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2013年4月12日 (金)

健康改善にアメとムチ 医師も決して他人事ではなく

2008年の特定健診(いわゆるメタボ健診)導入以来各職場で健診健診とうるさく言われるようになったと言う人も増えているようですが、企業のみならず国や自治体としても予防医学の徹底で医療費削減を目指す立場を標榜している以上、定期健診受診の徹底にはずいぶんと気を遣っているようですね。
特定健診受診率も「12年度までに7割」という厚労省の目標に反して2011年度も半数弱に留まったことが先日発表されていましたが、単に受診率を高めるだけでなくその結果健康増進がなされるのでなければ意味のない数字あわせで終わってしまうわけですから、かねて異論のある腹囲基準などメタボ基準の見直しも含めて今後その効果についても検証し改善を図っていかなければならないでしょうね。
さて、この健診の本来目的とするところの健康増進ということについても国民性が出るということでしょうか、先日日米で対照的な二つのニュースが出ていましたので紹介してみましょう。

血圧測定し商品券と交換 美里町と福医大など協定(2013年4月5日福島民報)

 血圧測定するたびにポイントがたまり、商品券に交換できる会津美里町などの新事業の協定調印式は4日、同町高田庁舎で行われた。日本初の取り組みで、町などでつくる実行委員会は7月のスタートを目指す。 
 町をはじめ、商品券を発行する町商工会、医療面を監修・サポートする福島医大、データやポイントを監理するNPO法人福島医療・ヘルスケアICT研究会の各代表が出席し、協定書に調印した。 
 渡部英敏町長が「町全体を元気にしたい」とあいさつ。発起人の谷田部淳一・福島医大助教が「多くの人が積極的に継続して健康管理に取り組むきっかけになればうれしい」とPRした。 
 事業名は「あいづじげん健康ポイント倶楽部」。会員が専用の血圧測定器で血圧を測定すると、データがセンターに自動送信される。ポイントがたまると町内で使用できる商品券に交換できる。

太っていたら罰金―米企業「アメ」より「ムチ」で医療費削減目指す (2013年4月7日ウォールストリートジャーナル)

 腹囲が40インチ(約101センチメートル)以上の男性がいるとしよう。この男性がタイヤメーカーのミシュラン・ノースアメリカに就職したら、罰金の支払いを求められることになりそうだ。
 同社では来年から、血圧が高かったり腹囲が一定のサイズを超えていたりする社員は医療費として他の社員より1000ドル多く負担しなければならなくなるかもしれない。

 米国では医療費の増加や自主的な健康プログラムがめぼしい成果を上げていないことから、企業が血圧や腹囲などを基準に社員への罰則を定める動きが広がっている。企業はさらに、ボディマス指数(BMI)や体重、血糖値などの健康情報を報告するように求めており、報告しない場合は保険料か医療費の自己負担額を引き上げるとしている。
 医療費の削減には社員の習慣を変えることが欠かせない、というのが企業幹部の言い分だ。人間は報酬といった期待利益より罰則などの潜在的な損失により効果的に反応するという行動経済学者の研究結果も企業幹部を後押ししている。
 コンサルティング企業のタワーズワトソンの研究によると、今年、企業が負担する医療費は社員一人当たりの平均で1万2136ドル(約118万円)に達すると予想されており、罰則は今後、主流になるかもしれない。
 健康状態の報告をしない従業員を罰するなどの厳しい措置は従業員にとっても、医療費の点でもプラスだと企業側は主張するかもしれない。しかし、こうした措置は将来的に、高血圧症などの慢性疾患によって解雇されたり昇進の道が閉ざされたりする事態を招く恐れがある。そもそも雇ってもらえないこともありそうだ。

 ミシュランは最近まで、医療保険の自己負担分を補てんするために自動的に600ドルを付与していた。その上、健康評価調査に答えるか、強制力のない健康「アクションプラン」に参加した従業員には追加の支払いを行っていた。しかし、昨年、医療費が急増したことを受けて、同社はより厳しい政策の導入に踏み切った。
 ミシュランは今後、血圧、グルコース、コレステロール、トリグリセリド、腹囲(女性は35インチ=約89センチ=未満、男性は40インチ未満)といった健康基準を満たした社員にだけ報酬を与える方針だ。このうち3つ以上の基準を満たした社員については医療費の年間自己負担額を最大で1000ドル引き下げる。基準を満たすことができなかった社員は健康アドバイスのプログラムを受講して、少額の補助金を受け取る。
(略)
 ミシュランはいかなる差別もしていないと主張し、社員は自主的に参加することになっていると述べた。このプログラムに参加しないということは、社員は報酬を手にすることはできないということだ。ミシュランの最高人事責任者のウェイン・カルバートソン氏は以前の奨励プログラムではあまり 変化がなかったと話す。カルバートソン氏によると、例えば、社員が「これから毎日ウォーキングする」と言っても、それを証明する必要はない。「社員の自由に任されていた。ただよい社員であるだけで600ドルが手に入っていた」

