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2013年7月23日 (火)

産科無過失補償制度 ようやく対象拡大を検討

本日の本題に入る前に、先日少しばかりおもしろそうな試みが社会実験として行われているというニュースが出ていましたので紹介しておきましょう。

薬局で糖尿病スクリーニング、成果に手応え-3割に受診勧奨、早期発見プロジェクト(2013年7月17日CBニュース)

 薬局で気軽に血液検査を行い、糖尿病の早期発見につなげようという社会実験プロジェクト「糖尿病診断アクセス革命」で、これまでに検査を受けた約2500人のうち、糖尿病や予備群と疑われる人は約3割に上ったことが、プロジェクト代表を務める矢作直也・筑波大准教授らのまとめで分かった。健康診断をきちんと受けていないという人も多く、矢作准教授は、「薬局という『新たなスクリーニング検査の場』が生かされた」としている。

 プロジェクトは2010年10月にスタート。現在は東京都足立区と徳島県内で展開している。参加薬局計20店舗に、HbA1c値を測定する小型検査機器を設置。薬局の利用者で希望する人は、薬剤師の説明を受けた上で、指先に自己穿刺を行い、測定する。その場で結果が分かり、糖尿病や予備群が疑われる場合には、薬剤師が連携医療機関への受診を勧めるという仕組み。医療機関や健診などに比べて敷居の低い薬局を「地域の健康拠点」とする狙いだ。

 このほどまとまった報告書によると、今年6月までに検査を受けたのは2514人。このうち、糖尿病が強く疑われる人(HbA1c=6.5%以上)は298人(約12%)、予備群と疑われる人(同6.0-6.4%)は413人(約16%)で、合わせて約3割が受診勧奨の対象となった。2514人のうち、43%は定期的な健康診断を受けていなかった

 矢作准教授は、「薬局と医療機関の地域連携で、早期発見・受診勧奨をするシステムの有用性が示された」とし、さらに取り組みを広げたい考えだ。しかし、これまでプロジェクトを展開する中で、保健所の許可を得られるかどうかが地域ごとに異なったといい、血液検査などを行う施設の届け出などを定めた臨床検査技師法の解釈を明確にする必要性を指摘している。この点については現在、国の産業競争力会議や規制改革会議などで検討が進んでいるという。【烏美紀子】

保健所にしてもまた何かあれば責任を取らされることを恐れてか?渋いことを言う場合もあるようですが、こうした試みは公衆衛生学的にも意義がありそうなことなのですから本来保健所の方が率先して動いてもよさそうな話だと思うのですけれどもね。
もちろん表向き糖尿病管理をしっかりして地域住民の健康を向上させるといった目的もあるのでしょうけれども、この記事を読んで思ったことに健診も受けないような人たちがどの程度自分でこうした自己検査を行おうという気になるものなのか、そしてもう一つは糖尿病が疑われたとしてどの程度精密検査を受けに医療機関を受診したかということです。
臨床医療に関係する方々であれば誰でもご存知の通り、およそ糖尿病持ちという人種はその独特なキャラクターでどこの施設でも「ああ、あの人」と顔パスで通るケースも多いと思いますけれども、その特徴の一つとして医学的な指示に従おうとしないということも挙げられると思います。
あなたは病人だからこれこれしなければ駄目ですよと言われても満足に従えない人が、自分から検査をやってみて病院に来るなどというしおらしい態度に出るものだろうかという疑問がありますけれども、逆にそのあたりの行動パターンの差異と疾患重症度の間とに相関なりが見られるようならおもしろいテーマにはなるかも知れませんね。

余談はそれとして本日の本題ですけれども、出産時の脳性麻痺に対する無過失補償制度について保険金支払い例が予想されたものよりずっと少なく済んでいることから、一分娩あたり3万円を徴収している掛け金が大きな過剰になり返還訴訟も起きているということが報じられていました。
そもそも当初から予想された巨額の過剰金を天下り団体である評価機構と保険会社とで山分けするという見え見えな制度設計が行われているこの無過失補償制度ですが、それならそれで補償範囲を広くとって手厚い補償をするならまだしも理解が得られたものを、全妊婦から無差別にお金を集めておいて補償の対象になるのは極めて限定されているのでは理解は得られないでしょうね。
さすがに世間の冷たい視線が気になってきたということでしょうか、評価機構側でもこういうことをようやく言い出したというニュースが出ていましたので紹介しておきましょう。

出産事故の補償対象拡大…剰余金100億円活用(2013年7月21日読売新聞)

 出産事故で重い脳性まひになった子どもに補償金を支払う産科医療補償制度で、脳性まひ発症状況の調査をしていた日本医療機能評価機構の専門委員会が、対象者を年481人とする推計値をまとめたことがわかった。

 

制度設計の基準となった対象者数(年800人)に比べ下方修正された形で、年約100億円の剰余金発生が見込まれる結果だ。同機構は23日の運営委員会で、補償対象拡大など見直し策の検討に入る。

 同制度は、訴訟リスクから産科医離れが進んでいるという医療界の危機感を受け、2009年1月に国が創設。健康保険から支給される出産育児一時金の中から、3万円が掛け金に充てられている。補償金は対象者1人当たり総額3000万円。だが、申請数が当初の見込みより少なく、専門委が対象者数の再調査を進めていた。

 脳性まひの発症状況のデータはほとんどなく、当初は、沖縄県などの限定的なデータを基に制度設計された。関係者によると、今回は、沖縄県の1988~2009年出生者のより詳細なデータに加え、行政や医師の協力で栃木、三重県の05~09年出生者のデータも得られ、分析の結果、年340~623人となる可能性が高く、対象者を年481人と推計した。

