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2013年6月11日 (火)

給与増による医師労働環境改善の先送りはすでに限界?

最近ではブラック企業ということが流行語のように言われていて、ただでさえ厳しい就職活動に従事する学生達も「もしブラック企業だったらどうしよう」と戦々恐々だとも聞くのですが、そんな中でこういう記事がブラック企業のなんたるかを示していると(恐らく記者の意図したものと異なった意味で)話題になっているようです。

残業代未払い求めるドライバー「人間不信に陥る」(2013年6月3日物流ウィークリィ)

 「人間不信に陥るよ」。それまで不平不満も言わず、まじめに働いていたドライバーがある時、急に態度を変える。トラック業界における労使トラブルでよく耳にする話だ。決して労働環境が整備されているとはいえない業界にあって、こうしたトラブルはいま、現場で頻繁に起きている。今回、当事者となってしまった東京都内の事業者も、「話に聞いていたが、まさか自分がという思いだ」と打ち明ける。

 「不平不満も言わず、まじめに働くいいやつだ」。社長が最初に受けた印象で、何事もなく半年が過ぎようとしていたが、それまで何も言わなかったドライバーが有休を取りたいと申し出てきた。代わりのドライバーを用意するだけの余裕はない同社にとって、有休とはいえ休みを取られるのは痛手だ。社長は状況を説明した上で、苦肉の策として、有休を買い取ることで了承を得ようと試みた

 一時はそれでしのげたが、そのドライバーの態度は徐々に悪化。何かといえば不平不満を口にする。見かねた同社長が注意しても、態度は変わらない。

 対応に苦慮していた時、新たな問題が起きる。残業代の未払いを要求してきたのだ。払えないと諭すと、今度は弁護士を伴って荷主へ駆け込んだ。

 同業大手の仕事をしていた同社は、荷主からその事実を聞かされ慌てた。後でわかったことだが、ドライバーは入社してから、すべての日報をコピーして保管していたのだという。確信犯だった。残業代の請求は500万円に上ったが、労働調停で妥協案を示し、半分の250万円で解決を図ったという。

 しかし、問題はそれだけで終わらなかった。荷主から台数削減というおとがめが来たのだ。仕事は長時間拘束される上に、運賃も残業代までカバーできる額には程遠い。トラブルの原因は、長時間の拘束をさせた荷主にも少なからずあるのだと社長は考えていただけに、「迷惑をかけたのは事実だが、台数削減には納得はできない」のが実情だ。

 しかし、強く撤回を求めることもできず、従うしかないという。「平気で会社を裏切るドライバーや、臭いものにフタをする荷主の姿勢に、人間不信に陥った」。会社を畳むことも考えたが、残ったドライバーのためにも続ける覚悟を決めた。社長は、「自分の会社は自分で守らないといけない。不測の事態に対応できるよう、しっかりと環境を整備しなければならない」と話す。

はい、記事のタイトルから労働者がブラック企業にいじめられて心を病んだとか、そういう話なんだろうなと予想して読んでみたら全然違ってなんだそりゃ?と思った人、先生怒らないから手を挙げてください。
このトラック業界の暗部は以前から社会問題化しているところですし経営的にも非常に難しいところであることは重々承知していますが、だからといって経営者が従業員の正当な権利を守らないのでは依頼主が業者の正当な権利を守ることを要求する、その正当性そのものがなくなってしまうというものではないですかね?
あくまでも業界紙の記事ですから当然ながら経営者目線での記事になるのは避けられないとは言え、それだけに業界の自主的改善努力の限界というものを示すひとつの好例として他業種の方々にとっても参考になるケースではなかったかという気がします。

さて、法定労働時間無視で長時間拘束される過酷な労働であるとか、残業代不払い当たり前といったキーワードが続けば「それどこの医療業界?」と感じる人も少なからずいるのではないかと思いますが、その医療業界ではようやく世間の目が過酷な勤務環境に注がれるようになり、マスコミもかつてのような医療バッシング一辺倒から「医療崩壊ネタの方が売れる」と考え始めている気配がありますよね。
需給バランス崩壊や長年の不当な労使慣行など医療が崩壊してしまった原因は多々ありますが、当事者である医師が要約当たり前の労働者としての権利に目覚め始めたのみならず、こうして世間の注目と同情を集め「このままでは医療がなくなって大変なことになる」と世論も動き始めた今こそ、きちんと根本的な改革を行って長年貯まった膿を出し切ってしまう好機であるとも言えるはずです。
専門職が行うべきでもない雑用に追われて医師としての業務がおろそかになるなら改める、残業残業で労基法違反が常態化しているのであれば断固是正をしていくといったことこそ今行うべきなのに、それを放置してただひたすらOECD平均並み(苦笑)に医師を増やしさえすれば全ては解決しバラ色の未来絵図が訪れる!と主張するのは詐欺まがいの行為というものかと思います。
そんな中で先日医師の待遇改善ということで興味深い調査結果が出ていましたが、今まで待遇改善と言えば労働環境は改善できないから給料増で、とごまかしながらやりくりしてきたことはもはや限界なのではないか、とも思わされる内容なのですね。

