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2013年7月17日 (水)

弁護士大増員計画ついに破綻 次に同じ失敗を繰り返すのは

最近相次いで報道が出ていたものですからそろそろかとは思っていましたが、やはり予想通りに国策が変更されたようです。

司法試験合格率4%…法科大学院、龍谷大も募集停止へ(2013年7月8日産経ニュース)

 龍谷大(京都市伏見区)が、法科大学院の募集を平成27年度以降、停止する方向で検討を始めた。入学者の定員割れ傾向が改善しないことなどが理由で、今年度中に結論を出すという。現在募集中の26年度入試は予定通り行う。
 同大によると、6月中旬の評議会で募集停止の方向で検討することを決めた。今後、評議会の結論を受けて法人理事会で審議し、正式決定する。
 同大の法科大学院は17年に開設。当初の定員は60人で、22年に30人、23年には25人に削減したが、今年の入学者は15人だった。今年5月現在で約60人が在籍。24年度の新司法試験合格率は4・5%だった。
 法科大学院をめぐっては明治学院大などが、すでに募集を停止。国立大でも、島根大が募集を停止することを決めた。

「合格3000人」撤回を決定=司法試験見直し―閣僚会議(2013年7月16日時事通信)

 政府の「法曹養成制度関係閣僚会議」(議長・菅義偉官房長官)は16日午前、首相官邸で会合を開き、司法試験や法科大学院の在り方に関して先に下部組織がまとめた最終報告の内容を、政府の改革方針として決定した。司法試験合格者を年間3000人程度とする政府目標を撤回し、実績が乏しい法科大学院に定員削減や統廃合を促すことが柱だ。
 菅長官は会合で「法曹を目指す有為な若者のためにもスピード感を持って各施策を推進、検討してほしい」と述べた。
 改革方針を具体化するため、政府は8月に内閣官房に担当室を設置する。日本社会にふさわしい法曹人口を提言するための調査や、統廃合などが進まない法科大学院に対する強制的な「法的措置」の検討を2年かけて行う。
 改革方針のうち、司法試験の見直しに関しては、来年の通常国会への司法試験法改正案の提出を視野に作業を進める。現在は5年で3回までの受験制限を5回までに緩和することや、7分野から出題されている短答式試験の内容を、憲法、民法、刑法の3分野に絞り込む方針だ。 

すでに久しく以前から新司法試験による弁護士業界の就職難・ワープア化が問題視されていて、昨年には総務省も「合格3000人は無理なのでは」と文部・法務両省に見直しを勧告していたのですが、ようやくそれが国策の変更に結びついたというのも数年遅かったのではないかという気がします。
しかし新司法試験によって弁護士の平均年収がたったの3年間で6割も減ったという衝撃的なデータがありましたが、実際には固定客を数多く抱えるベテランは安定的な収入を保っている一方で新規参入者は食うや食わずの生活で弁護士会の会費も払えない(=弁護士として活動出来ない)状況に追い込まれているというのは、どう考えても将来的によい状況には思えません。
その点で気になっているのが司法試験そのものはむしろさらに緩和するとも受け取れる方針も同時に示されていることですが、もちろん以前から言われている法科大学院の学費詐欺と言われる状況を考えると、定員自体を削減するにしてもすでに投資をしてしまった学生に対する救済策も必要なのは理解出来るとは言え、そこまで司法試験の意味を下落させてしまうのはどうかと言う司法関係者もやはりいらっしゃるようです。

弁護士大国のイメージが強いアメリカなどではロースクール卒業生の「薔薇色の卒後生活(実際にはほとんど嘘のようですが)」が喧伝されていることもあってか学費高騰がすごいことになっても志願者が引きも切らないそうですが、「国家資格を持っていれば将来安泰」という時代ではないことは弁護士や歯科医の相場の崩壊ぶりを見ていれば判るというもので、その次に同じ道を辿るのは医科かと懸念されているのも当然です。
これだけ医学部定員を大幅に増やし順調に医師数が伸びても未だにメディカルスクールを認めよ、医学部も新設せよと主張する方々は少なからずいますけれども、注意いただきたいのは今も深刻な医師不足が言われているのは救急診療科などいわゆる激務の診療科にほぼ限定されつつあって、他方で従来ドロップアウト先となっていたようなポジションは埋まってきたと言うことですね。
過剰が国にも認定された弁護士にしても未だに地域内に複数の弁護士がいない地域が残っていて、これでは民事訴訟もおちもちやっていられないという声があるのも事実ですが、だからといって今さら弁護士不足を訴え司法試験合格者をさらに増やせという話にならないことを考えると医師もどこまで増やすべきかという議論は必要だし、少なくとも「医師免許さえあれば食っていける」時代ではなくなっていることは当事者も理解しておく必要があるでしょう。