 人材コンサルタント会社エーオンヒューイットが中規模・大規模企業800社を対象に行った最近の研究によると、10社中6社が今後数年のうちに、健康改善に取り組まない社員に対して罰則を設ける予定があると回答した。健康に関する企業団体のナショナル・ビジネス・グループ・オン・ヘルス(NBGH)とタワーズワトソンが行った研究では、罰則を科す予定の企業の割合は2014年には現在の倍の36%に達する可能性がある。
 現行法では、企業は従業員の医療保険費用の20%を超えない範囲で健康関連の報酬や罰則を活用することができる。法律事務所バッツェル・ロング(デトロイト)で労働や雇用を担当するジョン・ハンコック氏によると、企業は健康問題を理由に従業員の給与を削減することは法律的に認められていないが、従業員の医療費と健康目標の到達度をリンクさせることは認められているという。健康目標を到達できない事情のある社員を免除すれば、あとは企業の自由だ。
(略)
 今のところ、企業はバランスを取りながらアメとムチの両方を使おうとしている。多くの企業は多少の金銭的な負担が長期的な変化につながるかどうかを確認しようとするだろう。デロイトの医療調査部門であるセンター・フォー・ヘルス・ソリューションのエクゼクティブ・ディレクター、ポール・ケクリー氏は「社員がどの程度の痛みを感じるのが適切なのか」と問いを投げかけた。「最終的には、社員が自然に行動を変えるようにする必要がある」と述べた。

もちろん日本のメタボ健診などもそれを理由に昇進や雇用に差をつけてはならないはずですが、実際には大企業などでは罰則を恐れて、結果の悪い社員は子会社に出向させたりするといった形で数字合わせの努力をしている形跡がありますから、やはりどうしても個人の健康問題というよりも社会的側面を帯びてこないではいられないものではあるようですね。
健診も社会的にちゃんと意味のあることもあって、例えば昨年には大阪・西成区で弁当を配るから結核健診を受診してくれと大阪市が言い出したことが話題になりましたが、その背景には先進国の中でも日本の結核罹患率がかなり高く、中でも西成区など特定地域では非常に有病者が多いことが蔓延につながっているという公衆衛生学的な危機感があったわけですね。
一方でメタボだろうが何だろうが個人の勝手じゃないか、俺は誰にも迷惑はかけずに自己責任でやっているんだと言う主張ももっともですが、現実的に健康管理を行わないことで医療費が際限なく増大していくとなれば、きちんと努力して健康管理をしてきた人々にも最終的には迷惑が及ぶということになってしまいます。

以前から「努力して健康を維持してきた人が無節制で好き放題やった人の医療費を負担させられるのはおかしい」という声はあって、保険料や窓口負担に差をつけるべきだという意見もありますが、今後医療費負担がますます跳ね上がるほど日本においてもアメリカと同様、まずスポンサーである保険者の側から何かしらの強硬論が上がってきそうですよね。
その意味で国民の健康面である意味日本よりもより深刻なステージにまで進んでいるアメリカで「人間は報酬といった期待利益より罰則などの潜在的な損失により効果的に反応する」などと言い出しているというのは先行きに不安を覚える話なんですが、そうならないためにはまず自分で何とかしなさいよという警鐘だと受け止めておくべきでしょう。
医学の素人である大多数の国民が自分の健康状態を把握する窓口になるのが健診ということで、それも受けるだけではなく毎年少しずつでも改善が見られるよう生活改善も進めていただくことが当然なんですが、他方で健康向上に努力すべき立場にある医師なども決して無関係だという話でもなく、先日これまた困ったニュースが出ていたことを紹介しておくべきでしょうね。

法定の健康診断、受けない医師3割超-多忙などが理由、医師向け調査(2013年4月10日CBニュース)

 医療機関などに勤める医師の3割超は、法律で義務付けられている健康診断を毎回は受けていないことが、医師・医療従事者向けサイトを運営するケアネット(東京都千代田区)の調査で分かった。理由としては、忙しさを挙げる医師が多かったほか、「その気になればいつでも検査できる」「自分の健康状態は自分で分かっていると思う」といった答えもあった。

 ケアネットは3月15日、インターネット調査で、同社の会員医師1000人から回答を得た。それによると、「健康診断(人間ドックを含む)」を「毎回必ず受けている」のは68. 7%だった。一方、「受けないことがある」(19.3%)、「毎回受けない」(12.0%)と答えた医師を合わせると31.3%。労働安全衛生法では、労働者への健康診断を事業者に義務付け、労働者にも健康診断を受けるよう求めている

 毎回受けていると答えなかった313人に理由を聞いたところ(複数回答)、「忙しいから」(64.9%)が最も多く、以下は「面倒だから」(32.3%)、「院内に自身しか医師がいない/シフトを替ってもらえないから」(19.2%)、「その気になればいつでも検査できると思うから」(13.1%)、「自分の健康状態は自分で分かっていると思うから」(6.7%)、「知りたくない、怖いから」(5.1%)、「健康診断・人間ドックには意味がないと思うから」(3.8%)の順だった。

