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2013年3月18日 (月)

政府がいよいよTPP交渉参加を表明

先週末に発表され大きく話題になっているのが、安倍総理によるTPP交渉参加の表明です。
経済など各方面に影響無しとしない話ですが、本日はとりあえず医療関係に焦点を当ててみることにしましょう。

安倍首相がTPP交渉参加を正式発表(2013年3月15日産経新聞)

 安倍晋三首相は15日夕、官邸で記者会見し、高いレベルの貿易自由化を目指す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明した。

 TPP交渉にはこれまでに米国、カナダ、豪州、ペルー、マレーシアなど11カ国が参加している。

 これにより、わが国はアジア太平洋地域の自由貿易圏に加わる。しかしコメを始めとする農産品などでは関税撤廃の例外扱いを狙っており、参加各国との交渉が当面の課題となる。

 日本はこれまでに13の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を結んでいるが、大部分は2国間協定ばかり。通商目的を主とする広域経済協定は事実上、今回が初めてとなる。

 政府の試算によると、TPPに参加した場合の国内への影響は、農業分野の生産額が3兆円減少する一方で、消費や工業製品の輸出は増加し、全体では実質国内総生産(GDP)を3兆2千億円(0・66%)押し上げる効果があるという。

日本医師会 国益に反すれば撤退を(2013年3月15日NHK)

TPPへの参加について、日本医師会からは、医療に格差を生じさせ、国民皆保険制度の崩壊につながるおそれがあるとともに、民間企業の進出や医薬品の価格が上がる懸念が出るおそれがあると懸念を示しています。

日本医師会の横倉会長は、東京都内であいさつし、「日本医師会は、かねてよりTPPへの参加により、国民皆保険が毀損されるのではないかと懸念を表明してきた。世界に誇る国民皆保険を守るためには、『混合診療』を解禁しないことや、営利企業を医療機関の経営に参入させないことなどが必要だ。安倍総理大臣に対しては、国益に反すると判断した場合には、速やかに交渉から撤退するよう求めていきたい」と述べました。

首相、TPP交渉「離脱かどうかを言うのは国益に反する」(2013年3月15日日本経済新聞)

 安倍晋三首相は15日夕の記者会見で、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に際し、重要品目などの「聖域」が守れない場合の対応について「離脱するかどうかを言うのは国益に反して適切でない」との認識を示した。そのうえで「国益を踏まえて最善の道を実現する。国益を中心に据えて交渉に臨む」との考えを強調した。

このTPP問題に関しては早期の参加を望む声、あるいは断固反対する声と立場によってそれに対する姿勢は様々ですが、当然ながらそれぞれの業界事情によって損になる部分、得になる部分が入り乱れていて一概にどうこうは言えず、そもそも何を以て国益と呼ぶのかという定義すらないまま話が進められているのもおかしな話ですね。
安倍総理の今回の議論入り表明に対しても酷いことになったと大騒ぎしている人もいますが、もしかしたらこうなるかも知れないレベルの憶測ばかりで全く具体性がないというのは、何しろ今まで議論に加わるかどうかばかりに焦点が当てられていて肝腎の議論する中身をどうするかが何ら話が進んでいなかったのですから識者も具体的コメントもしようがなく、これでは賛成するにも反対するにも何とも言いようがないと言うしかありません。
とりあえず言えることはTPPに関しては年内にまとめるということがほぼ確定とされていて交渉はあと3回残されていると言いますが、日本が交渉に参加して良いと認められるまでに90日かかると言いますから下手をすると最終の9月の交渉にしか参加できない可能性もあり、そうなりますと今さら最後に遅れて来た国がせっかくまとまった議論にどこまで口を出せるだろうかという疑問が残ります。
一応は国として最終的に参加はせざるを得ないだろうという見通しは早くからあったことから、元々は民主党政権の末期に泥をかぶって参加表明をしておくという話もあったとかなかったとか言うのですが、ここまで遅れに遅れたことが交渉の場で不利に働くとなればこれは明らかに国益に反してしまったと言うしかありませんね。

