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2013年6月19日 (水)

終末期医療 未だに「議論を呼ぶ可能性が」などと言っていては

核家族化と言われて数十年、終末期は病院に丸投げということが当たり前の世の中になった結果、どうも実体験よりも観念論的な話題として終末期医療が取り上げられる傾向があるように思います。
終末期の延命処置は希望しますか?と問われて自分はいらないが家族にはして欲しいと答える人が多いというのもそのひとつの現れだと思いますが、終末期医療で本人意志が確認出来るというケースはむしろ例外的であって、家族親族こそが一番の当事者であるという認識が乏しくどこか他人事のようにも聞こえるのは自分だけでしょうか?
それはさておき、こちら間違いなくほとんどの国民にとっては「他人事」なのでしょうけれども、それだけに妙に観念論、理想論が先行してしまっては現場の実態を歪めることにならないかとも危惧されるニュースが出ていました。

「終末期ケア」で更生を=重症受刑者に実施―医師不足や世論反発課題・医療刑務所(2013年6月16日時事通信)

 末期のがんなどを患う受刑者らに対し、八王子医療刑務所(東京都)で病気による身体的苦痛やストレスを和らげる「緩和ケア」が行われている。安定した精神状態で余生を送れるようにして更生につなげる狙いがあるが、医師不足や世論の反発など、浸透には課題が多い。

 ▽後悔や反省を口に

 「亡くなっていく受刑者に何ができるのか」。昨年、受刑者49人が死亡した八王子医療刑務所では、2010年ごろから緩和ケアを行っている。限られた余命の中、いかに更生につなげるかが課題で、所内の医師や看護師らで勉強会を開き、緩和ケアに取り組んでいる。
 昨秋、肝臓がんの60代男性受刑者は海外に住む娘に電話した。けんかしていたが、会話を重ねて和解。男性はほほ笑んだような顔で亡くなった。
 膵臓(すいぞう)がんの60代女性受刑者は昨春、希望していた所内の花見に参加。おかゆしか食べられない状態だったが、その日は他の受刑者と同じ弁当を食べた。花見の様子を楽しそうに話し、8日後に死亡した。
 緩和ケアを受けた受刑者は人生について後悔や反省を口にすることもあるという。大橋秀夫所長は「人間らしい生活で初めて素直な気持ちになり、人生を振り返って終えることができるのでは。緩和ケアは矯正のひとつ」と強調する。

 ▽「尚早」と慎重意見も

 医療刑務所は全国に四つあるが、緩和ケアを取り入れているのは八王子医療刑務所だけだ。
 法務省によると、刑務所などの医師の給与は低く、民間の半分から3分の1程度とも言われる。医師が十分に集まらず、慢性的な人材不足が続き、緩和ケアを普及させる余裕はないという。
 受刑者へのケアには、世論の反発も予想される。八王子医療刑務所が緩和ケアを導入する前、職員を対象に行ったアンケートでも「時期尚早だ」など慎重意見があった
 法務省矯正局の中田昌伸補佐官も「『受刑者にそこまでしなくても』という声があると思う」と懸念を示す。一方、「自分の罪を悔い改めて死を迎えることは、矯正処遇として効果がある」と、取り組みを評価する。 

ご存知の通り刑務所の収監者には人権がある程度制約されていて、医療を受ける権利というものがどの程度まで自由であるべきかという点については未だ様々な議論のあるところですけれども、実際上は刑務所内での半ば強制的な受診抑制などがしばしば問題視されているということは周知の通りですよね。
もちろん国が他人の権利を制約して収監している以上は生きて再び娑婆に戻す義務もあるという考え方もありますが、昨今問題化している受刑者の高齢化によって刑務所内での看取り事例が増えてくるにつれどうしても終末期医療の問題も出てくる、その中で特に議論が分かれそうなのが苦痛緩和はどこまで行われるべきなのかということでしょう。
基本的に苦痛緩和によって健康になるわけでも寿命が延びるわけでもない(むしろしばしば寿命を縮めると言うケースが見られます)以上例えば「刑務所の寝床が堅いのが苦痛だから羽毛布団にしてくれ」などという要求とどう違うのか、あるいは麻薬犯罪で収監されている受刑者に麻薬性鎮痛剤を使用するというのはどうなのかといったことを考えていくと、なかなか難しい問題ではありますよね。

