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2013年6月26日 (水)

医学部地域枠で近い将来医師不足は解消に向かう?

このところ早くも各大学から来年度入試の要項が発表されているのですが、見ていますと地域枠の扱いはどんどんと一般入試から離れてきているようですね。

岡山大が14年度入試要項発表 医学科の後期日程廃止(2013年6月18日山陽新聞)

 岡山大は18日、2014年度の入学者選抜要項を発表した。医学部医学科の後期日程入試を廃止し、前期日程で行っていた「地域枠」の一般入試を別日程の推薦入試に切り替える

 全学部の募集人員は13年度と同じ2198人。医学部医学科(定員115人)は、前期日程(同100人)で募集していた地域枠(同12人)を、面接と大学入試センター試験による推薦入試に変更。後期日程(同15人)は廃止し、前期日程の定員を103人とした。4年連続で定員割れとなった地域枠を、受験しやすくするためという。
(略)

定員割れかつ推薦入試枠となったことでほぼ受験すれば合格するレベルになるんじゃないかと思いますけれども、医学部がこの時代「手に職つけた手堅い商売」という評価が定着し競争倍率も高止まりしている中で、相対的に見れば非常に合格の敷居が低い地域枠が案外忌避されているものだなと思います。
この地域枠というもの、そもそも地域内に医師を定着させるという目的で行われてきたことは言うまでもありませんが、実際には各地で予定人員に不足している上に卒後の県外流出も問題になっていて、卒後研修の縛りをきつくしたり一般入試で合格した学生を地域枠に移行させたりといった対策を行っている大学もあるようです。
それだけお金で人生を縛り付ける地域枠の胡散臭さというものが高校生レベルにまで周知されているというのは頼もしい限りですが、最近では自治体レベルでこんな「押し貸し」めいたことをやっているところもあるようですね。

修学資金貸与で産科医学生募集 栃木(2013年6月15日産経ニュース)

 県医事厚生課は、不足している産科医師の確保対策事業で、修学資金の貸与を希望する医学生を募集している。募集期間は7月19日まで。

 応募できるのは、全国の第4~6学年に在学する学生で、募集するのは産科2人程度。月額35万円を貸与決定の年から大学の正規就業年限まで貸与する。初期臨床研修を県内で行い、産科医として県が指定する公的病院などに、貸与年数の1・5倍の期間を勤務した場合、修学資金の返還を免除する。
(略)

大学入試時に地域枠が埋まらないものが入学後にわざわざこんな企画に募集してくるものだろうかと思いますけれども、今の時代ですから入学したはいいがその後の経済的事情によってどうしても奨学金等が必要になるということもないわけではないでしょうし、こうした短期の貸与であればそれに対する御礼奉公期間も短いので許容範囲だと考える人も中にはいるかも知れません。
需要と供給の原則から考えると全国どこでも医師不足の病院には事欠かないわけですから、人生の一時期にある程度僻地勤務も含めて特定の地域で働くということについてはまあ我慢出来るという人は必ずしも少なくないのでしょうけれども、こうして勤務先の縛りがきつくなり卒後初期研修から必ず特定地域でと言われるほど初期研修の重要さを知っている優秀な学生から忌避されているんじゃないかという気もします。
例えば卒後20年なり30年なりの間に特定地域内で一定期間勤務する、分割勤務も認めるかわりに勤務満了が遅れるほど返済額が大きくなるといったやり方であれば「ド田舎の勤務で世間から取り残されてしまう」という懸念も防げるでしょうし、数ヶ月毎の分割勤務ならむしろ激務の間の気分転換になると言う人も出てくるかも知れませんよね。

ところで前述の栃木の奨学金事業で気になったのが勤務の条件として「産科医として」とひどく具体的な条件を挙げていることなんですが、確かに眼科耳鼻科などマイナー診療科でお茶を濁されてしまっては地域枠のありがたみもないというもので、最近ではこうした条件付きの奨学金制度というものも結構あるようですね。
今や大学生の過半数が奨学金を取っているという時代で、しかも実質的には奨学金というよりも学生ローンですから返済不能というケースが社会問題化するのも当然なのですが、実のところ医学部に関しては幸いにも卒後にはまず確実に一定額以上の収入が見込まれる勤務先が確保されていて、ましてや地域枠等であればむしろ勤務しなければならないとまで待望されているわけです。
そうした確実な稼ぎ口があるということが貸し倒れのリスクを押し下げている一方で別なリスクを招いているとも言えるのですが、こちらの記事を先に見てみましょう。

