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2013年5月14日 (火)

医療事故調 全医療機関に届け出義務付けへ

すでにマスコミ各社から大々的に報道されていますけれども、かねて議論が続いていた医療事故調はいよいよ法案提出に向けて本決まりになったようです。

患者死亡、届け出義務化 全施設対象、医療事故把握へ(2013年5月13日中国新聞)

 厚生労働省は医療事故の実態把握のため、国内すべての病院・診療所計約17万施設を対象に、診療行為に絡んで起きた予期せぬ患者死亡事例の第三者機関への届け出と、院内調査を義務付ける方針を決めた。関係者が12日、明らかにした。

 現在、届け出義務があるのは高度医療を提供する大学病院など約270施設だけ。新制度では中小病院や診療所も含め、死亡事例を網羅的に収集できるようになる。

 厚労省は専門家による検討部会の議論が近くまとまり次第、医療法改正に向けた作業を進め、秋の臨時国会への改正案提出を目指す。

 新制度の対象は約8500の病院と、約10万の有床・無床診療所、約6万8500の歯科診療所の計約17万7千施設(2月末時点)。診療所など小規模施設では十分な院内調査ができない可能性もあり、地域の医師会や医療関係団体、大学病院の支援を受けられる体制も構築する。

 第三者機関は行政から独立した民間組織と位置づけ、現行の「日本医療機能評価機構」や「日本医療安全調査機構」の機能を統合・一元化する案が浮上している。

 第三者機関は医療機関から寄せられた調査報告の内容を分析。共通する事故要因を洗い出すなどして注意喚起し、再発防止につなげる。必要に応じて個々の医療機関への助言もできるようにする方向だ。

 新制度は医療事故の原因究明と再発防止を主眼とするため、第三者機関から警察への通報はしない

予期せぬ死亡届け出義務 全病院・診療所に拡大 厚労省方針(2013年5月13日東京新聞)

 厚生労働省は医療事故の実態把握のため、国内すべての病院・診療所約十七万施設を対象に、診療行為に絡んで起きた予期せぬ患者死亡事例の第三者機関への届け出と、院内調査を義務付ける方針を決めた。関係者が十二日、明らかにした。
(略)
 厚労省によると、事前にリスクが分かっている手術の合併症による死亡などのケースを除き、予期せぬ患者の死亡事例があった場合、医療機関は速やかに第三者機関に届け出るとともに院内調査を実施。結果を第三者機関に報告し、遺族にも開示する。

今まで特に論点となっていたのが医療現場への警察の介入をどう抑制していくかということでしたが、結局のところは第三者機関への届け出を強制するかわりに第三者機関からは警察には通報しないということで一見すると医療現場に配慮しているように見えて、その実今まで通り医療機関から警察への異状死の届け出義務(医師法21条)は免除しないという点に注意が必要ですね。
医療側の感覚からすると第三者機関届け出例の中でも警察に届け出る例はごく一部という認識だと思いますが、仮に第三者機関に届け出たにも関わらず警察に届け出なかったとすれば世間からはあれれ?予期しない死亡なのに何で?と思われかねず、最終的に第三者機関届け出症例なら原則全例警察に届けなければならないんじゃないかといった社会的圧力がかかる可能性もあります。
すでに医師法21条の解釈変更によって警察への届け出はあまり深刻に考えなくても良いという意見もありますが必ずしも共通認識として普及しているとも思えず、そうなると現実的な対策として警察に届け出るかどうかは第三者機関の検証を待ってと言うことが考えられますが、この場合も「二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」という同法の文言が大きなハードルとなってきます。
要するにこうした制度をつくるだけでは不十分で、曖昧で対象がはっきりしないと言われ続けてきた医師法21条改正を含む諸法制の総合的な改革を含めてのものでなければどこかに大きな矛盾が発生するということなんですが、厚労省がどこまで問題意識を持って手を広げるだろうかと考えると非常に先行きは怪しいんじゃないかという気がしてなりません。

また病院のみならず診療所も含めて国内全ての医療機関を対象にし、予期せぬ死亡全例の届け出と共に院内調査を義務づけるということは症例数がどれくらいになるのかによっては大変な業務量ですけれども、例えば慢性期病床で見回りに行くとお年寄りが亡くなっていたということはままあることですが、これを異状死として捉える医師はまず普通はいないんじゃないかと思います。
慢性期の病床では一見ただ寝かせているだけに見える状態こそ医療サービスの提供ということになっているわけで、要するに脳梗塞後遺症で胃瘻を入れて寝たきりになっている人にリハビリなり栄養補給なりの医療行為提供が必要ですという名目だからこそ入院していられるのですけれども、当然この状況で患者がぽっくり亡くなってしまうことは文字通り解釈すれば医療行為提供中に起きた予期しない死亡と呼ばれることになります。
そんな話になるとお年寄りがぽっくり逝くたびに第三者機関に届け出て院内調査委員会で死因と再発防止策(それがどんなものになるかは想像したくもありませんが…)を協議して…云々と全国老人病院は大変なことになると思いますが、まさかに医療の側はおろか第三者機関側にしろ警察側にしろそんな症例までが届け出られてくるとは想像していないんじゃないかと思います。
こうしたケースを回避するには全例届け出なのですからよほどに届け出基準の定義をしっかりしておくか、あるいは第三者機関に届け出る症例=警察に届け出る症例と言うくらいの絞り込みが必要になってくるんじゃないかという気もするのですが、どうも今までの議論を見ていますとそのあたりがあいまいで特に司法畑を中心に「疑わしいものは全て広く届け出るべき」という考えが蔓延しているのは気になりますね。

