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2013年7月25日 (木)

過労死しない職場と顧客満足度向上は両立し得る

某有名企業のトップが参院選に当選したことで改めてブラック企業というものに注目が集まっていますが、先日思いがけないところで思いがけない超ブラック企業が発覚したと話題になっていました。

アンパンマンは超ブラック企業であることが判明(2013年7月22日秒刊サンデー)

アンパンマン公式サイトのQ&Aに衝撃的な事実が掲載されている。7月17日に投稿されている内容「アンパンマンにお休みの日はあるの?」という内容だ。ブラック企業問題にあえぐ日本の社会において休日という設定は実に社内でもナーバスな問題で、ひとたび有休をとろうものならば周囲への影響そして上位への根回しなど様々な苦労が生じることは周知の事実。しかしアンパンマンのせかいでの「休日」というのは実に残酷なものだった。

――アンパンマン休日はゼロ

なんとアンパンマンは休みが無い。しかも雨の日も顔が濡れぬようにヘルメットをかぶり出動。つまり365日(アンパンマンの世界の1年がどのようなものかは不明だが)フル出勤・フル出動でパトロールを行い、国の治安維持等に努めるということだ。
これは「休日出勤」「有休」「残業」様々な雇用体系の問題が度々取り沙汰される日本社会において、衝撃的な雇用体系であり「休みなし」という職務は多くの従業員に「ブラック企業」と呼ばれてもおかしくない状態だ。
ちなみにパトロールの仕事は割と過酷で、空腹にあえぐ住人に自分の顔を分け与える食料配給。そして困っている住人への人的支援。「ばいきんまん」など迷惑行為を行う住人に対する治安維持などだ。また顔はある程度の衝撃や欠損を伴うと体力を消耗するので、パン工場で「新しい顔」に装着しなおさなければならないため、現場とパン工場への往復作業が生じる。

――顔は濡れたら即刻アウト

さらに鬼畜なのは顔の水没は一発アウト。その場合すべての力が抜け作業は不可能に。非常にリスキーな状態でありながらも「可食性」を重視するため、あえて棘の道を進むという「勇気」そして、住人へのおしみのない『愛』は私たち労働者のためにも多大なる感動を与えてくれる。

――給料なし

アンパンマンの世界は貨幣という制度はなく、食料や食材などを各々無償提供している。
彼は上記職務を行うことでパン工場に居候させてもらっていると考えられます。
つまり給料はありません

――超一流ブラック企業で働くアンパンマンは我らの夢と希望

休みなし、顔が濡れたらアウト、給料なし。と3拍子揃った劣悪環境で働くアンパンマンの職場は我々の世界では立派な『ブラック企業』と言っても過言ではない。だがしかし彼は文句も言わずむしろそれを生きがいとして働いている。その理由として「アンパンマン」における最大のテーマ「何のために生きるのか」が肝となってくるのだが、それについて彼は映画「いのちの星のドーリィ」にてこのように話している。

困っている人を助けることで心が温かくなる
困っている人を助けたいから無償で働きそれを生きがいとしている

申し訳ございませんでした、ブラック企業というよりもはや「宗教」のレベルだ。
もちろんアンパンマンが宗教に犯されているという考え方は全く持って現実的ではないし、夢も希望もない。ということでやはり彼の強靭的なパワーそしてメンタルを考えると『ヒーロー』以外何者でもない。
無論子供たちだけでなく、我々大人たちのヒーローでもある。
そんな彼を敬わず誰を敬う。

