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2013年5月 7日 (火)

医療の成長産業化の前提条件

最近では総理直々に日本の医療を海外展開させていくと鼻息も荒いようですが、医療機材やスタッフの輸出だけではなく皆保険制度というシステムそのものの輸出を図るという話であればおもしろいですね。
ちょうど先頃イギリスでも公的保険システムであるNHSを海外展開していくという話が出ていたことと符合しますが、ありとあらゆる国がその経済発展と相前後して医療費増加という問題に直面しつつある中で、日英両国という比較的に公的医療支出の抑制に成功している国々の方法論が商売になると考えているということでしょうか。
ただ医療費増大と言えばまるで不要支出が増えていくだけのように悪いイメージで語られる傾向も見受けられますが、実際には日本を始め高齢化が進行している国々では医療・介護領域こそ内需拡大の切り札、高齢化社会における花形産業と言っていいはずで、実際に先日もこういうニュースが出ていたことは注目しておくべきですよね。

女性の失業率、5年ぶり4%切る 医療など就業増(2013年4月30日日本経済新聞)

 総務省が30日発表した2012年度の完全失業率(平均)は男女で差が出た。男性の4.5%に対して女性は3.9%となり、5年ぶりに4%を切る低水準となった。求人が増える医療・福祉業で女性の就業が進んだためだ。一方、男性が多い製造業では新規求人が少ないまま。失業率の本格回復に向けて、新産業の成長による男性の雇用改善がカギになりそうだ。

 仕事を探していない無業者にあたる「非労働力人口」が女性は前年度から16万人減ったのに対し、男性は24万人増えた。雇用環境の厳しさから職探しを諦める男性が増える一方で、代わりに働きに出る女性が増えたとみられる。

 その受け皿となったのが、高齢化で需要が増える医療・福祉業だ。12年度の同業種の就業者は前年度と比べ29万人増え、715万人となった。増加した人の約8割(23万人)が女性だった。

 男性の多い製造業では新規求人数が3月まで10カ月連続で前年同月を下回り、苦境が続く。円安の影響でマイナス幅は縮小傾向だが、「工場などの海外移転は減っても、一度移転した拠点を国内に戻す動きはない」(日本総研の山田久調査部長)。男性の就業者を増やすには、製造業で失われた雇用を受け入れる新たな産業が必要になる。

そろそろ日本も製造業中心から第三次産業中心へと社会産業構造を変化させていくべきだと久しく言われる中で、現実的に巨大な潜在需要があるものを公的に無理矢理抑制することで成長を一生懸命鈍化させている産業があるのであれば、このまだまだ景気回復の道も遠いご時世になんとも馬鹿げた行為ではないかと言う気がします。
医療はもちろんですが特に介護領域においてその傾向があることとして、とにかく3Kだ、4Kだと悪評紛々たる職場でありながら実入りはそれに見合っていないと言いますから、それならばまずはスタッフに対するペイを改善することが人手不足解消と雇用創出の両面に有効なのは当然なのですが、問題は医療にしろ介護にしろ公費が相応に投じられているということですね。
国としては医療・介護コストを総額でしか見ない以上、その抑制策が続けば結果として限られたパイの奪い合いになるのは当然で競争相手である同僚は少ない方が良いと言うことになる、医師大幅増に対する反発が強いのもそれも大きな要因の一つでもありますが、同時に人手不足に対して仕事量は増え続ける一方ですから業務量はさらに増える、結果として逃散が進むというのはおかしな話です。
では十分にコストをかけてきちんと見返りを用意すればどうなるのかということなんですが、非常に医療費が高額であることで知られている米国では良い職業のランキング上位に医療関係職が多数顔を出しているという興味深い現象があるようです。

米職業ランキング、医療関係が上位に 最下位は新聞記者?(2013年5月2日CNN)

(CNN) 米求人サイト「キャリアキャスト」はこのほど、2013年版職業ランキングを発表した。ランキング上位には米国社会の高齢化を反映して、医療分野の職業が目立った
ランキングは米政府統計などを利用し、200の職業について職場環境、収入額、求人見通し、ストレスの度合いの4基準から作成された。
1位に輝いたのは事象のリスクや不確実性の分析などを専門とするアクチュアリー(保険数理士)。そのほかトップ10には医療関係の仕事が多く入った。高齢化が進むなかで同分野は大きな成長が見込まれている。
最下位は紙媒体の不振を反映して新聞記者だった。これに山林の伐採労働者や軍の下士官、俳優、石油掘削施設の労働者が続いた。

1位:アクチュアリー(保険数理士)
2位:医用生体工学の専門家
3位:ソフトウエア技術者
4位:聴覚機能の訓練士
5位:ファイナンシャルプランナー
6位:歯科衛生士
7位:作業療法士
8位:検眼士
9位:理学療法士
10位:コンピューターシステムのアナリスト

