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2013年5月10日 (金)

混合診療導入への布石 いつでもどこでも安くて一番いいものを!は明らかに無理

ブロガーでもあり消化器外科医でもある多田智裕氏が先日医療改革に関連してこういう記事を書いているのですが、なかなか興味深い内容だったので冒頭部分だけでも紹介させていただきます。

医療への「幻想」を捨て去るときが来た(2013年5月9日JBpress)

安倍政権の産業競争力会議(成長戦略を議論する会議)において、医療では以下のようなことが検討されています。

 「疾病の種類に応じて自己負担を変える、例えば風邪の場合は自己負担7割」

 「自己負担の“最低”限度額を設定し、少額な治療費は全額患者の自己負担

 「軽度のデイサービスは全額自己負担、デイケアは3割負担」

 「(医療)市場の拡大が財政負担とならないように保険制度のあり方を見直す

 「介護予防や軽症者へのサービス、中重度の上乗せサービス(例えば配食サービス)は民間保険(自己負担)でカバーする」

 「規制撤廃により保険外併用療養費のさらなる範囲拡大

 他にもあるのですが、これら検討されていることは全て “医療の公的負担を減らし、民間に任せる”(=自己負担で受けてもらう)以外のなにものでもありません。

 私たちは、「求める医療を、いつでも好きなところで、お金の心配をせずに自由に受けられる」ことがもはや幻想だと気づいて、現実としっかり向き合う心構えをすべき時期なのではないでしょうか。
(略)

多田氏自身は医療現場の実情も十分知っているだけに(大腸癌手術のくだりなどはいかにもありそうな…という内容です)頑迷な混合診療反対派というわけではなく、タイトルや結論部分にあるように双方の弊害も含めて制度によって医療がどうなるかを十分周知徹底したい立場なのだと読んだのですが、記事全体には混合診療反対派の主張にも十分配慮した内容になっています。
例えば「 「保険外併用療養費の拡大」とは、このように保険でカバーされない医療が数多く発生するということなのです。10倍近くに医療費が跳ね上がれば、低所得者層は良質な医療が受けられなくなるのは必然でしょう。」と言い、それに対して「しかし国側の対応は、シンプルかつ反論の余地のない一言「財政が持ちません」で片付けられてしまっています。」と言うことですが、ではこの状況で国民はどうすべきかですよね。
本来これは「金がなくとも高い医療を受けたいのならちゃんと自分で民間保険に入っておけ。その自由は保障されている」で済む話であって、現状でも先進医療などは実質混合診療で行われているわけですから、そうした選択枝を望む人でなおかつ高い医療費を払う自身がなければ自ら保険料を負担するべきでしょうに、それすらもイヤだから税金で全国民に平等に払わせろでは一部の利益のために迷惑する人の方が多いでしょうね。

いずれにしてもこの問題はどちらが正しいというものでもなく、求める医療の将来像の違いと言う言い方も出来るわけですが、現状の国費投入による皆保険制度死守、混合診療絶対反対という立場に固執する限りは皆でそろって低レベルの医療に甘んじることになるんじゃないかなという予感はしています。
無論、それでも平等であれば構わないという立場が少なからず存在することは「医療崩壊」最先進国と言われた英国における国民の医療満足度の高さが示している通りですが、ただ医療の側から言えばそうした低質の保険診療ばかりという世の中になってしまうと、日本で医療を行うということ自体が時代遅れの医療に甘んじるということと同義になってしまう可能性もありますね。
昨今政府の側でも外国に日本の医療をどんどん輸出しましょうなどと音頭を取っているのも、穿った見方をすれば皆保険制度の枠外で医療技術を高める場を用意し医師のやる気を維持することにもつながってくるのかとも思えるのですが、もう一つ同じようなことを逆の形でやろうとしているのがご存知メディカルツーリズムです。
日本に外国人が少々やってきたからと言って商業的にさして儲けになるような規模にはならないだろう、むしろ医療通訳や設備投資などコスト面を考えると赤字になりかねないのでは?という懸念も一部にありますが、経済的メリットだけではなく皆保険制度下における高い技術水準とスタッフの士気の維持ということまでも考慮に入れるならば必ずしもペイしない話ではなくなってくるのでしょう。

訪日外国人に高度医療を提供 阪大が「国際センター」設立 「ツーリズム」事業展開(2013年5月9日日本経済新聞)

 訪日外国人に高度医療を提供するネットワークが関西で動き出す。大阪大学は新しい医療センターを設立。国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)やりんくう総合医療センター(同泉佐野市)と連携し、アジアや中東から患者を受け入れる。高度の医療技術を活用して「医療ツーリズム」を新事業に育て、関西経済の活性化につなげる。

 中核となる阪大は8日、4月1日付で同大付属病院(吹田市)に国際医療センターを設置したと発表した。中国や韓国、中東から年30~40人の患者を受け入れる。心臓から血液を送り出すポンプ機能が弱った患者に、心筋シートと呼ばれる筋肉の培養細胞を貼る治療などを実施。英語やアラブ諸国の言語に習熟した医療通訳者を雇う。患者の受け入れから治療、治療費の支払いまでの流れを円滑化する。

