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2013年5月20日 (月)

医療改革 ついにあの毎日からも催促を受ける

すでに久しく以前から課題と言われて久しい医療改革ですが、先日はこんな社説が掲載されていたのをご覧になったでしょうか。

社説:医療改革 腹をくくって取り組め(2013年5月18日毎日新聞)

 好きな病院を自分で選べる、お金がない人も公平に医療を受けられる、など日本の医療は世界に誇るべきものがたくさんある。その一方で医療費は増え続け、医師不足や病院の閉鎖など医療崩壊も深刻だ。政府の社会保障制度改革国民会議は8月のとりまとめに向けて議論しているが、医療・介護分野の改革案の方向性が示された。まずは医療供給体制の改革を急がねばならない

 日本の医療の特徴は病床が多く高価な医療機器も多い割に、医師などマンパワーが少ない点だ。人口1000人当たりの病床数は13.6でフランスの2倍、イギリスの4倍である。平均入院日数や外来受診回数も突出して多い。それを少ない医療スタッフで支えているのだから医師らは疲弊するわけだ。一方、長時間待たされて数分の診察に対して不満を感じる患者も多い

 医療機関の約7割は民間で、出来高払いが基本の診療報酬ではたくさん患者を診て検査や薬の処方をすればするほど収入が増える。どこで開業するか、どの診療科を専門にするかは自由で、地域や診療科による偏在は著しく、民間病院と公営病院の役割分担も不明瞭だ。

 高齢化や疾病構造の変化に合わせ、諸外国は病床を減らし医療スタッフの拡充を進めてきた。日本も1985年の医療法改正で地域医療計画を策定し病床制限が図られた。ところが、逆にかけ込み増床を招き、家族介護や福祉施設の乏しさから行き場のない慢性疾患の高齢者を多数抱え込むことになった。一般病床とは諸外国では急性の患者が入院するベッドを指すが、日本では慢性期の患者も混在している。本来は介護施設や在宅でケアされるべき人が高コストの一般病床に大勢いるのだ。

 同会議では、都道府県に病床数だけでなく専門性や機能による医療資源の再編の権限を与えることが議論されている。地域内の医療機関の機能を患者の緊急性に応じて分け、病院や診療所を合併してグループ内での役割分担も図るといい、診療報酬とは別に基金を創設して再編の原資にする。また、深刻な赤字に陥っている国民健康保険の運営を市町村から都道府県に移し、権限と財源だけでなく財政責任も都道府県に担わせようという案が有力だ。

 ハードルは高い。医療供給体制の再編は戦時下の国民総動員法によっても十分に果たせなかった難題である。実現するためには国のバックアップと都道府県の強力なリーダーシップ、地元医師会の協力が不可欠だ。超高齢社会の中で日本の医療の良い面を守るためには避けて通ることはできない。腹をくくって取り組んでもらうしかない。

ついに医療に関してはサーチアンドデストロイを以て旨とする毎日新聞にまでこんなことを書かれるようになったとは感無量というものですが、財政規律がどうこうとうるさい日経あたりが医療制度改革を主張するのは理解出来るとしても、毎日あたりまでが現状の医療制度に疑問符をつけ始めたのは隔世の感がありますね。
もっとも書いている内容といえば医療費が増え続けることに対しては危機感がまだ乏しいようですし、それに対する対案というよりも例によって医療供給体制の改善を主張する内容ですからあまり代わり映えがしないと言えばその通りなのですが、ともかくもその実現後半世紀の時を経て皆保険制度が大きな岐路に立たされているのは誰の目にも明らかになったというものでしょう。
それは生涯で医者の顔を見るといえばご臨終の宣告の時だけという人々が珍しくなかった時代に考えられたシステムが、ともすればコンビニ受診などといわれる需要過多な現在の世相に対応出来るはずもないのですが、国としてはどのような方向性での改革を目指しているのかということも次第に明らかになってきているようです。

安倍政権が描く、「医療・介護改革」の姿(2013年5月19日東洋経済)

2014年4月からの消費増税に伴い、持続可能な社会保障制度のあり方を議論している政府の社会保障制度改革国民会議(会長・清家篤慶応義塾長)。その本丸ともいえる医療・介護分野の議論が一巡し、改革案の骨格が見えてきた。
この国民会議が目指している医療・介護改革とは、増税で得られる新たな財源を元に病院・介護施設を地域の将来ニーズに合った形へと再編成。既存の病院・病床を有効活用しながら、入院期間を減らし在宅療養・介護にシフトすることで来るべき高齢化のピークを乗り切る──そんな姿だ。
問題は、目指す青写真があってもそれを具体化する策がこれまで整わなかったことにある。それが今回の国民会議では、最難関ともいえる医療・介護体制の再構築について、総合的な政策パッケージの大枠を示すところまで議論が煮詰まってきた。

