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2013年5月22日 (水)

都市部の高齢者は地方へ捨てられる時代に?

ひと頃全国最多の待機児童数を誇った横浜市がわずか三年で待機児童ゼロを達成したと話題になっていますが、こちら多数の待機が未だに続く状況に対して国がこんなことを言い出したようです。

厚労省:都市部の高齢者介護サービス 地方受け入れ協議へ(2013年5月20日毎日新聞)

 厚生労働省は20日、「都市部の高齢化対策に関する検討会」の初会合を開いた。都会で増大する介護の需要を満たすため、今後、都市部の高齢者を地方で受け入れる際の課題と対応策などを検討し、秋をめどに報告書をまとめる。

 「団塊の世代」がほぼ75歳以上に到達する2025年は社会保障費がピークに達する「2025年問題」に突き当たる。地方から都市部に出てきた同世代は都会に永住する傾向が強く、都市部での介護施設やサービス供給不足が懸念されている。政府の産業競争力会議の指摘を受け、厚労省は有識者と東京都や大阪市など都市部の自治体代表ら15人による検討会を発足させた。

 検討会では、都市部の高齢者を地方で受け入れた場合の介護・医療費を自治体間でどう負担するか、企業や住民互助などを活用したサービス提供、都市部での特別養護老人ホームや居宅サービスの推進策などを検討する。【細川貴代】

都市部→地方 高齢者受け入れ検討膨らむ医療介護需要 厚労省(2013年5月20日産経新聞)

 厚生労働省は20日、急速に高齢化が進む都市部で、社会保障の対策を探る検討会の初会合を開いた。高齢者向け住宅や医療・介護サービスなどが将来、需要に追いつかない事態が予想されるため、高齢者の地方での受け入れや、介護分野で働く人材の確保など対策を議論。9月までに具体案を取りまとめる方針だ。

 地域福祉や医療、町づくりに詳しい有識者や、東京都や横浜市、名古屋市など都市部自治体の担当者も参加。座長には東大の大森弥名誉教授が就任した。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、三大都市圏で75歳以上の高齢者が急速に増加。2010年と比べ、25年には埼玉県で2倍の117万7千人、大阪府で1・81倍の152万8千人になるなどと予想している。医療・介護サービスの需要も大幅に拡大するため、民間企業の活用などを検討。静岡県南伊豆町に特別養護老人ホームを整備する東京都杉並区などの例を踏まえ、地方での都市部の高齢者受け入れ策や課題なども議論する。

そもそも大都市圏の介護サービス不足はずっと以前から言われていて、2009年のJBpressにも「首都圏の高齢者に迫る危機、しわ寄せは地方へ」というそのものズバリな記事が出ていますけれども、以前から大都市圏では人口高齢化に伴い介護サービスが不足する、その受け皿として地方にサービス供給を求めざるを得ないという議論はあったわけですね。
大都市圏側の視点に立てばそうなるとして地方にとってのメリットは何かということが気になるのですが、基本的に高齢者とは純粋にサービスを消費する立場であって、サービス供給体制などの物理的な環境整備にもコストがかかる上に介護保険にしろ健康保険にしろ消費量が圧倒的に多く持ち出しになるわけですから、地方にとっては言葉は悪いですが都市部からの非生産者の「棄民」によって出費ばかりが増えるということになりかねませんよね。
特に地方と言えば昨今国保の財政悪化が懸念されていますが、さらに赤字を増やすことが確実になりそうな高齢者受け入れがありなのかどうか、下手をすると若くて稼ぎも納税もいい時代は都市部で過ごして、人生最後の帳尻合わせだけを地方に押しつけるのかという話にもなりかねないでしょう。
当然ながら自治体間での負担の公平化ということが今後主要な議論のテーマになるはずですが、そもそも地方と言えば都市部以上に高齢化が進んでいるわけですから労働力の確保もどうするのか、そして家族にとっては遠隔地へ老親を送り出すことへの抵抗感はないのかなど、なかなかに課題は多そうな話という気がします。

