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2013年5月15日 (水)

分娩を巡るトラブルは必ずしも稀なものではない?

多いか少ないのか判断に迷うところなのですが、先日こういうニュースが出ていました。

出産時に3割が医療上のトラブルを経験-保険会社が1000人調査(2013年5月9日CBニュース)

 出産時に女性の3割が、帝王切開による入院・手術などの医療上のトラブルを経験していたことが9日、ライフネット生命(東京都千代田区)の調査で分かった。

 調査は、2月28日から3月4日にかけてインターネット上で実施。出産から3年未満の25―39歳の女性1000人から有効回答を得た。

 調査結果によると、重度のつわりや切迫早産、帝王切開による入院・手術などのトラブルを直近の出産時に経験していたのは30.2%。これを年齢別に見ると、25―29歳(511人)が28.4%、30―34歳(417人)が31.4%、35-39歳(72人)が36.1%で、年齢が高いほどトラブルを経験している割合が高かった

■出産時の自己負担額、イメージより14万円低く
 ライフネット生命では、第1子を妊娠中の25-39歳の女性240人を対象とした調査も並行して実施。妊娠中の女性を「プレママ」として、出産から3年未満の「先輩ママ」と結果を比較した。

 それによると、健診や通院・入院・分娩などに掛かった費用をどれくらい自己負担したかを先輩ママに聞いたところ、平均は27.3万円だった。一方、どれくらい自己負担するイメージがあるかをプレママに聞いたところ、平均は41.1万円で、実際の自己負担額とイメージでは約14万円の開きがあった。【高崎慎也】

トラブルの内容がどのようなものであったのか明記されていないのでなんとも言い難いのですが、「お産は病気ではない」という認識でいるだろう一般の妊婦さん達にとっては怖い数字でしょうね。
ただあくまでも医学的には素人である妊婦さん側の主観による「医療上のトラブル」というところがポイントで、特に日本人の場合「なにか気になることがありましたか?」と問われれば例え総じて満足していても何とか「カイゼン」の余地を探してしまいがちなもので、社会的経験豊富な高年齢層ほどトラブルの経験率が高いというのもそうした事情を反映しているのかなという気もしないでもありません。
ともかくも飲食店でも料理そのものに満足出来れば「従業員の気さくな態度も好感が持てました」ですんでいただろうものが、料理がまずいわ高いわでは「接客の基本常識も知らないようで不愉快です」と言われてしまうでしょうから、特に自由診療であるお産においては顧客満足度がどうであったのかということが一層厳しく問われることになるのでしょうね。
ただいずれにしても3割がトラブルを経験した(少なくとも、そう感じている)ということは決して少なくない数字で、仮に産科診療の現場にある先生方が医療上のトラブルなんてそんな高率で発生するわけがないと認識されているのであれば、顧客満足度を大いに低下させかねないこうした認識のギャップを解消していくことが医療紛争回避の第一歩となりそうです。
その顧客満足度を測る上で究極的な指標になるのがお産そのものが満足のいくものであったのかどうかですが、産科の先生方の努力の成果か幸いにもわりあいにうまくいっているらしいということを想像させる判断材料の一つのがこちらのニュースとなるのでしょうか。

産科補償制度の掛け金一部返還申し立てへ- 28の分娩機関と千人余りの妊産婦(2013年5月13日CBニュース)

 分娩に関連して重度脳性まひを発症した子どもに補償金を支払う「産科医療補償制度」で、補償件数が当初の見込みを大幅に下回り、多額の余剰金が発生しているとして、28の分娩機関と1000人余りの妊産婦が、同制度を運営する日本医療機能評価機構を相手取り、掛け金の一部返還を求める調停を国民生活センターに申し立てることが分かった。

 同機構では、補償対象と認定された子どもに一律3000万円を支払う一方、加入分娩機関から1分娩当たり3万円の掛け金を徴収している。補償対象者を年間500人から800人と見込んで金額を設定した。
 しかし、実際に補償対象に認定されたのは、2009年1月の制度開始から今年3月までの4年余りで461件にとどまっている。