ちなみに日本では全死亡の13%ほどが異状死であるとされているそうですが、その大多数はガス中毒疑いや事件性を否定しきれない死者などどこかで不自然な形で亡くなっているのが発見された方々で、病院内で亡くなった方々というのはその死因がどの程度判明しているかどうかに関わらず担当医が何とか病名をひねり出して「病死・自然死」として処理されてきたんじゃないかと思います。
このあたりは色々と認識の相違があって、世間的には警察に届ける=犯罪の可能性ありといった捉え方にもなるでしょうけれども、1994年に法医学会が発表した異状死ガイドラインでは異状死体を「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」と定義していて、要するに死因に確実性のないものは全て異状死だというかなり極端な立場ですから当然臨床医からの反発も強いようです。
ただ諸外国では診療関連死は予期するしないに関わらず届け出対象となっている場合が多いといい、またWHOの定めた国際疾病分類(ICD)でも手術、手技、当薬等に関連した死亡は病死・自然死ではなく外因死に分類されている、こうした状況から法医学筋では「疑われる事例を含めて広く異状死届出をし、法医解剖の対象とすべき」と言っているらしいのですね。
その理念の是非はともかく、現実的に法医学者の数を考えるとこんな解釈が社会一般に通用してしまえば彼らも年中解剖解剖で過労死しかねないどころか、過労からうっかり死因を見誤りでもすれば誰かを犯罪者にもしかねないという重大問題が発生しかねないと思うのですが、第三者機関では病理学者や外科医等々も総動員して数をこなすことになるとすればその判断の質と均質さをどう担保するかという問題があるでしょう。

現実的には届け出をするかどうかを判断するのは担当医を初めとする当該施設の医師であって、また届け出がなされなかった場合に問題化するのは(稀な内部告発などを除けば)おそらく遺族がそうと訴えた場合にほぼ限られてくるのではないかと想像するならば、現行の異状死届け出の状況から類推するに結局届け出られるのは家族との間で何かしらトラブった場合が中心になるんじゃないかという気がします。
ただ大学病院などでは前述のような法医学者も教授会などで発言権があるわけで、大学である以上は医療に対して正しき姿勢であるべきだといったタテマエ論が優勢となった場合にはどんどん第三者機関への届け出が進み、下手をすると漏れなく警察への届け出もセットでついてくるということにもなりかねませんよね。
大学はマンパワーもあるのだしこうしたことに協力し医療の安全性を高める先導的な立場に立つ義務があるはずだと言われればその通りですが、見ていただいて判る通り今回の話は大病院だろうと場末のクリニックだろうと同じように義務を課すというものになってしまいましたから、「中小医療機関の届け出漏れが目立ち」などと世間に言われ始めると日常業務で手一杯の施設では業務がパンクするということもあるかも知れないですね。
そうなるとこれまで以上に(言葉は悪いですが)「どこで患者を亡くならせるか」ということが問われるようになってくる可能性もあるかも知れず、あるいは基幹病院から末期患者が地元の小病院に逆搬送されたり、老人病院から介護施設へ看取り患者が送られていくといった馬鹿馬鹿しいケースも今後出てくるのでしょうか。

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コメント

>また届け出がなされなかった場合に問題化するのは
>おそらく遺族がそうと訴えた場合にほぼ限られてくるのではないかと想像するならば、
>現行の異状死届け出の状況から類推するに結局届け出られるのは
>家族との間で何かしらトラブった場合が中心になるんじゃないか

つまり濃厚治療は無意味!手術は却って予後が悪い!等々
安らかなお看取りをしようとしても、それがご家族の意に反した場合
「なんだと!それでジイちゃんが死んだら…訴えてやるからな!」と
漏れなく凄まれる事になりそうな悪寒…

投稿: 福山人 | 2013年5月14日 (火) 07時49分

開業医の看取りはこれでなくなったなw

投稿: aaa | 2013年5月14日 (火) 08時39分

全施設届け出は平等といえばそうなんでしょうけどね。
どのような症例は届けでなくてもいいかも基準を示して欲しいところです。
彼らとしたら迷ったらぜんぶ届けでろと言いたいんでしょうけどね。