ところで冒頭の待機児童の件に戻って非常に示唆的なのは、保育所に関しても企業の経営状況で突然の閉鎖があり得ることや既存の保育所を運営する社会福祉法人への配慮などから、これだけ保育所不足が言われながら自治体によっては株式会社の参入を認めないケースがままあったと言うことで、今月も国からわざわざ要件を満たせばちゃんと認可するようにと通達が出ているほどなのですね。
医療などはそもそも株式会社の参入を認めてもいないのですが、介護領域も含めて人様の命を預かるということに対して営利的経営に対する忌避感のようなものがどうしても拭えない中で、医療や介護で食っていくことを考えるのはそんなに悪いことなのか、需要に素早く応えられるし雇用も増え景気も良くなっていいことだらけじゃないかという考え方は当然出てくるところだと思います。
今回の老人介護の件についても増え続ける需要を満足するため民間企業の活用を云々という話が出ていますけれども、その結果介護サービスによる雇用が増えるというのであればきちんと食べていけるほど儲かる報酬体系にする必要があるのは当然で、ただでさえ3Kだ、いや4Kだと逃散相次ぐ介護業界の待遇改善を一刻も早く推し進める必要があるはずです。
特に人家もまばらで移動・待機の時間が長い地方では介護サービス提供の効率が悪いことが知られていて、当然コスト高になるはずなのに報酬額は定価で決められているのですから従業員報酬が割を食うのは当然で、都市部と地方で報酬に格差をつけるなど厚労省お得意の誘導策も必要になってくるでしょうね。

ただ介護報酬に色をつけるということは介護サービスが高額化するということでもありますが、そうなりますと現状でも「施設などに入れるよりも病院に入れておくのが一番安上がり」などと言われる、日本の歪な高齢者医療・介護の報酬体系によってますます入院長期化が起こる可能性もあるでしょう。
今現在は長期入院させるほど診療報酬上病院の取り分が減っていくという形になっていて、これによって病院側に患者をさっさと追い出せと言う圧力をかけているわけですけれども、考えて見れば判る通り(実際にはほとんどの場合高額医療に引っかかって支払い額は定額ですが)患者側から見ると「長く入院させるほど安上がり」になる理屈ですから、なんだかんだと理由をつけて病院に長く居座りたくもなりますよね。
日本でも以前に長年治療費を支払わないまま病院内に居座って問題行動を続けていた患者を家族から引き取り拒否され、困り果てた職員が公園に置き去りにしたという事件が話題になりましたが、最終的には応召義務を根拠に病院が全部泥をかぶればいいという考えで社会保障体系の矛盾を解決した気になってしまうことだけは勘弁していただきたいところです。

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コメント

>>厚労省は有識者と東京都や大阪市など都市部の自治体代表ら15人による検討会を発足させた。

そこは受け入れる側の意見を聞くべきじゃないの?

投稿: konta | 2013年5月22日 (水) 08時45分

都市部がお金を出して職員の給料を倍にするとかだったら受け入れられるかも。
でも高齢化率って地方の方が高いですよね?受け入れる余裕がありますか?
新規に作って増やすなら都市部でも同じことのような気が(地価は高いでしょうが)。

投稿: ぽん太 | 2013年5月22日 (水) 09時12分

被保険者が住所地以外の市区町村に所在する介護保険施設等に入所等をした場合、住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる住所地特例という制度がありまして、これを上手に使えは、地方の負担どころか、都市の負担で地方の雇用が増える効果が期待できます。ですからこのお話は地方にとって悪くない話です。

投稿: hhh | 2013年5月22日 (水) 10時39分

ハコモノも全部作ってもらってあとは現地で人を集めるだけならおいしい話ですけどね。
でもいまから施設作っても二十年たったら需要がどんどん減って不良債権になりますよ。
その時になってもちゃんとお金は出してくれるのかなって思います。

投稿: まかべ | 2013年5月22日 (水) 10時47分

CBニュースの報道によるとちょうどその住所地特例が話題になっていたようで、やはり誰がコストを負担するかということは議論にならざるを得ませんね。

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/39918.html
(略)
 このうち、住所地特例の適用範囲にはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の多くが含まれていない。そのため、特に首都圏の自治体などから、「サ高住の急増に伴い、都内から高齢者が移り住むようになれば、介護保険財源が圧迫されかねない」との声が上がっており、今回の検討会でも、その適用範囲にサ高住を含めるかどうかが議論される見通しだ。
(略)
熊坂義裕委員(盛岡大教授)は、都市部の高齢者を地方で受け入れる場合について、「要介護状態になってからでは難しい。退職した時点からの転入が望ましい」と指摘。財政的にも工夫が必要とした上で、「例えば都会に10年以上住んだら、負担は都会の自治体がするということを制度化してはどうか」と提案した。
(略)

