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2013年6月13日 (木)

医学部新設と医師再配置 どちらの話が進んでいるかと言えば

医学部新設議論はほぼ決着したものだとばかり思っていましたが、先日こんな記事が出ていまして驚いてしまいましたね。

医学部新設に猛反対する医師会に、医療現場から怒りの声…医師会、大学、自民党の攻防(2013年6月11日ビジネスジャーナル)

 今、「医学部新設」をめぐって熱いバトルが繰り広げられているのをご存じだろうか。

 きっかけは今年2月、自民党の東北選出議員や有志30人によってつくられた「東北地方に医学部の新設を推進する議員連盟」が、大学の医学部新設を目指すことを決議したことだった。

 東北が深刻な医師不足に悩んでいるのは今に始まったことではないが、震災によって、それにさらに拍車がかかっているのは間違いない。だから、医学部をつくって被災地支援をしようじゃないか--。

 特段問題なさそうな主張だが、これに「待った」をかけたのが「日本医師会」である。「医師は足りないどころか余っている。ワケのわからない医学部をつくったら、医師の質が下がる」と猛反対しているのだ。この主張に対して、某大学病院の勤務医は怒りを隠さない。

「医師会というと、なんだか医師全員の団体のように思われがちですが、実はほぼ開業医の業界団体なのです。土日休診で、地域のお年寄り相手にガッツリ稼ぐという殿様商売をしている連中の発言力があるので、商売敵を増やしたくない。そんなに余っているというなら、救急医療の現場に行ってみろと言いたい。医学部新設の話が出るのは遅すぎた」

 これまで日本の医療業界では、長く「医学部新設」はタブーだった。1979年の琉球大学で新設されたのが最後で、30年以上つくられていない。
(略)
 たしかに、自民党議連の動きは、医師会には脅威である。実は昨年から私大の雄・早稲田大学をはじめ、同志社大学、国際医療福祉大学などが「医学部新設」に色気をみせている。東北でひとつ認めてしまったら、ダムが決壊するように、これらの大学も動き出す可能性は高い。

●怪文書も飛び交う、激しい攻防

 しかし、そこは“最強の圧力団体”ともいわれる日本医師会。水面下でかなり激しい反撃に出ている。推進派を攻撃するような「紙爆弾」が、政治家やマスコミの間に飛び交っているのだ。

 医師不足を主張する専門家などを“国賊”と呼んで激しく攻撃しているほか、推進している大学が水面下でロビー活動をしているというような告発や、今回とはあまり関係ない不正を追及しているようなものもあった。たとえば、医学部新設を表明した同志社大学などの場合、現在放送中のNKH大河ドラマ『八重の桜』を引き合いに出されて攻撃されている。

「新島八重は晩年、日清戦争などで従軍看護婦として活躍したことがあるため、同志社も放映に合わせてホームページで八重を“日本のナイチンゲール”などとうたっている。反対派は、『同志社は八重を利用して“同志社=医療”というイメージを拡散させて医学部新設に向けて動き出している』と批判しているのです。そもそも八重は会津出身ですから、東北にも縁が深い。当たらずも遠からずという話です」(新聞記者)

 自民党、日本医師会、そして有名大学……さまざまな思惑が複雑にからみ合う“仁義なき情報戦”。ただ、ひとつ気にかかるのは、どこも頭から「患者」という発想がごっそりと抜けている。

