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2013年4月23日 (火)

医療事故調、ついに臨時国会へ

長年議論が続いてきた医療事故調ですが、とうとう今年の臨時国会に提出されることになりそうです。

医療事故調関連法案、臨時国会に提出へ-モデル事業を念頭に制度設計(2013年4月18日CBニュース)

 厚生労働省は、医療事故調査制度を整備するための医療法改正案を、秋にも開かれる予定の臨時国会に提出する方針だ。医療事故調については、同省の「医療事故に係る仕組み等のあり方に関する検討部会」で議論されており、同省のモデル事業を引き継いでいる日本医療安全調査機構の仕組みをベースに、新たな制度を構築する考えだ。制度設計を急ぎ、制度の運営費や医療機関を財政支援する費用などは、来年度予算の概算要求に計上する。

 厚労省の検討部会は医療事故調について、院内事故調と院外の第三者機関の二層構造にすることで、ほぼ一致。同省は、医療法が医療機関の安全管理体制などを規定しているため、同法改正で制度全体の枠組みを整備することにした。院内での事故調査の手順や、第三者機関への届け出の方法については、同省のガイドラインで定める。医療法改正案にはこのほか、病床機能情報の報告制度も盛り込まれる。

 18日に開催された検討部会では、診療行為に関連した死亡事例はまず、医療機関が院内で原因究明し、遺族などがその調査結果に納得できない場合、院外に再調査を申請できる仕組みにすることを確認した。ただ、遺族などが医療機関に不信感を持ち、院内での調査を望まないケースでは直接、院外に調査を依頼できる仕組みも選択肢として残した。医療機関は、再発防止につなげるために、調査結果を第三者機関に届け出ることになる。

 また制度の運営費については、第三者機関に調査を申請する医療機関や遺族などに負担を求める意見が大勢だったが、遺族などに過度の負担を強いることにより、医療の質向上につなげる原因究明を抑制する恐れがあるため、国が一定程度は補助すべきとの意見が聞かれた。

 一方で、医療界代表の委員からは、院内事故調メンバーは医療専門職で構成すべきとの意見が根強い半面、法曹界代表は、透明性や公平性を確保するためにも医療専門職以外の第三者を一定割合で参加させるよう求めているほか、民間組織にする第三者機関の業務範囲について意見が統一されていないため、今後の議論はなお、曲折が予想される。【君塚靖】

しかしつい一ヶ月ほど前には一体いつまで代わり映えのしない議論が続くのだろうかと言った感じでしたが、とかく前回も書きましたように弁護側の意見通りにやっていたのではおそらく現場は大変なことになるという危機感を医療側の医院の多くが共有している中で、とりあえずの形ででも見切り発車させることに意義を見いだしたということなのでしょう。
まず最初の調査を誰が行うのかということに関しては医療機関の院内調査が先行されることに落ち着いたようですが、患者側の要望によっては最初から第三者への調査もありと、この辺りは議論が錯綜した部分だけに両論併記とも玉虫色とも言い難い妥協点を探してきた感じでしょうか。
記事を見ているだけでもじつは細部が全く煮詰まっていないらしいので、今後どうやって法律上の文言に落とし込んでいくのかと心配になってきますが、特に議論が分かれそうな部分として例えば費用負担の問題があります。

医療事故調:調査費の遺族負担検討 厚労省(2013年04月18日毎日新聞)

 医療事故の原因を究明し再発防止を図る「医療事故調査機関」の新設を目指す厚生労働省が、死亡事故の遺族が事故調に調査を依頼した際、一定の負担金を支払わせることを検討していることが18日、分かった。

 事故調査の制度設計を検討する有識者会議で報告された。厚労省は「調査依頼者が費用を一部負担するのは当然」と説明するが、有識者からは「負担金を払えず泣き寝入りする遺族も現れかねない」などと懸念する声が相次いだ。

 厚労省は18日の有識者会議で、死亡事例について医療機関がまず院内調査をし、結果を民間の第三者機関である医療事故調に報告▽調査結果に遺族が納得できない場合、事故調が調査▽事故調から警察への通知はしない−−などの案を示し、大筋了承された。

