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2013年4月 9日 (火)

滝川市不正受給問題 早急な制度的対応を

2007年に北海道滝川市で元暴力団組員の夫婦に2億4千万もの生活保護費不正受給をしていたことが発覚、これに対して市の幹部に損害賠償を求めた住民訴訟の判決が札幌地裁で先日下され、幹部2人の過失を認め約1億円を2人に請求するよう市に命じるという異例の結果となりましたが、聞けば聞くほどあまりに単純なやり方でよくもここまでと思うような事件ですよね。
市長はこの判決を受けて「当時の職員はすでに処分を受けており、国や市への返済も終わっている」と控訴する意向を示していて、市議会も同意しているということからいずれ控訴審が始まることになると思いますが、ともかく金額も内容も異例だったというこの不正受給事件はマスコミの業界でも大きな話題を呼んでいるようです。

なぜ2億4千万円も支出したか 「気付かないふりをするのが合理的」(2013年4月7日産経ニュース)

 北海道滝川市の元暴力団組員の夫婦らによる生活保護不正受給事件では、不正を疑う機会が何度もありながら、市は積極的な行動を取らずにタクシー代として約2億4千万円の公金を支給し続けた。なすべきことをなさない「不作為」がまかり通った過程を、関係者の証言や裁判記録から検証した。(大竹直樹)

「救急車並み」

 「まったくやっていない『不作為』はなく、やれることはやっていたと思う」

 産経新聞の取材に市の幹部職員は事件を振り返り、「田舎の町なので詐欺事件に発展するという発想がなかった」と釈明した。

 滝川市内にも13の診療科を擁する市立病院がある。約85キロ離れた札幌市の北海道大学病院へのタクシー通院は本当に必要だったのか。幹部職員は「北海道でナンバーワンと認める北大病院の医師の判断が非常に大きかった」と語り、当時の担当者をかばった。

 通院が必要と判断する医師が一人でもいれば「覆すのは難しかった」と幹部は主張するが、ある政令市の生活保護担当者は「元暴力団組員ということで、何か言えば、すごまれたりして面倒だという思いもあったのでは。そうでなければあり得ない」と疑問視する。

 男が「タクシー代を立て替えた」と計340万円分の領収証を福祉事務所に持参し、全額を支出した経緯について、支出を決裁した福祉事務所長(当時)は昨年7月、住民訴訟の法廷で「当時はおかしいとは思わなかった」と証言。夫婦のタクシー代が月に2千万円近くに及ぶこともあったのに、事務所長は「まあ、救急車並みの装備を付けたタクシーだったので、移送費については妥当というふうに考えていた」と語った。

A格付け世帯

 生活保護制度に詳しい学習院大の鈴木亘教授(社会保障論)は「暴力団関係者などいわく付きの人に対してどうしても審査が甘くなる傾向がある」と指摘した上で「担当者がおかしいと気付かないはずがない。気付いてしまったら何かしなければならなくなるので、気付かない行動をするのが合理的と、先送りにしたのではないか」と分析する。

 クレーマーとしても知られていた男は、原則月に1度以上の面会を求める「A格付け」世帯として、「取り扱いの非常に難しい案件」と市側に認識されていた。にもかかわらず、ケースワーカーが8回連続で男と面会できないなど、市は男の居住実態を把握できないまま放置した。

 詐欺罪などに問われた札幌市の介護タクシー会社役員の公判で、証言台に立った福祉事務所の査察指導員(当時)は「世帯主に会わなければならないという決まりはない」と答えた。

 申請書類や手続きに誤りがなければ問題はない-。その間、男は札幌市内の高級マンションなどを転々とし、高級車を何台も乗り回していたが、市がこうした男の実態に目を向け、支給を見直すことはなかった。