ところで交渉参加が遅れたことで日本側が口を出せる部分が限定されるのはともかく、ひとたび交渉に参加すれば不都合な内容だからと言って交渉打ち切りの権利もなくなるのではという懸念があるのは、一部で報道されているように初期参加国に都合がよく後発参加国に不具合な「秘密条項」があるからだという話があります。
これは米国など先発九カ国が「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」といった不利な条件を交渉参加の条件として後発参加国にのませていた、しかもこれらを極秘扱いして公表していなかったと言う話ですが、事実であれば当然日本もこの条件をそうと公表しないまま飲んだからこそ参加を認められたということになりますね。
後から後から参加する国がそれぞれ好き勝手な要求を追加していったのではまとまるものもまとまらないと言うのは確かでしょうが、こういうことになっているのなら日医などが言うように不利な状況になったら撤退ということも不可能であり、日本は一方的に諸外国の言い分を飲むしかなくなるのではないかという懸念の声には相応に根拠があります。
ただこれに関しては実際に行えるかどうかは別として、仮に国際交渉の場で決まったことでも国内に持ち帰って議会が承認しなければ発効しないのが国際条約というものですから、本当にどうしても受け入れられないことまで受け入れることを義務づけるものではないという言い方も出来るでしょう(もっともそうなれば国際的信用の失墜から大いに国益を損なうことになるでしょうが)。

TPPとは言っても経済規模などから最終的には日米間でどう話がまとまるかが非常に重要であることは言うまでもありませんが、アメリカでは特に車と保険とに当てているといい、前者に関しては仮にアメリカの要求が100%通ったとしても対米輸出は現地生産主体になってきていることでもあり、少なくとも現状以上に悪くなるようなものではなさそうです。
となると保険分野が鍵になるはずで、特に日本での皆保険制度に対して民間保険が参入しアメリカのような状況になっていくのではないかという懸念を日医などが強調しているところですが、もともとTPP交渉に参加しているカナダやオーストラリアは皆保険制度があり、アメリカにしてもオバマ大統領が皆保険制度を創出しようと努力しているところなのは周知の通りですよね。
要するに参加主要国が皆保険を推進しているのですから別に日本だけ皆保険が破綻するというよりも、日医などが反対する混合診療などが認められるかどうかだとか、民間保険の参入により公的保険の給付が制限されるかどうかがポイントになりそうで、アメリカ側もこうした日本の懸念に配慮してか「混合診療を含めて公的保険制度外の診療を認めるよう求めるものではない」と表明はしています。
ただしご存知のようにTPPには投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項というものもあり、企業など思いがけぬ搦め手から後日制度が浸食されていく懸念はあり、また何より国としては増え続ける医療費公的支出に制限を加えたいところへ持ってきて、一部を民間保険が受け持ってくれるということになれば高価な最先端医療などの保険収載への意欲も鈍ろうというものですよね。

国民の間でも議論は分かれていて、高い保険料を毎月取られるくらいなら受診に制限がかかっても安価な民間保険を選ぶだとか、患者の利益になる混合診療断固反対とは納得出来ないといった声もあって、確かに今の時代にあまりに画一的にただ一つのやり方しか絶対に認めないという皆保険制度に多くの人々が不満を抱えているのも事実です。
ただ民間との競争ということになると日本の皆保険制度の保険料と給付水準は非常に優れたバランスを誇っているといい、結局は営利目的の民間保険よりも公費補助もある皆保険制度の方が冷静に考えれば得なのですから、いたずらに市場開放=日本型システムの崩壊と恐れおののくこともないはずです。
ちょうど先日は政府の方からこれからは諸外国にも「世界一」の日本の皆保険制度を売り込んでいくという話が出ていましたが、TPP参加国の中でも特に大きな経済力を持つ日本が参加することでむしろ他国の方が大きな影響を受ける可能性の方が高いはずで、こちらから攻めていくような算段もせずに最初から守ることばかり考えて一方的に日本ばかりが損をするから大変だといった考え方もどうなのかなと思いますね。

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コメント

農協がTPPに反対する本当の理由-農業人口250万人なのに異様な政治力-

http://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20130308_1754.html

> 医師会が心配する公的医療保険のようなサービスは、そもそもWTOサービス協定の対象から外れている。WTO協定をベースとした自由貿易協定で、公的医療保険制度が取り上げられたことはない。米国が関心事項を一方的に要求した日米協議と、WTOなどの国際法を前提としたTPP協定は別ものなのだ。カトラー米通商代表補が、混合診療や営利企業の医療参入を含め、TPPで公的医療保険は取り上げないと述べたのは当然のことなのだ。

 TPP交渉の現状をみると、国営企業や薬価などアメリカが重要視している分野で、各国の反対に遭い、アメリカは孤立している。2国間ではアメリカにやられても、仲間を見つけられる多国間の交渉では、アメリカに対抗できる。ベトナムのような途上国でさえ、アメリカと対等に渡り合っている。強いアメリカに弱い日本は食いつぶされるという主張を多くの人が信じた。

