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2013年7月 4日 (木)

癌拠点病院 都道府県単位での連携を強化?

同じニュースを扱った報道なのですが、見出しだけを見ていると「いったい厳しくするのか緩和するのかどっちやねん!」と突っ込みたくなるのがこちらの記事です。

手術、年4百件以上…がん拠点病院の要件厳しく(2013年7月2日読売新聞)

 がん診療体制を議論する厚生労働省の有識者検討部会は2日、専門的ながん医療を行う「がん診療連携拠点病院」の指定要件について、年間手術件数400件以上などを加え厳しくする方針で合意した。

 がん医療の質を高める狙いで、来年度にも導入される見通し。

 拠点病院は、肺、胃、肝臓、大腸、乳がんなどの専門的な治療を行う医療機関で、全国に397施設ある。これまでは、年間のがん入院患者がのべ1200人以上などを指定の目安としてきたが、診療実績などの差が大きく、十分な役割を果たしていない病院もあると指摘されてきた。

 検討部会では、年間〈1〉手術件数400件〈2〉薬物療法1000件〈3〉放射線治療200件――などを新たに指定要件に加え、満たさない場合は指定を取り消すとした。ただし、もともとの人口が少ないなどの地域事情は考慮する。

がん治療に「診療病院」 厚労省、指定要件を緩和へ (2013年7月2日日本経済新聞)

 厚生労働省の作業部会は2日、がん治療を専門的に行う「がん診療連携拠点病院」の指定要件の見直し案を大筋でまとめた。拠点病院のない地域では、患者の多い胃がんなどで一般的な手術ができる「地域がん診療病院」を新設するのが柱。拠点病院よりも指定要件を緩和する。

 厚労省は2014年度中にも新たな要件に沿って病院を指定し、がん治療の提供体制を強化する。

 厚労省は01年以降、人口などを目安につくる地域の医療圏に、拠点病院を原則1施設置くことを目指してきた。現在、計397施設の拠点病院が整備されているが、全国にある344の医療圏のうち、107医療圏には拠点病院がない。こうした地域による偏在の問題のほか、拠点病院間で生じた治療・相談体制の格差も指摘されていた。

 見直し案では、原則として拠点病院のない医療圏に診療病院の整備を進め、拠点病院と連携して患者の治療に当たることを求めた。診療病院の指定要件は、医師や医療スタッフの配置などの面で、拠点病院よりも緩和した。

 一方で拠点病院の指定要件は厳格化。診療実績はがんの手術が年間400件以上、薬物療法が同延べ1000件以上、放射線療法が同200件以上がそれぞれ望ましいとした。

記事にもありますようにこの癌診療拠点と言うもの、元々は全国各地の施設間であまりに癌診療成績に差がありすぎるのではないかということで、一定水準の医療を担保するため各地の二次医療圏に一つを目安に指定が進められてきたわけですが、そもそも二次医療圏と言っても都会と田舎では全く事情が異なるわけですから、当初からその指定には医療水準以上に政治的意図が重視されたなどと言われていたものでした。
現在全国で400弱とほぼ数字上は全二次医療圏を充足するほどの指定施設がありますが、当然ながら田舎では到底こんな要件を満足する施設が一つもないという場合もままあるわけで、今回緩和されたというのは拠点病院よりも少し格落ちした診療病院をその代替施設として認定しましょうということですね。
それだけですとものすごい数の施設が要件を満たすことになってしまいますが、一方で厳しくするというのは本来の拠点病院の認定基準を厳しくしましょうということで、実質的に全二次医療圏に拠点病院をという計画をあきらめ拠点病院の質的担保を重視したという形でしょうか。

ちなみにこの二次医療圏に一つというのが正確には「地域がん診療連携拠点病院」と言いますが、拠点病院にはこの地域拠点病院と全国的な中枢になる国立がんセンター、そしてその中間に都道府県内の癌診療の中枢となる「都道府県がん診療連携拠点病院」が指定されていて、診療のみならず医師への研修等も担当するということになっています。
先日の厚労省のワーキンググループではこの都道府県拠点病院に関してもより大きな権限を与え、地域全体での癌診療の調整薬として機能することを期待すると言う方向で議論がまとまったようなんですね。

都道府県がん拠点に権限と責任- 厚労省検討会のWGが報告書(2013年7月2日CBニュース)

 厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関するワーキンググループ(WG)」(座長=若尾文彦・国立がん研究センターがん対策情報センター長)は2日の会合で、WGとして上部組織の検討会に提出する報告書に、都道府県がん診療連携拠点病院に一定の権限を与え、各都道府県のがん診療全体を見渡し、必要な調整などをする責任を負わせる仕組みを盛り込むことを決めた。

 同WGは、がん診療連携拠点病院(拠点病院)の指定要件を見直す厚労省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の下に今年5月に設置され、4回にわたり議論を続けてきた。この中で、都道府県拠点病院が中心となり、地域の拠点病院の機能を底上げしていく方向を確認。都道府県拠点病院が、がん診療連携拠点病院連絡協議会で共有した事項を、地域の拠点病院に連絡するよう徹底するだけでなく、都道府県拠点病院は都道府県内の情報を集約し、発信する役割も担う。

 都道府県拠点病院の相談支援センターは、教育機能を備えることになり、都道府県内の相談員の継続的なスキルアップを目的とした研修を実施。都道府県拠点病院は、都道府県内で行われている臨床試験に関する情報提供を行うほか、拠点病院の機能を改善するために実施する実地調査や、PDCAサイクルの確保も主導する。
(略)