 新設しようがしまいが、日本の医療の先行きは暗そうだ。

ま、記事自体は何十年前に書いたのかと思うような懐かしさすら漂う内容で、この種の話を聞くと個人的には「アラブの新聞を読むユダヤ人」という有名な小話を思い出したりもするのですが、医療現場の誰が一番大きな怒りの声を上げてるかと言えば、もちろん講演にSNSにと日々多忙だと側聞するあの人なんでしょうねえ…
閣僚が医学部新設に言及したから閣内ではすでに新設への合意がなされているとか様々な噂がありますが、注意すべきは新設をするにしても作るとすればどこに作るかということはほぼ具体的に決まっている、そして医学部全体の定員に対して新設による定員増の効果を考えればその目的は医師養成数増加などではなく、医師の地域的偏在解消に他ならないということです。
そして東北諸大学卒業生の地域内定着率がいずれも半数以下という悲しむべき現実を見れば、「東北地方が医師不足だから医学部を作ろう」などと叫んだところで他地域に流出する学生を育ててやるだけに終わることは明白ですから、まずは実質推薦入試のようになりつつあるとも言う地域枠すら充足されないのは何故なのかというところから再検討してみる必要がありそうですね。

医学部定員が大幅に増やされ順調に医師数が増えていっている中で、いずれ医師不足問題は医師偏在問題に確実にシフトしていくだろうと言う気配になってきましたが、問題はその医師偏在をむしろ積極的に推進しようとしているのが昨今の国策であるということでしょうか。
もともと基幹病院に医師を集約するという医師再配置は厚労省の悲願とも言えるものでしたが、昨今では例の新専門医制度などそのための道具立ても着々と整いつつある、そして厚労省からは急性期病院に関しては欧米並みの手厚い医師配置を実現すべきだ、それもこの10年以内に達成しようという声が聞こえてくるようになったわけですから、すでにほとんどの青写真は描かれていると見るべきでしょう。
ただそうなると国内大多数の地域では今まで以上に医師が引き上げられていくことになる道理なんですが、先日少しばかりおもしろそうな試算が出されていたことを紹介しておきましょう。

2020年、首都圏の医師数はもっと足りなくなる!?(2013年6月11日日経メディカル)

 千葉大医学部附属病院高齢社会医療政策研究部客員准教授の井出博生氏らは、2013年6月4~6日に大阪で開催された日本老年医学会学術集会のポスター発表で、2020年の東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の医師数や分布を分析した結果を発表した。

 井出氏らは、1996~2010年の1都3県の医師数に基づき、医療機関の新設に伴う医師数の急な増減などのノイズを除去するベイズ法と呼ばれる手法を用いて、2020年の医師数を推計。2010年と2020年の人口10万人当たりの医師数、65歳以上人口10万人当たりの医師数を算出した。

 その結果1都3県の全医師数は、2010年の7万6000人から2020年に9万4000人へ増加すると予想された。人口10万人当たりの医師数は、215.4人から267.6人へと増えることが分かったが、東京都を除く3県について解析すると169.4人から219.8人への増加にとどまっており、医師数が増えても2010年の全国平均(230.4人)レベルであることが明らかになった。さらに、1都3県の65歳以上人口10万人当たりの医師数は増加せず、1048.3人から997.9人へ減少すると推計された。

 市町村別に2010年と2020年医師数を分析すると、全ての地域で人口10万人当たりの医師数は増加傾向にあったが、65歳以上人口10万人当たりの医師数は東京都心部を除いて減少傾向が認められた。加えて、65歳以上人口10万人当たりの医師数の変動は、東京都心部及び各県の都市周辺部においては上下10%以内の増減に収まったが、両地域の中間に位置する多くの市町村では10%以上の減少が起きると推測された。