もう一点、収監者は当然ながら医療を受けるにも保険がないわけですから全額自己負担ということになりますが、お金も持っていないことから実は医療費は全額国が負担するということになっていて、しかも医療必要度の高い高齢受刑者が増えているわけですから過去20年間で4倍以上に増加しているとも言い、昨今ただでさえ財政的に厳しくなってきている刑務所の運営を圧迫する一因ともなっているようです。
仮に重症で高額医療ともなりますと月に百万、千万単位の費用がかかることもあり得ますから金銭的問題ももちろん大きい、そして死刑囚とまではいかずとも凶悪犯罪者に対して何でも希望通り医療を受けさせるということには素朴な感情面でもどうなのかで、良心的な支援者の方々に指摘されるまでもなく刑務所内での医療行為は相当に抑制的に運用されているだろうと推測できます。
そうした状況で緩和ケアなどは国民感情としても財政的制約の上でも積極的に周囲が推進するようなことではないといった辺りに落ち着きそうですが、患者たる受刑者側が支援者の方々と手を組んでもっと自由な医療を!と叫び出した時に国民がどう判断すべきなのかを考えた場合に、もう少しこの辺りの情報開示は積極的に行われてもいいんじゃないかという気がしますね。

さて、こちらは財政等の社会的要請以前に当事者もそれを望んでいるにも関わらず何故かなかなか話が進まないという終末期医療の話題なのですが、当たり前のことを口にすると良心的な?方々からおしかりをいただいてしまうようです。

「平穏な道選べば医療費減」 甘利再生相、終末期医療で(2013年6月18日朝日新聞)

 社会保障と税の一体改革を担当する甘利明経済再生相は17日のBSフジの番組で、終末期の延命措置について「(回復の見込みがなく)チューブにつながれて最期を迎えるのは悲惨だと思う人は多い。本人の意思確認をして『平穏な道を選びたい』という人ならば、それだけで医療費は下がる」と述べた。

 社会保障費の削減に絡んで終末期医療のあり方に触れた。甘利氏は番組終了後、記者団に「患者の尊厳を尊重して対応が図られ、医療費が減ることにもつながれば、患者本人にとっても世の中にとってもいいこと」と「患者の尊厳」を強調したが、終末期医療に医療費削減を絡めた発言は、議論を呼ぶ可能性がある

経済再生相、終末医療「意思確認徹底で医療費削減に」(2013年6月18日TBSニュース)

 甘利経済再生担当大臣は終末期の医療において、患者本人に対し早い段階から延命治療の意思確認を徹底することで医療費の削減につながるという考えを示しました。

 「意思確認を徹底していけば、患者の尊厳を尊重して対応を図られると。その結果医療費が減ることにつながっていけば、それは患者本人にとっても世の中にとってもいいことじゃないでしょうかと」(甘利明 経済再生相)

 甘利大臣は終末医療の現状に関して、患者本人へ延命治療の早期の意思確認が徹底されていないため、「意識がないまま、回復の見込みがないままにチューブにつながれているとか苦しむだけの治療で終わってしまう」と問題点を指摘。そのうえで「患者本人のしっかりした意思のときに最終的な治療の仕方を選択できるのは決して悪いことではない」と述べています。