投稿: ぽん太 | 2013年5月14日 (火) 10時15分

医療と司法それぞれの見解の差異が大きすぎることから、届け出対象範囲はあえて明確には示さないんじゃないかと思います。
各施設が判断し届け出るかどうかを決める、その結果家族とトラブルになってもそれは施設の判断が悪かったということですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月14日 (火) 12時53分

これって第三者機関に届けることで「やっぱり何か失敗したんだ」と誤解される可能性はないでしょうか?
かえって訴訟沙汰になる可能性が高まるのだったら大変ですね。

投稿: てんてん | 2013年5月14日 (火) 17時15分

こんばんは

いっそのこと,死亡例全例とどけてはいかがでしょうか.
私は患者がステった時に,自信を持って死因を説明できたことはありません.癌患者では「『悪液質』による全身衰弱と思う」とは言いますが,細かい可能性を全否定はできませんな.それを判断してくれる機関ができるとは,ある意味ありがたいですな.

投稿: 耳鼻科医 | 2013年5月14日 (火) 20時49分

弁護士の委員先生はそう言ってますわな>全例届出

投稿: かばち | 2013年5月15日 (水) 06時33分

医師法21条の届出義務は医師にあるのか病院にあるのかって法曹の方に質問したら口を濁されたことがありますが、
今回の届出は医師と病院、どちらの義務になるのでしょうかね?

投稿: クマ | 2013年5月15日 (水) 09時04分

元ソースを確認はしていないのですが、全医師にではなく全医療機関を対象にするという話でありますから、第三者機関については医療機関に義務があると思われますね。
ただ今回21条に関しては全く触れることがないままのようですから、相変わらず警察に対してどうしたらいいのかは有耶無耶のままとも言えます。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月15日 (水) 10時37分

今後は高齢者が激増して、死亡者も増えそうですが、在宅医療専門医師の看取りもかなり面倒な事になりそうです。
多分全例届出義務化だと届ける方も届けられる方も処理できなくて困るんじゃないでしょうか?
なぜ死亡例を全例届けなければならないのか私には理解できません。これ以上、無駄で余計な仕事を増やしてる場合ではないですね。

投稿: 逃散前科者 | 2013年5月15日 (水) 15時13分

一応「予期せぬ」患者死亡事例てことだから、毎日カルテに「いつ死んでもおかしくない」と記載しとけば届けなくてよい?
私個人としては耳鼻科医さんの飽和攻撃を採用したいですが。

投稿: JSJ | 2013年5月15日 (水) 16時11分

でも届け出たら院内調査委員会で調べないといけないんでしょ?そんなたくさんになるとは思えない

投稿: TK | 2013年5月15日 (水) 16時28分

>第三者機関は医療機関から寄せられた調査報告の内容を分析。共通する事故要因を洗い出すなどして注意喚起し、再発防止につなげる。
あ〜、もしかしてこのクオリティ?
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pdf/Saihatsu_Report_03_All.pdf

なんか以前の報道にあった、「遺族などがその調査(=院内調査)結果に納得できない場合、院外に再調査を申請できる仕組みにする」てのと随分な隔たりを感じるのですが。

マスコミにリークされるたびに、第三者機関のイメージが違うってのは、やっぱりまだ制度設計が全然固まってないんじゃないのかな?

投稿: JSJ | 2013年5月15日 (水) 20時32分

おそらく制度そのものの詳細はまったく決まってはいないのでは?
今回は必要な法改正については見えてきたので先行して整えておくというくらいの意味かと。
法改正から実際の制度が始まるまでどのくらいタイムラグがあるでしょうね?

投稿: ぽん太 | 2013年5月15日 (水) 21時28分

Vol.109 法律家たちの沈黙-厚労省事故調とりまとめ
http://medg.jp/mt/2013/05/vol109.html#more

医師と弁護士の違いとは性善説で考えているか性悪説で考えているかの違いなのかもね。
百戦錬磨の弁護士たちにとって医師の相手をすることなど赤子の手をひねるようなものじゃないのか。

投稿: | 2013年5月16日 (木) 09時30分

井上清成弁護士の取材によると全例届け出とか医療法改正とかマスコミの誤報?だったらしい。
厚生労働省医政局医療安全推進室長の大坪寛子氏がそう言ってる。
マスコミはどうしてこれを報道しないのか?
http://medg.jp/mt/2013/05/vol116-1.html#more
>結局、大坪室長は、それらの記事(特に、厚労省方針とか厚労省決定といったところ)を明確に否定したのである。現に、大坪室長自身が新聞数紙に対し、記事に関して既に異議を述べてあるとのことであった。

投稿: 河童 | 2013年5月21日 (火) 12時49分

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