県内 医師不足解消へ 修学金奏功、18年度にも/富山(2013年6月22日中日新聞)

県議会予特委

 県議会六月定例会は二十一日、予算特別委員会を開き、奥野詠子(自民)山上正隆(民主党・県民クラブ)矢後肇(自民)火爪弘子(共産)中川忠昭(自民)の五氏が県政をただした。県は、将来的な県内公立病院での勤務を条件にした県の修学金貸与制度の活用者の医師見込み数により、二〇一三年四月時点での医師の不足数百十八人が一八年度までに解消する見通しを示した。予算特別委は二十五日も開かれる。 (川田篤志、石井真暁)

 県は、地域医療を担う人材育成を目指し、いずれも将来的な県内公立病院での勤務を条件にした医学生向けの貸与制度を三種類用意。富山大医学部医学科の入学者向けに、入学費や授業料などを六年間貸与し、小児科などなり手不足が懸念される診療科で九年間勤務すれば返還が免除されるものなどがある。

 山崎康至厚生部長は、制度を活用する学生が医師として本格的に働き始める一八年度までに百三十七人が確保でき、「不足数がほぼ満たされることになると期待している」との見解を示した。

 一方で、山崎部長は「病院に必要な医師数は地域の医療需要などで変動する。今後も病院の状況把握に努め、医師確保に向けた総合的な対策に取り組みたい」と述べた。山上氏の質問に答えた。

地域枠による学生がこれからどんどん卒業していく、となると毎年の学生数分がそっくりそのまま向こう何年間か地域医療に補充されていくことになり万歳、これで医師不足も解消だと言う素晴らしい薔薇色の未来絵図の話なんですが、そう簡単にいくかどうかは疑問符がつくんじゃないかということです。
もともと地域枠と同様のシステムを取ってきた自治医大の場合6年間の学費を一切免除する代わりに卒業と同時に2000万円以上の借金を背負い込まされることになっていたわけですが、一般の国公立大学の場合は年限が6年と長くなるだけで学費自体は一般学部と全く同じですからせいぜい300万円余りと、正直医師一人の人生を縛るにはいささか鎖が細すぎるんじゃないかということです。
実際に入試が楽な地域枠で入学し卒後に違約金を払って離脱するといったケースも相応にあり、また医師不足に悩む病院などでは表向きはともかく「その程度の金は出してやるからうちに来てくれ」と言うところもあるやなしやに聞きますから、今後予定通り勤務医が増えていくかどうかはそんな単純な予測通りにはいかないだろうと思いますね。
また地域枠が埋まらないことで一般入試で入った学生にも押し貸しのように奨学金を貸与しているケースが多々見られますが、こうした学生は元々地域枠ではなくとも地域内での勤務も元々許容していた潜在的な地域内勤務予定者だったと思われますから、今まで通り一般入試の学生もこの程度は地域に残るだろうなどと考えていると痛い目を見ることになりそうです。

もちろん地域医療に情熱をもって医学部に進学してきた学生さんにとってはこうした制度は渡りに船ですからどんどん利用していただければいいと思うのですが、多くの学生が卒後研修を経て当初の志望先を変更していくことが日常茶飯事な業界なのですから、医療現場のイロハも何も知らない高校生が正しい未来絵図を思い描いて地域枠に志願するというのはちょっと考えにくいかなとは思います。
かつてあれほど看護師の御礼奉公問題をバッシングしてきたマスコミや弁護士の皆さんも、この医師の御礼奉公システムに関しては全くスルーどころか何か素晴らしい名案であるかのように報じるばかりで問題視する気配もないのがおもしろいなと思いますが、今時の気の利いた学生はスマホSNS当たり前でネット利用が日常生活の一部ですから問題点の所在もきちんと理解していることだろうと期待しておきましょう。
それでも情報収集がままならずうまい話に引っかかってしまうという人ももちろん一定数いるはずですが、前述のようにひとたびこうしたシステムに組み込まれてもそこから抜け出す道はちゃんと残されているわけですから、ただ状況に流されるばかりでなく最後まで主体的に自分の人生を采配してもらいたいものですね。