投稿: まる | 2013年3月18日 (月) 08時59分

農家もべつに皆がJAと一致団結ってわけじゃないんで。て言うかじっさいのとこやる気を削ぐJAのやり方嫌ってる農家多いですよ。
安倍さんに抗議してJAは参院選で自民支持とりやめらしいけど、どれだけの農家が追従するかわからないです。世論調査でもTPP賛成が圧倒的に多いでしょ。

投稿: とおるちゃん | 2013年3月18日 (月) 09時33分

日医の懸念にも一理はあるとはいえ混合診療反対だからTPPにも反対と受け止められているのは戦略的失敗だったのでは?混合診療への反対自体が必ずしも国民の理解が得られていないのですからね。
ただTPP反対派がごく少数という現状をみれば交渉に参加もしないという選択枝はないでしょうね。むしろどうせ参加するなら遅すぎたことは失点でした。

投稿: ぽん太 | 2013年3月18日 (月) 10時40分

保険会社や製薬など日本でも話題になっている領域は他国でも問題視されていて、多国籍で協調していけば必ずしもアメリカばかりの思惑通りに進むということでもないと思います。
実際にアメリカの方でも自動車を始め日本が参加すれば我々が損をすると、同じように反対騒ぎにはなっているわけですからね。
それよりも現状では政府も言っているように、日米が単に外交のみならず経済面でもより深く結束していくのだというメッセージ性も重視されるべきでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月18日 (月) 12時14分

いいじゃんもうTPPまっしぐらで
何かなくなってから困るのしょせん愚民だけなんだし

投稿: | 2013年3月18日 (月) 12時37分

日米の医師給与と労働量を比較してみればアメリカ型の医療を積極導入すべきという結論になるなw

投稿: aaa | 2013年3月18日 (月) 17時04分

て言うか総理も農業は守るというだけで医療のことはあまり気にしてないような???

投稿: てんてん | 2013年3月18日 (月) 19時50分

総理個人は医療のことはほとんど脳裏にないと思われ
ただ厚労省の官僚がどこまで抵抗するかが一番の注目かと
個人的には医療制度が激変したとしてデメリットばかりでなくメリットもあると思うのだが

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年3月18日 (月) 21時20分

>とおるちゃん様

後学までに農協のどんなところが不人気なんですか?

投稿: kanta | 2013年3月18日 (月) 21時40分

>総理個人は医療のことはほとんど脳裏にないと思われ

潰瘍性大腸炎ってアメリカではもしかして全額自費?

>後学までに農協のどんなところが不人気なんですか?

事務が威張ってて実動部隊から搾取しまくって高給かっさらう医師にとっての公立病院みたいなもんってイメージがががw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年3月19日 (火) 09時31分

どうもです。たとえば一生懸命がんばっていい米作ったとするでしょ。JA経由の出荷じゃ近所のいい加減な作り方してる米と混ぜられて値段も評判も平均されちゃいますよ。むしろ勝手に農薬へらしたりしたら怒られるっていう。
こんな調子じゃやる気でないからいい生産者ほど消費者と直接つながりたくなるんです。指導通りにあたりまえの農業してたんじゃ安いだけの外国産に太刀打ちできるほど品質の高いもの作れないし危機感ありますよ。

投稿: とおるちゃん | 2013年3月19日 (火) 09時58分

>とおるちゃん様

ありがとうございます。なかなかむずかしそうですね。
どうしても価格で劣るなら国産に求められるのは品質や安全性じゃないかって気がします。
となると安かろう悪かろうのものしか作れない農家は外国産で代替され淘汰されても仕方がないのか。
まじめでやる気のある農家が土地をまとめて大規模低コストで出来ればいちばんいいんでしょうけど。

投稿: kanta | 2013年3月19日 (火) 14時24分

昨今TPPが話題だが、そこにも裏がある。農協の大規模な反対運動がメディアで報じられているが、
政権と農協側は水面下で早くも条件交渉を始めているそうである。

<TPP参加は既定路線だから、あとは農協を通じた農家への補助金交渉になる。
農協は、93年にウルグァイ・ラウンドで米市場の一部自由化を決めた際には、
8年間で6兆100億円という巨額の農業対策予算を引き出した。
関税撤廃品目次第では、今回は10兆円規模の減額交渉になるのではないか」(安倍ブレーン)

自民党のTPP対策委のひとりもこういう。

「北海道庁がTPPによる道内の損失額を米1130億円、小麦418億円などトータルで2兆1254億円と試算している。
委員会では農水族の議員が『北海道だけでこれだけの数字になるんだ!』といいながら、
補償額について話し合っている。最低でもウルグアイ・ラウンドの6兆円は超えるはずだ」
http://www.j-cast.com/tv/2013/03/21170550.html?p=4

投稿: | 2013年3月22日 (金) 17時49分

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