ブラック企業にもブラック企業なりの経営のポイントというものがあって、例えば上司からすると「こいつは使えそうだ」と言う人材をきちんと見分けて雇用するのが重要なのだそうですが、最近特に注目されているのが宗教との類似性で、苦行を苦行と思わないというレベルではなくむしろ自らを高める喜びと感じなければならないと言います。
昨今話題の某企業トップから社員に贈られる?数々のメッセージが有名になりましたけれども、例えばFAQとして「休日はどれくらいありますか?」に対する答えとして「そもそも、“休日”は与えられるものでしょうか。」「“休日”とは、“あたえられるもの”ではありません。」「休みがあっても、自分の意志で出勤する社員もいます」などと答えるというのは、まさにアンパンマンが自ら語った言葉そのものと言えますね。
最近はあちらこちらで未払い賃金訴訟が頻発していて、その背後には必ずと言っていいほど労基法無視の過酷な勤務状況が存在するわけですが、それに対して「その程度がどうした!オレなんてもっとすごいぞ!」と必ず「奴隷自慢」をし始める人が出てくるというのが非常に興味深いのですけれども、特に医療業界などは未だに法律など気にしていては仕事が出来ないなどとうそぶく人がいるのですから驚きですし、雇用主からするとまさに笑いが止まらないでしょう。
その背景事情として人員に対する労働量が多いということがしばしば原因に挙げられますが、その一つの目安として先日こんな調査があったと言います。

「健康に不安感じる」 厳しい労働環境に勤務医の約半数が回答(2013年7月19日産経ニュース)

 厳しい労働環境により「健康に不安を感じる」と答えた勤務医が46・6%に上ることが19日、全国医師ユニオンなどが実施したアンケートで分かった。医療過誤が起きる原因として「過剰業務による疲労」を挙げた勤務医も55%に上り、医療現場の過酷な労働実態が浮き彫りとなった。

 調査では勤務医の82・3%が自分の病院が医師不足だと回答61・7%が「最近やめたいと思うことがあった」と答えた。

 女性医師の環境はさらに厳しく、結婚や出産を機に離職や非常勤を選択するケースが多いことも判明。非常勤医師の36・2%は女性が占め、常勤医師に占める女性の割合(18・4%)の約2倍となった。また、26・6%が妊娠時に夜勤や当直を免除するなどの支援がなかったと答えた。

 昨年6~9月、2108人(女性医師447人)の勤務医から回答を得た。

8割が当直明けも通常勤務=医師、半数が健康不安-労組調査(2013年7月20日時事ドットコム)

 勤務医の8割が、当直明けの翌日も1日通常勤務をこなしていることが20日までに、労働組合「全国医師ユニオン」などの調査で分かった。半数が健康に不安を抱え、担当者は「医師不足による過重な負担が続いている」としている。

 調査は昨年6~9月、日本医療労働組合連合会や関係学会を通じて勤務医にアンケートを呼び掛け、2108人から回答を得た。

 それによると、当直を行う勤務医の79.4%は、当直明けの翌日も1日勤務し、32時間以上連続で働いていた。全体の46.6%が健康状態に何らかの不安を感じると回答。最近辞めたいと思ったことがある人は61.7%に上った。(2013/07/20-05:14)

この調査結果を見てどう感じるかは人それぞれですが、一昔前の調査では当直翌日にもそのまま通常勤務を行う施設が96%、すなわち「日勤-当直-日勤」という勤務スタイルは業界のデファクトスタンダードであったわけですから、それが8割に低下したというのは医療現場も幾らかの遵法意識に目覚めたと解釈すべきなのでしょうか?
さすがに昨今では「医師は日常的に30時間以上の連続勤務を行っている」という事実を全く知らないという人は少なくなってきているようですが、注目いただきたいのは多くのブラック企業では体力的余裕のある20代の若者をいわば使い捨てにしていくことで雇用コストも引き下げるという一石二鳥の効果を狙っているのに対し、医師の場合ひとたび国試に合格すれば終生医師として勘定されるということですよね。
もちろん40代、50代と年代が進んでいくにつれてさすがに過酷な勤務をこなしていくことが難しくなり、開業や老健施設などへ「ドロップアウト」していく先生も出てきますけれども、世のブラック企業に比べて勤務開始の年代が遅い上に修行期間が長いことから、ようやく一人前の医師として一本立ち出来る頃にはそろそろ体力の衰えを感じ始める時期が目前に迫っているということにもなりかねません。
先日東洋経済に「週60時間勤務は当然?「医者の不養生」の実態 こうやって不養生の医者が作られる」という記事が出ていましたけれども、医学部医学科だけにしか参加資格がない西医体、東医体といった大会が国体に次ぐ巨大体育大会であることに示されているように医学部学生の体育会系比率が高いのも、学生時代に体力をつけておかなければ物理的に仕事について行けないということなのでしょう。