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コメント

>定員割れかつ推薦入試枠となったことで
>ほぼ受験すれば合格するレベルになるんじゃないかと思います

>相対的に見れば非常に合格の敷居が低い地域枠が

この認識については如何なものかと思われます。
昨年度までの地域枠の性質は、
「入試に下駄を履かす」等の「馬鹿導入制度」ではなく
「おい貧乏人、金貸すから奴隷になれや」の
自治医大のシステムに近い形でありました。
つまり他大学のシステム(広大のふるさと枠等)のように
入試の難易度が「地域枠」と「一般枠」とで差があった訳ではなく
普通に入試を突破した受験生の身柄を金で買う制度であります。
そりゃそんな端金で、そうそう未来を売り渡す奴は いないわなあ が
岡山大学医学部での地域枠の定員割れの理由です。

しかしながら今回の改変により「2月の頭には合否が確定する」と言う
つまり受験機会が1回増えるメリットが生まれましたから
おっしゃる様なレベルにまでは低下しないかと思われます。
せいぜい「センター85%も取れれば合格は鉄板」のレベル
つまりふるさと枠程度までで下げ止まるのではないでしょうか。

投稿: 受験生の親 | 2013年6月26日 (水) 07時43分

どんなルートで入ったって入っちまったら同じだよ。

投稿: 独楽 | 2013年6月26日 (水) 08時34分

悪評高い受験勉強もあれであんがい地頭の良さの目安になるんじゃないかって気もするんですが。
それはともかく富山県がこんなに簡単に医師不足解消しちゃったら全国どこでも同じやり方でいけますね。
なにも医学部新設だとかむずかしいこといわなくてもよかったんだ。

投稿: ぽん太 | 2013年6月26日 (水) 10時09分

地域枠って9年間?すぎたらどこにでもいっていいんですよね?
何年か先送りになるだけでけっきょく今までと同じことになりません?

投稿: 神田川 | 2013年6月26日 (水) 10時22分

>何年か先送りになるだけでけっきょく今までと同じことになりません?

仮に9年間10数人が勤務すれば100人になりますから、小さな県なら決して少なくない数にはなると思います。
ただ需要を先行消費する形でいざ中堅ベテランに育ったところで県外流出を招くことにでもなれば、長期的には医療レベルの低下が起こるかも知れませんね。
いずれにしてもどのようなことになるかはもう少し時間がたってみないと評価できないでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年6月26日 (水) 11時21分

そう簡単に解消するようなら誰も苦労はしないと思われ>地方の医師不足
しかし地域残留を強いられた先生のその後は気になりますな
あんがい悪くないと地方を見直すのか、それとも二度と来ないと逃げ出すのか
地方が彼らをどう遇するかが問われるでしょうな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年6月26日 (水) 19時23分

地域医療に情熱をもって入学した真面目な人のほうが、たぶん現場に行ったらすぐに逃散したくなるはず。
問題は日本の地域医療以前に地方(田舎)の社会構造に問題ありだとね。
指導医はロクにいない、設備はない、厄介な病気が見つかっても紹介先もない(あっても100km以上先)
リスクが高いわりには給料安いとか、特に自治体病院とか、既得権益振りかざすモンスターも多そうだし。
ただでさえ生活が不便な場所へ奉仕してるのに、仕事がハイリスクであれば定着できるわけがない。
憲法改正して、医者を特定の地域へ強制的に縛り付けるような法律でもできますかね?奴隷制度みたいな。
奴隷制度作る前に地方の環境整備でもしてほしいですね。たぶん無理でしょうけど。

投稿: 逃散前科者 | 2013年6月27日 (木) 17時14分

国家総動員体制発動!

信州大医学部 県内高校卒業の浪人生枠を設置
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130708150036587

信州大(本部・長野県松本市)は、来春入学予定者の医学部医学科の推薦入試で、県内の高校を卒業後1年以内の浪人生を対象とする枠を設ける。募集人員は5人。

 信州大によると、医学科の推薦の募集人員は20人。県内の高校を卒業見込みの現役生を対象としていたが、地域医療に意欲のある多くの人材を確保するため、うち5人について、昨年4月から今年3月までに県内の高校を卒業した浪人生の枠とする。

投稿: 三毛 | 2013年7月 9日 (火) 10時32分

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