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2013年7月26日 (金)

EPAをとっかかりに今度は日本から医療の逆輸出?

経済連携協定に基づきアジア各国から看護師の受け入れが図られていますけれども、日本語能力というハードルの高さによってその大部分が日本の国試に合格できないまま離日しているということが知られています。
もちろん急性期基幹病院に言葉の理解が難しい看護婦を入れて緊急処置が正しく出来るかと言われればまあ難しいだろうなと答えるしかありませんが、例の7:1看護基準で大学病院(苦笑)を初めとする基幹病院が多数の看護師を抱え込むようになった結果、末端医療機関では看護師不足がより一層深刻化していることは周知の通りですよね。
慢性期の病床でcureよりもcareを行っているような環境で別に大急ぎで詳細な専門用語を理解し実行するような必要性は乏しく、看護師としての基礎的な手技に加えて日常会話程度の意思疎通が出来れば当面十分であるという施設も多いはずですから、EPAによる受け入れ事業に手を挙げる施設が殺到して完全な求人過多になっていると言うのも当然と言えば当然でしょう。
ただもちろん来日する外国人看護師側にも言い分はあるはずで、先日こんな記事が出ていましたがなるほどごもっともと頷けることも多いですよね。

EPA看護師らへ「精神的な支援が大切」- 市民ボランティア団体(2013年7月22日CBニュース)

 EPA(経済連携協定)に伴う看護師候補者や介護福祉士候補者の受け入れ支援を行っている市民ボランティア団体「ガルーダ・サポーターズ」は21日、講演会「これまでとこれからの EPA看護師・介護福祉士の受け入れ」を開いた。会では、看護師試験に合格し、東京都内の病院で働いているインドネシアとフィリピンの看護師が登壇。現在の勤務状況を語った上で、「(EPAの枠組みで来日した看護師・介護福祉士候補者に対する)精神的な支援が大切」などと訴えた。

 インドネシア出身で、看護師試験後は東京都内の病院で勤務しているデウィ・セプティヤスリニさんは、来日してから看護師試験に合格するまでに苦労した点として、漢字の多い専門用語の読解や、勤務の疲れで帰宅後に勉強することが難しかった点などを挙げた。また、家族と離れ、友人や知人が少ない日本で生活すること自体が大変だったと語った上で、「EPAの枠組みで来日する人を精神的に支えることも大切」と述べた。

 フィリピン出身で、看護師試験に合格した後、デウィさんと同じ病院で働くエクセルシス・ジョン・カドウンゴッグ・ボルボンさんは、専門用語が使われるカルテの内容を把握する際には、今でも日本人スタッフより時間がかかることなどを説明。この点について「日本人のスタッフも理解してほしい」と訴えた。また、休暇を取れる体制を整えることも重要と指摘した。

 会では、ベトナム人看護師養成支援事業などに携わっているNPO法人「AHPネットワークス」の二文字屋修事務長が、来年、初来日するベトナム人の看護師と介護福祉士の候補者の受け入れについて講演した。二文字屋事務長は、現在、ベトナムの首都・ハノイで25人の看護師候補者と125人の介護福祉士候補者が日本語研修に取り組んでいることなどを紹介。一方、過去に日本で介護福祉士の資格を取得したベトナム人は、EPAの枠組みを使って再来日することはできない点や、ベトナムで日本語教育を終えた後、来日するまで5か月から半年のブランクがある点などを問題点として挙げた。

 また、EPAの枠組みによる看護師・介護福祉士候補者の受け入れについて、他国からの評価は低いとした上で、「民間の視点から行政を評価する必要があるのではないか」と提案。特に候補者を受け入れる日本側の施設の約7割が、その指導に当たる人材確保に苦しんでいる点を挙げ、候補者が病院や施設ではなく専門学校などの養成施設に就学する「就学コース」を改めて設置する必要があると訴えた。【ただ正芳】

