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2013年3月14日 (木)

二倍の値段でも売れる秘密

いわゆるガジェットの類は好きなこともあって電気店には割合よく顔を出す方なのですが、趣味の道具はともかく家電などを買うとなると昨今の家電量販店は今ひとつ事後のフォローアップが弱い店が多いように思います。
もちろんネット通販に押され安売り第一でやらなければならない以上人件費等のコストは極限まで切り詰めなければならないのは理解できるのですが、先日そうした王道の真逆を行くことで続いている家電屋があるという興味深い記事が掲載されていました。

さらば安売り! ウチは「量販店の2倍の価格」でテレビが売れる(2013年3月12日日経ビジネス)より抜粋

 「でんかのヤマグチ」は、東京都町田市にある小さな家電販売店です。
 この地で私は48年間、商売を続けてきました。かつてバブル経済の頃に複数の店を出したこともありますが、今は町田市郊外の1店舗だけです。2012年3月期の売上高は12億4000万円で、社員は40人ほど。ごく一般的な零細企業と言っていいでしょう。
 それにもかかわらず、多くの方々に注目をしていただいているのは、業界大手の家電量販店がひしめく激戦区にありながら安売りをせずにしぶとく生き残っているからだと思います。

家電量販店より15万円高くても売れる

 ヤマグチの店頭に並ぶ50インチの液晶テレビの値段は32万8000円。家電量販店に行けば、同じ製品が17万8000円くらいでしょうか。ウチとでは約15万円の開きがあります。
 「2倍近く高い値段で、売れるわけがない」と思われるかもしれません。値段が1円でも安いほうが売れる。それが当たり前の感覚ですよね。それでも、ヤマグチのお客様は買ってくれます
 その秘密は、徹底した顧客サービスにあります。テレビとレコーダーを買ってもらったらお客様の自宅まで届けて配線して設置してあげたり、電球1個の交換でもトンデ行ったりするのは当たり前。これは言ってみれば、家電の販売や修理など本業に含まれる「表のサービス」です。
 ヤマグチにはこれ以外に、言葉はあまり良くないのですが、「裏のサービス」があり、これに力を入れています。なぜなら、一般的な家電販売店にはまずできないことだからです。

 「裏サービス」の一例を挙げましょう。営業担当者がクルマで担当地域を巡回中、顔見知りのお客様を見かけました。声をかけると、「これから病院に行くのよ」という返事。「それなら、すぐそこですから乗っていってください」と担当者が機転を利かせて送ってあげる。これがヤマグチの「裏サービス」です。
 あるヤマグチの営業担当者は、毎週金曜日になると、馴染みのお客様のご自宅に出向きます。そのお客様は高齢の女性で、韓流ドラマが大好きなのです。しかし、最近のデジタル家電は操作が複雑で、なかなか録画方法を覚えられません。そこで、担当者がお客様の代わりに録画してあげているのです。
 「家電販売に直接の関係ないし、そんなことは家族に頼めばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、そのご家庭は、ご主人に先立たれた単身世帯。子どもも独立し、別の場所に住まいを構えています。すると頼れる人が近くにいません
 そこでヤマグチの登場というわけです。

遠くの親戚より、近くのヤマグチ

 「遠くの親戚より、近くのヤマグチ」──。徹底したお客様サービスを続けていくうちに、いつしかお客様からはそう言われるようになりました。
 社員の名刺には、「でんかのヤマグチはトンデ行きます」というモットーが書かれています。お客様に困りごとがあったら、1分でも早く駆けつけとことん手助けをする。その代わりに我々は家電販売店なので、家電を売らせていただく
 これが、ヤマグチの売り方です。
 こうした姿勢を続けてきた結果、「ヤマグチさんの半分くらいで売っている店もあるけど、どうしてもここに頼んじゃうんだよな」と言ってくださるお客様が増えていきました。

