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2013年4月16日 (火)

終末期医療と安楽死

終末期の延命医療ということに感して、先日相次いでこういう記事が出ていたことを最初に紹介してみましょう。

御坊保健所が終末期医療意識調査(2013年4月3日日高新報)

 御坊保健所は、 管内の一般住民1300人を対象に行った終末期医療に関する意識調査の結果を発表した。 これによると7割以上が終末期医療に関心を持っており、 全体の約9割が自身の延命治療を望んでいないことが分かった。 リビング・ウィル (生前の意思表示) への意識も高く、 約8割が必要と答えている。 保健所では結果をもとにリビング・ウィルの啓発や在宅医療態勢を充実させる対策を検討していく。

 終末期に対してどのような考えを持っているかを把握し、今後の医療や介護の態勢づくりに役立てていこうと初めてアンケート調査を行った。対象は管内1市5町の40~79歳の住民1300人を無作為に抽出し、ことし1月に実施。927人から回答があり、回答率は71・3%だった。

 終末期医療について関心があるかの問いには、「非常に」と「少し」を合わせると75%以上が「ある」と答え、高い関心を持っていることを表している。自身の延命治療については、「どちらかというと望まない」を含めて9割近くが「望まない」とし、「望む」はわずか2・5%だった。ただ、家族の延命治療については「望まない」が7割にとどまり、「望む」は7%に増え、「分からない」も17・3%いることから、自身は望まなくても家族になると望んだり、迷う人が多いことをうかがわせている。

 元気なうちに自身の終末期医療について意思表示しておく「リビング・ウィル」にも関心は高く、81%が「必要」と答え、さらに5割の人が書面の必要性を感じている。自身が最期を迎える療養場所の問いには「自宅」と答えた人は37・9%で4割にも満たず、病院と老人施設で3割以上あった。家族の最後の療養場所も同様で、自宅は35・9%にとどまった。

 自由欄には「家族が胃ろうの延命治療をするとき、家族内で意見が割れた。本人の意思が重要」「自宅療養者にもっと厚い支援が必要」などの意見があった。同保健所の西岡倫代主任は「今回の結果を基礎データとし、リビング・ウィルをもっと啓発していくことと、在宅医療態勢を充実させるために、医師や介護員、家族らが情報を共有する方法として『患者支援ノート』を作製することなどを検討していきたい」と話している。

延命措置、医療スタッフの9割「望まず」-高齢社会をよくする女性の会が調査(2013年4月3日CBニュース)

自身が自分で意思表示もできず、治る見込みもない状態に陥った場合、約9割の医師や看護師は、人工呼吸器の装着も心肺蘇生も胃ろうも望まない―。こんな調査結果が「高齢社会をよくする女性の会」によってまとめられた。また、医療スタッフとそれ以外の人で比較した場合、いずれの延命措置についても医療スタッフの方が「望まない」と答えた割合が高かった

会では、昨年12月から今年2月にかけて、全国の介護関連職や看護職、医師らにアンケート調査を実施。4744人から回答を得た。

このうち、「あなたが意思表示できない状態になり、さらに治る見込みがなく、全身の状態が極めて悪化した場合」という前提で、心肺蘇生が必要かどうかを尋ねた質問では、医師では87.4%、看護職では88.7%が「してほしくない」と回答した。一方、介護関連職の場合は70.1%、その他の職業の人では65.5%が「してほしくない」と答えた

同様の前提で、人工呼吸器の装着の是非を尋ねた質問では、医師の89.1%が「してほしくない」と回答。看護職では97.1%が「してほしくない」と答えた。一方、介護関連職の場合は86.4%、その他の職業の人では82.7%が「してほしくない」と答えた。

同様に、胃ろうの造設については、医師では83.9%、看護職では89.0%が「してほしくない」と回答したが、介護関連職で「してほしくない」と答えたのは85.9%、その他の職業の人で「してほしくない」と答えたのは80.0%だった。

CBニュースの記事にもあるように「医療スタッフとそれ以外の人で比較した場合、いずれの延命措置についても医療スタッフの方が「望まない」と答えた割合が高かった」という傾向は日常的に死を身近に見ていることからくる実感が原因なのかとおもいますが、同時に相対的に延命措置を望む人の割合が高いはずの一般人においても、すでに大部分が延命医療を望んでいないという現実も現れていますね。
延命医療と一言に言っても、それでは切除不能癌に対する化学療法は延命なのか?などと言われれば単純にそうだと言い切れないものもあって定義が難しいところだと思いますが、「自身が自分で意思表示もできず、治る見込みもない状態」にもなった段階でのただ結論を先延ばしにするだけの延命的行為に対しては、すでに大多数の国民がそれを望んではいないということです。
ただこれももう一つ微妙な問題もあって、こうした調査でしばしば言われることに自分自身に対しては望んでいないという人でも家族に対しては必ずしもそこまで思い切ってはいられず、もしかしたら延命を希望してしまうかも知れないと考える人が一定数いるわけですから、本人がすでに意識もない状態になっている医療現場において今もそれなりの延命行為が行われていることも仕方がないのかなとも思いますね。

