿: ケン | 2013年7月11日 (木) 13時37分

金のこともあるだろうが、助からない状態なら楽に逝かせてやるのも人の情けでは?
延命医療に意味があるのは助かる時で、そうでないなら人生最後の苦しみを引き伸ばしているだけだろうに

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年7月11日 (木) 17時50分

「延命」「救命」難しい線引き 健康自慢の母…不本意な最期だった
http://news.infoseek.co.jp/article/sankein_snk20130711521

投稿: | 2013年7月12日 (金) 08時59分

汗水たらして働いても不本意って言われる奴隷医者哀れすぎるw

投稿: aaa | 2013年7月12日 (金) 10時14分

スペース失礼します。

Change.orgにて安楽死法制化を求める署名活動を行っています。賛同いただける方はご署名お願いします。

http://goo.gl/epuQJ

投稿: 匿名 | 2013年8月 6日 (火) 11時46分

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