 井出氏は、「医師の配置を強制するのは難しいが、幅広くこの状況を知らせていくことが重要だと考えている」と話している。

統計データで見る限り東京都に医師が多いのは周知の事実ですが、実際には各大学等で研究に従事している者や厚労省で技官として働く者などいわゆる医業に従事していない者も多く、むしろ周囲地域を含めた首都圏全体では人口増加に医師数が追いつかず医師不足地域となっていることは以前から知られている通りですよね。
東京都内は原則的に医師を集約する側になると思いますが、高齢者人口も増えていくことから必ずしも人口比で見ると十分な集約化と言えるほど医師数が増えるわけではない、むしろ周辺地域では医師を集約化される側となって今以上に医師不足が目立ってくる可能性があるということでしょうか。
もちろん医師の過不足は単純に人口当たり医師数で判断出来るものではなく、地域の年齢別人口分布や病歴、そして地域の医療機関の数やその性質によっても大きく変わるもので、田舎の老人病院などでは医師数が少なかろうがのんびり定時帰りが出来る一方で都心部の急性期病院では多数の医師が集まっていても年中大忙しで寝る暇もないということが当たり前にあるわけです。
好意的に考えると厚労省などの推進する医師集約化計画は単純な人口比ではなく業務量にも考慮した医師の再配置を実現するツールになる可能性があり、また先日同じく同省から出た都市部の高齢者を地方へ送ろうなどという話も同じ文脈で考えると、何かと急患搬送などで多忙な都心部の急性期病院から老人医療問題を切り離す手段として理解できそうです。

国民皆保険制度下の日本では全国どこにいても同じ料金で同じ医療を受けられるということが建前になっていて、これはこれでひとつの立派な考えであり半世紀前のまだ医療が貴重品だった時代の日本で医療を身近なものにした功績は小さくありませんが、逆に言えば「同じ料金を払っているのに同じ医療を受けられないとは何事か!」というクレームが成立する余地があるわけですよね。
そのひとつの表れとして地方居住者およびそれを支援する良心的マスコミなどを中心に、長年「地方にもっと医者を!専門医療機関を!」と言う主張がなされてきたわけですが、全国津々浦々まで高次医療機関を整備するくらいなら二次医療圏毎に基幹病院を整備して急性期の患者を集め、落ち着けば道路網で周辺関連施設に流していくというやり方のほうがはるかに効率的かつ合理的です。
結局のところ「都会の人間は近所に立派な病院があるのになぜ田舎の人間は遠い病院まで行かなければならないのか?」と言う疑問を単なるわがままと取るか、それとも公平な料金負担を強いている以上は当然の権利主張と取るかということなんですが、聴診器一本と手洗い鉢ひとつでどこでも医療が行えた時代ならともかく、今の時代に地域性を無視した完全平等など決してあり得ないことも事実です。
現実的に同一料金同一サービスの建前が実行不可能になっているのであれば、そもそもの前提条件を変えて料金体系を変更しサービス内容に応じた格差付けをするという考え方もありでしょうが、仮にまともな急性期医療が基幹病院に集中するようになれば選定療養費等でサービス内容に応じた実質的な価格の引き上げが可能にはなるんでしょうね。

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コメント

東北に私立医学部を新設しても都会から開業医の子息が来て卒後都会に行くだけですねw
奨学金の縛りでも地域枠を見るとすぐ返せるので効果はあまりなさそうですし
縛り付けたいなら道州制絡みで地域枠や新設医学部の生徒は東北州医師免許しか取得できないとかに
しないと駄目でしょうね。それでもおそらく仙台などの東北の都市部に集中しそうですが,,,,,
本当何でこの時期に医学部新設なんでしょうか?何の利権だろう?

投稿: | 2013年6月13日 (木) 08時56分

医師が増えるほどそれ以上のペースで患者が増えていく不思議w
どこまでつきあうつもりなんだこの無間地獄にww

投稿: aaa | 2013年6月13日 (木) 08時58分

今後高齢者が激増する地域というと首都圏(埼玉、千葉)と東海ですかね。
あまりこういう話題では見ないですが神奈川や大阪なんかは大丈夫なんでしょうか?

投稿: | 2013年6月13日 (木) 09時07分

数年ごとに医学部ランキング最下位の大学を新設校と入れ替えては?
出来の悪い底辺医大が死ぬ気で猛勉強するようになるかもよ。

投稿: 神田川 | 2013年6月13日 (木) 09時14分

>この主張に対して、某大学病院の勤務医は怒りを隠さない。

いやならやめろw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年6月13日 (木) 09時35分

新設ってせいぜい東北にひとつとか関東にひとつとかそんなもんでしょ?
それで何がかわると思ってんですかねこの人たちは?
同期と話しててもいまさら医学部新設なんていってる人間いませんよ。

