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2013年4月10日 (水)

公費助成 単にお助けというだけに留まらない社会的な意味と意義

妊娠出産年齢の高齢化に伴い不妊医療が注目されるようになっているのは今さらですけれども、そもそも若年者であればさしたる苦労もなく妊娠も出産も出来ていたところを、あたら高齢化してから出産を目指すから大変なのだと言うのも一面の真理で、しばしば成功もおぼつかない不妊治療を手がける医師に言わせると「もう10年若ければ何と言うこともなかったのに…」と嘆息したくなる状況なのだと言います。
社会的に見れば若いうちはお金も余裕もなく妊娠出産どころではない時代なのでしょうが、しかしその余裕が出来た頃にはもはや生物学的に妊娠出産どころではなくなり、なおかつ成果も大きくは見込めない不妊治療に改めて高いお金と大きな労力をつぎ込むというのでは、治療を受ける側も提供する側も大変な非効率と言うしかないですよね。
その背景となっている若年者の社会的、経済的状況を改善することも一つの課題だとして、もう一点不妊治療を受ける上でそれが極めて高価であるがために躊躇あるいは断念せざるを得ないというケースも多く、以前にも金融庁が不妊治療に対して民間保険で補助を出来るように検討中というニュースを紹介したことがあります。
もちろん少子化対策が言われる時代ですから公費助成も当然用意されていて利用者も急増していると言いますけれども、これに対して先頃その対象者に一定の制限を加えようという話が出てきたということをまず紹介してみましょう。

不妊治療助成「39歳まで」有識者会議で検討へ(2013年4月9日読売新聞)

 不妊治療への公費助成について、厚生労働省は、対象年齢に上限を定めることを含めた制度改正の検討を始める。

 同省研究班(代表者=吉村泰典・慶大教授)が、40歳以上では医学的な有効性や安全性が低く、「公的助成に年齢制限を設ける場合、39歳以下とするのが望ましい」とする報告書を先月まとめたため。同省は産科医や患者らによる有識者会議を近く設け、助成のあり方について検討する。

 不妊治療は保険がきかず、体外受精などの高度治療には、採卵を含む場合1回30万~40万円程度かかる。助成事業は2004年に開始された。国と都道府県などが2分の1ずつ負担し、1回最大15万円が補助される

 04年度約1万8000件だった受給件数は、11年度は約11万3000件と6倍以上に急増した。1件15万円とすると11年度は約170億円かかった。

記事の書き方からすると利用者が急増して国や自治体の財政支出も増えている、それに対して何らかの制限をということで年齢を絞るという話が出てきたかのように読める内容ですし、実際に当事者意識として際限ない支出の増大にある程度掣肘をという考えもあったのでしょうけれども、しかし医学的に考えるとこうした制限はまあ妥当なところかなと思いますね。
昨今では著名人を中心に高齢出産を報じるニュースが相次いでいて、何か世間では不妊治療というものは素晴らしい夢の技術だと錯覚されているようなところもありますけれども、普通であれば起こりえない妊娠が成立しているからこそニュースになると考えておくべきなのであって、年齢が進むにつれ妊娠可能性が激減するばかりでなく様々な合併症リスクが急増することは幾ら強調してもし過ぎることはないと思います。
もちろんようやく出産出来る環境が整っていざ!と決意を固めた女性に対して「いや、あなたはもう無理な年齢です」と告知されることは大変な重荷であることは理解できますが、同じ事は告知を行う側の医者にとっても言えることであって、いくら生物学的にそれは無理だろうと思っても必死に不妊治療を頑張っている相手に向かって「それは賽の河原で石を積むような無駄な行為ですよ」とはなかなか言えませんよね。
そうした現状ではある程度失敗が続けば高い経済的負担に耐えかねてしぶしぶあきらめるというケースが多いのでしょうが、無制限に続く公費助成によって生物学的にはすでに不可能なことをさらに長く頑張ってしまうということになれば、これは考えようによってはより残酷なことだとも言えるのではないでしょうか?

もちろんなんでもかんでも年齢で切ればよいというものではなく、例えば将来的に医療技術が進歩し妊娠可能年齢が劇的に進歩してきたと言うことであればまた助成の範囲も見直せば済む話ですし、極端な少子高齢化が進行して多額の公費助成を行って無理やりにでも生んでもらうことのメリットが出てくるということであれば確率的に低くリスクもある行為にも補助を行う意味が出てくるかも知れないですよね。
結局のところ公費で補助するということは単に困っている人がいるから、かわいそうだからというだけで決まるものではなく、それが社会的にどんな意味があるのかということも考え合わせながら対象を設定しておくべきだと言うことで、極端な例を挙げれば身よりもない寝たきり痴呆老人に高価な先進医療を施すために公費助成をするなどと言う馬鹿げたことはいくら「命は地球よりも重」かろうが考慮すべきではないということでしょう。
その意味で少しばかり気になったのが、先日以来相次いで死者が出たと報道され大騒ぎになってきている鳥インフルエンザ感染に関連して、現地でこんな議論が行われているというニュースです。

鳥インフル:感染は自己責任? 中国、医療費巡り議論(2013年4月8日毎日新聞)