EPAによる来日の場合せっかく受け入れ先施設での研修に馴染んできても、国試合格までの年限が限られ失敗すれば離日しなければならないなど制度的な問題も多いという点は改善が求められるところで、資格の如何を問わず仕事があり求人があるのですから期間程度はもっと柔軟に対応出来るのではないかという気がします。
その場合は看護スタッフではなく介護スタッフとして働くことになり母国でプロフェッショナルな職歴を積んできた方々には不満もあるでしょうが、日本で現状EPAに求められているのは末端臨床の現場で泥臭い仕事をしてくれる即戦力の人材が主体であるということを募集の段階できちんと周知徹底しておかないと、「日本で高度な看護を学びたかったのに」と不満を募らせる人が続出することにもなりかねません。
一方で昨今たびたび話題になる特区を作って外国人医師が働きやすいようにするといった話と同じ理屈で、外国人看護師がそのまま当たり前に国内で働ける制度を特区なりで作ってみるという方向も十分検討出来るはずですが、どうもEPAがあるのだからそれでいいじゃないか的な捉え方をされているのでは前述のような「高学歴志向」の方々にとってはやりにくいでしょうね。
ところで先日おもしろいと思ったのは、昨今政府も日本の医療をもっと外国に売り込んでいこうと盛んに海外進出を奨励しているのですけれども、インドネシアの方で日系診療所が開設されることになったという話が出ていたので紹介してみましょう。

医療法人偕行会グループ、インドネシア初 日系医療法人の設立 現地パートナー企業と合弁カイコウ・インドネシアの設立に向けて調印式を実施(2013年7月23日産経ビズ)

医療法人偕行会グループ(本部:愛知県名古屋市)のジャカルタ・カイコウカイ・ルマサキットは、インドネシア共和国ジャカルタに現地としては初の日系医療法人の設立に向けた連携体制を組むべく、現地の事業家ラフマット・ゴーベル氏が個人出資するダルマ・タマ・ヌグラハと、合弁カイコウカイ・インドネシア(資本金:480億ルピア/約4億8千万円)の設立に向けて調印式を実施しました。この取り組みは、愛知県に拠点を置く偕行会グループが推進する日本の医療技術とインドネシア両国人材のインバウンド・アウトバウンドを推進していくためのものです。

なお、今後設立する、現地医療法人の経営のもと、2013年内にジャカルタのSentral Senayan Iに、外来診療を中心としたクリニック(床面積980m2)を開業し、日本人患者はもちろんインドネシアにお住いの現地の方や駐在外国人の慢性疾患患者の治療や日系企業の職員検診といった医療サービスを提供していく計画です。

偕行会グループのインドネシアにおける事業
現地法人では、日本の高い医療技術と日立メディコ社製品を中心とした日本の医療機器をインドネシアへ輸出し、現地に医療施設を開設することで医療水準の底上げを図り、医療のアウトバウンドを推進します。

また、日本での透析医療の実績をもとにインドネシアの地元の病院のフロアを間借りする(クリニックインホスピタル)事業形態に基づき透析医療の提供も視野に事業展開を計画しています。
(略)

ジャカルタに診療所、日系企業検診など実施- 偕行会が年内に、透析施設も展開へ(2013年7月23日CBニュース)

 医療法人偕行会グループは12月、インドネシアの首都ジャカルタに無床診療所を立ち上げる。現地の患者のほか、駐在する日本人患者向けにサービスを提供。日系企業の職員検診などにも取り組む。同国での医療機関の設立には同国企業と合弁会社をつくる必要があるが、今月18日に見通しが立った。今後は5年間で、20か所の透析施設の展開も目指す

 偕行会グループは2年ほど前から、インドネシアへの進出を目指していた。グループ会社の「ジャカルタ・カイコウカイ・ルマサキット」(橋本一幸代表)が18日、現地企業の「ダルマ・タマ・ヌグラハ」と調印式を行い、合弁会社「カイコウカイ・インドネシア」を設立することで合意。合弁会社は来月中にも発足する。
 診療所の用地は、ジャカルタにあるオフィスビル「セントラル・スナヤン1」内に取得済み。現地の大学と提携し、診療に当たる医師を確保する。

 また、同グループでは現在、EPA(経済連携協定)に基づいてインドネシアから来日したが、滞在期間中に合格しなかった看護師候補者を受け入れ、滞在期間終了後も日本で受験できるよう支援している。今後は、支援を受けた候補者が帰国した場合に、現地の看護師資格と日本語能力を生かす場として、現地のクリニックや今後オープンする透析施設などでの雇用を提案していく方針だ。