 厚労省は案の中で、事故調の調査費について、国の補助金や医療関係団体の負担金を充てるのに加え「遺族の申請に基づき調査を行うため、遺族にも一定の負担を求める」と提案。これに対し、出席した加藤良夫・南山大法科大学院教授は「医療の向上に貢献すると考え調査するのに、遺族に費用を負担させるのは制度の理念に合わない」と指摘。医療事故で5歳の長男を亡くした豊田郁子さん(45)は「負担金が出せないために遺族が依頼できず、問題が調査されずに素通りになる恐れがある」と訴えた。

 厚労省側は「低所得者にも配慮した金額にする」と説明し、5月下旬の次回会議で詳細な負担金の額を示して新制度の骨子案をまとめる方針。

 再発防止を目的とした事故調査機関では、航空や鉄道、船舶の事故を調査する国土交通省運輸安全委員会や、製品事故などを調べる消費者安全調査委員会がある。いずれも被害者や遺族に調査の負担金は発生しない。【桐野耕一】

もちろんお金がかかると言われれば調査依頼を躊躇するという意見ももっともなのですが、前回にも懸念されたように現行のまま制度化されてしまうと調査依頼が殺到して大変なことになりかねない中で、特に事件性もないような症例までも「せっかくだから調べてもらおう」と安易に考えていただかないためにも何らかの歯止めになる措置はあった方がいいだろうなとは思います。
見ていておもしろいのは同じように何でもかんでも依頼が殺到して大変なことになっている救急搬送などでは「重症者が躊躇するかも知れない」と搬送有料化に反対する声が医療側にも根強くあるのですが、今回の場合はそうした声は聞こえないように見えるということで、もちろん考え方は様々なのでしょうがやはり医療とは生きている人間を相手にした商売なのだなと妙なところで感心してしまいました。
実際のところは他の業界での事故調においてはこうした費用負担はないということですから、実際に法案になったころにはなんだかんだで削除されているだろうと思うのですが、鉄道事故調などと違ってこちらは件数がはるかに多い、そして弁護士側委員の言うように疑わしきは調査にという考え方でやられたのでは医療現場は破綻するだろうということだけは念押ししておくべきだと思います。
また医療側に連なる立場の全医連の方からは別な視点で注文がついているようなのですが、これがなかなか興味深い話ですので併せて紹介させていただきましょう。

医療・看護 事故調、医療者の第三者機関申請の仕組みを- 全医連が緊急声明(2013年4月22日CBニュース)

 厚生労働省の検討部会が、医療事故調査に関する第三者機関の創設を盛り込ん だ制度の骨子案に大筋で合意したことを受け、全国医師連盟(全医連、中島恒夫 代表理事)は20日、緊急声明を発表した。同案では、院内の委員会での調査を優 先させる方向性が示されているが、全医連側は、医療者個人が院内調査の結論に 不服がある場合、第三者機関に調査を申請できることなどを求めている。
 声明では、院内の事故調査委員会の報告書が発端となり、医師が逮捕されたも のの、最終的に無罪となった2001年の東京女子医科大での医療事故に触れ、院内 で利害関係の対立が生じた場合、公正な調査が行われる保証がないとして、医療 者が院内調査の結論に不服がある時は、第三者機関に事故調査を依頼できる道筋 をつくるべきだとした。
 また、医療事故が発生した際、事故調査が刑事捜査に優先することを法律上で 明記するよう求めるとともに、将来的に、刑法の業務上過失致死罪規定の廃止 や、医療事故を、告訴がなければ公訴が提起できない親告罪化することも要望した。
 さらに、医療者が事故の真相を供述しやすいように、事故調査で得られた資料 のうち、刑事裁判の証拠として使用できるのは、診療録(カルテ)など客観的な 資料のみとし、関係者の証言部分を対象外とするための法改正を行うべきだと主 張した。証拠として採用する余地を残すのであれば、調査対象者の黙秘権を認め なければならないとしている。
 この日、大阪市内で記者会見した中島代表理事は、「正しい調査報告をする上 では、現場でかかわった者の保護を最優先させなければならないと思う。その意 味で、院内事故調査委員会の結論が、果たして十分に機能するのか。すべての病 院でできるわけではないので、制度設計としては、まだ改善の余地がある」と述 べた。