医師免許さえあれば食いっぱぐれはないですよね?(2013年7月16日日経メディカル)

質 問
 転職でいくつかの病院を転々とし、気付けば履歴書に病院名がたくさん並んでいます。自分なりにやってきたつもりですが、キャリアを積んでいる自信はありません。将来についての不安を少々感じつつも、「医師免許があれば食いっぱぐれはないのでは?」と思っています。今の時代、こんな考えでは甘いのでしょうか。(卒後10年目、35歳男性、内科医)

回 答
幻想です。今の世の中、それほど甘くありません

 医師免許があれば転職先には困らない、どこでも雇ってもらえる、というのは幻想です。やりたい仕事、働いてみたい病院がある人なら、なおさらです。

 言い方は悪いですが、「医師免許さえ持っていれば誰でもいい」という医療機関なら、医師不足の今、どんな経歴の持ち主でも構わず雇ってくれるかもしれません。ただし、そういうところは運営も、医師の扱いもそれなりであることがほとんどです。

 表面的にはそんな態度をおくびにも出さないものの、病院側はそういう医師を大切にしようとは思いません。恐らく「何かミスをしたら理由をつけて辞めてもらえばいい」「もっと優秀な先生がいたらそっちにしよう」と考えているはずです。

安易に転職を繰り返す人たち

 特に本人が望むような転職が難しいのは、数カ月とか半年程度で複数回の転職を繰り返している場合です。これは一般社会での転職と変わりません。医師の転職の支援をする中で私も時々、そうした出入りの激しい履歴書を目にしますが、やはり病院側に良い印象を与えません。最も敬遠されるケースと言っていいでしょう。

 転職理由を聞くと、たいてい「人間関係がうまくいかない」とか「思っていたイメージと違う」といった、傍目には取るに足らないような事柄が少なくない。こうした人たちに共通するのは、毎回似たような理由で辞めているという点です。その場合、根本的な問題を解決しない限り、どこの病院へ移ろうとも状況は変わりません。

 「雇ってくれるところがいくらでもあるのだから、我慢してまで今のところにいる必要はない」というのが、そうした人たちの言い分です。確かに今は何とかなっているのかもしれません。でも選択肢はどんどん狭まり、いつか誰からも相手にされなくなります

 当然と言えば当然ですよね。短い間に病院を転々としている医師から「信用しろ」と言われたところでなかなか難しい。まともな病院なら「これだけしょっちゅう病院を移っているということは何か問題があるんじゃないか」と見なして、はじめから採用しないでしょう。
(略)

もちろん大多数の医師は能力に差はあっても少なくとも社会的平均値以上に真面目で、職務に対しても一生懸命努力していると思いますけれども、すでに病院側から見て「医師免許持ちなら誰でもいい」という時代は終わりつつあるということですね。
ひと頃から医療現場の労働環境ということが問題視され、社会的にもその改善に理解が得られるようになってきましたけれども、職場ストレスに対する耐性は非常に個人差の大きい問題であって、また医師という人種の中で一定数はあえてストレスフルな環境に身を置くことに「やりがい」を感じているということも事実です。
要するに医師不足問題の一面とはストレスの多い職場と少ない職場の求人比率に対して、ストレス耐性の高い医師と低い医師との求職比率とが一致しないことから来ていた側面も大きかったのですが、医局制度という名の医師強制派遣システムの崩壊と立ち去り型サポタージュという過酷な現場からの自主的な撤退によって、当事者である医師個人にとってはある程度妥当な職場環境を(一定の能力とその気があれば)得られるようになってきた感があります。
その結果医師が逃散したストレスフルな職場では今まで以上に医師不足が深刻化していることが業界全体での医師不足であるかのように語られ対策が講じられてきた訳ですが、一方で逃散した医師もどこかで働かなければ食べていけない以上、ゆるい職場のおいしいポストからどんどん埋まっていくのも当たり前と言えば当たり前ですよね。