 鈴木教授は「今回のケースで不作為があったのは間違いがない」と断じた。

しかしマスコミ報道を見ていておもしろいのは、先日の小野市の生保条例の件にも見られるように生保受給者に厳しくすれば一生懸命バッシングする一方で、こうして不正受給が公になると今度は「何故見抜けなかった!」と鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てることです。
現在の制度では書類さえきちんと整えていれば役所としては支給をせざるを得ないようになっていて、だからこそ「こうすれば確実に受給できる」とノウハウまで出回っている、それに対して現行制度の枠内で何とか対抗しようと現場で「申請させない」ように誘導しようとすればこれまた「門前払いだ!国民の権利を何と心得ているのか!」とキャンペーンを張られるといった始末で、福祉事務所を始め担当者の方々も頭が痛いでしょう。
今回の事件はタクシー会社もグルになった確信犯的詐欺事件ですが、医療からみの不正受給ではしばしば担当医の判断が不正と認定することの障害になるケースが多く、今回の場合も通院頻度が多く医師の間で判断が割れていたと言うくらいですから医療の側でも改善すべき点は改善しなければ、全国どこでもまた同じようなことが起こりかねません。
一般に皆保険制度と応召義務によって現代日本の医師は患者性善説に基づいて診断書等も「優しめ」に書くのが当たり前のようになっていますが、公立病院の救急外来に高級車に乗った生保受給者が毎夜の如く押しかけて好き放題やっているという現状を思えば、今後医療の側にももう少し社会的なリテラシーが求められるようになるかも知れませんね。

ともかくもこうした事件の再発を防ぐべく、マスコミでさえも指摘するように不正受給対策をさらに推し進めなければどうしようもないということになりますが、その際に実態確認等で何かと不足しがちな窓口のスタッフもさることながら、制度的に不正受給を防ぐための仕組みがまるで存在していないということが大いに問題になってきます。
不正受給者の多くが暴力団関係者など言わば「プロ」なのですから、昨今の流れで言えば警察OBなどを窓口担当者に据えるというのも一つのやり方ですし実際に一部では導入がされているようですが、制度的な不備に関しては現場からも不満の声が強いようですね。

Gメン「もっと調査権限を」 ペナルティー存在しない不正受給(2013年3月24日産経ニュース)

 不正受給にペナルティーが存在しない、との指摘がある。支給した自治体は返還を求めることができるが「使い尽くして金がない」といわれれば、それまで。生活保護はそのまま継続される。「最低限度の生活保障」(生活できるぎりぎりの額)という制度の性格上、保護費から強制的に天引きすることもできない。自治体の調査権限には限りがあり、刑事告発に至るケースも極めてまれ。保護費全体に占める不正受給の割合は1%に満たないが、一部の“悪意”が制度の信頼を大きく揺るがしている。

動かない電気メーター

 大阪市内のとある住宅街。散歩のような足取りの3人組の男性が、アパート一室の前で足を止めた。辺りに注意を払いながら走らせた視線の先には、壁に取り付けられた電気メーター。表示されている数字を覚え、再び歩き出す。少し離れたところでメモ帳に数字を書き付けた。
 見返すと、1カ月前の日付にも同じ数字があった。電気がまったく使われていない。疑念が深まる。「この部屋に住んでいるわけがない」
 3人組は警察官OB(63)と区役所OB(64)、現役の区役所職員(40)。大阪市の不正受給調査専任チームのメンバーで、「生活保護Gメン」とも呼ばれる。
 3人が監視していた家には、生活保護受給者の50代男性が1人で暮らしているはずだった。だが、近くに住む40代女性と内縁関係にあり、女性宅で同居しているとの情報が市に寄せられていた。
 この女性も受給者だ。それぞれ単身として申請し、2人合わせて約26万5千円の保護費を受け取っている。2人が一世帯として申し込むより数万円多く、より多額の保護費を受給するため単身を装っているというのがGメンの見立てだ。

不正判断に高い壁

 そもそも自治体が不正受給の判断を下すには「不当、不正に受給しようとする意思」(故意)の立証が必要とされる。この男性のケースなら「たまたま外出することが多かった」と否定されれば、不正とは見なせない。自治体がGメンを組織し、警察さながらの調査を行わなければならない理由はここにある。
 それでも故意とまで言い切れなければ、控除や減額が認められる緩やかな費用返還しか求められない。大阪市の平成23年度の不正受給額は17億4800万円だったが、こうした“グレー”な事例や、返還に充てるべき受給者の資産を含めると総額は41億円超に跳ね上がる
 大阪市は昨年4月から、職員と警察官OBなどの嘱託職員2人の計3人を1チームにして、全24区に配置。張り込みや銀行口座の調査などにあたらせている。今年1月末までの調査対象は約千人。うち約260人の不正を確認した。
 適正化への取り組みは、他の自治体にも広がっている。東大阪市では警察OBらが情報提供を受け付けるホットラインを設けたり、ケースワーカーに対する助言や警察との調整役を務めたりしている。