現在の医療体制を考えると、救急受け入れなどの問題もありますからある程度以上の年齢になれば例え目立った病気はなくともかかりつけ医を持つことが望ましいはずですし、出来ればその段階で自分の終末期についても意志を明確にしておくのが理想的なんでしょうね。
もちろん死生観など人それぞれですし、日本では延命治療をしたからといって家族が破産するようなこともまず考えられないのですからどちらでも好きな方を選べる自由があるのは幸いなことではないかと思いますけれども、ただ延命を望みながら治療を受けられない人がいることが問題であるなら延命を望まないのに延命医療を受けざるを得ない人がいることも同等に問題であると言う認識は持っておくべきでしょう。
その意味では延命医療の議論とはすなわち安楽死・尊厳死問題とも直接的に結びついてくるはずなんですが、先年尊厳死法が成立した米ワシントン州でこんなデータが出ていますが、ちなみにいささか混乱するのですがこの場合の尊厳死とは日本で言う安楽死(薬物投与等で積極的に死を早める)と言うべきもので、日本で言う尊厳死(延命治療の停止による死)とはニュアンスが異なることを付記しておきます。

尊厳死法に基づき24人死亡 米病院、40人に処方(2013年4月12日産経ニュース)

 米ワシントン州の病院で2009~11年に、尊厳死を求める末期がんの患者40人が自分の意志で致死量の薬の処方を受け、24人が薬で死亡したとの報告が、11日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された。ワシントン州では09年に、オレゴン州に次ぎ米国で2番目となる尊厳死法が施行された。

 是非をめぐっては専門家の間でも議論があるが、報告した米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのチームは「患者に選択肢を与えるものだ。家族にも好意的に受け入れられている」としている。

 報告によると、同センターなどの尊厳死プログラムに問い合わせてきた患者114人のうち、40人が手続きに沿ったカウンセリングを経て致死量の薬を受け取った。患者らが尊厳死を望む理由は自律性の喪失や、望む活動ができなくなることなど。最終的に24人が薬を飲んだが、うち半数は処方から半年以上も薬を飲まなかった。(共同)

ワシントン州の尊厳死法については「余命半年以下と診断された患者に対して医師が致死性薬物を処方することが認められている」というもので、気になる薬物の効果のほどは「通常は服薬後10分以内に意識を失い、多くは90分以内に死亡する」といい、一部では薬を吐き出してしまい死にきれなかったという例はあるもののおおむね効果は安定しているようです。
ワシントン州の人口は670万人余りと言いますから愛知県よりやや少ない程度ですけれども、今回の報告では三年間に問い合わせが114人で処方した者が40人、しかも実際に亡くなったのはそのうち24人というのは多いのか少ないのかと言えば、思ったより少ないという印象を抱く数字かと思います。
興味深いのはその理由で、「自律性の喪失」や「望む活動ができなくなる」などが理由というのはいかにも自己決定権を重視するアメリカらしい理由だとも感じますが、例えば高額な延命医療を受けられないといった経済的理由の場合は今までにも日本で言う尊厳死を行ってきたはずですし、9割の患者は保険に入っていたと言いますから最低限の医療を受ける程度の余力はあるという点で日本に似た背景とも言えそうですね。
しかし考えて見れば「家族にも好意的に受け入れられている」というのは当然で、逆に家族の反対が続いているのに幾ら自己決定権の尊重と言ってもこうした制度は利用すべきではないのでは、とも思いますが、やがて制度が浸透し利用者が増えてくるほどその辺りの突き詰めた議論が求められるケースも出てくるかも知れず、注目するべき今後の課題と言えそうです。

