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2013年4月 5日 (金)

産業競争力向上へ医療特区推進の声あがる

本日の本題に入る前に、先日出ていましたこういうニュースを紹介しておきましょう。

日本版NIH…医療研究の司令塔、創設を検討(2013年4月3日読売新聞)

 政府は2日、最先端医療の技術革新を進める司令塔として「日本版NIH」を創設する方向で本格的な検討に入った。

 政府の医療関係の研究開発予算を一元的に取り扱う組織で、医療関係の企業と協力し、研究開発成果を早期の新薬開発や医療機器の実用化などにつなげる。政府は、経済再生に向けて6月にまとめる新成長戦略に創設方針を明記し、関連法を整備したうえで、2014年度中の設置を目指す。

 医療分野に関しては、政府内で基礎研究を文部科学省、臨床応用を厚生労働省、産業育成を経済産業省が担っているが、連携不足との指摘もある。政府は医療関係の研究開発予算を一元的に扱うことで、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った再生医療の進歩や、医療機器開発の国際競争力を強化することにつながると判断した。革新的ながん治療薬や小児疾患の医薬品、医療機器の開発を重点的に支援するなど、国家戦略として定めた目標を達成しやすい環境を整えることもできるとみている。

一般論ですが症例数蓄積の必要性から他施設共同研究が当たり前になっている臨床研究と違って、特に基礎研究などに言えることですけれども一大学、一講座単位の小さな学閥内で細切れに研究が行われている場合が多々あるというのは効率の上でも無駄が多いとは思いますね。
昨今はネットなど通信手段も発達していて遠隔地だろうがほぼリアルタイムで情報共有が出来るのですから、きちんとした司令塔役が仲立ちして各研究室の仕事を有機的に統合し、場合によっては迅速な産業化への仲立ちをしていくということになれば、少なくとも形の上ではより研究がはかどる体制が整えられたということになります。
もちろん多くの大学において研究とは名ばかりで教員としての雇用枠を維持する役目しか果たしていない研究室などもあることはこれまた問題ですが、とかく医師たる者常に研究を念頭に仕事をこなせと言われがちな業界である以上、その実を挙げるのに効果的な体制を工夫することは無駄な労力を削減しQOML向上を目指す上でも有効だろうと言うものでしょう。
もちろん実際には司令塔のはずが単なる新たな天下り先に終わってしまうということになったのでは意味がありませんから、これまた名目だけでなくきちんと実を得られるよう現場が監視するようなことも求められていくのかも知れませんね。

それはともかく、iPS細胞絡みでにわかに各方面が医療技術の産業的応用にやる気を見せている感がありますが、先日も少しばかりお伝えしましたように日本の場合もともと何事も規制規制でやっている国であることに加えて、長年の医療バッシングの成果なのか人体に直接影響を及ぼす医療分野では特に規制が強力で、せっかく素晴らしいアイデアが生まれてもそれが臨床応用されるのはまず外国から、などという笑えない状況がありますね。
皆保険制度という制度自体が最低限これだけはという医療を万人に等しく保証する性質を持っている以上、これを堅持し混合診療を認めない立場の日本ではどうしても最先端の医療技術導入にはやや後れをとってしまうのは仕方ないのかも知れませんが、今後は単に医療面のみならず経済的産業的側面からも医療技術開発の迅速化と大々的産業化が求められるようになるはずです。
そのために必要な規制緩和なり特例措置なりを何であれ整えていく必要があることは言うまでもないことで、もちろん国民性として何かあったらではなく何かがあるという前提で保険等の救済策を用意しておくべきだとは言え、技術立国日本としてはまずは技術に対する否定ではなく肯定から入るという大原則を徹底していただきたいと思いますね。

