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2013年6月25日 (火)

国民皆保険制度 崩壊の予兆は各方面から聞こえていますが

先日都議選があったばかりの東京都ですが、最近国保の保険料が急に高くなったと言っているようです。

東京23区 高すぎる国保料に悲鳴 「払えない」「限界」 役所に殺到(2013年6月18日しんぶん赤旗)

 国民健康保険料(税)の「納付通知書」の送付が始まっています。東京23区内では、年2万円から16万円もの値上げの人もいます。受け取った住民から「高くて払えない」「毎年値上げが繰り返され、もう限界」と悲鳴が上がっています。

 大田区在住の女性(69)は病気の子ども2人を抱え、シルバーセンターで働いています。「年金生活の両親が保険料を払ってくれていますが、ギリギリの生活です。私の収入もわずかなのに、また1万円以上も上がった。覚悟はしていましたが大変です」

 12日に通知書を発送した大田区では、翌13日から問い合わせが相次ぎ、同日窓口を訪ねた区民は101人、電話は約300件。平日の2日間で393人が訪ね、電話は900件近くにのぼりました。

 10日発送の杉並区では、国保資格係応対分だけで電話が11日から4日間で947件にのぼりました。窓口対応は4日間で180人でした。

 石原・猪瀬都政は、区市町村の国保財政への独自支援額を320億円から43億円に減額しました。その結果、国保料(税)の大幅値上げを招いています。
(略)

もちろん低所得者よりも高所得者の方が負担増は大きいのですが、それでも年収200万の給与所得者夫婦で8.5万円、同300万の子供二人を持つ給与所得者夫婦では実に16.1万円のアップだと言いますから結構な値上げというもので、そもそも医療サービスを利用していないという世帯では「使いもしない医療のために保険料を取られるのは馬鹿馬鹿しい」と考え始めるきっかけになるかも知れません。
結局のところ保険診療支出が増え続ける以上は遅かれ早かれ保険料高騰を招いてしまうのは仕方がないところで、よく言う公費投入による保険料抑制と言っても結局その分は税金で負担しているだけですから本質的な意味ではかわりがないですし、伸び続ける社会保障費をどうするか、その中でも大きな割合を占める医療費の問題は今度の参院選でも大きな争点になりそうに思いますね。
今までは国主導で医療の規模的拡大を押さえ込んで来たのは周知の通りですが、今はむしろ国は医療による経済成長戦略だなどと言い出している一方、国民の側は医療は手厚ければ手厚いほどいいという段階から少し危機感が芽生え始めているところだと思いますが、ともかくいつ以来か言われて久しい超高齢化社会に対応した社会保障のあり方というものを早急に考えていかなければならない時期であるはずです。

社会保障制度改革国民会議の議論の行方(2013年6月24日日経メディカル)

 自民党の与党復帰以降、経済政策や憲法改正ばかりがクローズアップされていると感じておられる方も多いでしょう。ですが、医療や福祉のあり方についても、これまでと全く異なる速度で議論が進んでいます

 与野党で一昨年前の夏から議論が進められている「社会保障と税の一体改革」は社会保障の充実をうたい、社会保障制度改革推進法や子ども・子育て支援法など15本の法律を整備。これらの法案の可決後の昨年11月、政府は「社会保障制度改革国民会議」を設置して、以来個別の論点についての討議を行ってきました。

 これらの議論をもとに4月22日には「これまでの社会保障制度改革国民会議における議論の整理(医療・介護分野)(案)」がまとめられ、医療・介護分野に関する方向性が示されました。そして、その中では「病院頼み、介護施設頼みからの脱却をはっきりと示すべき。看取りの体制さえできないという危機感を持って対応すべき」と明記され、これまでのままの医療提供体制では、今後の高齢者増に対応できないことが示されています。

 高齢者が増えるのに合わせて毎年1兆円づつ自然増として医療費は積み上がっていきます。国の一般会計から社会保障費への繰り入れ額が既に10兆円を超えている中、今後、どんなに医療者が技術料の増額を求めても、それを無視した増額の要求は現実的ではないのです。

 また同様に、今後増えていく高齢者に対して適切な社会保障の提供を持続していくためには、入院中心の医療ではベッドが足りません。かといって、団塊の世代が亡くなるまでの期間のためだけにベッドを増やすのは現実的ではありませんから、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する「地域包括ケア」へと変革が求められるようになるのは間違いないでしょう。