■業務上過失致死傷罪の廃止を
 全医連はまた、同日付で業務上過失致死傷罪の廃止などを求める提言も発表し た。報告者の身分保証などを定めたWHO(世界保健機関)の指針に準拠した事故 調査機構の創設によって、医療事故の真相究明や再発防止が進歩するとして、そ の制度設計のため、業務上過失致死傷罪を廃止する必要性を示している。【敦賀 陽平】

女子医大の件につきましては以前にも取り上げられました通り、現場当事者の利害と組織としての利害とが対立する場合にその一方である組織側の結論だけが公なものとして流通される危険性が顕在化した事件でもあって、極端な話「あの事故は担当医個人が失敗したせいだ」と一人に責任を押しつけてしまえば病院側は賠償責任を免れ得るということも起こる可能性があるわけですね。
また医療に限らず業務上過失致死というものが果たして妥当な刑罰なのかという議論は以前からありますが、特にこうして医療事故調というものが整備される段階となってきますと、「事故を起こした個人の責任追及よりも免責を行ってでも真相追求と再発防止を優先する」という世界的な趨勢との兼ね合いがどうなるかで、日本のようにまず業過容疑で警察が介入するようでは事故調の意義も意味も失われかねません。
他業界との絡みもありますからいきなり刑法改正とはいかないと思いますが、例えば事故調ルートで真相究明が図られる場合には刑法に基づく捜査よりもまずそちらを優先するといった運用規定を設けておかなければ、関係者が当初から黙秘権を貫いて結局誰かを罰するためにしか機能しない名ばかり事故調になってしまうでしょう。
正直どのような制度になっても完璧ということはないでしょうし、まずはやってみなければ問題点も明らかにならないという考え方も確かにありますけれども、そもそも事故調とは何の為に設けるのかという基本を皆が共通理解として持っていないことには全く当初の理念とかけ離れたものになってしまうという危機感はありますね。

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コメント

なにか実際にはまるで話はまとまってないって気も…
必要な法律だけとりあえず先に整えましょうってことなんですかね?
真相究明や再発防止が目的なら弁護士よりシステム工学の専門家でも入れた方がいい気がするのですが。

投稿: ぽん太 | 2013年4月23日 (火) 09時11分

前回も書きましたが、医療の側とすれば気に入らない制度を公的に整備されるよりは最後までゴネ続け、その間に自分達で実効性ある制度を作り上げてしまうのが一番賢いと思います。
病院内調査の仕組みに関してはすでに大学などを中心にして整備が進んでいるところですが、それに対して患者側が望んだ時に依頼できる第三者機関に相当するものをどう用意するか。
大学などを中心に各地方に幾つか中核施設を用意して、直接利害関係のない他施設に調査させるという方法ならば実質第三者機関相当になります。
下手に天下り機関を新設するよりこうした既存システムに医療ADRなどを関与させてシステムを構築し、レポートは全国で共有化するといったやり方の方が話が早そうに思えますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月23日 (火) 11時19分

英国、カナダ、オーストラリアの英連邦国家には、医療過誤の疑いや患者のサイドからのクレームで調査が入った医師をサポートするための大規模な医師の互助組織medical defense oeganizaionがあります。
メディア対策、警察対策、裁判対策、医療安全調査機関対策と、サポートがあり、医師は助かっているみたいです。
外部には、その組織を通して対応。
日本もそういう互助組織づくりが急がれますかね。

医療安全の検証で報告書に対して、当事者の医師ないし代理人が申し開きできることを法的に認められていることも上記の英連邦のシステムだったかと。
そして医療安全の検証の際、証拠を警察が全部押収できず、情報を共有するシウテムでもあります。

今回の法案はそこまでできますか?

投稿: とある内科医 | 2013年4月23日 (火) 12時46分

これって医師と弁護士は加わってますけど、患者側の代表っていないんですね(いたらもっと大変だったんだろうけど)。
つまるところ患者が納得しなかったらまた後でもめるんじゃないかと思うんですが。

投稿: てんてん | 2013年4月23日 (火) 15時39分

どうしても納得しない方々はシステムに納得しないのではなく、望む結果が得られないことに納得しないのだと思われ
そういう方々が納得するシステムの構築を目指しても誰の利益にもならんでしょうな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年4月23日 (火) 17時06分

基本、医療安全の専門家と、上級の臨床医による検証なのでメンバー患者家族は不要です。
国際的にはですが・・・・

投稿: とある内科医 | 2013年4月23日 (火) 18時39分

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