■「医者の不養生」を2割近くが後悔

 また調査では、「心身の具合を悪くした際、結果として『もっと早く受診すればよかった』と感じた経験はあるか」との問いに対し、17.6%が「ある」と回答。医師の2割近くが、「医者の不養生」を後悔していた。
 医療機関を受診できなかったり、遅れたりした理由を複数回答で尋ねると、「忙しかったから」が69.9%で最多。以下は、「受診するほどの症状ではないと思ったから」(27.8%)、「面倒だったから」(23.3%)、「院内に自身しか医師がいない/シフトを替ってもらえなかったから」(19.9%)、「自覚症状がなかったから」(7.4%)、「知りたくなかった、怖かったから」(4.0%)などと続いた。【佐藤貴彦】

逆に言えば7割は受けているのだから国民平均よりもいいじゃないか、という開き直りの声もあるかも知れませんが、以前から呼吸器学会員に喫煙者が多いのは問題だと批判を集めていたことから最終的に喫煙者は専門医資格を認めないという話にもなったように、医師の不養生は個人の健康の問題という以上に患者指導をする上でも示しが付かないということはありますよね。
おおよそ理由を聞いてみれば世間で言われている健診未受診の理由と大差ないし、特に「知りたくなかった、怖かった」などと言う声が上がるあたりは医師も所詮人の子ですが、もちろん健診を受けること=健康を担保することなどと言うわけではないとは言え、古来言われているような「医師の平均寿命は世間より10年短い」という話を考え合わせるとき、医療スタッフの労働環境改善という点からももう少し真剣に考えてみるべき問題でしょう。
そして臨床的にも最近ではネットなどで幾らでも情報が集まるようになっているせいか、一部の生活習慣病患者などはああ言えばこう言う状態で医師を論破するため理論武装することに心血を注いでいるようなところもありますけれども、科学的にはともかく実社会においては「あなたは不養生で病気になったから病院にかかってる。私は養生して健康だからあなたを指導している」という一言が最も説得力を持っているような気がします。

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コメント

企業にペナルティーを科しているのだから企業が従業員にペナルティーを科すのも必然のような。
でもタテマエとしてはそういうことしちゃいけないとは言われるんでしょうね。

ところでぜんぜん指導に従う気のない患者には苦労しますけど彼らは企業人としてはどの程度有能なんでしょう?
医師の言うことは無視する人が職場では優等生ってありえるのかなと思うんですけど。

投稿: ぽん太 | 2013年4月12日 (金) 09時39分

私見の範囲内ですが、唯我独尊タイプはそれが通用する職場ではそれなりに有能なことはあるようですよ。
いままでそれでうまくやってきたという成功体験が性格を助長しているのかも。

投稿: kame | 2013年4月12日 (金) 10時25分

>でもタテマエとしてはそういうことしちゃいけないとは言われるんでしょうね。

雇用流動化でやたらに職場転換が増えているせいか、そのあたりの本音と建て前の使い分けは容易になってきているようですね。
これからは健診担当の医師も書き方一つで人間一人の人生を左右するかも知れないという覚悟が必要かも知れません。
というかまあ、実際問題としてうかつなことを書いたらあとでクレームが来たということは増えてるんじゃないですか。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月12日 (金) 11時07分

企業のペナルティー制度は日本なら訴えたら勝てるのではないでしょうか?
思想信条に反する生活を強いられ精神的苦痛を強いられたとかなんとかで。

投稿: てんてん | 2013年4月12日 (金) 12時29分

そもそも医療の限界をよく知る医師の多くは健康診断の必要性を感じていないと思われます。
健診をしようがしまいが、ガンなどは病気が悪質であれば今の医療では何をしようがまず助からないので。
簡単な血液検査、心電図、レントゲン、血圧測定くらいであれば、自分の医院でもできるでしょうしね。
わざわざ貴重な休日を潰して人間ドックに行こうとは思えないでしょう。それだけの価値がないので。
職業にかかわらず喫煙や飲酒や食生活など生活習慣は基本的に個人の自由でしょう。それが原因で病気を誘発すれば、それは自己責任で自業自得でいいのではないかと。禁煙ファシズムはなどは自由民主主義に反しているので本当に止めて欲しいですね。
日本人は民族的体質として北朝鮮に似ているので、すぐに全体主義に走る危険な傾向がある。要注意です。

投稿: 逃散前科者 | 2013年4月12日 (金) 16時07分

病院間だけじゃなく健診やドックのデータも共有できるようにしてもらいたい。
検査しようとしたら先月ドック受けたからって拒否する患者大杉。

投稿: take | 2013年4月12日 (金) 18時21分

> 検査しようとしたら先月ドック受けたからって拒否する患者大杉
データ持って外来に来るようにすれば良い
信頼性のあるデータが手元になくて治療を強要されたら断りましょう

投稿: 通りすがり | 2013年4月14日 (日) 10時25分

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