 医療政策の変革については、TPP(環太平洋経済連携協定)が注目を集めています。ですが、TPPは一種の鎖国状態にある我が国の健康保険制度に対する外圧であり、医療提供に関する構造自体を変えるものではありません。「社会保障と税の一体改革」こそが、日本の医療提供の構造自体を変え、今後の社会保障のあり方を定めるものになると私は考えています。

 社会保障国民会議は「この法律の施行の日から一年を超えない範囲内において政令で定める日まで置かれるものとする」と時限的に設置されたものです。ですから、議論のために残された時間はあと1~2カ月。ちょうど夏の参院選の後には、最終的な方向性が打ち出されることになります。
(略)

医療費が伸びるということを考える上で、保険診療以外の自費診療の部分が伸びるのは保険財政を圧迫しないのだからいいじゃないかと言う考え方もありますが、日医など混合診療反対派は先進医療など実質的な混合診療が拡大されるほど保険診療の範囲が相対的に狭まり、受けられる医療の格差が広がってくるとそもそも自費診療拡大に反対するスタンスですよね。
ただ実際には「日本では生保受給者が一番いい医療を受けている」などと言われるように逆格差が発生している側面もあって、高額所得者ほど健康状態がよく生活習慣病など各種疾患リスクが少ないことは様々な統計で示されていますから、高い保険料を払って皆保険制度を支えている富裕層ほど医療サービスを受ける機会が少ないとなると、これまたいずれ「いっそ公的保険などやめてしまっても…」と言う考えも出てくるかも知れません。
この先TPPによって医療保険が自由化される方向となれば高所得層に有利で保険料もお得な民間保険サービスが登場してくることになるかもしれませんが、先の東京都のように低所得者層の負担感が増すのと違ってこちら富裕層では実際に高額の保険料を負担し制度そのものを支えているのですから影響は比較にならず、皆保険制度そのものの根底が揺るがされかねません。
ただそれではどんな手段を用いても皆保険制度を守るべきかと言えば必ずしもそう簡単なものでもなく、そもそも儲けてはいけないという建前になっている現在の日本の医療制度の歪みがあちらこちらで話をややこしくしているという側面も少なからずあるわけですね。

医療に必要なのは「競争」より「協調」 (2013年6月23日日本経済新聞)

 安倍政権の経済成長戦略の中で、「医療」は非常に重視される分野だ。医療で大きなお金が動き、日本経済を引っ張ることが求められている。イメージとしては、規制をできるだけなくして、病院や製薬企業、医療機器メーカーなどが業界内で大いに競争し、その中でよりよい製品、技術、サービスが生まれて、それがどんどん普及していく、といったところだろうか。

 ところが、医療・介護制度のあり方を検討している政府の社会保障制度改革国民会議の中で、「今、医療に必要なのは『競争』よりも『協調』ではないか」という視点で議論が起こっているのをご存じだろうか。

 日本では、一部に国公立の病院や診療所(クリニック)があるものの、その大半は民間で運営されている。医師は病院、診療所の一国一城の主として、その組織を存続させていく使命を負っているといえる。できるだけ患者を集め、収益をあげていくことが必要となる。

■大規模化に走る日本の病院

 すると、全体の効率性などお構いなしに、患者獲得競争の中で、自らの病院の大規模化、総合化などに走り始める。その結果、人口千人当たりの入院ベッド数は13.6。ドイツの8.3、フランスの6.4(OECDヘルスデータ2012より、ちなみに欧米では病院は公立や、教会、慈善団体が設置するものが多い)などと比べても明らかなように、先進国の中では突出した多さとなっている。本当に必要な地域にたくさんあるかというとそうでもない。数多くあるベッドを空けておくのはもったいない。勢い入院期間も長期化してきた。今現在は入院期間の短期化が起こっているものの、患者の平均在院日数も先進国の中では突出して長い。その分医療費は増える。

 CTやMRIといった高額な検査機器の人口当たり設置台数についても日本は飛び抜けている。診療所に置いてあることも珍しくない。高額機器を導入すれば、それも遊ばせておくわけにはいかない。割と安易に検査をするばかりでなく、あちこちの医療機関で同じような検査を受けるといった無駄な事態も起こる。

 日本は急速に人口の高齢化が進んでおり、それに伴い医療費も増え続けている。医療費は税金や健康保険料で賄われている。もう医療費ばかりを野放図に増やすわけにはいかない。そこで出てきたのが、「競争」よりも「協調」が必要ではないかという考え方だ。