さて、世を挙げて不景気だ、マイナス成長だと大騒ぎもし意気消沈していた時代にあって、放っておけばどんどん急成長していく素晴らしい産業として医療・介護分野がありますけれども、長年に渡って続いた不景気の時代にあっても医療産業をもっと大きく育てよう、国民雇用をこの業界で確保しようという機運はなかなか盛り上がっては来ませんでした。
皆保険制度を無条件の前提にしている以上産業としての医療の発展は国庫支出増大につながるという忌避感もその理由の一つでしょうし、3Kだ、いや4Kだと言われるほど逃散相次ぐブラック業界で就労者に対する魅力のアピールが乏しいという副次的な理由もあったのでしょうが、やはり医療を一大産業として自由に発展させていくには諸々の規制が多すぎるということも大きな理由だと思います。
日本では医療の営利的な経営が(少なくとも建前上は)認められていないことからも、あまりイケイケドンドンで拡大基調の経営をすることはやりにくいのも確かなのでしょうが、TPPによって経営的に鍛えられた海外資本による病院経営参入も大いにあり得ると噂される時代にあって、狭い島国内でのローカルルールにある意味守られた運営を続けてきた日本の病院は実はかなり危機的状況にあるとも言えそうですよね。
もちろん日本全国同一料金同一内容の医療を(これも少なくとも建前上は)提供することになっている皆保険制度一本槍では創意工夫する自由度もさしてないじゃないかという意見もあるでしょうが、ちょうど反TPP派が根強いと言われる農業、医療分野で先日こんな話が出ていたことが注目されます。

農業・医療特区、首相主導で 競争力会議で民間議員が提案(2013年4月3日日本経済新聞)

 政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は3日、企業の国内投資を促す対応策を巡る議論を始めた。民間議員は地域を限定して規制や税制を優遇する特区を首相主導で推し進め、農業や医療の活性化を提案した。政府は方向性を理解しつつも、「税制は代替財源を確保しないと難しい」と一部に慎重論が出た。

 今回は少人数の民間議員と関係省庁が特定の課題を議論するテーマ別会合で、「立地競争力の強化」を議題にした。近く開く本会議で関係省庁も改革案を持ち寄り、政府が6月にまとめる成長戦略に反映する。

 竹中平蔵慶大教授が他の民間議員の意見も取り入れ「アベノミクス戦略特区」に関する提言をまとめた。首相が議長を務める特区諮問会議を設けるとともに、特区担当大臣が実務を担う仕組みをつくるとしている。

 具体的には農産物の輸出、医療機関での診断や治療で観光客を呼び込む医療ツーリズム、外国企業の拠点誘致について、税制、金融、規制の見直しなどで後押しする。特区担当相と意欲のある自治体の首長らが議論する場を設け、それぞれの特区の内容を決める。当面は現在の特区制度を活用するが、将来の法改正も視野に入れる

 民間議員が提言をまとめた背景には現行制度への危機感がある。日本総合研究所の高坂晶子主任研究員は「担当する省庁が規制緩和に消極的なうえ、縦割りで対応するため使う側の手続きが非常に煩雑。期待された効果が上がっていない」と指摘する。

不肖管理人はかねて被災地を始めとして各地で医療特区という制度をもっと大々的、積極的に活用していくべきだと言う持論を持っていますけれども、その理由の一つとして農業はもちろん医療というものも地域性というものに非常に左右されやすく、そもそも全国画一なやり方ばかりを強制的に押し通すことが必ずしも最善の方法ではないはずだという前提があります。
例えば先の震災によっても改めて医療過疎地域として注目されることになった東北地方などは広大な県域で冬などは交通もしばしば分断されやすい、そして人口は高齢化率が高いが人口密度は低く医師は少ないという特徴がありますけれども、これを医師も人口も多く皆が狭い地域に固まって生活している首都圏などと同じ医療でやっていけると考えるのはどう考えても無理がありますよね。
日本の医療はあるべき姿に向けて診療報酬に格差付けすることによって政策的に誘導してきたという歴史があるのですから、本来なら各地でそれぞれの実情に応じたきめ細かな誘導政策が必要であったはずのところを、それでも全国画一な皆保険制度をどうしても堅持したいと考えるのであればどうしたって例外、例外で押し通すしかないはずですし、特区というシステムはそのために十分使えるものではないかと思います。