 調停を申し立てるのは、28の分娩機関と1041人の妊産婦。掛け金3万円のうち2万円分に当たる総額2082万円の返還を求める。【高崎慎也】

そもそもこの産科無過失補償制度というもの、最初から「掛け金をあまりに高く見込みすぎているのではないか?」と言う声があったことは以前にもお伝えしてきた通りで、過剰となった掛け金は保険会社に流れるという制度から「新たな利権の発生か」などとも予想された通り、当初から巨額の掛け金が行方不明になっているなどと報じられたりもしたものでした。
厚労省の予測では年間800人くらいが同制度で補償金を申請するだろうと言う計算で掛け金などを決めていたわけですが、今のところ厳しい認定条件が幸い?してか申請件数はかなり控えめな水準に留まっているということで、一つには制度の周知徹底ももちろん重要ですけれども、分娩に関連してなどと条件付けを行わず重度脳性麻痺出生児全員に補償対象を広げるといった実利ある改善策も検討していただきたいところです。
おおむね年間3000人程度と見込まれる脳性麻痺児全員が対象ということになればむしろ余るどころか掛け金引き上げも求められそうですけれども、前述の記事のように妊婦さんは平均して14万円ほど出産費用が安くすんだと言いますから、今現在最大800人を目安にやっている同制度の対象が3~4倍に増えたとしても予想した範囲内で費用負担は収まる計算ですよね。

そもそも脳性麻痺については分娩に関連してと対象を絞った無過失補償制度の申請件数が非常に少ないことからも見て取れるように、大部分は分娩時のトラブルには関係ないものだとされているようですけれども、やはり冒頭の記事にもあるように産科の現場ではかなりの人々がトラブルに遭遇したと認識している、そうなりますと実際に新生児に問題があった際には「あれが悪かったからだ」と思ってしまうのは仕方のないところです。
先日は無過失補償の対象になったケースを検証した結果3割の場合に陣痛促進剤が使用され、そのうち8割近くでは学会指針を逸脱した使用法がなされていたという記事が出ていましたが、産科の先生方にとって陣痛促進剤が親の敵のように忌避される世間の風潮はおもしろくないだろうことも想像できますけれども、何しろこういうご時世ですから少なくともきちんとした説明のもとに使用の同意を取ったという記録は必要でしょう。
使用全症例の7人に1人が同意も取られないまま陣痛促進剤を使われていた、などと言われれば今時その認識はどうなのよ?と不安を覚えますけれども、無過失補償制度が原因究明と再発防止のために行われているものなのだとすれば、単に医学的水準を云々するのみならず何かあった時に言った言わないのトラブルを招きやすいことからも、インフォームドコンセントの徹底など広い意味での接遇面においても改善を図っていかなければならないと思いますね。

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コメント

> 先日は無過失補償の対象になったケースを検証した結果3割の場合に陣痛促進剤が使用され、
> そのうち8割近くでは学会指針を逸脱した使用法がなされていた

と言うことですが、無過失補償の対象とならなかった群(=無問題の群)ではどうなのでしょう?
「無過失補償の対象とならなかった群でも、3割の場合に陣痛促進剤が使用され、8割近くでは学会指針を逸脱していた」

ということはないんですかね。「ソースを読め」と言われそうですが。。。。


投稿: 某救急医 | 2013年5月15日 (水) 08時11分

>無過失補償の対象とならなかった群(=無問題の群)ではどうなのでしょう?

一般の妊婦で34%が陣痛促進剤を使用されたそうですから、補償群で特に多いということはないようですよ。
http://www.premama.jp/jiten/birth/birth14.html

でもこちらの別記事を読むと陣痛促進剤使用が脳性麻痺の原因と公式に認定されちゃったみたいですね…
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130507-00000059-mai-soci

投稿: ぽん太 | 2013年5月15日 (水) 09時05分

NHKのほうだと、疑い7例ですね。

http://www.st.ryukoku.ac.jp/~kjm/security/memo/2013/05.html#20130510__sanka

一般人の認識はこの程度ですから、なんかあったら医者の都合らしです。

投稿: おる | 2013年5月15日 (水) 09時24分

これを読む限り、対照との比較は行ってませんね。>無過失補償の対象とならなかった群(=無問題の群)ではどうなのでしょう?
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pdf/Saihatsu_Report_03_All.pdf
ガイドライン等を参照しただけのようです。

投稿: JSJ | 2013年5月15日 (水) 10時04分

どうも対照群をきっちり設定しているというわけでもなく、医学的検証としてはいささかどうなのかなという気もしないでもないんですが、産科的視点からの報告の妥当性としてどうなのでしょう?
以前から懸念されている通り、よくある院内症例検討会のノリで「ここを○○すればもっと○○だったかも」式の話ばかりが一人歩きすることを危惧してしまいます。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月15日 (水) 10時35分

大丈夫なのかなこのレポート・・・・
産科医はそれでも陣痛促進剤を使うのかしら?なにかあったら確実につっこまれると思うのだけど?

投稿: kanta | 2013年5月15日 (水) 10時50分

補償対象に認定された人が少ないのは認定基準が厳しいからですか?

投稿: たまご | 2013年5月15日 (水) 12時42分

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