■役割分担が重要に

 具体的には、医療機関の役割分担を明確にし、医療から介護、最後のみとりに至るまでできる限り病院や介護施設ではなく住宅で過ごしてもらおうという構想だ。患者はまず、地域のかかりつけの診療所に行く。そこにはいろいろな症状に広く総合的に対応できる医師がおり、その医師の判断で専門的な治療が必要となれば大きな病院、専門病院に行く流れとなる。検査や投薬をあちこちで受けるということもなくなる。入院は必要最小限とする。病院も高度な救急救命医療ができる病院、自宅に戻れるようにリハビリを担う病院、慢性病に対応する病院などに分かれる。

 こんな役割分担をするにはまさに「協調」が必要になる。国民会議では、病院の再編のために、病院版持ち株会社ともいうべき新たな医療法人制度をつくる案などが議論される。補助金を使って新法人への移行を誘導していくという。
(略)

日経新聞の言うことは医療費抑制という観点からは全く合理的な発想で、そのシステムを実現したのがまさにイギリスで行われているNHSということになりますけれども、同時にこのシステムによって医療費は抑えられたものの医療従事者の士気が崩壊し同国が医療崩壊最先進国とも言われるようになり、また国民も本当の病気の時は公的保険外の民間病院にかかるようになったということも同時に知っておかなければならないでしょう。
そもそも日本では多くの病院が医業収入だけでは赤字になり他分野で稼いだ分を繰り入れしながら何とか経営を続けているのですが、それもこれも医療では儲けてはいけないという不自然な発想に基づく保険診療のルールによって「とにかく薄利多売で商売をしなければ即赤字」という状況を強いられていることがその根底にあるわけです。
例えばひと頃から大いに話題になった救急搬送受け入れ不能状態、俗に言う「救急たらい回し」なども何故発生するのかと言えば、もちろん地域内の医療リソースが需要に対して相対的に不足していると言うこともあるのですが、普通に考えれば急患は一定確率で発生するのだから救急が来る時に備えて空きベッドなどをあらかじめ確保しておけばいいじゃないか、医者馬鹿じゃね?と誰だって思いますよね。
ところが日本の保険診療の報酬体系ではベッドはとにかく常時満床にしておかなければ赤字がかさむ一方なのですから、それだったら救急受け入れを要請する病院には公費なりであらかじめベッドのキープ代を支払っておくか、それともそんな無茶なベッドの回転をさせなくてもいいように別なところで儲けさせるかということを考えた方がかえって国民の利益につながるはずです。

実際に「病院に儲けをもたらさない医者はさっさと首を切られる」など色々と言われることも多い某民間巨大病院グループなども、きちんと出せるところで利益を出しているからこそ他の医療機関がやっていけない僻地離島などの医療を担当出来るわけで、医療で儲ける=悪という単純な図式で考えているとかえって国民にとっては不利益が大きくなるという側面があることを理解すべきですよね。
そのひとつの手段が混合診療の導入で、これも医療格差だと某医療団体のようなことを言えば悪い側面からしか見られませんけれども、お金を余分に出せる人に十分出していただいてその利益で貧しい人々の医療を安価に提供すると考えれば、マスコミ諸社の久しく絶讚するところの「赤ひげ」のやっていたことそのままではないでしょうか?
無論それとは別に指摘されているような高額な検査機器の導入によって「元を取るために高額な検査をどんどんしなければならない」という問題もあり、これに対して都市部などでは各地に高度な検査機器を集約した検査センターを作って外注するという形にしていけばさほど利便性も損なわれず、「うちの安物CTは画像が汚くて…」などと嘆く医師も多少は減らせるかも知れません。
ともかく医療がこれだけ身近なものになった結果実際に国民それぞれには年齢所得等の差もあれば求める医療も違うことが明らかになっているわけで、それでも万人に同じ医療を提供することが公的保険としての絶対的正義だという考えを維持するのだとすれば、むしろ救急医療など中核的部分以外では大胆に各人好みのオプションを選択できる混合診療を認めた方が制度の歪みが目立ちにくいんじゃないかと言う気もします。