「そうは言っても病院が回らないから」と言い訳をしつつ医師の人権を無視することまでは百歩譲るとしても、患者側からするとそんな連日の深夜徹夜の勤務続きで過労死寸前の医師に自分の命を預けたくはないというのは当然で、こと日本の医療現場に限って言えばどんな医療安全対策よりも医師らスタッフの労働環境改善の方が効果があると思われます。
その方策として今も根強い人気?を誇っているのが医師数を増やし需要過多に対応できるほど供給を増そうという考えで、OECD平均が口癖の某大先生はもちろんのこと先の調査を行った全国医師ユニオンが医学部定員を5割増しにして交替勤務制を導入すべきだと厚労相に要望書を提出するなど、足りないのなら増やせばいいじゃないかという考え方は最も理解しやすいものですよね。
他方では昔懐かしい医療費亡国論などを筆頭に「医師を増やすほど医療費も増え、いずれ国が破綻する」という考え方もありますが、過酷な現場にとっては正直どうでもいい医療経済学的なことはさておいても医師(医療)の存在それ自体が医療需要を喚起するという視点は実は重要で、これは本質的に現在の皆保険制度下での医療が薄利多売を行わなければ経営が立ちゆかないということを理由としています。

どこの病院でも「今はベッドが空いているから入院をもっと取るように」といった通達が出るでしょうが、仮に常時満床だとしても軽症や安定期の患者をいつまでも入院させて「これ以上受けられません」とアピールする(これも勤務医による自主的労働量軽減のテクニックとして多用されますよね)だけではこれまた経営が成り立たず、目に余るようならもっと検査や処置をばんばん行える新患に入れ替えてくださいと指導されるでしょう。
また開業医なども安定している患者をわざわざ短期処方にして何度も再診させ儲けるということを当たり前にしていて、「そんなに医者が忙しいのに自分から忙しくするようなことをするのはおかしいじゃないか」と言うのもごもっともですが、ひとたびそこに医者が存在した瞬間から食っていくためには薄利多売で数をこなさなければならないという制度設計になっていることがその根本原因です。
医療費削減に厳しいイギリスなどは本当に聴診器一本しかないようなかかりつけの家庭医にまず最初に受診しなければならない、そしてほとんどの場合は薬も出さず家でおとなしくしていろといったやり方でゲートキーパーをやっていますけれども、国民は病院できちんと医療を受けたいと思えば家庭医の許可をもらってはるか先の予約を入れてもらうか、あるいは自費で私的病院にかかるかの二者択一を迫られるわけですね。
医療費削減のやり過ぎだと日本では非常に評判の悪いイギリス方式(NHS)ですが、少ない医療スタッフで医療需要に対応し全国民にともかくも公平平等な医療を提供するという観点からは実は割に良くできたシステムで、誰でも好きなときに好きな病院にかかれ、現場スタッフも「聖職者さながらの自己犠牲」で頑張っている日本に比べてはるかに医療満足度が高いということには注目すべきだと思います。