 透析施設は、病院の一部を間借りする現地の制度を利用して広げていく。同グループの担当者は、「インドネシアでは、必要な医療を受けられず、命を落とす人がまだまだいる。われわれが進出することで、現地の医療水準を引き上げたい」と話している。【佐藤貴彦】

当該医療法人は愛知県を中心に透析クリニックを手広く展開しているようなのですが、現地日系企業に医療提供を行うとしてそのシステムはどのようなものになるのかという興味もさることながら、両国の人材を統合的に活用するというのはなかなかおもしろそうですよね。
特にEPAで残念ながら時間切れ帰国に追い込まれた方々の再雇用先として日本語習得というキャリアが無駄になりませんし、将来的にはこちらで働きながら日本語教育を行ってから来日し国試受験を目指すといったやり方も考えられそうです。
地域によっては日本人駐在員がかなり多く独立して日系診療所経営が出来るほどの規模になっているところも多いでしょうが、そうした場所を足がかりに日本式医療を輸出していくということが政府の青写真なのでしょうし、現地スタッフと協働しながら徐々に商売の手を広げていくことでいずれ十分な商売になると踏んで進出を図っていく企業も増えてきそうですね。

ところでこうした海外での医療を受ける場合に料金体系がどうなるのかと言うことが気になりますが、ご存知のように海外療養費制度によって海外で受けた医療も国内の保険診療でのコストを基準に後日保険者から支払いを受けることが出来ますけれども、この際に診療明細等をきちんと和訳して提出しなければならないといった面倒なルールがあります。
日系診療所であれば最初から日本語での明細が期待出来るでしょうし、またインドネシアなどでは相場的にアメリカなどよりも安価な医療が期待できますから、保険診療に相当する範囲で収まっている分には国内で医療を受ける場合よりもそう高額な自己負担をせずにすみそうだとも予想されますね。
仮に医療コストが極めて安価な国にこうした日系医療機関が進出していき現地で十分な競争力を持つようになってくれば、将来的には日本から出かけて行ってのメディカルツーリズムということも考えられるのかも知れませんが、こうしたシステムが普及してくると日本の医療現場に疲れた医師や看護師にとっても新たな勤務先の選択枝が増える結果につながるのでしょうか。

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コメント

インドネシア インド ブラジルとかこれから経済成長が見込まれる国で働いてみたいですね
医師の給与や休暇も良さそうですし日本で患者の奴隷をやるより大分マシだろうし
シンガポールにもそういえば日系の病院が進出してた気がします

投稿: | 2013年7月26日 (金) 07時48分

外国でも日本人相手に商売するなら日本で働くのとかわりなくいけるんだろうなあ。
でもこれ診察料金を日本と同水準にしたら物価差で国内よりももっと高度な医療できますかね?
保険負担分は外国でも同じように出してくれるんだったら患者さんも国内にこだわらなくでもいいような。

投稿: ぽん太 | 2013年7月26日 (金) 08時58分

そしてますます日本から医者が減っていくという

投稿: 亀 | 2013年7月26日 (金) 09時51分

アメリカなどに比べて年収は低いのに労働量は倍くらいある
こんな環境で恫喝や提訴されても患者様の為に過労死寸前まで働く日本のお医者様はバカなんじゃないかと思いますです

投稿: | 2013年7月26日 (金) 10時31分

一般論として制度的強要によって奴隷的待遇を押しつけるよりは、自由な選択枝が増えた方が労働市場のあり方として健全だとは思います。
社会資本としてその立場に甘んじるべきだと言うなら、消防救急などに見られるような組織としての強力な個人保護システムも同時に用意すべきでしょうね。
家が全焼したのは消防隊員が義務を果たさなかったからだと訴えられることに戦々恐々としながら消防車が出動していくなんて世の中は健康ではないと思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年7月26日 (金) 10時58分

そうでもしなきゃ医療崩壊しちゃうんだったら仕方ない

投稿: | 2013年7月26日 (金) 11時43分

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