もう一つ別の問題があって、例えば早期胃癌の手術なども一昔前は簡単な開腹手術で一時間で終わるものだった、それが腹腔鏡を使って傷口が小さくなりますだとか、いや内視鏡で切除すればそもそもお腹を切らなくて済みますよと技術的進歩は結構なのですけれども、いくら広汎に広がった病変だとは言っても早期胃癌を何時間もかけて粘膜剥離術で取った結果もらえるお金は開腹術の半分以下では何か釈然としませんよね。
一生懸命苦労して腕を磨き技術革新を推し進め新しい治療法を開発したとしても、その結果患者さんの体への負担も少なく入院も短くて済むのだからと診療報酬も少なくなっていくのが保険診療の基本的な仕組みなのですから、本来そんな割に合わない話にまともな経済感覚を持っている人間はついていくはずがないのですが、何故か一生懸命寝る時間も削って頑張ってしまう医者が多いのだから国も保険者も笑いが止まらないはずです。
製薬会社が新薬を法外な金額で売っている、患者の健康をダシにして金儲けに走るのはケシカラン!と言う声が時々上がりますけれども、ごく普通の人間であれば努力すれば報われるという見返りがあるからこそ頑張れるというのも事実であって、努力すればするほど報酬は低くなる、平均的医療水準は上がって訴訟リスクも増すという環境を自ら望んで作り上げてきた医師の方が特殊体質なのかも知れません。
医学部定員が大幅に増え医学部学生の質的低下が問題視されていますが、ちょうど同時進行で世に言う「ゆとり世代」がどんどん医療現場に流れ込んでくることで各地で「今までと何か違うぞ」と戸惑いが広がっていますけれども、医師=特殊な社会的義務を持つ選ばれた存在という妙な固定観念を離れて見れば、案外彼らの考え方の方が世間の常識を率直に反映している場合も多いんじゃないでしょうか。

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コメント

同じ年収200万円でも、
年金なら国保料8万6千円で、給与だと20万2千円というのは、どうなんでしょう?

投稿: JSJ | 2013年6月25日 (火) 08時13分

国保で給与所得者ってことは保険なしの非正規雇用ってことですか?
医療の立場からすると無保険者は大変なので低所得者は一律保険料免除でいいと思いますが難しいんでしょうか。
その分は消費税の増税分から補助にまわせば同じことですし。

投稿: ぽん太 | 2013年6月25日 (火) 08時46分

医療費の抑制を考えるなら整骨院の問題にもメスを入れて欲しいですね。
最近は、コンビニ並に整骨院が乱立しています。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年6月25日 (火) 09時29分

柔整利権に切り込むと誰かの首が飛ぶとか飛ばないとか…ただ確かに最近このあたりでも乱立気味ですから、そろそろ規制を考えないと大変ですよね。
別に新たなことを考えなくても規定のルール通りにやっていただくということを、医療の監査並みの強制力で厳守していただくだけで十分だと思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年6月25日 (火) 11時19分

>東京23区内では、年2万円から16万円もの値上げの人もいます

もともとの年2万円という激安が異常だったということを抜きに議論はできません

それはそうと、本来、健康保険は貧しい人でも必要な時には無保険では生きていけないことを考えれば必要なものです。このような仕組みには、応益負担より応能負担の方が良いのです

健康保険は上限が決まっており、国保であれば年73万円ほどだそうです。
年1億円稼ぐ人も、73万円/年を払って自身の保険を買うだけという仕組みがおかしいのであって、”貧乏人も自分の健康の分の保険料を払え!”というのは一分の理はあっても、社会的には問題が大きいものです。

収入に応じて上限なしの率で健康保険を強制的に払う仕組みは税と同じですが、貧乏人は自分が保険料を払いたくないため、見かけのお金に対して文句ばかり言っています。頭の悪い大衆をターゲットにした大手メディアも同様の言動をします。

増税、保険料の上限撤廃・・・・確かに痛いですが、貧乏人ほど得する制度を貧乏人が拒否している現状は、一番得する金持ちたちが貧乏人を煽っているだけに思えて仕方ありません。貧乏人が払う保険料より、給付で受ける恩恵の方が、ずいぶん大きいのに、近視眼的な小銭に執着するのは、貧乏ゆえの性質かもしれません。

救われませんなぁ。。。。貧乏は。。。。。


投稿: Med_Law | 2013年6月25日 (火) 15時46分

バカだから貧乏なのか、貧乏がゆえにバカになるのか。

投稿: 米 | 2013年6月25日 (火) 16時39分

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TPPとは どんな世の中になるのかなぁ?TPPについて 有権者は  あー勘違いもあるかなぁ
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投稿: 村石太ダー&ケンサク仮面 | 2013年7月 6日 (土) 15時26分

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