もちろん一口に医師と言ってもその能力、人格は各人各様で、昔であれば医局長が適材適所で関連病院それぞれにうまいことマッチングする医師を派遣するのが腕の見せ所だと言われていたものですが、今では各施設が自主的に求人努力をしているわけですから、はっきりいって条件の悪い施設ほど医師が集まらないのは当然の自然現象なのです。
いわゆる医師不足問題の早急な解消を主張する方々には、こうした状況を是正するために誰も行きたがらない奴隷病院に半ば強制的に医師を集める制度を作ろうとか、ドロップアウト先が一杯になるまで医師を増やせば嫌でも奴隷病院に医師が戻ってくるだろうとか、一見して極論としか思えないようなことを(言葉は飾るにせよ)大まじめに主張する方々もいらっしゃるようです。
しかしそもそも医療崩壊などと騒がれ始めた契機として一部施設の労働関連法規も何も無視した殺人的な勤務状況というものが先にあったわけで、昨今流行りのブラック企業問題を見ればまずそうした違法な労働を強いる企業側に是正を迫ると同時に、労働者側も自己の権利を学びそれを主張するよう教育を行うという対処法が当たり前に取られているわけですね。
医療の世界にも最近ようやく働きやすい病院評価などという指標が登場してきましたが、無茶な労働環境を放置するどころかむしろ是認するような対策の推進は世間の常識からも外れているということを認識する必要があるし、問題解決の手段として最も有効に使える有資格専門職としての希少性を真っ先に手放すような方法論を先行させたのではその後の交渉材料すらなくなってしまうということに他なりません。
疲れていたからという言い訳が許されない職場であるということはすでに司法の場での明らかになっているのですから、まずは真っ先にきちんと無理なく永続的な医療の提供が出来る職場環境が得られるよう改善を求めていくことは患者のためにも必要なことであって、だからこそ近年国民の側でも医師の労働環境改善に関心が高まっているのだということを当事者ももう少し重く受け止めるべきだと思いますね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

雑魚医師老医師まとめて廃業でいいって国民はお考えじゃないの?w
閉塞した白い巨塔に新陳代謝の風を吹かせようぜw

投稿: aaa | 2013年7月17日 (水) 08時58分

そういえば今年はリアル流れ者の先生に遭遇しました。
あちこちの病院で後ろ足で砂かけまくって近場じゃもう勤めるところないらしいですけどね。
でも技術さえあったら当直バイトならまだまだ食いつなげるんじゃないですか?
技術もなくて無茶ばかりする先生も健診くらいは出来るでしょ。

投稿: ぽん太 | 2013年7月17日 (水) 09時58分

 安倍晋三首相は11日、東京都内で開かれた「世界経済フォーラム ジャパン・ミーティング」の講演で「外国人医師が日本で医療をできるように制度を見直す」と述べ、外国人医師の医療行為に関する規制の緩和に意欲を示した。

 規制緩和を特例で認め、海外から企業や人材を呼び込む「国家戦略特区」の一環として、今後どのように規制を見直すかの検討が進む見通しだ。

投稿: | 2013年7月17日 (水) 10時21分

教育再生実行会議や文科省の提言などを見ると
文系理系枠の撤廃によるリベラルアーツ(教養)教育の充実や院の充実を政策として掲げてるので
おそらくアメリカをモデルに大学改革するんでしょうし既存の大学のメディカルスクール化はありそうですね。
もしやるとするといつくらいからになるんでしょうかね?