どのような方々の議論を呼ぶかは言わずもがなというものですが、大臣の言っていること自体は当たり前のことばかりであって、昨今国民を対象に調査しても終末期の延命医療を圧倒的大多数の人が拒否している、そして医療関係者もそんなところに貴重なリソースを投入するのは馬鹿馬鹿しいと考えている中で、何故当たり前のことが今まで実行されないまま来てしまったのかということを考えて見るべきでしょうね。
こういう話が出ると「終末期医療を経済で制約するのはケシカラン」という声もしばしば聞こえるのですが、しかし医療が財政上もマンパワー始めリソース上も限界に達しつつある現状を考える時、誰しも望んでいない部分に漫然とリソースを投じることは必要な領域のリソースを削除することに他なりませんから、いわゆるトリアージ的な考え方からしても優先順位を決定する必要がある段階に来ているというものでしょう。
もちろん「俺たちは長年お国のために尽くしてきたのだ!若造どもに浪費する医療費はこっちにまわすべきだ!」と考える高齢者の方々がいらっしゃっても全くおかしくはないですし、事実社会補償制度は若年現役世代と老年世代とのパイの奪い合いという様相を呈していることも事実ですが、ならばいずれの立場が正しいと特別偏重される理由もなければ、どの立場は間違っていると言論圧殺されるいわれもないはずです。

社会保障問題にしても各マスコミは口では抜本的な改革が必要だと勇ましいことを言っては政治家の弱腰を叩くような素振りを見せながら、いざ話が高齢者社会保障改革の問題に及ぶと途端に手のひらを返して「現代の姥捨て山だ!」とバッシングし始めるという構図は久しく以前から変わっていませんよね。
昨今の新聞やテレビといったメディアから若者を中心にどんどん国民が離れていっている、そして今現在も変わらずそうしたメディアを支持しているのは俗に「情弱(情報弱者)」とも呼ばれる高齢者くらいであるという現実を思うとき、確かに営利を目的とした民業である以上主要顧客の意向に沿うことは理解できるのですが、ではこの問題において顧客たる高齢者達の意向がどこにあるのかと言うことも各種調査で示されているわけです。
食の細くなった高齢者に若い人と同じ感覚でフレンチのフルコースだ、和牛ステーキだと奮発しても必ずしも喜ばれないのと同じことで、「ほんとうは蕎麦とかうどんとか、もっとあっさりしたものが食べたいのに…」と言っている人に「いやいや、こっちの方がずっと高級でおいしいですよ。どうせお高くてもお勘定はお孫さん持ちですし」と押しつけるのは下手をすると押し売りか認知症詐欺、よく言っても高齢者虐待かと言われかねない行為でしょうに、そんなものを社会正義だと考えているのだとしたらそろそろ改めるべき時期ではないでしょうか?
昨今では移植医療推進の立場からドナー登録意志の表明が積極的に行われるようになりましたが、国民皆保険制度である以上保険証は誰しも持っているわけですから、元気なうちにきちんと意志決定をし記録しておくといった運用を行えば本人意志も尊重されやすくなり、望まない延命処置を希望しなかった分の医療リソースが若い人たちのために活用されるようになるかも知れませんね。

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コメント

刑務所で勤務する医師の給料も人事院勧告で民間に合わせるのが筋だと思うのですが、民間よりはるかに低い水準に押さえられているのは不思議ですねえ。

投稿: クマ | 2013年6月19日 (水) 08時08分

刑務所の給与を探してみたんですが50歳前後で年収1000万じゃお世辞にも高いとは言えないですね。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=78855
刑務所も凶悪犯ばかりじゃないでしょうが普通の医師ならわざわざ行きたくはないですよ。
刑務官にNPなり資格をとらせたほうが近道じゃないですか?

投稿: ぽん太 | 2013年6月19日 (水) 09時12分

格闘技やってるんで武器なしタイマンなら怖くはないけどね。
でもほんとに怖いのはムショ出たあとのお礼参りじゃない?
遠隔医療で顔合わせないですむようにしたらいいんだよ。

投稿: 甘利丈寅 | 2013年6月19日 (水) 09時59分

刑務所の給与のほうが一般より安いのは何故でしょうか?私には全く理解出来ません。
普通の感覚なら、行きたくない職場なので、逆に一般より高いのならわかりますが。
親族や家族にも見捨てられた患者が対象なので、モンスター家族からノープレッシャーなので精神的に楽だから?
死後、カリフォルニアから何年もご無沙汰の親族が飛んできて文句言われるというケースもないでしょうから。

投稿: 逃散前科者 | 2013年6月19日 (水) 12時53分

法務省のHPによると医療職俸給表(一)に従って給与が決まっているようです。
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse14.html
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32F04509002.html
これの一番高い5級21号で60万弱ですから元々高くはありませんが、5級は大病院の院長が対象なので刑務所には当てはまりませんね。
手当等で対処すれば給与は何とかなりそうですが、勤務医の多くはすでに給与面では十分だと考えているそうですから難しいでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年6月19日 (水) 13時20分

刑務所が補助金出して門前クリニック開設したらどうでしょ?
ついでに刑務所全部僻地に移転したら僻地医師不足解消にも役立つのでは?