投稿: ぽん太 | 2013年6月13日 (木) 09時47分

一応弁護しておくと、例え実効性は全くなくとも医学部新設をしたという事実をもって新設派に対してもゼロ回答ではありませんよという言い訳は成立すると思います。
まあしかしどこに作るにしろ卒業生はその土地で仕事をしなければならない義務もないわけですから、地域格差是正策としてはいささか価値の乏しいものに終わりそうですが。
某団体などは若手を売るのが得意ですから、そのうち「医師は卒後○年間の研修が終わるまでは都道府県(あるいは地域ブロック)外で勤務してはならない」なんてことを自ら言い出す可能性があるのかなとも思ってます。

投稿: 管理人nobu | 2013年6月13日 (木) 10時55分

>この主張に対して、某大学病院の勤務医は怒りを隠さない。

少なくともあんたが忙しいのは医師会とはまったく関係ない。
茄子に仕事を押しつけられてるあんた自身の問題だ。

投稿: 玉田守 | 2013年6月13日 (木) 11時23分

最近出張で何度か仙台へ行きましたが、東京から仙台まで以前は2時間以上かかったのが、今はたった90分。
東北福祉大に首都圏、特に埼玉あたり在住の入学希望者が殺到しそうです(笑)。卒業したらサヨナラで。
東北でなくてもM大医学部なんかも卒業したらM県に残りたいなんていうマゾヒストは稀少ですからね。
首都圏でも人口が多くても県内に医科大学が1つしかなくて医療過疎状態の埼玉や千葉の病院で働きたいという医者も少ないと思いますので、結局若手〜中堅の医者は東京、大阪、名古屋など都市圏に集中することになるのではないでしょうか?
子供の教育環境や生活環境(プライバシー)などを考慮してもど田舎で勤務するメリットは殆どないでしょう。
欧米の場合は地方社会・地方自治が成熟してますから、医師定数配置が可能でしょうが、日本のような発展途上国の類似した都市圏集中型の社会構造では医師を地方に配置するのは無理です。
その前に地方分権など社会構造を根本的に変えないと。

投稿: 逃散前科者 | 2013年6月13日 (木) 15時44分

豊富な供給源があることを見落としてません?

http://studymedicaloversee.at.webry.info/200812/article_3.html
中国の医学部は基本的に2つに分かれている。
つまり、一つは5年生の本科卒業と8年生で院までコミコミのプランである(笑
そして、中国での最初の一年目の給料は大体1000~2000となっている。
北京市での2007年の平均収入が2000元と少しなので、2000元もあれば余裕で生活できると思っている、馬鹿が多いのだが、きちんとニュースを見れば北京市に通う中高生の平均的なお小遣いは大体2000元前後と言われている。
中国での医師を志す人口は年々減っている。特に五年生の西洋医学学科と中医学科だ。
そして、5年生の中医学科の人たちは、卒業後薬品会社に就職を決める方が本当に多い。僕の知り合いだけでも、数人いた。給料は初任給で5000元以上。どちらを選ぶかは明白だ。

8年生の学生はどうだろう?
医師になる方も多いのが事実であるが・・・・大都市の医師は既に飽和状態。
毎年何百人も卒業生を出しているのに、病院の受入態勢がない。よって、地方に行きたがらない学生や有名ではない普通の病院で働くのを嫌がる人も多くいる。
さらに、協和大学での学生の方々は初めから英語で授業をしており、卒業後はアメリカへと流れる。
優秀な人間はドンドン海外へ流出するのだ。

5年生を卒業し、院へ進み、博士まで取ってやっと北京の大きな病院で働ける時には30も近い。
8年生でも同じことだ。
別に憂うわけではないが、事実として書いているが・・・・今までに本当に医師になりたいと思っている人なんてあまり見たことがない。中国の言葉に「はさみを持つなら医師ではなく、床屋の方が儲かる」というのがある。

投稿: こだま | 2013年6月14日 (金) 13時42分

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