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2013年7月 3日 (水)

事故対策はリスクと利益のバランスが難しいですが

もちろん昔から驚くようなニュースは時折あったものですが、先日出たこちらの痛ましい事故報道には多くの人々がびっくりしたのではないでしょうか。

給食詰まらせ小2男児死亡...札幌(2013年6月28日読売新聞)

 札幌市南区南31西9の市立南小学校(中島啓子校長)で27日、特別支援学級の2年生の男児(7)が、給食に出されたプラムの種を喉に詰まらせて死亡した。北海道警によると、死因は窒息死。

 札幌市教委によると、事故が起きたのは同日午後0時55分頃。男児は担任教諭2人と他の児童3人と計6人で、タケノコご飯や三平汁などの給食を食べた。最後にデザートのプラム(直径約4センチ)を食べた時に、もうすぐ食べ終えるという段階で、果肉が少し残った状態の種(直径約1・5センチ)を口にいれた。男児には知的障害があり、すぐ隣にいた20歳代の女性教諭が「種は出すんだよ」と声をかけたが間に合わず、喉を詰まらせた。

 女性教諭や駆けつけた中島校長らが、男児の背中をたたいたり、口の中に手を入れたりしてはき出させようとしたがうまくいかず、119番で駆けつけた救急隊員が同1時20分頃、吸引機で取り出した。男児は札幌市内の病院に搬送されたが、同2時過ぎに死亡が確認された。

 27日午後6時半から、札幌市中央区の市教委庁舎の会議室で記者会見を開いた中島校長は「痛ましい事故を起こし、ご両親に大変申し訳ない」と述べ、声を詰まらせた。掃除機を使って種を吸い出そうともしたが、男児の口を開かせることができなかったと説明し、無念さをにじませた。一方、中島校長は事故後の対応について「救急要請が遅れたとは思っていない」と述べ、問題はなかったとの認識を示した。

思いがけず不幸な結果となったことには全くご冥福をお祈り申し上げるしかありませんが、記事から読み取れる限りではむしろ素人ばかりの現場で非常に立派な初期対応をされたのではないかという印象を受けます。
以前に「新小児科医のつぶやき」さんが丁寧にまとめられたように、こうした小児の窒息死事例などそうそうあることでもなく(実際大多数の窒息死は高齢者です)、たまたま低学年の小さな学童で知的障害があり、なおかつ種も大きかったといった偶然が重なった稀な出来事であったと言えるかと思いますね。
まさに「新小児科医のつぶやき」さんが「この程度の数になると、これをさらに減らすのは政策としては非常に難しいというか、効果を上げ難いもの」と指摘されている通りで、特に引用されている窒息死の原因食品一覧をみますと果物の種というものはリストアップされておらず、仮に民事訴訟になった場合に事故の予見可能性としては非常に低いということになるのではないかという気がします。
もちろんだからと言って結果が変わるわけでもありませんから、こうした誰のせいとも言い難い事故に対して学校や病院などは無過失補償制度なり保険なりを用意しておくべきであるかなと思うのですが、こうした事故になると必ず識者なりを自称する方々が「こんな危険性は予測出来たはずだ!」などと言い始める、その結果過剰反応とも言える「事故対策」で確かに安全にはなったんだろうけれども…ということがしばしば起こりますよね。

先日話題になった給食によるアレルギー死の事故などはアレルギー患児自体も非常に多くなっていることがそもそもの原因なのですが、深刻なアレルギー持ちの児童に弁当持参などと一律の「安全な対応」を取らず、家族ともよく相談しながらアレルギー患児専用のメニューを用意するといった努力を続けていたことが結果的に仇となったという二重の意味で不幸な事件であったわけですね。
一方で学校側と保護者向けとで献立表が複数存在するなど非常に運用上の複雑さが重なって事故の誘因となっていたことも事実で、当「ぐり研」でもせめて献立表を一種類に統一するか、いっそ藤田保衛大の宇理須厚雄教授の言うところの「『除去食の子はおかわりなし』とシンプルに運用したほうがいい」と言う見解を支持していました。
その後市当局の方で議論されて実際に先日「当面はおかわりなし」という対策が取られることになったそうですが、「そこまで言うのなら弁当持参でいいのでは」「これじゃアレルギーの子供がよけい肩身の狭い思いをするだけ」等々様々な意見が飛び交っているようで、はげしく議論の分かれそうな判断の難しい問題であることは十分に理解できます。
ただ食物アレルギーの場合一校内で100人単位の被害が出るほど対象患児が増えている、そして各人各様の原因物質に個別に対処するには運用上の複雑さがあまりに増してかえって事故リスクが増えてしまうこともあって、どうしても安全策寄りの対応が優先されてしまうのは仕方ないかなとも思いますが、冒頭の窒息事故の場合は非常に稀なケースであったことが統計的に明らかであるわけですよね。
それに対して「種のある果物は危険だ。今後は種なしかカットされたものしか出さないようにしよう」などという対策が出てくるようでは過剰反応になってしまうなと懸念しているのですが、実は別方面でも今後過剰反応が出てくるんじゃないかと懸念しているのがこうした事故のケースです。

酢酸注入で女性死亡=腸に損傷、医療ミス-横浜市大病院(2013年4月30日時事ドットコム)

 横浜市立大付属病院(平原史樹院長)は30日、入院中の50代の女性患者の栄養チューブに誤って高濃度の酢酸を注入し、女性が壊死(えし)を伴う腸炎を起こして死亡したと発表した。同日、医療事故として神奈川県警金沢署に届けたという。