改革内容は大きく分けて二つ。国民健康保険の財政基盤強化と、病院機能の抜本再編だ。それを実現する手段として、下表のような提案を8月の最終報告に盛り込む方向で調整が進められている。
(略)
そして、さらにその先に控えているテーマが病院機能の抜本再編だ。
日本の医療は、国際的に見て人口1人当たりの病院・病床数が突出している反面、病床当たりの医師・看護師数は少なく、過重労働が常態化。医療機関の役割分担があいまいで、診療科目や医師の配置が地域的に偏り、救急患者が受け入れ不能になる事態もたびたび指摘されている。さらに、リハビリや在宅療養・介護の体制整備も遅れているため、入院が長期化し、それが医療費を圧迫している。
(略)
では、どうするか。もちろん、現状維持では問題は改善しない。そのうえ、医療費は高齢化によって自然と増え続ける。そこで、あえて公費を追加投入することで、必要な医療・介護を確保し問題解決を図ることが08年の国民会議で検討され、それに必要な財源も消費税率換算で試算された。「税と社会保障の一体改革」は、これと呼応する形で行われたものであり、増税が決まった今、残された社会保障サイドの具体的な改革策を用意することが求められているわけである。
今年1月に提示された財務省の審議会報告書は、そうした経緯が表現されている。「急性期病床への医療資源の集中投入等により『高密度医療』を実現し、平均在院日数の減少等を通じて医療費の適正化につなげるという政策パッケージのためにあえて行う公費負担であり、その政策効果の発現には、診療報酬の重点配分を図るといったソフトな動機付けだけでは不十分なことは明らかである」。つまり「今回の会議は財源をどう使うかが焦点。長い議論を踏まえると、選択肢は限られている」(委員の権丈善一・慶応大学教授)。

増税財源の使い道を議論

こうした流れで提示された案が、補助金を用いて自治体や病院などに医療・介護の自発的な再編を促すスキームだ。増税財源の一部を使って基金を創設。医療・介護資源の再配分に向けてシンクタンク機能を担う専門チームを国に組織し、本気で改革に取り組む意志のある自治体を資金と知恵の両面で支援する。
さらに、医療法を改正し、医療機関の指定・取り消し権限を与えるなど都道府県の役割を拡大。医療法人の統合を促すための仕組みとして持ち株会社制の導入や、高齢者住宅の整備に向けた資金調達手段としてのヘルスケアREIT(不動産投資信託)など、各種の規制改革策も組み合わせて改革を促す方向だ。
国民会議の期限は8月21日。政府にも、その日までに「必要な法制上の措置」を講じることが法で義務づけられている。最終報告には、総報酬割の全面導入のように大企業が反発しかねない政策も盛り込まれる見通しだ。経済界の反発をはねのけ、政治的な決断を下せるか。今後はそこも焦点になってくるだろう。

経済界の反発という以前にこの医療改革というもの、高齢者の反発をどう避けるかも大きな焦点となっていることは一向に話が進まない高齢者窓口負担優遇是正の件一つとっても明らかですが、今回の青写真で注目されるのはまず財源の面から考えていくということが明確化されていることで、政治的手法としてこのアプローチはかなり本気度を感じさせるものではないでしょうか。
ただその一方で肝心の改革の内容が「旧世紀病床への医療資源の集中投入」だの「補助金を用いて自治体や病院などに医療・介護の自発的な再編を促す」だのという話くらいしか目立ったものがないようで、もちろんこれはこれで重要な話ではあるのですが、問題は集中された医療資源がどこに置かれるかということがまた巨大な利権に絡んで大荒れしそうであるということですよね。
地方自治体が平成の大合併で各地で統合されていったとき、旧自治体がそれぞれ持っていた自治対立病院をどうするかということが非常に大きな問題になったことは記憶に新しいところですが、そもそも「おらが町に病院を建てた」ということが首長選挙においても大きなポイントになってきたわけですから、それを「今度隣町の病院に統合するからそっちに通ってね」では「体育館も病院も全部隣町にとられるのか!」と住民も納得しないでしょう。
特に地方では病院の数が非常に限られているため地域に複数の病院があると言っても県立病院と市立病院であったり、あるいは公立病院と民間病院であったりとおいそれと統合が難しいケースも多いはずですが、医療費削減政策であれだけ赤字経営が続いても廃院廃業を選択しなかった各施設がおとなしく統合を考えるものかと疑問の余地が残ります。