 【上海・隅俊之】鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染拡大を受け、中国で患者の治療費を有料とするか無料にすべきかが議論になっている。03年の新型肺炎「SARS」ではヒトからヒトに感染したため無料だったが、今回は「自己責任で気をつければ感染を防げる」という見方もあるためだ。

 中国メディアによると、南京市で重体になっている45歳女性は、集中治療室での費用が1日1万元(約16万円)で、既に10万元に達した。家族は貯蓄を崩し、自宅も売り払おうとした。だが、何者かにインターネット上で住所を暴露され、売れる見通しはない

 ニワトリの解体業をしていた女性の報酬は1羽1元(約16円)で、1日30羽以上をさばいていた。手はトリの爪に引っかかれ、内臓も洗い出す作業をしていた。ただ、家族は「健康に問題もなく、感染は予想もできなかった」と訴える。安徽省の35歳女性も重体で、夫は「貯蓄がない」として治療費免除を求めている

 中国メディアによると、中山大学の林江教授は「ヒトからヒトに感染するなら、公衆に重大な影響を与えるので政府が治療費を払う道理がある。今は散発的な感染で個人の衛生の問題では」と指摘する。一方で、呼吸器疾患の専門家、鐘南山氏は「さらなる拡大を防ぐためにも無料か減免措置をとるべきだ」と主張。中国版ツイッター「微博」では「誰が患者を助けるべきか」と議論になっている。

 中国では社会保障制度が脆弱(ぜいじゃく)なことに加え、「病院は高い」という意識が強く、風邪をひいても市販薬で治そうとする人が多い。今回も病院に行くのが遅れて重体になったケースが目立つ。微博上では「世界で初めて感染が確認されたのに、政府が面倒を見ないのはおかしい」などと医療費免除を求める意見が大勢を占めている

 中国国家衛生・計画出産委員会は3日、費用が理由で治療が遅れることがないよう地方政府に要請。広東省政府は感染者が出た場合に備え、医療保険に入れない低所得者のための基金の設立を決めた。中国当局は「48時間以内の治療が有効だ」と早めの受診を呼びかけているが、医療費を巡る問題が感染拡大防止の足かせになる可能性もある。

時期的にちょうどインフルエンザ流行の終息期でもあるのと、大流行の原因となる人-人感染がまだはっきり確認されていない(当然ながらいずれそうなるという声は複数ありますが)ことから養鶏業者など特定の範囲で感染が収まっているのは幸いですが、ともかく現段階で最優先すべきは社会的にこれ以上感染が拡大することのないよう厳重な対策をすることであるはずですよね。
その意味では何か調子が悪いぞ?と感じている患者が医療費が高いからと放置したままでいる、さらに一歩進んで感染が明らかになれば社会的に抹殺されるから隠蔽しようとするといったことが一番怖いはずなのに、未だ医療費負担を巡って議論している段階だと言うのでは早晩国外に拡散しても仕方がないのでは、と大いに不安を抱かせます。
日本でも宮崎で口蹄疫パニックが起こりかけた際には本来正しい情報を周知徹底させるべきマスコミが見当外れの批判と感染拡大に自主的協力(苦笑)をするばかりであったことが注目されましたが、あの場合にもとにかく不正出荷が起こらないように高値で牛を買い取るという対策が奏功したからこそ感染が終息したという側面もあって、公費助成によってそれ以上のメリットが社会に及ぶのであればそれを迅速に行うのにためらうべきではないということですよね。
何より失礼ながら中国という未だ医療においては発展途上の側面が色濃い国ですらこうまで騒ぎになるのですから、患者が一人亡くなっただけでも医療ミスだ!訴えてやる!と何かと紛争化しやすいほど医療への期待値が高まっている日本において感染が広がろうものなら国を挙げての大騒動になることは必至で、為政者の方々にも今からくれぐれもきちんとした社会的対策を用意しておいていただきたいものだと思います。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

素朴な疑問だけど
若い人は勝手に妊娠するけど年齢が高くなると妊娠しにくくなるんでしょ?
てことは年齢高い人ほど治療で手助けする必要があるんじゃないの??

投稿: 健太 | 2013年4月10日 (水) 08時41分

女性は勝手に妊娠するけど、男性は自然には妊娠できないよね。
てことは男性の人工妊娠技術の研究・確立こそ重要で、治療で手助けする必要があるんじゃないかな。

投稿: JSJ | 2013年4月10日 (水) 09時30分

>年齢高い人ほど治療で手助けする必要があるんじゃないの??

そうはいっても程度問題でしょう。
還暦過ぎた老嬢に治療費を補助する気にはなれませんよね?
医学的には40歳あたりが妊娠の限界だということです。
もちろんそれを超えても治療を受ける自由はありますよ。

投稿: ぽん太 | 2013年4月10日 (水) 09時43分

男の不妊は年齢制限ないから生涯補助するべきなのかな

投稿: adams | 2013年4月10日 (水) 11時32分

医学的には何歳でも妊娠させられるんでしょうが、社会的に見ると妊娠出産はカップルでするものですからね。
本人が高齢でも元気いっぱいでも奥さんも妊娠可能年齢のうちでないと困る事になるでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月10日 (水) 12時40分

>本人が高齢でも元気いっぱいでも奥さんも妊娠可能年齢のうちでないと困る事になるでしょう。

そういえばこのところ年の差婚が目立つような気が

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年4月10日 (水) 14時16分

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