記事から見る限りでは一部の方々が懸念するように日本で言う安楽死を認めると周囲の圧力によって患者が死を選ばざるを得なくなり、望まぬ死を迎える者が急増するという状況には今のところなってはいないようで、特に薬は受け取ったものの使わない人が半数近くに上るというのは逆にいつでも死ねると言う安心感が生きる意志を保たせているということなのかも知れません。
もちろん日米の死生観の違いもある以上日本で直ちに同じような法律が出来るというものでもないはずで、例えば昨年末にも尊厳死法制化を目指して議員立法の動きがありましたが、この場合も先の記事のように積極的に薬等で死を早めることまでも求める意志は全くなく、あくまで延命処置中止による尊厳死を求めるものであるということで、現状この辺りが立法化を目指す場合の落としどころかなとは思います。
しかし毎年1万人以上も拳銃自殺がある(銃による自殺は飛び降り等他の方法より断然成功率が高いそうです)ほどいつでも死ねる環境にもあるアメリカでもこうした需要が一定数あるということを考える時、年間3万人の自殺者を抱える日本においてその潜在的需要はどれほどかと考えてしまいますが、仮に法律が成立したとしても本来的な意味に立ち返って医学的に末期という場合に限るという大原則だけは断固徹底すべきでしょうね。
安楽死などと言うと何やら死ぬのが楽しいことであるかのような語感がありますが、安楽死を求める人々はその前段階としてもはや生きてもいけなければ平穏な最後を得られる見込みもない人々なのだということを忘れてしまうと、単に楽で確実に死ぬ道を提供する安易な自殺幇助との境界線が曖昧になってしまうでしょう。

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コメント

>自身が自分で意思表示もできず、治る見込みもない状態に陥った場合、約9割の医師や看護師は、人工呼吸器の装着も心肺蘇生も胃ろうも望まない―

そない言うとる人に限っていざ本当に(自身もしくは近親者が)そういう状況になると………(以下自主規制)

投稿: 名無子 | 2013年4月16日 (火) 08時12分

ターミナルケア担当者が十分な苦痛緩和技術を持たないことも安楽死希望が多いことの理由なのでは?
癌死=七転八倒して苦しいなんて言われるのは日本じゃオピオイドの使用量もまだまだ少ないからでしょう。

投稿: 神田 | 2013年4月16日 (火) 09時10分

>癌死=七転八倒して苦しいなんて言われるのは日本じゃオピオイドの使用量もまだまだ少ないからでしょう。

そう言えばどこかの病院の薬剤部長が「医者は疼痛緩和を何も知らない奴ばっかり」って講演してた記憶が…

投稿: ぽん太 | 2013年4月16日 (火) 09時44分

骨転移で痛がってるのにオピオイドを使っているだけだとか、逆にそんなこと言っている状況でもないのに中毒が怖いとオピオイドを使い渋ったりとか、そういった部分は医療の側の責任として改善すべきでしょうね。
ところで「自律性の喪失や、望む活動ができなくなる」といった安楽死希望の理由をみて、一瞬うつの人がどんどん安楽死を希望する近未来の日本という妙な妄想を抱いてしまいました。
ただ純然たる精神疾患の末期症例も高齢者看取りと同様、尊厳死(消極的安楽死)の適応をどう考えていくべきかは議論が分かれそうなところですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月16日 (火) 10時53分

寝たきりで身動きできないけどじつは意識はしっかりしてるってことがあるんじゃないですか?
そんな人を死なせていいのかどうかは誰にも判断出来ないと思います

投稿: かもん | 2013年4月16日 (火) 13時53分

>そんな人を死なせていいのかどうかは誰にも判断出来ないと思います

そんな判断はする必要ありませんよ。
死なせていいものかどうか疑問のある方を死なせようというのではなく、本人も周囲も死なせて欲しいと思っているのに活かさざるをえないのをなんとかしようってことだから。
自己決定権を尊重する今の医療の原則からしたって、生き方だけでなく死に方も自分で決められないのはおかしいんじゃないですか?

投稿: 藪 | 2013年4月16日 (火) 16時00分

最初はそういうのは避けるのは当然ですね。
今の法案でも本人の意志確認が重要視されてたと思います。

投稿: ぽん太 | 2013年4月16日 (火) 18時53分

欧米諸国と違って安楽死・自然死が合法化されていない日本では、末期癌であろうが老衰であろうが遠縁遺族の気分次第で「看取り」は「医療が見殺し」にいつでもスイッチできる状況にある。民事でも刑事でも訴訟して裁判することは可能。
こんな状況下では終末期看取りなどいくらキャンペーンしても定着するはずがない。
末期癌で衰弱した患者へのオピオイドや麻薬の使用も、死亡したあとで「薬で殺されたんだ」「なんで病院へ紹介しなかったんだ」とか後出しジャンケンのごとく騒ぎ出すDQNやそれをアシストする弁護士などが今後増えるかもしれない。

投稿: 逃散前科者 | 2013年4月17日 (水) 10時24分

生涯生産性大幅マイナスのニートって別に要らなくね?

投稿: | 2013年4月17日 (水) 13時42分

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