また下世話な話ですが施設数が多ければ多いほど当然ながらポストの数も多い理屈で、鶏口となるも牛後となるなかれではないですが医局からの派遣などで医師確保をしてきた施設にとっては管理職のポストは最も大きな売り込み材料でもあるわけですし、当の医師達にとっても医長、部長で終わるよりは小なりと言えども院長にまで上り詰める方がうれしいはずですよね。
結局統廃合が実現するかどうかは一つには病院経営上のメリットがあるかどうかと共に、もう一つ現場を支える医師ら専門職スタッフにどれだけメリットがあるかということも重要で、そのうち医師向けのあめ玉として一つのポイントになるのが昨今何かと話題の新専門医制度というものなのだと思います。
ただ取得はもちろん維持ということに関しても一段と厳しくなるという新専門医をどれだけの医師が取得、維持しようとするかという点は未だ未知数ですし、かつて言われていたように診療報酬に色をつけるといったことでは結局現場ドクターにとって専門医としての責任と仕事ばかり押しつけられてさしたるメリットがないということにもなりかねず、果たして思惑通り医師配置をコントロール出来るほど皆が取得に躍起になってくれるかどうかです。
むしろ日本型医療の根本的な問題は諸外国では寿命だとして医療の対象外に置かれるような方々がいつまでも医療の中に囲い込まれているということで、際限なく増大し続けるこの辺りのコストとマンパワー消費を是正していくだけでも医療財政はずいぶん好転するんじゃないかと思うのですが、そのためにはまず国民一人一人の死生観を含めた終末期医療への認識の変化も必要になってくるでしょうね。

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コメント

医師を集中配置するなら、フリーアクセス規制も同時にやらないと大変なことになります。
あと大きな病院は外来患者を手放すようもっと努力すべきでしょう。

投稿: 光太郎 | 2013年5月20日 (月) 08時56分

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=245&bui_id=B14&byomei_id=S217#result
読売は混合診療と医療の産業化に賛成みたいです。
混合診療開始になると診療科の利益率も変わったりするんですかね?
まぁいい加減フリーアクセスで安価で高品質な医療をなんて無理でしょう。
現場がそれこそ奴隷みたいに無償で働けば可能でしょうがそこまで患者にする義理はないですし。
医療を成長産業にと言うなら市場原理の導入は必須でしょう。本当このままだとアメリカに大分差をつけらますよと

投稿: | 2013年5月20日 (月) 09時52分

訂正
診療科による利益にどうのような差が出るんですかね?

投稿: | 2013年5月20日 (月) 10時06分

逆紹介したくても患者さんのご近所のクリニックがどんな専門なのか判らないと難しいんですよね。
気になるのはそういうクリニックからは専門医を取り上げて標榜診療科も規制しようって流れですよね。
今後はどうやって紹介先を決めたらいいんだろうって疑問に思うんですけど…

投稿: ぽん太 | 2013年5月20日 (月) 10時46分

個人的には万人に担保されるべきなのは必要最低限の医療で、さらにそれを上回って(質のみならずアクセス等も含めて)良い医療はオプションという英国式も悪くないかなと思っています。
万人に平等な医療をという建て前も決して批判されるべきものではないのでしょうが、それを絶対視し過ぎるとかえって医療は非効率になるんじゃないかという気はしますね。
質的格差をつけることには断固反対というなら、例えば待たないで診てもらえる診療にオプション料金いくらといったことから始めてみてもいいかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2013年5月20日 (月) 11時37分

「医療改革への危機感を」、原医政局長
http://www.m3.com/open/iryoIshin/article/172413/
>「医療全体を変換していかないと、とてつもなく増加する疾病に対応できない。この認識、危機感をまず持ってほしい」

だそうです。医療現場は危機感はたっぷり持ってるんだから政治も協力してもらわないと困りますよね。

投稿: amiga | 2013年5月20日 (月) 12時10分

>逆紹介したくても患者さんのご近所のクリニックがどんな専門なのか判らないと難しいんですよね。

開業医の専門は開業医なんですよ。サブスペまで考慮して逆紹介する必要はありません。開業医は、自分が診れないと思ったら、
妥当なクリニックにさらに紹介しますから、心配ご無用。

投稿: hhh | 2013年5月20日 (月) 12時36分

>自分が診れないと思ったら、妥当なクリニックにさらに紹介しますから

いやあどうなのかな?ここらじゃ無理だと思っても「ここが便利なんだ」って言い張る人もけっこういますんでねえ・・・

投稿: こだま | 2013年5月20日 (月) 12時49分

外来患者が忙殺しすぎている病院で外来医があまりにも杜撰で適当な診療されて、肝心な病気を見逃されているという事例を最近みかける。それも1つや2つではない。
病院の外来へ行くべき患者を規制すべき、定期通院患者は病院でしか診れない悪性腫瘍や難しく危険な特殊病状、初診患者は診療所医師が入院や精査が必要と考えたケースの紹介のみ。
生活習慣病で普通に日常生活できる人が病院外来を埋め尽くしているような現状は異常としか言いようがないですね。
マンモス病院の疲弊した病院医師のたった1〜2分の粗い診察受けるために丸1日つぶすなど、人生の無駄。早く気付きましょう。

投稿: 逃散前科者 | 2013年5月21日 (火) 15時18分

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