投稿: | 2013年7月17日 (水) 11時03分

なんだかんだ言っても使い方は現場で工夫するでしょうから、制度的に外国からの医師も入れるようにしておくのはいいんじゃないかと思います。
文系からの参入もどうせ大学以降でゼロから叩き込めばいいだけの話で、高校時代の数年間の区分などどうでもいい話ですしね。
ただそれだけ総動員体制を敷いてまで今の無理無茶無謀が横行する業界慣行を守る意味があるかと言われれば、これはまた別の話なんじゃないかなと言うことです。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月17日 (水) 12時30分

医局崩壊!さらば、教授という”名ばかり職” もはや国立医大の教授もリストラされる時代に
http://money.jp.msn.com/news/toyokeizai-online/医局崩壊!さらば、教授という”名ばかり職”-もはや国立医大の教授もリストラされる時代に-1

投稿: | 2013年7月17日 (水) 14時40分

医師不足への処方せん
「宿直扱い」違法、最高裁不受理で確定
県立奈良病院の産婦人科医2人の「時間外手当」訴訟

 奈良県立奈良病院の2人の産婦人科医が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」(以下、時間外手当)の支払を求めた裁判で、最高裁は2月12日、奈良県および産婦人科医双方の上告受理申し立ての不受理を決定した。「宿日直」扱いされていた時間外労働について、産婦人科医2人に計約1500万円の時間外手当の支払いを認めた大阪高裁判決が確定した(『「医師の宿日直は通常勤務」、高裁判決の全国への影響大』を参照)。

 大阪高裁は、宿日直勤務について、「実際に診療に従事した時間だけではなく、待機時間を含めて全て勤務時間」との考え方を示している。産婦人科医側の代理人弁護士の藤本卓司氏は、「我々は宅直(オンコール)の時間外手当の支払いも認めてもらうために、上告受理申し立てをしていたが、これが認められなかったのは残念」としつつ、大阪高裁判決の確定について、「医療界への影響は大きい。宿日直について1回いくらという定額で支払っている病院がほとんど。時間外手当を支払っている病院は少なく、多くの病院は全面的な見直しを求められるだろう」と評価する。

 その上で、藤本氏は、「我々の裁判の出発点は、金銭的な面よりも、過酷な医師の労働実態の改善を求めることにあった。多くの病院は、医師に過重な負担を課すことで、大きな労働問題に発展することを防いできたが、最高裁が不受理決定をし、大阪高裁判決を支持したことで、もはやごまかしが効かなくなる」と、医療現場の労働環境改善を訴えた。

 2人の産婦人科医が、2004年と2005年の2年分の未払いの時間外手当として、A医師が4427万9189円(2年間で宿日直155日、宅直120日)、B医師が4804万9566円(2年間で宿日直158日、宅直126日)の支払を求めて提訴したのは2006年12月。2009年4月の奈良地裁判決では、2004年10月25日以前は消滅時効期間が過ぎており、2004年10月26日以降の宿日直に対する時間外手当を認め、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円を支払うよう、奈良県に命じた(『「宿直」扱いは違法、奈良地裁が時間外手当支払い求める』を参照)。ただし、宅直の時間外手当は認めなかった。

 奈良県と産婦人科医側はともに、奈良地裁判決を不服として控訴、2010年11月の大阪高裁判決では、原告・被告の控訴のいずれも棄却、奈良地裁判決を支持した。

 奈良県は、大阪高裁判決後、「奈良県だけの問題にとどまらず、全国の救急医療を担う病院などにも同様のことが言える。県では対応が困難であり、厳しい医師の労働環境、全国の救急医療の状況、医師の需給状況などの現実的な状況を踏まえた慎重な判断を上級裁判所に求める」(奈良県医療政策部長)との見解を示し、上告受理申し立てをしていた。

 今回の最高裁の不受理決定を受け、奈良県では、医療政策部長のコメントとして、以下を公表している。「県の主張が認められず、大変残念に思う。県立奈良病院では、医師の宿日直勤務の処遇改善に取り組んでおり、2007年6月から、宿日直勤務中に通常勤務に従事した場合は超過勤務手当を支給する供給方式を取り入れている。医師も2006年当時の5人から、現在は9人に増えている。しかし、司法の判断も出たことであるので、今後、県立病院における救急医療等の対応について、検討してまいりたい」。

