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2013年5月13日 (月)

ブラック企業にどんどん人材を送り込め?!

昨今話題になることも多いのがブラック企業というものですが、実はネットの発達で医療業界こそ壮大なブラック企業そのものではないかという認識を多くの医師が持つようになったことが医療崩壊に結びついたという説があります。
それはともかく、世間的にはブラック企業という話は旬のネタでもありますから、これまた昨今世間的注目度が高い医療崩壊ネタと絡めるとなかなかいいニュースになるのでしょうね。

ブラック企業化する医療現場 勤務医や看護師への患者の暴言・セクハラ、長時間労働(2013年5月11日ビジネスジャーナル)
より抜粋

 病院勤務医と看護師が置かれた職場環境は、ブラック企業よりも過酷かもしれない。日勤-当直-日勤で連続48時間勤務、月間労働時間が300時間超……こんな状況も決して珍しくないのだ。

 医療従事者が疲労した状態で治療や手術に臨めば、医療ミスも発生しやすい。医療従事者の健康が確保されてこそ、患者の安全も確保されるのだが、現実はそうではない。

 日本医師会(以下、日医)が2008年度に実施した調査では、医師たちの悲鳴が数多く寄せられた。「正直自分の健康に手は回らない」「超勤簿に45時間以上と書くと病院長から呼ばれるので書けない」「当直の翌日は、集中力の低下・注意散漫となり、医療事故が起こりやすい状態になっていることが自分でもわかる」

 日医が08年度に調査したところ、医師の睡眠時間は1日5時間未満が9〜10%、6時間未満が41〜44%。さらに6%の医師が、死や自殺について1週間に数回以上考えていたことが明らかになった。ところが、「同僚に知られたくない」「自分が弱いと思われたくない」などの理由で、53%が自分の体調不良についてまったく相談していないのだ。
(略)
 医師と看護師にとって過酷なのは労働時間だけではない。病院では、患者やその家族からの暴言、暴力、セクハラなどの被害を数多く受けている。

 都内の私立大学病院で構成される私大病院医療安全推進連絡会議が11年12月に実施した調査で、11病院の職員(医師、看護師、事務員など)2万2738人から得た回答は、過酷な実態を浮き彫りにした。過去1年以内に暴言を受けた職員は41.5%、暴力は14.8%、さらにセクハラを14.1%の職員が受けていた

 これは、ブラック企業をしのぐ惨状ではないのか。ある病院の副院長は、暴言の実態を次のように話す。

「ちょっとした手術ミスで、患者と家族に担当医が謝罪をしたことがあった。私も責任者として同席したのだが、患者の家族から人格を否定されるような口汚い言葉で罵倒された。それも1時間近く。ひたすら頭を下げ続けたが、心が相当へこんだ」

 長時間労働、暴言、暴力、セクハラ--医師も看護師も、これだけの惨状の中で患者の健康を支え、命を救おうと心身を削るようにして働いているのだ。
(略)
●過酷な職場環境の原因は医師不足

 シンポジウムでは日本医師会副会長の今村聡氏、厚生労働審議官の大谷泰夫氏も、それぞれ職場環境改善策の枠組みを提言したが、「正しい現状認識がされていない」と会場内から疑問がぶつけられた。

 発言したのは、埼玉県済生会栗橋病院院長補佐の本田宏氏である。本田氏は約10年前から医師不足による医療崩壊を訴え続けている、医師不足問題のオピニオンリーダーだ。

過酷な職場環境の原因は医師不足にある。シンポジウムのテーマである雇用の質ではなく、雇用の量が問題なのだ。いまの医師数では高齢化の波に追いつかない。量が問題なのに質を議論しているというボタンの掛け違いに、早く気づいてほしい」(本田氏)

 司会者に意見を求められた今村氏は今村医院の院長で、三井記念病院や神奈川県立こども医療センターで勤務医を経験している。「今日は日本医師会副会長の立場で話した」と断ったうえで、今村氏はこう答えた。

「医師不足の問題はその通りだと思うが、現状でできることがあるのではないかと思って今日は話した。ワークショップでは、質を向上させる取り組みで職場が改善されるという意見が出ている。この取り組みに一定の理解をしてほしい」

 同じく意見を求められた大谷氏は、次のように答えた。

「医師数についてはいろいろな議論がある。この5年で医学部の定員を2000人増やした。チーム医療と労務管理の改善などで、雇用の質を改善できる。量と質の両方で取り組むことだと思う」
(略)