 これまでも阪大病院の医師が個人で毎年20人程度の患者を受け入れてきた。ただ、言語や文化、法制度の違いから入院中や治療費の支払時に混乱が生じることがあった。

 阪大は中国、韓国、東南アジアを中心に医師や看護師を受け入れ、医療研修も実施する。同大の外国語学部などと連携し、医療通訳者を養成する。将来は海外と共同で臨床試験を進めたり、日本の医薬品や医療機器の輸出を促したりする

 新センターはりんくう総合医療センターや淀川キリスト教病院(大阪市)と連携する。りんくうセンターでは関西国際空港への近さを生かし、長距離移動が難しい急病患者を治療。淀川病院ではイスラム教徒向けの調理所を作り、中東や東南アジアから患者を受け入れる。大阪駅北側の「うめきた」にも拠点を置く。

 日本政策投資銀行の予測では、医療ツーリズムの潜在市場規模は2020年時点で5507億円、訪問者は42万5000人。医療通訳者が不足するなど課題があり、観光庁の推計では12年は8万~9万人程度にとどまった。

 国内の他地域はこれまで、医療機関が個別に海外から患者を受け入れてきた。地域ぐるみで複数の医療機関が参加する仕組みは全国初という。

■「医療都市・関西」に厚み 経済界の後押し焦点

 大阪大学の取り組みは関西経済にも一定の追い風になりそうだ。医療などライフサイエンス分野は関西が官民で推進する関西イノベーション国際戦略総合特区の柱の一つだが、これまで認定された同分野のプロジェクトは創薬や医療機器の開発支援が中心。いわゆる医療ツーリズムが加われば「医療都市・関西」の厚みは一段と増す。

 医療ツーリズムは医療法人や製薬業界など医療に直接関連する産業以外にも恩恵をもたらすため、注目が集まっている。関西では南海電気鉄道が2010年に参入。大阪府と大阪市も今年度から、医療ツーリズムの拡大などを協議する有識者会議を開いている。

 経済団体では大阪商工会議所が「メディカル・ポリス形成プロジェクト」を今年度の事業計画に盛り込んだ。医療機器の開発支援で大商はすでに国内有数の実績を持つ。

 ただ、関西経済界は医療ツーリズムに必ずしも積極的でない。医療現場が商業主義に陥り外国人を優先すれば「国民皆保険が崩壊し、患者がデメリットを受ける可能性もある」(大商の手代木功副会頭)からだ。

 日本医師会も反対姿勢で、阪大は今回の取り組みを「医療の国際貢献」と表現した。阪大はイノベーション特区への追加申請する方向で検討しているが、関西経済界の後押しが得られるかどうかは不透明感も漂う。

5000億円市場と言えばそれなりに大きなものに聞こえますし実際にそうなのでしょうが、ここに出ているような高度医療を施すとなると一人当たり100万といったオーダーでは到底元が取れないはずですから、純粋に経済学的な効果だけを考えるとよほど高い料金設定にしないことにはペイしない可能性が高いと思いますし、その高い料金設定にも負けないブランドを維持する努力は小さなものではないはずですよね。
ただそれ以上に問題になるのが外国人が隣の病室で最高の技術とスタッフの手で高度な医療を受けているのに、ありきたりな保険診療しか受けられない日本人の患者が指をくわえて見ていられるかどうか、それも日本人の金で作られた病院内でのことですから、やはり感情的な軋轢といったものも相応に発生しないではいられないですよね。
混合診療絶対反対派の医師会などはそもそも医療格差の存在を否応なく国民に認識させてしまうメディカルツーリズムそのものに反対だと言いますから徹底していますが、大学病院などにとっては今まで研究費などという名目の持ち出しで行わざるを得なかった治療もきちんと正当な代価を払っていただけるのですから、それは自然と士気も上がろうと言うものではないでしょうか。
以前にアメリカ大統領が内視鏡で大腸ポリープの手術を受けるに当たって、全身麻酔で行うためその間の国家の全権を臨時に副大統領に委任するという話が伝わり日本でも「やはりアメリカの内視鏡屋は…」と大いに話題になりましたけれども、皆保険制度至上主義の持つ弊害を前述の多田氏はこのような実例で示しています。

 私の専門分野で言うと、胃や大腸の内視鏡検査を行う際に「眠っているうちに終わらせる」静脈麻酔の使用は、保険では認められていません。

 うとうとする程度の鎮静剤使用であれば、(私を含めて)持ち出しでやる施設もありますが、私の経営する診療所について言えば、保険診療分は赤字で、治験収入(保険外収入)で決算をなんとかプラスにしているというのが実情です。

 保険範囲内で最善の医療を提供するのは当然だとは思いますが、「保険範囲内で鎮静剤を多く使用して(その際の合併症の対応も含めて)、眠ったうちに全く何も感じない状態で検査をしてくれ」という要望に対しては、「できません」と断らざるを得ません。