もちろん各施設が独自にやっているよりもどうせ病診病病連携だ、医療データの共有だと言われる時代なのですから、各都道府県内で有機的なネットワークを形成して統一的にやっていった方がいいだろうという理屈は判るのですが、実際のところは仕事をしているのは生身の人間なのですからなかなか難しい部分もあるのではないかなという気がします。
と言いますのもこの都道府県拠点病院というもの、顔ぶれを見ていただくと判る通り都市部ではがんセンターなども指定されているのですが地方ではほとんどが医大の付属病院で、同県内の各拠点病院が同じ大学の系列ということであればこれは何も問題はないわけです。
しかしこうした地方のいわゆる駅弁医大は多くの場合県内有力病院の人事さえ周辺有力大学に握られていることが多く、一方で癌に限らずおよそ疾患の治療法というものは各医師の所属する大学の系列に依存することが多いですから、都道府県の中枢たる都道府県拠点病院と県内の有力拠点病院との間で治療方針が全く違ってくるということもままありそうですよね。

学会などでも各大学が影響力を発揮するために評議員を何人送り込めるか競ったりだとか、大規模臨床試験なども都道府県単位でということはまず無くて大学の系列等に従って行われていることを考えると、特に名門医学部から地方の関連病院に降ってきた偉い先生が学会内で影響力もない田舎大学の言う通りの診療を行うという光景も想像しがたいものがあります。
ましてや今回都道府県拠点病院が県内各地の拠点病院の機能や連携を改善するために指導力を発揮することを求められているわけですけれども、文字通り解釈すれば学閥の壁を越えて診療について口出しをしていいというふうに聞こえますから、「おたくの病院も今度から県下統一の治療法でやってくれ」などと強圧的なことを言い出せば下手をすると各地でまたぞろ医療崩壊と言われるかも知れずですね。
すでに久しく以前から大学の医局制度も崩壊したなどと言われながら、何十年も続いてきた制度だけに未だ中堅からベテラン層に関しては豊富な人材をどこも沢山抱え込んでいるわけで、こうした手駒が各地の中核病院で偉い役職についている以上はやはりその影響力と相互関係を無視して「かくあるべし」論だけで采配することには無理があるんじゃないかという気がしますが、実際に何がどうなるのかは今後に要注目でしょうか。

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コメント

当県も各大学の勢力圏が複雑に入り乱れてますからすりあわせは大変でしょうね。
でも施設数400でこれだけの症例数だったら地域によっちゃ患者の奪い合いも起こりそうですけど。

投稿: 玉田 | 2013年7月 4日 (木) 08時57分

ためしに県内の指定病院をみてみましたらやはり地域性はかなり偏ってました。
これだったらもっと近い場所で治療受けたいって人も多いんじゃ?
送る方は専門家にみてもらってくださいですむから楽っちゃ楽なんですが。

投稿: ぽん太 | 2013年7月 4日 (木) 09時40分

たとえば胃や大腸で病期も進んでいない、場所も難しくないといった場合であれば、正直どこの施設で治療しても大差ないはずですよね(大差があったら困りますが)。
ただ厚労省の議論を見るととにかく癌は拠点病院に集約化という流れのようで、もちろん数をこなせばそれだけ技術的にも向上するし一定の質を担保するという考え方は理解できますが、果たして正しいのかという気もします。
今議論されている専門医制度改革などと合わせて考えると、近い将来中小の市中医療機関ではcommon diseaseくらいしか診られなくなってかえって国全体での医療格差が拡大するんじゃないかという懸念を覚えますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月 4日 (木) 11時20分

医者は学閥を破棄したらどうなんだ?患者の命より学閥優先ってどうなんだ

投稿: | 2013年7月 4日 (木) 11時55分

>近い将来中小の市中医療機関ではcommon diseaseくらいしか診られなくなってかえって国全体での医療格差が拡大するんじゃないか
悪くない方針だと思います。

投稿: JSJ | 2013年7月 4日 (木) 11時58分

現行の医療制度は医師のギリギリの犠牲によって成り立っている
すなわちこれ以上の犠牲を強いる制度は存続できない
ゆえにあらゆる制度変化は医師によっては改善にしかならないw

投稿: aaa | 2013年7月 4日 (木) 13時34分

自治体病院とかとにかく金がないので、ガンを診療する体制を放棄したほうが得策かもしれません。
今後高齢者の増加とともにガンが増加するでしょうが、医療費を抑制するためには無駄にCTとかで見つけないほうがいいかもしれません。見つけたところで余計な治療されて苦行するだけなので医療費のムダ使いな気がします。

投稿: 逃散前科者 | 2013年7月 4日 (木) 16時13分

ひとたびドサ回りコースに入れば二度と脱出できなくなりそうですな
まあしかしそれもまた面白いか

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年7月 4日 (木) 17時49分

>医者は学閥を破棄したらどうなんだ?

そうなったら今度はきっと独占禁止法違反になるでしょ。
ところで急性期じゃきちんと地域内の連携がすすんでるみたいですね。
でもこれってERつくっとけばよかったんじゃないかって気もしますが。

地域で診る! 急性期患者の受け入れ分担-長崎大病院と20病院連携
http://gurikenblog.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-b5b5.html

投稿: ぽん太 | 2013年7月 5日 (金) 09時22分

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