しかし大先生もついに医師不足問題のオピニオンリーダーにまで上り詰めたとは恐れ入りましたが(苦笑)、いったい日本の医療をどんな方向にリードしていくつもりなのでしょうね。
需要と供給のバランスが崩壊しているのに、需要側対策は相変わらず放置したまま供給側ばかりをどんどん増やしていこうというのが本田氏お得意の主張ですが、勤務医ならば判る通りどこの病院でもスタッフに売り上げを増やせ増やせとハッパをかけるのは当たり前で、医療費と医師数とは連動していると言われるのはこうした理由があるわけです。
もちろん理論上は医師数を極限まで増やせばどこかで医師一人あたりの売り上げは頭打ちになることでしょうが、そんな非現実的な医師数に達する頃には医療そのものが今あるそれとは全く変わっているはずで、今後も当分の間は黙っていても医学部定員大幅増の影響で医療費はどんどん増えていくことになりそうですよね。
一方国としては医療費の際限なき増大など認めるつもりも認められる余力もないでしょうから当然各種の抑制をかけてくることになりますが、その結果スタッフ一人あたりの取り分はどんどん少なくなっていくということが予想されていて、いずれは医科も歯科と同様にワープア化が叫ばれるようになるのではないかと不安視している方々にとって医学部新設などとんでもない話ということにもなるでしょう。

もちろん一方ではそんな先の話はどうでもいい、今崩壊の危機に瀕している医療現場を救うために早急に医師数を急増させるべきだと言う意見もあるわけですが、ではそうやって需要増加に歯止めをかけないまま供給側の対策だけをどこまで続けていくのかということです。
ご存じのように皆保険制度は全国どこでも同じ医療を同じ値段で供給しますという前提で成立している制度で、日医などをはじめとして各種団体も未だに「田舎だろうが僻地だろうが医療の質が下がるのは許されない」という主張を崩していませんから、それこそ日本国中どんな僻地でも24時間365日あらゆる診療科の専門医がいつでもすぐに診てくれるのが本来あるべき医療の姿だと言うことになってしまいますよね。
別に地元でいい医療を受けたいという患者さんの素朴な要望が間違っているとは言いませんけれども、それが当たり前の医療のあるべき姿だと考えそこを目指して医療を整備していくのであれば医者など何人いたところで永遠に不足は続くだろうし、そもそもそんな医療体制を整備し維持するコストを国民が負担できるのか大いに疑問です。
それではどうするのか、需要対策など行政や住民自らがやることで現場の医師にはどうしようもないじゃないかと思うかも知れませんが、近年のいわゆる医療崩壊という現象とも絡んだ大規模な医師逃散劇が各地で頻発した結果、「馬鹿げた医療供給体制を現場スタッフの犠牲の上に強いるブラック病院には勤務しない」というシンプルな行動が実は案外有効であるらしいということが判ってきました。

医師の時間外勤務と医療崩壊を考える(2013年5月8日日経メディカル)より抜粋

(略)
医師の過労への対策は不十分

 以前は、ある程度までは医師のサービス残業が当たり前とされていました。しかし医療訴訟の急増に伴い、インフォームドコンセントの徹底による書類業務や高度な医療を行う施設への患者の集中が起こり、過重労働の“過酷さ”は一線を超えました

 そこに医師の初期臨床研修の必修化が重なり、医師を派遣する大学側の人事交代に支障を来して、さらなる労働強化が発生。当直や時間外勤務を黙って「サービス」と済ますには負荷が重くなりすぎてしまいました。我慢ができなくなった医師が病院から立ち去り、「医療崩壊」と呼ばれる診療科の閉鎖や病棟閉鎖に至ったのは、皆さんもよくご存知の通りです。

 行政も手をこまぬいていたわけではありません。2008年度の診療報酬改定より厚生労働省は、診療報酬に組み込む形で病院勤務医の負担を軽減する体制を評価し、医師の負荷軽減策を打ち出しました。2010年度の改定ではその評価対象を3項目から8項目に対象を拡大しています(参考資料がこちら)。

 さらに、同年度の改定時に厚労省は、総合入院体制加算や救命救急入院料加算、医師事務作業補助体制加算などの加算を算定する場合、「実際に病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に結び付くよう、より効果の期待できる院内体制の整備など負担の軽減及び処遇の改善に係る計画の策定と実行を求められることとなる」との業務連絡を発出しています(参考資料はこちら)。