 価格ではなく、いわばサービスがヤマグチの生命線なのです。お客様もそこに期待してくれているのですから、しっかり応えなければいけません。
 例えば、電池や電球といった販売価格の小さな商品ほど、早く届けるようにします。もし「何かのついでで構わないから、電池を持ってきてくれない?」という顧客からの電話があったら、営業担当者はピンときて、すぐに持っていかなければいけません。本当はすぐに欲しいのに、単価が低いから遠慮してそう言っている可能性があるからです。
 私は究極的には「顧客がかゆくなる前にかいてあげる」くらいの気配りが必要だと思っています。例えば、電球が切れたときには、他の部屋は大丈夫かどうかをさりげなく調べる、といったことです。
(略)

家電のように全国どこでも同じ商品が買えるものに対して、今時価格が倍も違うのに買いに来るお客があるのかと誰しも疑問に感じるところですが、その秘密は商品を売る以上にそれに付随するサービスを売る、さらにはむしろサービスを主に商品を従にしているという側面もあるという、これは往年の景品付き菓子のようにどちらが主な商売ネタなのかはっきりしないスタイルとも言えますよね。
都市部ですから家電店というくくりでどうしても見てしまいますけれども、例えばこれが田舎であれば地域の老人向けに買い出しや家庭内の作業などちょっとしたことを請け負う仕事というものは幾らでも必要になってくる訳で、それをサービスだけにとどまるのではなくモノを売るという行為とも結びつけたのだと考えれば、別に電気店でなくとも様々な応用が利きそうな商売のやり方に思えます。
もちろん最初からヤマグチさんも高い値で売り出していたのでは口コミで顧客がつく前に経営不振でつぶれていただろうと思いますが、山口社長はこのあたりのポイントを実に端的な言葉で表現していて、やはりこの考え方は小売りというよりもサービス業的なものに近い気がしますね。

 まず、顧客を喜ばせてから値段を上げるのが鉄則だと思います。顧客が満足しなければ、高い値段で買ってはくれません。だから顧客を喜ばせるサービスは何かとあれこれと考えて、次々に実施していったのです。
 顧客を喜ばせる仕組みをつくる。それから値上げをする。これが「高売り」の商売を続けるポイントです。

ひとたびこうしたシステムが構築できてしまえば、安いだけで集まってくる顧客と違って常にサービスを利用してもらえるでしょうから経営的に安定する、そうなればより高度なサービスを提供するためにマンパワーに投資したりといったことも可能になり、好循環が形成されていくのでしょう。
昨今では医療に限らずどこの業界でもどんどん顧客の要求が厳しくなってくる、それが行き過ぎてクレーマーだ、モンスターだと大きな騒ぎにもなっていますが、考えて見ると商売に対する要求も顧客それぞれで違うのは当たり前で、生産年齢の青壮年患者なら安く早くを求めるだろうし、高齢者であればきめ細かいサービスをといったように、それぞれ身体的、社会的状況に応じて個人差はあるはずです。
一般の商売であれば高級店や大衆店といった同業内での棲み分けが自然にできていてある程度こうした要求に応需できているわけですが、こと医療においては疾患や病態というものは各人それぞれによっても違うし地域の医療供給体制も千差万別であるはずなのに、それを全国一律ワンプライスで同じ医療を提供しますと言い切ってしまっている皆保険制度とはそもそも無理があった制度だなと改めて感じますね。
それでも医療に対する要求水準が低かった時代はそれでも何とかごまかしがきいたのかも知れませんが、今や「そこまで求めるか?」というほど顧客の要求が先鋭化している時代になっている中でやりたくても顧客それぞれに差別化、最適化したサービスが提供できないというのは、考えて見ると双方にとって余計なストレスのたまる状況ではないでしょうか。