◆日経メディカル オンライン「医師の年収調査」勤務医の6割近くが給与に満足(2013年6月7日日経メディカル)

 自分の給料に満足している医師は意外と多い!? ――日経メディカル オンラインが2013年5月に実施した、医師の年収・転職に関するアンケートの集計結果がまとまった。年齢層別にみた医師の年収、収入に対する満足度の推移のほか、医師の転職やアルバイトなどの実態について、詳しく報告する。

 日経メディカルが医師を対象に2013年5月に実施した年収についてのアンケートで、回答した勤務医(840人)の59.1%が、常勤先からの給与に満足していることが分かった(図1)。

 日経メディカルでは2008年以降、5回にわたって年収についてのアンケートを実施してきたが、常勤先からの給与について「現状で満足」と回答した医師が半数を超えたのは今回が初めてである。

勤務医840人の平均年収は1477万円

 今回の調査に回答した勤務医840人の年収総額は平均で1477万円。常勤先からの給与に限ると平均1293万円だった。2011年に実施した前回調査(年収総額平均1458万円、主たる勤務先からの年収平均1274万円)から、いずれも微増した。差額すなわちアルバイトによる年間収入は184万円で、年収総額の12.5%に相当する。

 これまでの調査結果を見ると(図2~4)、勤務医の平均年収は2009年以降、徐々に増加しており、中でも常勤先の給与の伸びが比較的大きい。そのため、総収入におけるアルバイトの割合は相対的に減少している。ただ、35歳以下の若手医師に注目すると、今回の年収総額は平均940万円で、微減もしくは横ばいといったところ。常勤先からの収入も横ばいで、アルバイト依存度にもほとんど変化はない。

満足度と年収との関係を見てみると、「もらいすぎ」と回答した医師10人の年収総額は平均で1945万円。「現状に満足」と回答した477人では同じく1563万円であった。これに対して、「不満」と回答した295人の年収は1355万円、「かなり不満」と回答した医師58人の年収は1318万円だった。1400万~1500万円付近に“満足の壁”が存在するようだ。

転職意向をもつ医師は4割弱

 収入への満足度に続いて、職探しの意向を尋ねた。回答者1001人中、「常勤の転職先を探している」のは175人。「定期的なアルバイトを探している」「不定期なアルバイトを探している」も含めると、約半数が何らかの職探しをしていることが分かる。

 常勤先を探している175人に、転職を考えている理由を尋ねたところ、ダントツに多かった回答は「給料が安いから」。次に多かったのは「休みがとれないから」だった。一方、転職先に求める条件を聞くと、順位が逆転し、「忙しすぎない」がダントツ。「給料が高い」は2位だった。また、どちらでも3位に入っているのが、「やりがいのある医療」というキーワードだ。
(略)

記事から読み取れることは色々とあって、そもそも平均年収がこの数年ようやく増えてきているんだなと改めて実感しますけれども、ただあくまでも常勤医の給与ということで国公立病院によくある「実態は常勤以上の何者でもないのに帳簿上は非常勤扱い」というとんでもない業界慣行が拾い上げられていない可能性がありますし、平均ではなく個別の状況もさらに精査する必要があると思います。
ともかくも医師が給与的に満足すると言う水準を平均的な年収総額が超えてきた、そのことが過半数の医師が金銭的には満足と答えていることの理由であることは言うまでもないのでしょうが、一方で金銭的には満足であっても未だ多くの医師が転職の意向を持っているということは注目せざるを得ません。
その理由として表向きには給料が安いということが圧倒的ですが、その一方で転職先の条件として給料よりも忙しすぎないことを基準に選ぶという声がこれまた圧倒的であることに留意すべきで、実際には単純に給料が安いというのではなく働きと給料が見合っていないことが不満なのであり、そして平均給与が上がったこともあってか今や給与向上よりも勤務状況改善を求める医師が増えているという実態が見て取れるわけです。

高度成長期の頃からバブルを経てもかれこれ30年も横ばいだった勤務医の給与はこのところ医療崩壊だ、逃散だと騒がれるようになってからやや上昇傾向に転じていると言いますが(今回の調査では2008年から5年間で約100万円の年収向上と言います)、その背景として激務を直ちには解消出来ない以上せめて働いた分は金銭的に報いることでモチベーションを維持してもらおうという経営者側の判断があったと言えそうです。
ところが多くの医師達が金銭的にはすでにそれなりの満足感を得ているということになれば、今後どうやってモチベーションを維持すべきかと経営側も頭を悩ませることになりかねず、これからは未だ先送りされてきた勤務体制の改善に手をつけて行かざるを得ない、それも別に過度に優遇しろと言うのではなくせめて法律で決まっている程度の労働環境を守るそぶりくらいは見せてくれよと言うところから手をつけなければならないわけです。
もちろん医師という商売が昔から不思議だと言われる珍現象のひとつに過酷で逃げ出したくなるような奴隷的労働環境を誇る病院ほど給料が安いという妙な逆説があって、特にこうした施設が地域の救急医療などを一手に引き受け奮闘しているという現実は全国各地で見られるのですから、まずはそうした妙な慣習を改め努力した人は相応に報われるという報酬体系に改めていく必要があるでしょう。