 2012年度の診療報酬改定においても、病棟薬剤師の配置などチーム医療の推進に向けた取り組みを評価するなど、負担軽減に対する評価を15項目に拡大し、医師が診療や治療に専念できる病院を支援する仕組みを作ろうとしています。

 しかし一方で、昨年、勤務医の労働組合である全国医師ユニオンが中心となって行った勤務医労働実態調査では、「依然、当直を担う勤務医の8割は32時間連続勤務を行っている」「残業不払いが横行しており、9割の勤務医が『労働問題を話し合う場がない』と回答している」といった結果が報告されています(参考資料:『勤務医の負担増加は深刻 ~進まない負担軽減~ 勤務医労働実態調査 2012 集計結果 速報』勤務医労働実態調査 2012 実行委員会)。

 では、上記のような行政の取り組みは、現場レベルではまだ十分な効果が出ていないということなのか、というと、必ずしもそうとも言い切れません。先進的な取り組みを行っていることで知られる近森病院(高知県高知市、452床)を見学させていただき、私は考えを新たにしました。

 同院では、管理栄養士やリハビリ技師、薬剤師などをそれぞれ各病棟に配置し、医師や看護師が診療や看護に専念できるようにしています。その結果、医師や看護師の業務負担は減り、職員全体でみても残業時間が減ったそうです。

 当然、職員満足度も高く、看護師の離職率も2011年は3.5%にとどまっています。在院日数は14.1日、病床稼働率は93.4%(いずれも2012年)で、病院としてもパフォーマンスも十分です。しかも、病床稼働率は改修工事に伴ってベッドコントロールが難しくなった中での数字であり、前年度は99.7%だったそうです。

 近森病院をみていると、病院が町の真ん中にあり患者さんが集まりやすいという立地があるにせよ、今後は医局との関係が強いという理由ではなく、労働環境改善に努めた病院に、医師や看護師、さらには患者も集まる時代が来るではないかと感じました。

行政が病院の再編・集約を後押し

 また今後、団塊の世代が「癌」「脳卒中」「心筋梗塞」の三大疾病の好発年齢に入るに伴い、「癌」を中心とした外科手術の需要は急激に増えます。医師増員の議論は続いていますが、仮に医学部を新設したとしても団塊の世代への対応には間に合いません(参考記事:2012.12.18「医学部新設で医師不足を解消できるのか?」)。

 この需要増を現在の医師数で乗り切るためには、手術をする医療機関数を絞り込み、外科医をはじめとした医療資源を集約化して効率化する必要があります。集約化によって1つの医療機関に多くの医師が集まれば、完全にオンコールフリーの時間を確保できるなど、労働環境も改善しますし、医療安全の面からもそちらの方がよいのは間違いありません。
(略)
 集約化や機能分化を進めれば、従来の小規模な自治体にある僻地の急性期病院は集約化されますから、日本のすべての地域で同じ医療を提供するという考え方は成立しなくなります。入院治療などへのアクセスが不便になることについて、反対意見も多く出るでしょう。

 ですが、現状、医学部増設を行っても急速な育成数の増員が困難な現状では、産婦人科医や外科医、麻酔科医を中小規模の病院へと分散させるより、急性期医療を得意とする外科医が大勢いる病院に、医療必要度の高い患者さんを集める方がより多くの患者さんを救うことができるのではないでしょうか。これは「医師の偏在」として問題視すべきものではなく、今後さらに都市部の高齢者が増加する2025年に向けた問題の一つの解決策ではないかと思います。

 今後も潤沢に供給されるとは言いがたい外科医や産科医、救急医をサポートし、医師が治療に専念できるようにするためにも、医療機関の集約化とチーム医療の導入を進めていく必要がありますし、それに伴う痛みに対する地域住民やメディアの理解が求められているのです。