例えば被災地のような医療供給体制が崩壊しかけている状況で何とかやりくりして安定化しようとしている地域に、長年安定的定常期にあることを前提に策定されたルールをそのまま押しつけるのは無理も無駄も大きすぎるというもので、それに対して「24時間必ずサービスが提供出来る担保がない」などと平和ボケしたツッコミをするのは潰すことが目的と言うのでもなければ頭が悪すぎるだろうということです。
お隣台湾などは各種の事情からFTAなどへの加入交渉は今ひとつ順調に進んでいるとは言えませんけれども、すでにそれを見越して同じく医療や農業分野で特区を設け規制緩和を図っているところだと言い、当然ながら限定的地域内での運用で問題点が洗い出されれば対策も出来るし、非常によい効果が認められたことであれば改めて全国的に導入も出来るというものですよね。
とかく規制緩和となれば副作用を心配してか慎重すぎるほど慎重に歩み出すのが今の日本の行政ですが、それなら何かあろうが限定的な影響で済む範囲でまずはお試ししてみるというのは当たり前の考え方ですし、特に医療のように何かと理屈通りにはいかない領域でこそトライアンドエラーの機会を少しでも増やしていくことが望まれるはずです。
混合診療解禁にしろ応召義務撤廃にしろあれだけ議論百出し賛否両論分かれるくらいですから結局極端に一方的なメリット、デメリットがあると言うものでもないでしょうし、それなら実地臨床で検証してしまった方がよほど話が早いというものでは?と思うのですが、そうなりますと一部の方々の望んでいなかった意外な?事実が明らかになってしまうのかも知れませんね。

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コメント

混合診療特区をつくってみたらどうなるの?

投稿: 亀 | 2013年4月 5日 (金) 08時52分

これから医師はどうなってくんですかね?
TPPや医師過剰など心配です。
特に医師過剰は本当に起きるとマズイですよね。
特区に関する事だと京阪神と神奈川県が医療特区には乗り気みたいですね。
京阪神は阪大と京大があり製薬企業も多く首都圏より医療に関しては
上だと思いますがいかがでしょうか?

投稿: anonymous | 2013年4月 5日 (金) 09時17分

>医師過剰など

そこはほら、麻薬を含むありとあらゆるドラッグを処方出来、各種診断書を発行出来、別に病気じゃなくても人体にメスを入れる事が出来る便利な紙切れをだなあ…w
一足先に困窮している量産型弁護士とタッグを組めば鬼に金棒ww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年4月 5日 (金) 09時31分

今は充足と不足が混在している偏在の状態でまだ過剰感はないですね。
だからこれからどこかで過剰感が出てきたとき不足したところにまわるかどうかでしょう。

投稿: ぽん太 | 2013年4月 5日 (金) 09時49分

医師不足の田舎でも成立する特区ってどんなのが考えられますかね?
いまいちばん必要なのはそういうのでしょ?

投稿: tama | 2013年4月 5日 (金) 10時31分

>京阪神は首都圏より医療に関しては上
現在の医薬品シェアの大半を占める大手外資の製薬企業は関西から撤退しています。
それに首都圏の数多い各大学は東大か慶大出身で何年も前から固められていますので、京阪神より劣るはずがないでしょう。

>特に医師過剰は本当に起こるとマズイ
いったい何年後の話をているのでしょうか?
今後50年は超高齢化社会で半数前後が高齢者が占めることを考えれば、彼らがいなくなって人口が半減でもしないかぎり
医師過剰など起こりえない。今でも首都圏はかなりの医師不足であり、今後高齢医師が衰退・引退していく状況を考えれば
今後10〜20年で高齢者の病人が激増して、全国的に絶望的・パニック的な医師不足に至ることはほぼ間違いないですね。

投稿: 逃散前科者 | 2013年4月 5日 (金) 10時37分

>医師不足の田舎でも成立する特区ってどんなのが考えられますかね?