しかし日本ではそもそもそんな職業自体大多数の人々が知らないだろうというマイナーな(失礼)職種がランキング入りしているのが興味深いですが、ただ日本においても医療関係職は今後どんどん需要が伸びていく成長分野の筆頭格という扱いになっていて、その中でも医師や看護師など専門性が高い職種よりも周辺をサポートするコメディカル等がおすすめということになっているようですが、もちろんそれは国が健全な医療・介護領域の成長を許すならばという前提条件があるわけです。
当然ながら安定的な成長産業に育て上げていくためには他産業と同様に成長に対する不要な足かせを可能な限り排除していく必要があるでしょうが、その筆頭が日本のような公的保健医療がほぼ100%に達している国ではその保健医療システムそのもの、より正確にはそのうち公費支出分の増大ということになるわけです。
となると、医療費が増大しても公費支出が増えていかないように制度を改めるなりしなければならないという理屈ですが、その一つのやり方として現在禁止されている100%公定価格のみの医療を外れた自費医療分も保険診療と併用できる混合診療を認めるということが挙げられるのは自然の摂理であるかと思います。

最近では半世紀前に成立した皆保険制度がそろそろ時代に合わなくなってきているということが誰の目にも明らかになってきていて、何かと言えば医療改革ということが世間でも言われるようになりましたが、その考え方の一つとして医療現場はパンク寸前なのだから不要不急の医療受診はやめましょう、出来高払いから定額払いにして医療費を抑えましょうといった縮小均衡スタイルの改革が一方では唱えられています。
一見するとこれは混合診療も営利的病院経営も認めてといった拡大路線を突っ走るやり方と真逆のようにも思えますが、医療スタッフの多くが資格職である以上は無駄な部分はなるべく縮小させて、必要な部分に思い切ってリソースを集中するという考え方はどのみち必要になることで、拡大か縮小かと言うよりも取捨選択をどこまでダイナミックに行うべきかということが本当の改革なんだろうと思いますね。
そのために実は皆保険システムで国民全員が同じ医療をベースにしているという日本の医療環境は非常にコントロールが行いやすいのは事実で、世間では全く否定的な意味で語られている保険診療の範囲を縮小し混合診療を順次拡大していくという話も、使いようによっては医療の正常化と健全な成長を図る有力な道具になり得るということです。
今現在は財政的にも人材的にも需給バランスが逼迫しているのは事実ですから、まずはその事実を盾にして妥当な範囲にまで医療の贅肉を削っていく、しかる後に伸ばすべき領域においては混合診療でもなんでもありで徹底して成長させていくというやり方が望ましいと思いますが、またぞろ国民の理解が…などと言い出してこの手順を逆にしてしまうと皆保険システムそのものが破綻しかねないので要注意ですね。

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コメント

日本じゃあまり儲からなさそうな仕事も入ってますね。>米職業ランキング
ストレスが少なければ稼ぎはそこそこでもランキング上位になるってことでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2013年5月 7日 (火) 08時40分

>>最下位は紙媒体の不振を反映して新聞記者だった。

これだけは予想通り
追い詰められた記者の捨て鉢な報道テロが発生しないことを祈ります

投稿: Amanogawa-R | 2013年5月 7日 (火) 10時57分

サラリーマンとしての記者にはあまり先がないとして、どこに職業人としての稼ぎ口を見いだすか、どこに記者としてのレゾンデートルを見つけるかですね。
大手新聞なら全盛期の漫画雑誌と同等以上の部数が毎日出ているのですから、稼ぐことに特化すればまだまだ当分はおいしい商売が出来ると思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月 7日 (火) 11時56分

医療を成長産業にしたいのなら混合診療の導入は必須でしょうね。
皆保険は配給制みたいの物なのでこの制度のままでは
産業としての伸びはあまり期待できないと思います。
また皆保険の輸出は難しいでしょう。
なぜなら日本の皆保険は医師の使命感で持ってる部分が多いので
他の国だと上手くいかないと思います。

投稿: 匿名 | 2013年5月 7日 (火) 15時44分

つまりは医療の産業化は悪いことなんだと脊髄反射しちゃう人がいるってことでしょ。
資本主義は悪だ、社会主義こそ正義だみたいな考え方の人なんでしょどうせ。
医療費無料のキューバはすばらしいってテレビも言ってますもんね。

投稿: 寛太 | 2013年5月 7日 (火) 16時46分

赤ひげを称讚するんだったらもうけられるところでがっつりもうけて貧乏人には安く提供するのはありだと思うんですけどね。
いまは金だせる金持ちにまで安くしちゃうもんだから貧乏人もコミでつじつまあわせが必要になっちゃうんでしょうに。

投稿: Luna | 2013年5月 7日 (火) 20時40分

「医療後進国」になるな…読売新聞社提言
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130507-OYT1T01487.htm?from=ylist

マスコミも医療の産業化にゴーサインを出したようですな
あんがい政治家の認識がいちばん送れているということなのかも知れず
これも羮に懲りて膾を吹くですかな?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年5月 8日 (水) 12時44分

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