 病院の説明によると、女性は昨年8月から入院し、鼻から栄養チューブを腸に通していた。4月7日にチューブが詰まったため、看護師が詰まりを除去しようと圧力をかけて酢酸を注入したが、誤って高濃度の酢酸を使用し、チューブから出た酢酸が腸を損傷。女性は24日に心不全と腎不全で死亡した。今後、酢酸の使用は中止するという。

 同病院は「当院に責任があり、深くおわびする。原因究明と再発防止に努める」としている。

酢酸希釈「におい頼り」女性死亡…医師書類送検(2013年6月27日読売新聞)

 立正佼成会付属佼成病院(東京都中野区)で2011年9月、高濃度の酢酸を使った胃がん検査を受けた練馬区の女性(当時80歳)が死亡した医療過誤を巡り、警視庁は27日、当時、同病院の内科医だった男(35)(世田谷区)を業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検した。現在も他の病院で医師を務めているという。

 発表によると、医師は同9月22日、胃がん検査の際、本来は1・5~3%の濃度に薄めて内視鏡で胃粘膜に散布する酢酸を約25%の濃度で使用。女性は吐き気などを訴えたが、適切な処置をしなかったため翌月14日、入院先の別の病院で、腸管壊死(えし)で死亡させた疑い。

 本来は酢酸と水を計量して検査液を作るが、医師はにおいの強弱で濃度を判断していた。調べに、「内視鏡検査を早く終わらせようと思い、においに頼って希釈してしまった」と供述しているという。

横浜市大のケースでは間違って高濃度酢酸液を使ってしまったのではなく、そもそもマニュアルにない高濃度酢酸液を注入するというやり方を現場の経験論として行っていたという報道もあるようで、そうなればいずれ起こるべき事故だったとも言えそうですが、お酢の充填自体は特に在宅患者で手軽に身近な素材で行える安全性、有効性およびコストのバランスに優れた方法論であって、今回はやり方が間違っていたということですね。
胃ろうなどでチューブの汚れを防止するために希釈した酢水を充填しておくのはすっかり普及しましたが、この場合用いられるのはあくまでも4%程度のごく普通の「食用酢」をさらに7~10倍に薄く希釈したものであって、そもそも濃度に関わらず閉塞チューブの再疎通効果など認められていないのですから、高濃度な「酢酸」を用いるなど安全性の上からもコストの上からも全く必要性もメリットも感じられません。
百歩譲って大学ですから施設の事情で希釈酢酸を使わざるを得ないのだということはあるかも知れませんが、その結果こうした事故が起こって「危険な酢酸を体に注入するなんて許されない」という間違った認識が世間に広まってしまうと、普段当たり前に口にしている食酢を使うことまで危険な行為であるかのように誤解されかねないというのは甚だしく迷惑なことですよね。

後段の記事の方は実は酢酸というものは胃カメラの病変観察を容易にするためにも用いられることがあり、この場合も検査に用いるには濃度が程よい食酢を希釈する方が安全性も手間も優れているのに、わざわざ危険な濃い酢酸液を「適当に」希釈して用いていたと言います(このケースではそもそも希釈の方法論としてもかなりずさんなものですが)。
内視鏡の酢酸散布は色素撒布と同様に微妙な病変の範囲描出に有効なのですが、もともと画質のいい高級な内視鏡がない末端医療機関でもお酢を使えば簡便で安上がり、なおかつ安全に病変がきれいに描出出来るとして普及してきた側面もあって、そう考えるとそこらで売っている食酢で十分なことにちょっとした間違いで生命の危険性もある酢酸を使うこと自体がどうなのかと思います。
一般に稀なリスクのために世間一般からも大いに望まれていることまで一律禁止するということはやり過ぎだろうし、逆に相応に大きなリスクがあるのに利益を重視し過ぎて過度に危険を放置するのもどうかと思いますが、ほとんどの事故でリスクと利益とはこの両極端の間のどこかに位置していて、どうバランスさせるか判断に迷うという場合が少なからずありますよね。
そして圧倒的にハイリスクな餅の危険性が放置されながら低リスクなこんにゃくゼリーばかりが危険視されるように社会的文化的背景、すなわち世間のリスクに対する許容度も考慮しなければならないので大変なのですが、別に手間もコストも変わりなく容易に抜本的対策が出来ることであればさっさとやれという話で、こんなことで方法論としての有効性までも否定されかねないリスクを冒す必要はないと思います。

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コメント

高齢化時代に対応する食育のためにも給食は濃厚流動食にすべき

投稿: | 2013年7月 3日 (水) 07時42分

でも特殊学級でそういうこと言い出してもおかしくないですね。
アレルギーの子には特別食出してるんだし。

投稿: ぽん太 | 2013年7月 3日 (水) 08時32分

学校も病院のように個別配膳にすればトラブルが減って良いのではないかと私は思うのですが、なぜそうならないのでしょうかね?
まあ、多少初期費用はかかりますが・・・

投稿: クマ | 2013年7月 3日 (水) 08時58分

その場合何度も往復するのでなければ配膳車を載せるエレベーターがいりますから。
でも食堂のある学校ならすぐ出来ることですね。
給食費滞納問題もあるし前売りチケットと引き換えにすれば親が個別に選べるのですが。

投稿: 赤城 | 2013年7月 3日 (水) 09時40分

コスト的に余裕があればカフェテリア方式がいいんでしょうけれどもね。
ただ小学生の場合何を食べていいのかの判断が不確実なのと、現行の給食費の水準では無駄の多いやり方は難しいでしょう。
私立の場合給食がなく弁当持参が多いらしいですが、公立でもいつまでも給食でなければならないということもないかなと思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月 3日 (水) 12時17分

掃除機で吸引するというやり方、いつの間にか広まってるのですな
だが実際素人がやってどの程度有効なものなのだろうかと疑問符もつくのだが

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年7月 3日 (水) 13時19分

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