投稿: | 2013年7月17日 (水) 20時39分

「宿直扱いは違法」は当然の判決 - 藤本卓司・弁護士に聞く
各医師が声を上げ、行動し、勤務環境改善を -m3.com-

 「医療界と法曹界の反応は全く違う」。こう語るのは、奈良県立奈良病院の2人の産婦人科医が未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」(時間外手当)の支払を求め、奈良県を訴えた裁判で代理人弁護士を務めた藤本卓司氏。最高裁は2月12日、県と原告双方の上告受理申し立てを不受理と決定、医師の宿日直が時間外勤務であるとし、割増賃金の一部支払いを命じた大阪高裁判決が確定した(『「宿直扱い」違法、最高裁不受理で確定』を参照)。法曹界では「当然の判決」とされる一方、医療界では「これまでの常識を覆す判決」と受け止められること自体に問題があると藤本氏は見る。
 今回は2004年分と2005年分の未払いに関する裁判だったが、2006年分以降についても「奈良県が態度を改めない限り、提訴を続ける」と語る藤本氏に裁判の経過や医療界への影響などをお聞きした(2013年2月22日にインタビュー)。

――2006年12月に提訴された当初は、今回の結果は予想されていたのでしょうか。

「割増賃金を支払わなくても済むような、職場環境にしてほしい、という強い思いから提訴した」と語り、労働環境の改善が目的であると説明する藤本卓司氏。
 宅直(オンコール)に対する割増賃金の支払いには難しい壁がある一方、宿日直に関しては、計算方法により金額は代わり得るものの、(割増賃金の支払いが)当然認められると思っていました。

――最高裁までは行くとお考えになっていた。

 それは行くと思っていました。

――これまで同様の裁判はなかったかと思います。

 はい、ないですね。病院側を訴えるまでには、職場に居づらくなるとか、いろいろな圧力が考えられ、なかなか踏み切れないからでしょう。

――今回、提訴できた理由は。

 県立奈良病院の産婦人科の医師全員(提訴当時は5人)が、あまりにもひどい勤務環境を何とかしなければいけないと思っていたからです。現実に(原告として)当事者になられたのは2人ですが、思いは他の医師も一緒でした。皆が団結していたから、提訴に踏み切れたのでしょう。

――2010年11月の大阪高裁判決から、最高裁が上告受理申し立てを不受理とするまでに2年強かかっています。この間、何らかのやり取りはあったのでしょうか。

 全くありません。「不受理」という連絡が突然来ただけです。もちろん、もっと早く終わる事件もたくさんありますが、この程度かかる場合も結構あり、注目を浴びた重要な事件だけに時間をかけて審理されたのだと思います。

――大阪高裁判決では、宿日直については時間外勤務として割増賃金を支払うよう命じた一方、宅直に関しては、自主的に実施しており、病院の内規に宅直は定められていないとして、「労働者が使用者の指揮命令系統下に置かれているとは言えない」とされました。この判断は覆らないと思っておられたのでしょうか。

 宅直については、大阪高裁判決で「あと一歩」のところまで来ていたので、何とかもう一歩進めてくれないか、という思いはありました。この点は残念です。

――「あと一歩」と考えたのは、大阪高裁判決で、宅直について「割増賃金の支払い義務はないものの、かなり無理な状況にあり、医師の職業意識から期待された限度を超える疑いがある」と言及されたからでしょうか。

 そうです。医師の良心、倫理観に甘えて、過酷な労働環境のままにしておくやり方が問題ではないのか、と大阪高裁判決では問いかけています。

――改めて今回の裁判を整理させてください。最初の奈良地裁の判断が、大阪高裁、そして最高裁に支持されたことになりますか。文章は違っていますが、内容は変わっていない。

 はい。

――宿日直については、診療に従事した時間以外も含めて、「時間外勤務」と見なされ、割増賃金の支払いの対象とされました。この判断は、「診療に従事した時間」の多寡により解釈が変わるのでしょうか。

 分かりやすく言えば、「ほとんど仕事がない」という宿日直であれば、「断続的労働」となり、割増賃金を払わなくて済む。しかし、医師の場合には、特に産婦人科などでは、それはあり得ない。医師の場合で、宿日直して、割増賃金を払わなくて済むような病院は、日本全国を探してもほとんどないと思います。

