« 終末期医療と安楽死 | トップページ | 断固我が道を行く患者を麻生氏が強烈批判?! »

2013年4月17日 (水)

昨今上向きだという医療業界は今も現場の献身的努力に支えられている?

ようやく景気が上向きつつあると感じる人が増えてきているようで世の中も次第に雰囲気が変わりつつあるところですが、そんな中で一足早く上昇基調に乗っていると認識されているのが医療・介護領域だという内閣府の調査結果が先日出ていました。

「良い方向に」医療・福祉が7年ぶりトップ-内閣府世論調査(2013年4月9日CBニュース)

 内閣府が実施した「社会意識に関する世論調査」によると、現在、良い方向に向かっていると思われる分野に「医療・福祉」を挙げた人の割合(複数回答)は27.5%で、2012年の前回調査から5.0ポイント上昇、「科学技術」(25.7%)を抜き、06年以来7年ぶりにトップになった。

 「医療・福祉」が良い方向に向かっていると思う人の割合は、09年には13.2%にまで落ち込んだが、その後は4年連続で上昇し続けている。今回の調査では、男性の25.7%に対し、女性が29.0%と高かった。年代別では、20歳代の32.6%が最も高く、最低は40歳代の20.7%。地域別では、人口10万人未満の「小都市」が28.4%で比較的高く、東京都区部など「大都市」で25.5%と低かった。

 一方、この分野が悪い方向に向かっていると思う人の割合(同)は、前回の21.2%から5.8ポイント減り、15.4%だった。こちらは、医療崩壊が盛んに報道された06年から07年にかけて急激に伸びたが、09年の37.3%をピークに4年連続で減少した。

 調査は、全国の成人1万人を対象に1月24日-2月10日に実施し、有効回収率は60.9%だった。【兼松昭夫】

一般国民を対象にした、いわばイメージでの調査ですから現場の実感としてはどうなのかは判りませんが、なんだかんだと言いつつ景気の波に左右されないというのは不景気が慢性化する時代には強いのは確かで、昨今の医学部人気の高値安定化もその辺りの理由も大きいのでしょうか。
数年前に医療崩壊だ、救急たらい回しだとマスコミなどによっても取り上げられるようになった時代があり、その頃からすると制度的な面で現場の何がどう変わったかと言えば特に劇的な変化はなかったのかも知れませんが、例えば診療報酬が名目だけでもマイナス成長からプラスに(と言うよりもマイナスでなくなった、と言うべきでしょうが)転じた効果もあってか、経営的にはやや落ち着きを取り戻した施設が多いと言います。
現場の医師の数などもそうそう増えているわけでもないのでしょうが、多忙を極めた医師達も出来ないものは出来ないと無理はしなくなってきた、そして周囲も医師ならこれくらいの激務は当たり前と無理をさせなくなってきたという気配があって、なんだかんだ言いながら落ち着くべきところに落ち着いてきたのかなという印象も受けるところです。

もちろんそうした変化が心理的なものに留まらず現象面において影響を与えずにはいられないわけで、例えば聞くところによると某基幹病院では往時には夜間にまで予定手術を組んでまで一生懸命仕事を続けていたところがあまりの激務にスタッフの一斉逃散を招き、結局今ではほどほどのところで手術件数を抑えていると言います。
その結果かつては手術までの待ち時間が一週間だったものが例えば一ヶ月になるといったこともあるかも知れませんが、医療と言うものが何よりも永続性を担保していくべき性質のものである以上それが可能な体制で続けるべきなのは当然であって、一瞬だけ燃え尽きて後は野となれ山となれという考え方で無理や無茶を押し通す方が無責任とも言えますよね。
「それでも手術が遅れたことによって患者に不利益があるんじゃないか?」と言う人はいるかも知れませんが、現実の医療現場では医師らスタッフの過労の方がはるかに実際的な悪影響を及ぼしているということは以前から繰り返し言われているところです。

外科の医療事故などの原因は「過労」-日本外科学会がアンケート調査(2013年4月15日CBニュース)

 忙し過ぎる勤務環境が、事故やインシデント(ヒヤリ・ハット)を招く-。外科医の8割余りが医療事故やインシデントの原因が「過労・多忙」にあると考えていることが、日本外科学会のアンケート調査で分かった。その一方で、7割余りの医師が当直明けに手術に参加した経験があることも明らかになった。

 日本外科学会は昨年10月30日から12月10日にかけて、全会員を対象にメールによるアンケート調査を実施。8316人から有効回答を得た。

 外科診療における医療事故やインシデントの原因について尋ねた質問(複数回答)では、「過労・多忙」が81.3%で最も多かった。次いで「メディカルスタッフとのコミュニケーション不足」(67.1%)、「知識・勉強不足」(59.4%)、「技術の未熟」(53.4%)などと続いた。