医師でなければならないとされている業務を他に任せられるようにするだとか、診療報酬を割り増しして少ない患者数でも採算がとれるようにするだとか、制度的にはまずそういうところからですかね。
薄利多売でないと成立しないようになっている皆保険制度で、患者のいない田舎は儲からないということも大いに問題ですから。

ところで現場感覚として医師過剰は当分来ないものと思いますが、ある程度不足感が解消してくると現行の制度では医師間の競争が発生して医療費増加が顕著になってくると思います。
その結果いずれまた政策的に抑制策が講じられるようになるでしょうが、おいしい逃散先が売り切れている状況で僻地診療も一つの逃散先に上がる可能性が出るでしょうか。
IC近くにクリニックを公設して高速通勤ありなら街中で渋滞にさらされるよりストレスは少なそうにも思いますが。

投稿: 管理人nobu | 2013年4月 5日 (金) 10時49分

医師過剰は当分先のようで何よりです。
まだ学生なのであまり実感は無いですが現場は大変なんでしょうね。
過労死が相次いだりして?
欧米諸国に比べ給与が低いのにさらに給与を削ろうとしてるので本当腹が立ちます。
>京阪神より劣るはずがないでしょう
医師の充足率も高いし基礎研究に関しては関西の方が上だと思います。
確かに東大の研究力は凄いですが慶應に関しては?です。
それに医療特区にも乗り気ですし首都圏より前途は有りそうな気がします。
(自分は関東出身で特に関西を持ち上げようとする意図はありません)

投稿: anonymous | 2013年4月 5日 (金) 12時04分

学生さんなら言っておくが、おいしいドロップアウト先は確実に売り切れていってるよ
医師過剰にはほど遠いが楽して儲けるつもりなら早めに決断しないと

投稿: 高田 | 2013年4月 5日 (金) 12時38分

仕事が楽で給料が高いということでよろしければまだまだたくさんありますが何故か人気がないのですなあ(嘆息)

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年4月 5日 (金) 12時53分

けっきょく医者ってぜいたくでわがままばっかりってことだね

投稿: またたび大好き | 2013年4月 5日 (金) 14時13分

一般的に「医療が上」というと、それは実地臨床のことを指します。実地臨床に関しては首都圏の方が、関西に比べて学会・研究会など比較にならないほど活発であり、レベルが高いと感じます。
「基礎医学」の成果が臨床に反映されるのは何十年後のことであり、数ある障壁をクリアして臨床応用できるかどうかは不確定です。
関西の一部の大学の一部の研究室の一部の偉大なDrが世界的成果を上げている事実は否定はしませんが、それだけをもって「医療は関西が上」というのは一般人に大きな誤解を招く発言ではないかと感じます。
また「基礎医学」はバックアップ体制の整った欧米のほうが盛んに行われていて、日本国内の研究室では予算や環境のハンディが大きくて、有意な成果をあげにくいというのが実情だと思います。それは地域ではなく国家レベルの問題だと思います。
個人的には都会〜田舎〜都会と逃散(ドロップアウト)を繰り返してきました。逃散に関しては超ベテランです。

投稿: 逃散前科者 | 2013年4月 5日 (金) 17時48分

>医師の充足率も高いし基礎研究に関しては関西の方が上だと思います。

臨床も基礎も関西が上、というのは医師全体に共通していることで、人口の多い首都圏が最先端の臨床で関西に症例数でも負けてしまっている可能性は否定はできません。
もちろん、基礎でも負けており、よく引き合いに出されるTHESやQSの医学研究/臨床の世界ランキングでも首都圏は東大だけ、関西は2~3校入っていて、そういうデータでも関西の優位性は指摘できるかもしれません。
自分も首都圏生まれの首都圏育ちです。
医学生時代は優秀な医学部が関西にあるということくらいの認識でしたが、臨床医となってみて関西の強さを再認識しました。
ちなみに都内の国立大学病院勤務です。

投稿: とある内科医 | 2013年4月 5日 (金) 18時15分

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