――病棟の見回りで済む程度なら宿日直と言える。

 だけど、そのような職場はないでしょう。

――病棟を見て患者さんの急変への対応などがあれば、宿日直とは言えない。

 もちろんです。県立奈良病院のような中核的医療施設であれば、なおさらです。

――今回の裁判で、奈良県側は、「通常の労働部分は、宿日直勤務の時間帯の22.3%」という数字を出しています。

 私たちは、22.3%でも十分だと思っています。最初から正常分娩などは外し、緊急手術などに限定して、この数字を出しています。逆に言えば、それだけ(通常の労働部分の時間を)少なくしようという方向での調査でも、22.3%の時間は働いていることを認めざるを得なかったわけです。

――宅直ですが、病院の内規に宅直が定められていれば、判決は変わったのでしょうか。

 最近になり、県立奈良病院では、宅直の一部を宿日直化しました。「第二当直」と言われているようです。病院の発想としては、自宅待機だから、手当を出せない。だから病院に待機しなさいということです。そのような扱い自体、宅直は事実上、宿日直であることを認めたようなものです。今、継続中の裁判では、この辺りを主張していきます。「第二当直」でも、手が空いている時に寝ているかというと、必ずしもそうではない。日中にできなかったカルテの整理などの仕事がある。仕事が終われば、すぐに寝れるほど人間は器用でもありません。

――結果的に病院への拘束時間が長くなったり、宿日直回数が増えてしまう。

 そうです。私たちはそもそも労働環境の改善を目指していたわけですから、これは逆行です。確かに一時期よりは県立奈良病院の産婦人科医が増えたことは事実ですが、まだ絶対的に不足していると思います。

―――宅直を内規に定めて、手当を支払っている病院もあるかと思います。

 金額と労働実態、つまり宅直でも病院に呼ばれる回数が非常に多く、いったん病院に行くと、かなり長時間仕事をするとなれば、問題になるのではないでしょうか。ただ、宅直の場合は、「労働時間」という意識が薄いので、拘束時間や実際に働いた時間をきちんと把握しているケースが少なく、その点は難しいところです。

――今回は、2004年分と2005年分の宿日直と宅直に関する裁判でした。

 その後についても提訴しています。2次訴訟が2006年分と2007年分、3次訴訟が2008年分と2009年分、4次訴訟が2010年分と2011年分です。2012年分についても準備しており、早ければこの3月中に提訴します。奈良県が態度を改めない限り、提訴し続ける予定です。

 奈良県は最高裁の判断が出たにもかかわらず、現時点では和解する意思はないと言っています。2次訴訟以降も、宿日直自体の争点は一緒であるにもかかわらずです。だから訴訟を続けるしかありません。しかも、今回決定した割増賃金の支払いは3月中になる見込みです。確かに県としては手続きは大変なのかもしれませんが、労働債権であれば、すぐに支払うのが普通でしょう。

――2次訴訟以降の判決のメドは。

 2次訴訟については、結審にほとんど近づいています。結審すれば今回の最高裁の判断が出た以上、判決までは早いと思います。3次と4次の裁判についても、審理は早くなると思います。こちらが新しいことを主張したり、法律構成を考えるのは宅直の部分だけなので。

 宅直部分の判決については、「正面から割増賃金という請求は難しいかもしれないが、過酷な環境で宅直を置かざるを得ない、しかも宅直にかなり依存しなければいけない労働環境にあること自体問題なので、例えば慰謝料請求であれば、認められる可能性もある」と評論した学者もいます。この点も踏まえ、今準備している5次訴訟では、宅直に関してはさまざまな主張をすることを検討しています。

――奈良県が対応を変えるまで、訴訟を続ける。

 ただ、以前にも申し上げましたが、誤解されている部分があります。割増賃金の支払いを求める訴訟なので、「お金が欲しいのか」と捉えられがちですが、私たちは「割増賃金を支払わなくてもいいような、職場環境にしてほしい」という強い思いから提訴したのです。ただ、県をかばうわけではありませんが、国レベルの対応がないと、なかなか難しいだろうとは思います。