蟻の一穴という言葉があって、混合診療に抜け道を一つでも認めるとその制度そのものが破綻してしまう、だから何一つ例外は認められないのだという皆保険制度至上主義の方々は医師会に限らず少なからず存在しますし、それはそれで前述のように「国民多数派の納得の上で行われているのであれば」間違ったことではないと思います。
ただその結果医療水準の発達も阻害されるわ、患者も金をケチった低質医療で我慢することを強いられるわでは結局皆がそろって貧乏暮らしの悪平等に陥ってしまうのではないかとも思うのですが、日本がまだ貧しかった皆保険制度発足当時ならともかく、超高齢化社会など様々な意味で世界の最先進国となった現状の日本でも何十年も前のやり方のほうがいいと思う人は必ずしも多数派ではない気がするのは自分だけでしょうか?
ともかくもこれだけアレルギーじみた反応が根強い以上、現実的には先進医療を順次拡大していく形で実質的な混合診療導入を図り国民と医療現場を慣らしていく形になるんじゃないかと思うのですが、とにかく一番いい医療を受けたいと望む人はこの期間を利用して民間保険の活用などにも習熟しておく必要がありそうですよね。

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コメント

ぶっちゃけ患者がわがままいわなけりゃ医療費はかなり減らせる。

投稿: 鉄丸 | 2013年5月10日 (金) 08時58分

混合診療の全面自由化では、目論見とは逆に公的医療費が拡大する可能性を考慮しなければなりません。
皆さんの想像する混合診療は以下のようなものでしょう。
 
初診料・再診料・入院料 → 公費
保険外の抗がん剤 → 全額自己負担

上記は保険外の抗がん剤治療を希望する患者の期待に応える混合診療ですが、
以下のような混合診療もあります。

初診料・再診料・入院料 → 公費
ニンニク注射 → 全額自己負担

効果の定かでない治療にも、初再診料として公費がつぎ込まれ、これが拡大すればかえって公的医療費は増大します。
ならば、ある程度根拠の医療だけ混合診療を認めればいいのではないかという反論がでるでしょうが、
それは財界のもくろむ混合診療”自由化”ではありませんし、既に「保険外併用療養費」として実施
されている制度と変わりありません。
したがって混合診療の拡大は是としても、財界の言う完全自由化は弊害だらけです。


投稿: kura | 2013年5月10日 (金) 09時26分

日医の言うような混合診療はなにがなんでも禁止というのもさすがに時代遅れでしょう。
ただ国民皆保険って制度は国にとってもメリットはあったんじゃないでしょうか。
実際に導入したらしたで今度はどうやって医療をコントロールするか厚労省も悩ましいんじゃないですか?

投稿: ぽん太 | 2013年5月10日 (金) 09時44分

日本の大病院は国立や県立病院が多いですからね。地方の基幹病院なんて殆ど県立なり市立です
そこら辺の理解を得られるようにしないと難しいと思います。
日医が皆保険絶対維持なのは医療の主な供給元が開業医から大病院に移行するのを恐れているんでしょうね。
日医会員からすれば皆保険で気軽に病院に来てもらって老人だろうが何だろうが多くの患者を診た方がお金になりますし

投稿: 匿名 | 2013年5月10日 (金) 11時02分

皆保険制度にも、さらには混合診療禁止にもそれなりにメリットはあって全面否定出来るようなものではないわけですが、混合診療解禁もまた同じことであるわけです。
同じようにメリット、デメリットあるものを一方だけが正義、他方は絶対に駄目と言い張るなら、今までそれでやってきたからという以上の論拠の提示は必要だと思います。
単なる守旧派と保守派は違うものだと思いますが、日医はどちらでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月10日 (金) 11時53分

阪大の話は良いことだと思います。大学病院なんだから、実験的なことをやるのが あるべき姿だと思います。
でもこれは自由診療の話ですから、日本人だって全額自己負担すれば享受できるのではないでしょうか。
混合診療の話とはチト違うような気がします。

投稿: JSJ | 2013年5月10日 (金) 15時55分

少なくとも超高齢者や末期的病状に対する無意味なエンドレス濃厚集中治療に関しては、急性期(2週間)以後は保険外診療、患者側自費負担扱いにするべきです。そうでもしないと保険医療は破綻するのは間違いないでしょう。
また特殊治療・高度治療に関してはそれ相応の金が払える人だけにしたほうがいい。
生活保護者までが超高額濃厚治療を際限なく受けられるようなシステムはもたないですよ。

投稿: 逃散前科者 | 2013年5月10日 (金) 17時41分

>でもこれは自由診療の話ですから、日本人だって全額自己負担すれば享受できるのではないでしょうか。

そりゃもちろんそうですが、検査から診察から大部分は保険診療と同じことやってるのに全部自由診療で10割自費ですってことに納得出来る日本人はそんなに多くないんじゃ?
外人さんと同じく完全自由診療でいいなら誰も混合診療が是か非かなんて議論はせんでしょう。

投稿: 神田 | 2013年5月10日 (金) 18時19分

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