 最近1-2年で当直明けに手術に参加した経験について尋ねた質問では、「いつもある」が36.0%で最多となったほか、「しばしばある」は25.0%、「まれにある」は12.5%を記録。当直明けに手術に参加した外科医は73.5%に達し、2011年に実施した同じ調査と比較して2.1ポイント増えた。さらに、当直明けに手術をした医師に対しアンケートした結果、その71.2%が「当直明けは休みというルールを作るべき」と回答した。同学会では「当直明けの業務軽減を実現するためにも、外科医が本来業務に専念できる体制を整えるためにも、医師と看護師の中間職種であるナース・プラクティショナーやフィジシャン・アシスタントの創設・養成が必要」(事業課)としている。

■半数余りの外科医「兼業を経験」

 また、兼業の有無について尋ねた質問では、52.6%の医師が兼業していると回答。兼業している医師に、その理由を尋ねたところ(複数回答)、「金銭のため」が63.8%で最も多く、以下は「病院依頼による地域医療支援等のため」(45.9%)、「学会活動のため」(16.4%)、「修練のため」「個人判断による地域医療支援等のため」(いずれも15.4%)などの順となった。【ただ正芳】

「だからナースプラクティショナーをさっさと導入すべきだ」といった同学会の結論部分に関しては本稿では触れませんが、近年多少は改善傾向にあるとは言え日本では日勤からそのまま当直業務を行い、そしてまた翌日の日勤業務を当たり前にこなすというスタイルを強いている病院が圧倒的大多数であって、むしろ当直開けの勤務に配慮しているという施設の方が例外に属するというのは憂慮すべき事態ですよね。
患者なら誰でも一生にそうそうあって欲しくない手術という体験を前に緊張もしているでしょうし、それを行う医師の側にも万全の体制で手術に当たって欲しいと考えるのは当然ですけれども、実際には多くの場合は前日から働き通しで疲弊しきった医師達の手によって手術が行われているのだという状況に患者側こそ危機感を覚えなければならないでしょう。
医療訴訟などに発展しかねない医療リスク管理の意味もあって、ある程度以上の規模の病院では当直も内科系、外科系と二人以上で行う場合が多いでしょうが、当然一人の医師が全ての患者を診る全科当直よりも当直回数が増え、結果として過労を抱えたまま翌日の業務に回るという機会が増えることになります。
また外科系病院でもなければ外科医の数は一般に内科医よりも少ないのが普通だと思いますが、外科系当直とは言っても失礼ながら眼科医や耳鼻科医では本当の緊急処置に対応出来ない場合がほとんどでしょうからいわゆる単なる電話番ともなりかねず、実際にはオンコールの外科医が全て対応するというのでは当直を外れた意味がないということにもなりかねませんよね。

結局のところは外科医の仕事をどれだけ減らせるかということに要約されるのですが、無闇に外科医を呼び出す側にもそれなりの理由があって、昨今では後で何かあれば医療訴訟に発展しかねない時代ですからとりあえず専門家にコンサルトして大丈夫と一筆もらったという証拠が欲しい、そのためにとりあえずオンコールに連絡しておくというのはリスクマネージメント上は必ずしも間違いとも言い切れない対応ですよね。
また内視鏡やインターベンションの進歩で昔と比べて手術が減ってきたはずだという意見がありますが、例えば内視鏡医が何時間もかけて切除する胃癌も外科医なら1時間で終わる簡単な部類に属するものが多いはずで、そうした優しい症例を除いた難しい患者ばかりが外科病棟のベッドを埋めているということになってくれば、むしろ術後管理の手間などを考えると以前よりも大変だということにもなりかねません。
医療秘書などを増やして書類仕事を分担させるといった対策も今ひとつ画期的な成果を上げているようではありませんが、結局根本的には一度手術を手がけた患者は外来でのフォローアップから再発時の化学療法、さらには終末期の看取りまで全部自分でやらないではいられないという、古き良き時代から続いている主治医制と言うものの束縛から外科医自身が解放されないことには抜本的な解決とはならない気がしますね。
もちろん一生懸命手術の数をこなさなければ経営が成り立たない診療報酬体系の是正だとか、過労になることを承知の上でさらに働けと尻を叩き続ける経営側の判断なども問われるべきでしょうが、何より当事者自身が無理を通せば仕事の質も下がるしかないという当たり前のことをどこまで自覚出来るか、そしてその上で自ら是正策を講じられるかが一番の課題なのでしょう。

|

« 終末期医療と安楽死 | トップページ | 断固我が道を行く患者を麻生氏が強烈批判?! »