調査の足かせ

 ただ、態勢が整いつつある一方で課題も残る。Gメンによると、大きな足かせとなっているのが調査権限が限定されている点だ。
 現状では銀行口座や不動産の調査も受給者本人のものに限られ、金の流れはごく一部しか分からない。届け出た住所に実際に住んでいるかを調べようにも、オートロック付きマンションだと手が出せない。
 冒頭のチームの職員は「マンションの防犯カメラのチェックや関係者の資産調査ができれば、もっと動かぬ証拠を突きつけられるのに」とこぼした。
 実際、同居が疑われた男性に対して、地道に集めた電気メーターなどのデータを提示したが「電気も水道も使わずに自宅にいる」と強弁され、「故意」の結論は出せないまま。もちろん、保護費は今も男女それぞれに支給されている

 加算金制度を創設へ 政府の生活保護改正案

 生活保護の不正受給に歯止めをかけるため、政府は今国会にも、厳罰姿勢を明確にした生活保護法改正案を提出する方針だ。
 厚生労働省は現行制度にペナルティーがないとの批判を踏まえ、不正に得た保護費の全額に一定額を上乗せして返済させる「加算金制度」を創設する意向。
 自治体の権限も拡大する。受給者の就労状況や保護費を何に使ったか調査できる権限を明文化するほか、官公庁に対しては自治体調査に回答する義務を課す。「従来は税務署や年金事務所などで、照会に応じてくれないケースがあったため」(厚労省の担当者)という。罰則も「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」から「同100万円以下の罰金」に引き上げる方向だ。
 法改正に先立って、厚労省は不正受給者から費用を徴収できるとした同法78条をより厳格に適用するよう各自治体に通知した。
 本来、不正受給と判断すべきケースでも「反省している」「調査に協力的」などの理由で返還額を減額する自治体があり、「是正すべし」と会計検査院から注文を受けたためだ。
 ただ、不正受給への包囲網が着々と整備される一方で、回収の見通しは暗い。厚労省の調査によると、22年度の徴収率は28%、23年度も26%で改善の傾向は見られない

「電気も水道も使わなかった」などとまるでどこかの議員候補者のような弁解をするものですが、ここまで調査を行い証拠を突きつけてもなお不正受給だと断ずることが出来ないという現状にはさすがに危機感を覚えざるを得ないところで、それではどうすればそれを改められるかということですね。
厳罰姿勢を明確化するという生活保護法改正に関しては現金給付から現物給付への転換を図るだとか、受給者の受診回数を制限すると言った過去の事例から考えれば当たり前とも言えるアイデアが様々に出ているようですが、これまた一部方面からの根強い反対が予想されることから実際にどの程度実効性あるものとなるのかははっきりしません。
基本的に食べていけるだけの現物給付さえ迅速に対応すれば緊急性のあることは滅多にないはずで、多くの不正受給が金銭的な過剰支給に味をしめていることからも現金給付の制限が最優先課題となるはずですが、いずれにせよ状況的に明らかに不正と考えられるのに調査の権限がない、罰則がないばかりに放置せざるを得ないというのはスポンサーである市民の素朴な感情としてもおもしろくないですよね。
定数削減だ、TPP交渉参加だと色々な議題が目白押しだからと例によって国会での法改正を先送りにするということは許されないのももちろんですが、何かと生保問題に口を出しがちなマスコミ各社も現場が適正な対応を取れるよう制度改革に協力していただきたいものだと思います。

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コメント

いや、なんやかんやより、誰でも石狩湾に浮かびたくなかったってだけでしょう。
ボウタイ法、条例できても、それは怖いわな。
実際、九州でもテロられてるし。
テロの時代だし。
やる方も、生き残るために必死だし。

投稿: ぶう | 2013年4月 9日 (火) 07時56分

この記事によると怖かったわけではなかったらしいですよ。
>http://www.j-cast.com/2013/03/28171649.html?p=all
>元暴力団組員だったことについても、「強要したり怒鳴り声を上げたりすることもなかったですし、大声を出すお年寄りなどと対応は同じです」と、怖かったことを否定している。

ところでこういう記事が出てますね。

>http://diamond.jp/articles/-/33950
>ギャンブル依存症を知らずに依存症対策!?
>「生活保護費浪費禁止条例」が逆効果になる可能性