投稿: たもやん | 2013年6月19日 (水) 16時55分

管理人さまへ
今のルールのままで何とかしようとすると管理人さまの言われるとおり相当難しいとは思いますが・・・人権上の問題も起こりつつあるようですし刑務所勤務医師の給料が増えるように法律を変える話があっても良さそうに私は思います。

話は変わりますが、刑務所を出所した患者さんにまともな処方がなされている人がほとんどいないのはなぜなのでしょう?
一番ひどい患者さんは、リタリン漬けでした・・・

投稿: クマ | 2013年6月19日 (水) 21時32分

ぞういやこの前出所当日にぶっ倒れて三次救急に担ぎ込まれた人見ましたな。
元々の心疾患その他の薬は飲んでいたとはいうんですが何年も安定してた人が数ヶ月で激変しててびっくりでした。
塀の中の医療もつつけば面白い話が出そうなんだが、出たからってどうしようもないからねえ。

投稿: 某内科医 | 2013年6月20日 (木) 02時02分

刑務所での勤務ってどんなものか想像つかないし怖い…
こういう漫画の男版があったら参考になると思う…
変に美談仕立てにしないでありのままを描ききってほしい…

ムショ医
http://houbunsha.co.jp/comics/detail.php?p=%A5%E0%A5%B7%A5%E7%B0%E5

投稿: かんちゃん | 2013年6月20日 (木) 10時13分

実はムショに不定期バイトに行ってるんですが、

>話は変わりますが、刑務所を出所した患者さんにまともな処方がなされている人がほとんどいないのはなぜなのでしょう?
一番ひどい患者さんは、リタリン漬けでした・・・

簡単に他医に相談も紹介も出来ないから(外の病院に行かせるとなると刑務官が3人同行しなきゃならんので、ただでさえ人員不足だからたちどころに業務が滞る)専門外でも自力で何とかしなきゃならんわけで、やむを得んでしょうね。ちなみに当方のバイト先ではニキビにVGが出されてました。


>塀の中の医療もつつけば面白い話が出そうなんだが、出たからってどうしようもないからねえ。
>刑務所での勤務ってどんなものか想像つかないし怖い…

不定期バイト程度ではたいして面白い話はないですね。ちなみに背後に屈強な刑務官が控えてますんでちっとも怖くはないでつw
*人は私を三蔵法師と呼ぶww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年6月20日 (木) 13時05分

死刑囚が拘置所で死亡 くも膜下出血で治療中
2013年6月24日朝日新聞
 法務省は24日未明、東京拘置所に収容中の綿引(わたひき)誠死刑囚(74)が、23日夜に同拘置所で死亡したと発表した。くも膜下出血で今月上旬に倒れ、治療中だったという。綿引死刑囚は、茨城県日立市で1978年、女子中学生を誘拐して殺したとして身代金目的誘拐、殺人などの罪に問われ、死刑が確定した。

くも膜下出血を拘置所内で治療?

投稿: なにこれ珍百景 | 2013年6月24日 (月) 07時55分

こんばんは

保存治療しか行い得ず死に至るSAHは珍しくないと思われますが………

投稿: 耳鼻科医 | 2013年6月24日 (月) 20時28分

>塀の中の医療もつつけば面白い話が出そうなんだが、

出ますね、確実に。

現実にあるのに決して表に出ないのが誤診でしょう。

本人確認もせずに治療してその後で人違いであったことが発覚というケースもあるのではないでしょうかね。

塀の外でも実際にあるわけですので、塀の中でそういうことがあってもまったくおかしくありません。

投稿: クレーマー&クレーマー | 2013年8月 4日 (日) 17時22分

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