 全員に補償金が支払われたとしても、年約100億円の剰余金が出る。補償の対象は現在、原則として妊娠33週以上で出生体重2000グラム以上の子どもに限られているが、運営委では、条件緩和による対象拡大や補償金増額を中心に見直し策を協議する。

以前にも推計したことがありますが、脳性麻痺児が年間3000人生まれるとして補償対象になる妊娠33週以上のものはせいぜいその半数程度であり、残る半数は最初から補償の対象外とされてきたことが正しいのかどうかです。
かつて医療訴訟盛んなアメリカでは脳性麻痺児が生まれることを恐れた産科医が経腟分娩を忌避して帝王切開が激増しましたが、それでも脳性麻痺は全く減らなかったという有名な話があって、現在では脳性麻痺は分娩時のトラブルに起因するのではなくもともと生まれもっての原因によるものだろうと言われているようです。
そうでありながら分娩時のトラブルに起因する「かも知れない」妊娠後期の例だけを対象にするという制度設計はあくまで医療訴訟回避のためだからと言えばそれまでですが、保険の運用があっぷあっぷであるならともかくあまりに補償件数が少なすぎて過剰金の返還訴訟が起こるくらいなのですから、さっさと全例補償対象にすればいいのにと誰でも思いますよね。

一応は運用の状況を見て5年後を目処に制度改定を行うという話にそった今回の見直しですけれども、過去の議論を見ればいきなり全例補償対象にするということではなく、またぞろ新たな条件付けを行い部分的な補償に留まる可能性があると思われ、何故そうした区分を設けるのかという理由をきちんと示してもらわなければ納得は得られないでしょう。
一応表向きには損金が出れば保険会社の損害になると言うことで、赤字前提で制度設計をしてしまえば保険会社が引き受けてくれなくなるよと言いたいのでしょうが、過剰金は好き放題に使っていいのに一円でも損が出るのは困るというのでは公的な補償制度としてどうなのかで、この辺りはきちんと外部から監査を行っていかなければならないと思います。
また制度の基本的理念として補償事例にはきちんと調査を行い原因究明と再発防止を図るということがありますが、そちらの手間が激増すれば単純に医療側のマンパワーも今まで以上に要求されるでしょうし、そもそも易学的に見て何か原因があって脳性麻痺が起こってしまったというケースはむしろ少数例だろうと予想されるのに、存在しない理由を探して調査をするというのもおかしな話ですよね。
産科無過失補償制度は医療全般を対象にした無過失補償制度のひな形とも期待されているわけですが、少数例を対象にすることを前提にした制度設計が無節操に対象拡大されると大変過ぎて困るという人も確かにいるはずで、いちいち調査をし教訓を考えるのが面倒になってきたから対象を制限しよう、などと本末転倒なことにならないよう考えて見る必要もありそうです。

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コメント

弱者救済の立場からは補償範囲を広げるのは正しいでしょう。
ただ無過失補償って訴訟対策の側面もあったんですよね。
病院で死んだら全例見舞金支給みたいなバラマキな感じもしないでもないです。

投稿: ぽん太 | 2013年7月23日 (火) 08時49分

>>病院で死んだら全例見舞金支給みたいなバラマキな感じもしないでもないです。
患者が自分で保険金積み立ててやるなら全く問題ないかと。

投稿: tama | 2013年7月23日 (火) 09時38分

制度の目的をどこにおくかは難しいところですが、現実的に数日の違いでほぼ同じような患児が補償対象になったりならなかったりするのではかえってトラブルの元かと思います。
その意味では確かに患者が自分で(実際には公費ですが)お金を出して保険に入ってくれているのですから、ある意味気楽な制度とは言えそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月23日 (火) 11時55分

とりあえず金返すか料金下げるかしろ

投稿: | 2013年7月23日 (火) 20時25分

薬局で検査もして軽い薬も出せるようになったら医師の仕事減りますよね?
生活習慣病くらいならそういうやり方もいいんじゃないですか?

投稿: てんてん | 2013年7月24日 (水) 18時37分

そうしたことを主張する医師もおりますが、万一の場合に責任が取れぬと言う医師もいますな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年7月24日 (水) 19時49分

保険にも入ってない医師怖すぎ


勤務医7割超が医賠責に加入-ケアネット調査

医療介護CBニュース 7月25日(木)17時5分配信

 ケアネットが勤務医1000人にアンケート調査を実施したところ、7割超が医師賠償責任保険(医賠責)に加入していることが分かった。年代別では、若い年代ほど、加入率が高かった。また、加入した理由は、「自分自身が訴訟の対象になるのが不安」という回答が最も多かった。

 この調査は、ケアネットが会員の勤務医を対象に12日、インターネットを通じて実施。保険料を自己負担している医賠責について聞いた。

 医賠責に加入しているかについては、全体の73.4%が加入していると回答。年代別に見ると、60代以上が51.2%、50代が69.9%、40代が77.3%、20-30代が80.0%と、年代が低いほど加入率が高かった。

 加入の理由は複数回答で、「(病院でなく)自分自身が訴訟の対象になるのが不安」(72.1%)がトップで、「いざとなったら、勤務先が守ってくれるとは思えない」「複数施設で勤務しているため」(共に50.1%)がこれに次いだ。【君塚靖】

投稿: | 2013年7月26日 (金) 10時54分

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