実はこの点で基幹病院を中心とする認定施設できちんと症例数をこなしていかなければ取得も維持も出来なくなるという新専門医システムというものは、こうした逆境にある医師に対して特別の待遇を用意するための道具としても使える可能性を秘めているものなのですが、今のところ例によって診療報酬上施設に加算するような話は漏れ聞こえて来ても、医師個人に報いるということはあまり真剣に議論されていないようです。
医師に限らずスタッフの報酬は収入の範囲で施設の経営者側が自由に設定するものであって、どうせ今時待遇が悪い施設からは医師が逃げていくのだから問題ないじゃないかという声もありますが、問題はそうした待遇が悪い施設ばかりが専門医の認定施設になってしまう、さらには一歩進んで認定施設が新専門医という公認のエサを持つことで待遇改善どころかむしろ切り下げる可能性すら否定出来ないということですね。
現実的に医師個人の待遇を担保することは難しいと言っても、すでに新臨床研修制度下で研修医には最低限これ以上という待遇を担保することが出来ているわけですから、今さら専門医にはそれが出来ないと言われても何故?技術的には同じことでしょ?と言うしかない話ですし、その程度の見返りも用意出来ない施設が専門医の認定施設となることに当事者たる医師の理解が得られるかどうかも考えるべきかも知れませんね。

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コメント

>先生怒らないから手を挙げてください。

はいひっかかりました。
ところで国公立の先生って兼業禁止じゃなかったでしたっけ?
これって民間病院だけの数字なんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2013年6月11日 (火) 08時56分

アルバイトに関しては、リンク先の最後で触れられています。

現在アルバイトをしている、月1回:10.0%
             月2回:12.7%
             週1回:25.8%
             週2回以上:12.7%
全くしていない:24.4%
禁止されている:3%
以前はしていたが、現在はしていない:11%

だそうです。

投稿: JSJ | 2013年6月11日 (火) 09時21分

アルバイトと言うとこういう記事も出てましたが、確かに金銭的には医師のアルバイト=おいしい副業と言われるんでしょうね。

医師はアルバイト収入でベンツが買える?医師の“おいしい”アルバイト事情(2013年6月6日東洋経済)
http://toyokeizai.net/articles/-/14176

投稿: 管理人nobu | 2013年6月11日 (火) 11時44分

上記の場合分けって、全く数学的素養が感じられないですね。
馬鹿な人が選択肢を作ったか、自由記載にして後から、適当に集計してみたかの、どちらか、またはその両方なんでしょうね

それはそうと、私ならダラダラしても残業代がもらえるなら、ダラダラ残業代請求するけれどなぁ
ダラダラ残業を管理して排除しないのは、事業者の怠慢だし、こっちは別に請負契約でもなく、単にサラリーマンとして働いているだけです

働いている分の給与を請求しないのは、ダンピングと一緒ですが、ダンピングの害が自分に及ばない限りは関係ないかな?
むしろ、過剰利得を得ているかもしれませんね

投稿: Med_Law | 2013年6月11日 (火) 11時45分

これだけ医療崩壊が進んでも、未だにリスクを冒して難しい救急患者や重症患者の診療にあたっている医師らにそれ相応の給与加算がほとんどないという実態こそが最大の問題点です。
救急や重症医療に1人診療したらいくらという出来高契約でもないと、ただの使命だけではモチベーションは上がらない。
救急や重症に全くタッチしない医者のほうが給料が高いというおかしな事が許されているからモチベーションが下がるだけだし
救急指定病院から逃散医師も後をたたず、ついには医師全員逃散して崩壊してしまうだけです。
それなりの仕事をしてそれに見合った報酬が得られないという「医療界の常識」はワーキングプアと何ら変わらないですよ。
救急・重症に日常的に対応している医師は全く対応していない医師より2〜3倍は報酬をもらうべきです。

投稿: 逃散前科者 | 2013年6月11日 (火) 12時28分

クソ病院から集団逃散>基準満たせず認定施設解除>クソ病院の淘汰が進みウマー
やはり結論として嫌なら辞めろでFAだなw

投稿: aaa | 2013年6月11日 (火) 12時59分

>救急・重症に日常的に対応している医師は全く対応していない医師より2〜3倍は報酬をもらうべきです。

今時そんな事やってる医師は変態性癖者を通り越して労働ダンピングしまくりの全労働者の敵にしてワタミの手先のおフェラ豚ですからむしろ縛り首にすべきかとw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年6月12日 (水) 09時37分

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