記事にもあるように全ての施設が特例の対象になるわけではありませんので、認定施設だけを引き受け対象にするのか認定そのものを広げるのか議論が必要ですね。。
もちろん特例もいわばランニングコストを負担してくれるだけですから、本気で老人移住を推し進めるなら杉並区のように自前で施設建設も考えておくべきでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月22日 (水) 11時21分

>でもいまから施設作っても二十年たったら需要がどんどん減って不良債権になりますよ。

今から20年後が需要のピークと予測されるわけでして、ハコモノが不良債権化するのは、さらにその先です。
民間がこういうものの事業計画を立てるときは、25年でハコモノの借金が無くなるように事業計画を組むことが可能ですし、そういう例も少なくありません。
ハコモノが余る時期までには十分に投資回収できるはずです。ただし、今のところですが。

投稿: hhh | 2013年5月22日 (水) 11時49分

病院なら稼働率改善のために患者を集めざるを得ないということがあるが、施設の場合は基本常時満床ですからな。
下手に欲をかいて施設を拡大したはいいが職員が集まらず受け入れも満足に出来なければ、空きベッドを抱えて行き詰まることになりかねない。
それに入所者を増やそうと思えばハイリスクな人も入ってくるので、供給を控えめにして顧客を選べる売り手市場を維持した方が何かと都合がよろしいのです。

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年5月22日 (水) 12時03分

高齢者自体の数は2042年がピークで人口に対する高齢者の比率は2071年がピークとの予想です。
ちなみに2100年には4000万人ほどの人口になるとか。

投稿: | 2013年5月22日 (水) 13時59分

まあ今後50年くらいはどこへ行っても、日本国中、爺婆だらけという時代になりそうですね。
老人医療と介護が成長産業・ビジネスチャンスになるのは間違いないですが、元気な高齢者が病気の高齢者の面倒をみるという社会
になりそうです。どういう人達が、都会から地方へ遺棄される対象になるのかが気になります。

投稿: 逃散前科者 | 2013年5月22日 (水) 14時35分

 厚労省が先導して、高齢者の社会保障を都会部は今後満杯で出来ないから、地方へ収容してほしい等検討していることが話題に成っている。我々地方に住んでいる者にとっては奇怪な事だ。
そもそも、昔から東京や大阪など、大都市部への高校や大学の受験・入学と就職。                         中央省庁などの国家公務員。民間大企業など優秀な人材は都市部へ流出。一方の地方は限られた人材・資本力で高い地方税のもとに労働し、都市と地方の収入や便利さなど格差は開く一方。定年退職まではほとんど平行線。個人としては将来設計は考えていた筈。
 今に成って、高齢者の医療や福祉施設が足りないから、地方へお願いするとは、ちょっと虫が良すぎるのではないか。

投稿: 団塊の白髪の青年 | 2013年5月22日 (水) 16時04分

単に日本古来の伝統文化でしょ
さあご老人、明日はお山にまいろうじゃないか

投稿: | 2013年5月22日 (水) 17時14分

どこにいくにも車が必要な田舎より近所に店も病院もある都会のほうが老人向きでしょうに。
それとも老人ホームに入るような人だけ田舎に送り込んでくるつもりなんですか?
こっちだって介護は人材難で手一杯なんだけど。
けっきょく原発も老人も利用するのは都会の人なのにやっかいごとだけぜんぶ田舎におまかせってことなんだね。

投稿: 田舎者 | 2013年5月22日 (水) 19時48分

自民党の鴨下一郎国対委員長は24日、東京都杉並区が静岡県南伊豆町で整備を検討している特別養護
老人ホームを「姥捨山(うばすてやま)」と発言した民主党の山井和則氏を批判した。

国会内で記者団に「特定の地域にレッテルを貼る発言で穏当でない。女性に対するネガティブな表現でもあり、
謝罪して撤回すべきだ」と強調した。

山井氏は24日の衆院厚生労働委員会で「都市部の高齢者に、地方の老人ホームに入ってもらうという検討会を
厚労省がやっている」と指摘。その上で「杉並区はいい事例なのか。田舎や地方に、入居を待機する高齢者を
どんどん、姥捨山みたいに出していいのか。家族が会いに来られなくなる」と発言した。

田村憲久厚労相は答弁で「都会は良くて地方は姥捨山というのは言い過ぎだ。不適切な発言だから撤回した
方がいい」と答弁していた。

投稿: やっぱり姥捨て山 | 2013年5月28日 (火) 09時16分

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