今回の記事でもう一つ注目すべきことがあると思うのですが、これは全くの想像ですが安売り競争が盛んなこのご時世、わざわざ市価の二倍もの高い料金を払っても丁寧なサービスを受けたいと考える顧客がそうそうモンスター化するだろうか?むしろ商売抜きでタニマチ的に末永くひいきにしてくれる優良顧客が多いのではないか?と言う気がしないでしょうか?
そして売る側にしても十分なコストと時間をかけられ顧客本位の丁寧な仕事をすることが社是として求められる職場と、何でもかんでもコストカットを要求されるばかりの職場とでは働くスタッフもどちらがモチベーションが上がるだろうか?顧客にとってより末永くつきあいたいと感じるのはどちらのスタッフだろうか?ということも考えてしまいますね。
ヤマグチさんでは家電を売ることとその関連作業という本業以外で、いわば直接の収入につながらない「裏のサービス」をどれだけ行ったかということを 「お客様にしたことシート」なるものに日々記入させるようにしてから社員の接客意識が目に見えて向上したと言いますが、落とし物を捜してあげただの配達ものを受け取っただのといった本当にちょっとした身の回りの手伝いが家電売り上げにつながると証明したことは大きな意味があると思いますね。
医療に戻って言えばこうした顧客本位のやり方を認めない皆保険制度はダメだ、などと一足飛びに全否定するものではなくて、もちろんあれはあれで最低限度の医療を全国民に保証するという点では極めてコストパフォーマンスにも優れたよい制度なんですが、混合診療禁止などに見られるように最低限度以上の付加価値を求める顧客の要望を否定してしまったのは時代にあっているのかどうかですね。
昨今では最初から全額自費の自由診療クリニックなども一定の認知を得られてきているようですが、例えばTPPの絡みで医療にも民間保険が参入すればそうしたクリニックへの需要に対応した商品も登場するかも知れず、久しく言われている規制緩和路線との間でどこまで厳しい規制を続けていくべきなのか、制度の存続を担保すべき国にしても迷わしいところでしょう。

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コメント

ぼりすぎだと思う

投稿: | 2013年3月14日 (木) 08時42分

おもしろい売り方ですね。地方でやってそうなことなのに競争の厳しそうな東京でやってるのも不思議な感じですけど。
こういうことって他の商売もやってよさそうだと思うんですが単価が低いと採算があわないんでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2013年3月14日 (木) 09時42分

>ぼりすぎだと思う

もちろん安さを求める人は安さを追求している店で買うべきでしょうし、それだけの十分な選択枝は存在する地域だと言うことです。
例えば自分がなんでもない日用家電を買うときにはここでは買いませんが、親に何か買って与えるとなれば選択枝に入るかなとも思いますね。
つまりは高い安いが問題なのではなくて、こうしたバリエーションが生まれる自由度の高さが結果として顧客満足度の向上に結びついていることに意味があります。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月14日 (木) 10時56分

ぽん太様

もともと周囲との関係が濃厚な地方じゃこういう商法は成立しないです。「電器屋の親父は親切なんだけど値段は高いよね」ってみんな隣町の大型店にいっちゃいますよ。こういう人間関係が希薄でサービスにお金を払う価値を認めてくれる都会の人間だからできることです。

投稿: たけし | 2013年3月14日 (木) 11時25分

>こういう人間関係が希薄でサービスにお金を払う価値を認めてくれる都会の人間だからできることです。

まさに心の僻地w民度が現れてるなw

投稿: aaa | 2013年3月14日 (木) 12時37分

小学校の頃の同級生が似たような手法で零細電気屋をやっています。ある意味もっと徹底していて店は構えず(建物はあるけど荒れ果てててシャッターがいつも閉まっている)軽トラで巡回して昔からの顧客(ウチの両親とかw)の要望にそった商品を選択して取り寄せてくれたり、電話1本ですぐ来てくれて、きめ細かく設置、修理をしてくれたり…。私はそこまでのサービスは必要ないのですが、同級生のよしみでなるべく彼のところから買うようにしてました。

…先日シャッターの奥にフェラーリとポルシェが隠してあるのを見ちゃったんでもう買ってやらないw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年3月15日 (金) 09時35分

なんと意外なところに大きなビジネスチャンスが!!

投稿: 神田 | 2013年3月15日 (金) 10時30分

>シャッターの奥にフェラーリとポルシェが隠してある

田舎で高級外車など乗り回そうとするとそれなりに気を遣うのですよ
これを世にボロをまとえど心は錦と申しますな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年3月15日 (金) 14時59分

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