心と体」カテゴリの記事

コメント

主治医制の廃止と完全三交代の導入をしなければ診療報酬が減らされるようなシステムを作らないと、どこの病院もやらないでしょうね。
あと、個人的意見ですが、医療秘書は医者と同じ数だけいないと意味がないと思います。

投稿: クマ | 2013年4月17日 (水) 08時30分

主治医制にこだわる先生も少なくないようですからいきなり廃止は難しいでしょう。
ところで神戸大の救急が受け入れ停止した理由として救急部の医師が退院まで診ていたものを各科に振り分けるようにする方針変更を嫌ったからと報じられてますね。
一貫して診たいという気持ちも判らないではないですが救急部はなるべく多くの搬送を受けることに専念すべきと思うんですが…

投稿: ぽん太 | 2013年4月17日 (水) 09時21分

いやいや、主治医制にもちゃんとメリットはあるのですよ
自分の持ち枠をゆるい患者ばかりで埋めてしまえば手間のかかる患者の相手をしなくていいのでね
各人なりにお好きなペースで診療できるのが最大のメリットですな

投稿: 藪 | 2013年4月17日 (水) 09時44分

主治医制をやめたのはいいけど申し送りで余計手間がってオチw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年4月17日 (水) 10時02分

夜間の救急外来では内科は忙しく外科はヒマですが、急性腹症やSAHなどいざ手術になれば、外科を呼んで手術しないとダメです。
救急指定病院は緊急手術・処置を夜間にスタッフ集めて実施できる環境が必須です。
外科・循環器科などのスタンバイ協力できる病院でなければ、急性の腹痛・胸痛・頭痛・意識障害などすべて診れないということになる。

投稿: 逃散前科者 | 2013年4月17日 (水) 10時10分

まさに万一の場合に手が動かせる外科医が必須なのですから、それ以外の時には温存しなければならないはずなんですよね。
国の考え方としては一応外科系の意見も聞いておきたいという程度の目的なら、ローテーション研修をこなした医師で事足りるという方向にもっていきたいのかも知れません。
実際にマイナー科当直医などよりも研修医の方が経験も多く頼りになるという場合は多いわけですし。

主治医制については科によっても施設によっても状況が異なり一般化できにくいですが、診療の標準化が叫ばれる時代には詳細な申し送りが必要な医療は次第に避けるべきだとされるようになっていくのでしょうか。
一般的な検査入院やパス通りでやれる症例に関しては当該科内のチーム診療で十分で、わざわざ特定の医師に全責任を負わせる意味はないとは思いますが。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月17日 (水) 10時29分

>「金銭のため」が63.8%で最も多く、

判決出たんだから当直手当に時間外手当、オンコール待機料と全部きっちり請求しとけよw

投稿: aaa | 2013年4月17日 (水) 10時44分

>>ところで神戸大の救急が受け入れ停止した理由として救急部の医師が退院まで診ていたものを各科に振り分けるようにする方針変更を嫌ったからと報じられてますね。

こっちの記事見るとけっきょくは教授選で負けた側が退場しただけに思える。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201304/530055.html
神戸大では3月に救命救急科の教授選が行われており、新教授決定後に退職を申し出る医師が相次いだ。
同病院では、重症度や疾病の種類、年齢によらず全ての患者をいったん救急部で受け入れた後に専門診療科に振り分けるER型の診療体制に変える方針を教授会が決定。その方針に沿って新教授の選考が行われ、5月1日には他大から新しい教授が着任することが決まっていた。その後、副部長を含む6人の医師が退職を申し出たという。

投稿: kodama | 2013年4月18日 (木) 10時09分

3割が燃え尽きる? 「研修医」という超激務
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130418-00013672-toyo-nb

いまどきのぬる~い研修医生活でも燃え尽きちゃうってちょっと困るんですけど

投稿: 蒲田 | 2013年4月19日 (金) 09時26分

>いまどきのぬる~い研修医生活でも燃え尽きちゃうってちょっと困るんですけど

DVにあいすぎてワケわかんなくなっちゃってる妻乙w

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年4月19日 (金) 09時46分

昔はハードな生活が無理だと悟ってる人はマイナーに流れてたのに今はローテート強制ですから同情すべき余地はあるかと。

投稿: ぽん太 | 2013年4月19日 (金) 10時18分

一般的にスタッフが燃え尽きるような職場はブラックと言われても仕方がない時代ではありますね。
ただ研修医の待遇が良くなった結果、その上のレジデントクラスが地獄を見るということにもなりかねないので注意が必要でしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月19日 (金) 11時37分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/57185074

この記事へのトラックバック一覧です: 昨今上向きだという医療業界は今も現場の献身的努力に支えられている?:

« 終末期医療と安楽死 | トップページ | 断固我が道を行く患者を麻生氏が強烈批判?! »