投稿: 坂口 | 2013年4月 9日 (火) 08時36分

この事件の後、生保の患者さんから通院するのにこれこれの交通機関を利用するっていう証明やら
通院状況の問い合わせ(通院の頻度とか医師の指示を守っているか等)が増えた気がする。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年4月 9日 (火) 09時27分

>>ギャンブル依存症を知らずに依存症対策!?
>>「生活保護費浪費禁止条例」が逆効果になる可能性
> 筆者は、長年にわたってギャンブル依存の研究を行なっている滝口直子氏(大谷大学教授・文化人類学)に、専門家としての意見を聞いてみた。
>「ギャンブルに依存している人は、『仕事もしないでギャンブルばかり』というイメージに当てはまるとも限らず、意外に、勤勉な働き者であることも多いです。ギャンブルには、元手のお金が必要ですから」(滝口氏)

はいはい終了終了www

投稿: aaa | 2013年4月 9日 (火) 09時34分

浪速の勤務医さま

私の外来では数年かけて問題患者を一掃したせいか、さいわいこういう話は来てないですね。
ところで参考までにうかがいたいのですが、市役所からの問い合わせではなく患者からの問い合わせが増えているのでしょうか?
それは役所からの指導なのか、それとも患者の自主的なアリバイつくりということなのでしょうか?
もしも医学的には公共交通機関で十分な患者がタクシー利用を求めて来た場合にはどう対応されてます?

投稿: kankan | 2013年4月 9日 (火) 10時03分

だがちょっと待ってほしい
我々は良心的なマスコミの声に謙虚に耳を傾けるべきではないだろうか?

【毎日新聞】生活保護受給者のパチンコ、市民が通報…私は不安だ。苦痛を叫ぶ仲間を「一段低く見る」おぞましい光景が頭に浮かぶ
http://mainichi.jp/opinion/news/20130404ddn005070052000c.html

【北海道新聞】 「生活保護条例…差別や偏見を助長する。市民同士が監視し合い、密告を促すような制度は適切と言えるだろうか」
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/454875.html

投稿: ( ゚Д゚)y─┛~~ | 2013年4月 9日 (火) 10時23分

>いや、なんやかんやより、誰でも石狩湾に浮かびたくなかったってだけでしょう。

上でも出ている記事では怖くはなかったと言っていますが、一方で「大声を出すお年寄りなどと対応は同じ」と大声を出していたことは示唆しつつ「強要したり怒鳴り声を上げたりすることもなかった」と言ってるんですよね。
矛盾していると言うか「どっちやねん!」と突っ込みたくなるような話なんですが、別に大声出して暴れるから怖い、物静かなヤクザは怖くないってものでもないとは思います。
むしろ記事からうかがえるだけでも相当に制度に精通しているプロだなと言う印象を受けますから、こういう連中に役所としてどう対抗すべきなのかをまず考えてみる必要があるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月 9日 (火) 10時45分

ところで公務員が暴力団だと知っていて生保に認めたら便宜供与とか言われないんですかね?
暴対法の規定ではそのあたりどうなってんでしょうか?

投稿: てんてん | 2013年4月 9日 (火) 12時06分

>>市役所からの問い合わせではなく患者からの問い合わせが増えているのでしょうか?

役所からの問い合わせですね。

>>それは役所からの指導なのか、それとも患者の自主的なアリバイつくりということなのでしょうか?

役所をからの問い合わせですね。ちゃんと通院したり、きちんと内服しているのか とか 就労可能か とか。

>>もしも医学的には公共交通機関で十分な患者がタクシー利用を求めて来た場合にはどう対応されてます?
一応、理由を患者さんに伺って、合理的な理由があれば書きますし、「いや、バスか電車にしろよ」って
思えるなら 書けませんって断ってますね。場合によっては、通院が楽な医療機関への案内をMSW(メディカル ソシアル ワーカー)
や病診連携室にお願いしてます。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年4月 9日 (火) 12時06分

浪速の勤務医さま

さっそくありがとうごうざいました。なるほどそのあたりが妥当ですよね。
今はさいわい平穏無事なのですが、過去の勤務地では公立病院が続いたせいか悪質な生保患者対策に苦労しました。
医師もいざとなれば役所に頼る必要があるし、役所も対応を正すに医師の協力が必要なんだと思います。
北海道の事件ももう少し担当医と連絡をとりながら対応できなかったかと悔やまれます。

投稿: kankan | 2013年4月 9日 (火) 12時54分

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