医療を語るにあたってとかく「医療は特別だから」と言ったことばかりが強調される嫌いがありますけれども、顧客を相手にする労働集約型産業という点で世の客商売と何ら変わるところのない面も多々あるわけですから、昨今話題の接遇教育などと言わずとも他業界のノウハウを活かすことでさしたる労力も要さずに改善される部分は少なからずあるはずでしょう。
需給バランスが崩壊していると言えば例えば世に言う行列店などもそうですが、ああいったものも行列が長いということ自体に対しては実のところさほど深刻な不満は出ず、むしろ「こんな行列店で食べた」と自慢のネタになったりもするし、同じような店が並んでいても行列がない店は味もよくないんじゃないか…などと思われるという側面もありますよね。
しかし行列が短かろうが長かろうが「後から来た客に先に料理を出した」などと言うことがあれば世界一厳しい日本の顧客によって大いなる批判にさらされるというもので、とかく顧客というものは不平等にこそ非常に敏感に反応するのであって、世に言う「救急たらい回し」なども元々救急搬送は1時間2時間かかるのが当たり前であれば最初から何も問題にならなかったんじゃないかという気がします。
「診察の待ち時間が長い」という投書が舞い込むたびに「もっと頑張って待ち時間を短縮するように」というお達しが出て、現場スタッフはますます多忙になりミスが頻発しかえって余計に手間取るという悪循環も起こりがちですが、予約の患者が待っているのに飛び込みの患者を先に入れないといった当たり前の公平さを地道に追求していく方が、スタッフの心身の健康と患者の満足度の双方を確実に高めそうに思うのですけれどもね。

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コメント

科によっても違いますが外科と内科それぞれどのくらいが一番脂の乗ってる時期なんですかね?
自分の感覚だと40代くらいな気がしますがこの時期は確かに体力が落ちてくる時期でもあるから
なんか色々もったいない

投稿: | 2013年7月25日 (木) 08時19分

まったくの独断と偏見で30代から40代前半までがピークと思ってます。
それ以降だといろいろと質の個人差が激しくなってくるような。
内科系も寿命長いようでいて専門外の知識は初期研修後10年も経つと陳腐化してきますし。
でもそういうベテランの先生にもいくらでも働きどころはありますしねえ…

投稿: ぽん太 | 2013年7月25日 (木) 09時18分

看護師の託児所をなぜか女医が利用できないってどうなんだろ
医師の福利厚生があまりに軽視されているんじゃないかな

投稿: たもやん | 2013年7月25日 (木) 10時25分

専門分野に限定して仕事をすれば結構長持ちする場合もありますが、専門外の知識も手広くアップデートを続けるのは結構大変でしょう。
それに外科系や内視鏡屋はやはり目や手先の生物学的限界がありますから、院内で役付きになる頃から次第に現場からは遠ざかっていきますよね。
何の予備知識もなく自分が患者としてかかるなら30代くらいの先生が一番ありがたいかなと思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月25日 (木) 10時43分

卒後一年 はじめての臨床現場で人生初の挫折体験
卒後五年 専門研修も終わってオレ様最強!スーパーサイヤ人ハイを味わう
卒後十年 そんなのあり?というとんでも地雷症例を何度も踏む
卒後二十年 自分の知らない新知識を研修医が当たり前に知っていて愕然とする
卒後三十年 看護婦詰め所内でお荷物老人扱いされている現実を知る
卒後四十年 自分もまだまだ働けるとバイト先の老健で強がってみせる
卒後五十年 自分も昔はすごかったと入所先の老健で毎日繰り言をしている

投稿: | 2013年7月25日 (木) 11時07分

>外科系や内視鏡屋はやはり目や手先の生物学的限界
手術支援ロボットの登場で色々改善されてきてるんで70代だけどバリバリ手術してます
なんて人もこれから出てくるんですかね?

投稿: | 2013年7月25日 (木) 11時12分

新規デバイスの登場はほとんどの場合世代交代をうながす淘汰圧として作用しますね。
手元不自由なお年寄りがまともな手術できるんだったら若者がつかえば神の手にもなるでしょう。

投稿: 某内科医 | 2013年7月25日 (木) 11時32分

>手術支援ロボットの登場で色々改善されてきてるんで70代だけどバリバリ手術してます

マウス操作一つ満足に出来ない爺どもが動かすロボットに腹切り裂かれたくねえwww

投稿: aaa | 2013年7月25日 (木) 11時45分

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