――今回の裁判に対する法曹界と医療界、それぞれの反応はいかがでしょうか。

 医療界と法曹界では全く違う反応です。労働事件などを手掛ける弁護士は、「宿日直に関しては、(割増賃金が認められるのは)当たり前」という反応ですね。一方、医療界では、(地裁、高裁判決に対し)「画期的な、これまでの常識を覆す判決だ」など、反響が非常に大きい。このギャップが私は不思議で仕方がない。職業分野によってはなかなか労働基準法が守られないこともある。しかし、医師という知的レベルが高い人が集まる業界で、なぜ労働基準法すら守れないことが横行するのかが不思議です。

――しかも、長時間労働は、医療安全の面からも問題。

 そうです。労働基準法で、割増賃金をかなり高めに支払うよう求めているのは、「お金さえ支払えば、何時間でも働かせていい」という趣旨からではありません。長時間労働で労働者の健康を害したり、安全に職務が遂行できなくなることを防ぐことが目的です。現実に提訴した2人の産婦人科医は、例えば突発性難聴になるなど、健康を害しています。仮に夜通し働き、注意散漫な状態で事故を起こした場合、いったい誰が責任を取ってくれるのでしょうか。

 医師の間には、「医師は聖職。労働者ではない」、「医師には医師法の応召義務があり、求められれば必ず診療しなければいけない」などの意識があるので、「労働基準法は医師には関係ない」といった漠然とした考えが見受けられます。奈良県の主張を聞いていても、時々そう感じることがありますが、その考えは正していかなければいけない。

――医師の勤務環境の改善はどのように進めればいいとお考えでしょうか。

 私たちの裁判で司法の判断が一つ出たので、それに反する扱いは違法になるはずです。

 また労働基準監督署の問題もあります。県立奈良病院では、「(割増賃金を支払う必要のない)断続的な宿日直勤務についての許可」がまだ生きています。労基署も、病院や医師を特別な目で見て、腰が引けているように思います。しかし、大阪高裁判決では、この許可は「取り消されてしかるべき」とされた。労基署に行き、「今のままでいいのか。少なくても裁判所の考え方は違うとされたのだから、速やかに見直してほしい」ということを申し入れするつもりです。

投稿: | 2013年7月17日 (水) 20時41分

つまり自ら奴隷的境遇に甘んじている医師自身が一番悪いってこと?

投稿: コン | 2013年7月18日 (木) 10時38分

最高裁の判例も出たので
医師、看護師の未払い賃金が、弁護士のネタになりそうですね。

そうなると病院側も当直料、残業代にもう少し払うことを強いられます。
当直しない、働かない医者の給料が相対的に下がるかも。

投稿: | 2013年7月18日 (木) 13時10分

最高裁の判例も出たので
医師、看護師の未払い賃金が、弁護士のネタになりそうですね。

そうなると病院側も当直料、残業代にもう少し払うことを強いられます。
当直しない、働かない医者の給料が相対的に下がるかも。

投稿: | 2013年7月18日 (木) 13時12分

こういう人ってどういうつもりなんだろ?

8月から常勤医 秋田・上小阿仁の診療所

上小阿仁村国保診療所に新たに内科医が常勤し、8月19日から診療を始める。
同村では、村の求めで昨秋から所長を務めた外科医が4月末、北秋田市内の施設に移り退職。
現在は週に5日、村外から泌尿器科と内科の計3人の医師が通いで診療している。

村によると、新たに常勤医になるのは東京都八王子市の柳一雄医師(74)。
青森県出身で弘前大学医学部を卒業後、同県内の病院などで勤務した。
1968~71年には同村の診療所の前身にあたる施設にも務めた経験があるという。
村は5月、知人を介して柳さんに所長就任を打診。6月になって
「村には知っている人もいる。頑張りたい」と了承を得たという。
村は2007年から医師を公募。これまでに4人が応じたが、
いずれも健康上の理由などで辞めている。加賀谷敏明副村長は
「医師がしょっちゅう代わるのは患者にとってもよくない。常勤医がいることで、
村民にも安心感を与えられると思う」と述べた。

http://www.asahi.com/area/akita/articles/TKY201307170649.html

投稿: 晢 | 2013年7月18日 (木) 13時52分

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