近森病院と言えば昔は医師に対するある種の福利厚生が非常に充実していると言う噂を伺ったことがありますけれども、医師をはじめとするスタッフの士気が高いということは離職率低下やスタッフの充実などに直結するのみならず、回り回って病院全体のパフォーマンスを改善し顧客満足度の向上につながるということではないでしょうか。
厚労省も医師集約化に向けて動き出しているのは例の新専門医制度などを見てもよく理解できるところですが、結局はより効率的な医療供給体制を構築し医師らスタッフの負担を減らしていくことがより永続的な医療供給体制整備にも結びつき、また無原則な医師数増加などという頭の悪いやり方よりも財政的にも優しいということだと思います。
それでは何故さっさとやらないんだと言えば、今まであった診療科がなくなるのは困る、今までいた医師がいなくなるのはイヤだ、あるいは専門医にかかるために隣町まで出かけていかなければならないのは面倒くさいというちょっとしたわがままが医療の効率的再編を阻害し、結局は地域の医療がまるごと破綻してしまうという最悪の結果にまで結びついてしまったのだとも言えるでしょうね。
「医者など毎年黙っていても医局から送られてくるもの」という認識のもとに労働環境改善など眼中にもないまま医師に逃げられた地方公立病院などを中心に未だに根強く医師強制配置論が唱えられていますが、なぜそうなったのかという考察も抜本的改善策も講じないままでは「医者が忙しいなら増やせばいい」レベルの頭の悪い対策の典型例と後世言われることになるかも知れませんね。

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コメント

「シンポジウムのテーマである雇用の質ではなく、雇用の量が問題なのだ。」
こちらの記事と併せて読むと、更に味わいが増す(究極の味覚は苦味とも言うとか言わないとか)かと存じます。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00245620.html
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00245680.html

投稿: JSJ | 2013年5月13日 (月) 08時37分

要するに本田先生の言いたいことは「俺の病院に医者よこせ」ってことなんでしょうか。
でもほんと救急がこんなに増え続けてるのは気にしないんでいいんですかね。
重症患者の数はあんがいほとんど増えてなかったりして…

投稿: ぽん太 | 2013年5月13日 (月) 09時26分

このまえプチ同窓会やったんですが、市中病院で働いてる連中はみな不満たらたらでした。
がんばって仕事を早く片付ければ片付けるほどナースや事務がどんどんカルテ積み上げてくる、あいつら誰でもいいから仕事はやく終わらせたいだけだろって大賑わいで。
部長にもそれやってたら切れられてやっと公平に患者割り振るようになったらしいですが、救急隊も同じことでホイホイ黙って受けてくれる病院にどんどん患者送り込んできますからね。
きっと済生会栗橋病院は当直医が寝る暇もなかろうが過労死寸前だろうが目一杯救急を受け入れる、救急隊にとっちゃ神様みたいなすばらしい病院なんでしょう。

投稿: かんちゃん | 2013年5月13日 (月) 10時09分

>当直医が寝る暇もなかろうが過労死寸前だろうが目一杯救急を受け入れる、救急隊にとっちゃ神様みたいなすばらしい病院

これぞ限られた救急医を最大効率で運用し救急黒字化を追求する素晴らしい管理職の仕事ぶりの成果じゃないかw

投稿: aaa | 2013年5月13日 (月) 10時23分

医師偏在がたしかにあるんだったら、医師不足の地区に医大つくればいいんじゃ?
いま医学部の定員を増やしてるから余ったらもとに戻したら新設した分くらいすぐ吸収できるでしょ?

投稿: さのじ | 2013年5月13日 (月) 10時32分

>医師偏在がたしかにあるんだったら、医師不足の地区に医大つくればいいんじゃ?

その方式の難点は、新卒者がその地域内に残るという保証が何もないということです。
例えば医師不足が顕著と言われる東北地方であっても既卒者の多くが県外に流出していて、ここに新たな医大を作ったところで県内残留者が大きく増えるとは思えません。
これを解消するためには特定地域内限定の医師免許を作るしかないのでは、とも言われているようですが、県単位では難しく道州制導入後の課題になりそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月13日 (月) 12時03分

>県内残留者が大きく増えるとは思えません。
地域枠がありますがアレってどうだったんでしょうか?
アレでも県外に流失する者が多かったら問題ですが効果があったのなら
地域枠を増やしても良さそうですね。

道州制に関して州免許となると広範囲に医師を派遣してる医局はどうなる気になります。
既に集約化は進んでますがさらに集約化が進み医局はさらに弱体化しそうですね。
まぁ個人的には医局の衰退は歓迎ですがw

投稿: | 2013年5月13日 (月) 13時03分

大臣が医師偏在だって言ったら偏在じゃない不足だって大騒ぎしてた時代もあったのにどうしてこうなった

投稿: kaba | 2013年5月13日 (月) 15時05分

↓地域枠といえば青森はすごいらしい。まさにブラック企業並みwって感じで。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20121203

投稿: かまってちゃん | 2013年5月13日 (月) 15時21分

ホンダラの病院がブラックで人が集まらないのを医師不足にすり替えないでください

投稿: | 2013年5月13日 (月) 18時36分

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