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2013年3月 5日 (火)

質問は遠慮せず、しかし的確に

先日は薬事日報にこういうコラムが掲載されていましたが、ご覧になりましたでしょうか。

医療職種間コミュニケーションと「知識」(2013年3月1日薬事日報)

◆ある学術大会の医療職種間のコミュニケーションをテーマにしたシンポジウムで、演壇に立った医師が発した言葉が印象的だった。「コミュニケーションをうまく図れない理由の一つとして、知識の絶対的な不足がある。知識のベースがしっかりあるからこそコミュニケーションが生かされる。知識のない専門職はいらない」

◆コミュニケーションといえばスキルの習得に目が向きがちだ。しかし、その医師は、患者と医療者間のコミュニケーションならともかく、医療職種間のコミュニケーションにおいては「知識とスキルの両立が大事」と強調した

◆そもそも各職種に共通する知識を持っていなければ、相手が何を言っているのか理解できず、コミュニケーションが成り立たない。チーム医療の一員として活躍したくても、その土俵にすら乗れないのだ

◆チーム医療の中で十分な役割を果たすには、相手を凌駕する圧倒的な知識も必要になるだろう。知識の重要性を説いた医師の言葉は、会場を埋めた薬剤師の胸に深く刺さったはずだ。

このところ各施設で患者説明の定型化が進んだりで医師が説明していたことを看護師が、看護師が説明していたことを非専門職スタッフが説明するという機会が多くなってきましたが、その結果今までであれば何ともなかったことが妙に行き違いに発展したり、最悪の場合は本来起こるはずもないトラブルにつながったりするという経験をお持ちではないでしょうか。
物事の背後にある理屈をきちんと知っていれば何でもないことでも、それを知らないばかりにとんちんかんな対応をしてしまうと患者に誤解されたり後でもめたりしがちですが、こうしたトラブルを防ぐためには単なる接遇トレーニングのみならず判断の根拠となる医学的知識が求められるということは当たり前だと思いますね。
導入の検討が進んでいる特定看護師制度なども看護師独自の判断が問われそうなものですが、コメディカルスタッフが今までよりも責任ある仕事をこなすようになってくるほど医師の判断を仰ぐ際にはよりこじれた症例が多くなるだろうとも予想され、そうであるならなおさら正しい言葉を使って正確な情報伝達を行わなければならないのは当然です。
単なる窓口の事務員にしても患者が来院して真っ先に対応する以上最低限の知識は必要で、しばしば聞くように「死にそうな重症なのに受付で順番だからと言われ待たされた」といったケースも減らせるよう、各職場で必要に応じて判りやすく専門的知識の概略を学べる講習などを行っていくことはもちろん、医師で言うところの症例検討会のような情報を正しく伝えるためのトレーニングも必要になってくるのかも知れませんね。

さて、いずれにしても近頃ではどこの職場でも顧客への説明がマニュアル化されてきていることは、世の中がそれだけ複雑極まるものになっている以上仕方のないところだと思いますが、分厚い説明の文書などを突きつけて理解いただけた場合には署名と捺印を、などと言われても正直なかなか読んで理解するのも大変ですよね。
それだけに特に重要な事項をいかに正しく確実に伝えるかということもマニュアル等の書類作成者に求められる基本的なスキルだと思いますが、よくよく見ていますと「これは何かのミス?」と思われるような内容もあるようだというニュースが出ていました。

Amazonで液晶保護シートを買ったら未成年者は飲酒は法律で禁止と警告が!(2013年3月3日ガジェット通信)

先週に『Amazon.co.jp』でデジカメ用の保護フィルムを注文しました。手元に届き明細書を見たら、『20歳未満の未成年者の飲酒は法律で禁止されています。』と書かれていました。「20未満の未成年者」という部分に対しても突っ込みができますが、そもそもデジカメ用の保護フィルムに対して何故飲酒警告が出るのか?という疑問があります。

デジカメ用液晶保護シートを注文した納品書。何故だか未成年者への飲酒禁止の警告が印字されている。 もちろん、お酒などは注文していない。

これを一時的な面白さに取るか?

この明細書だけを見せても、「面白いね」と思うだけの人が多いと思います。また、一時的な間違えだね?と聞き流してしまう人が多いと思います。 しかし、これからの時代ではこの間違えが多くの問題を生むことになると考えます。

中央データは間違っていないという厳格なマニュアル主義

Amazonの場合は決済時の判断を、システムのプログラムで行うので当然のように中央のデータを100%信用します。店舗でもコンビニや大型量販店のアルバイトなどは厳格なマニュアルとPOSレジスターの指示に基づき仕事を行います。昔であれば、中央から末端に指示が流れる段階で明らかに変な問題は自然に訂正されます。 今だとPOSレジが未成年者に売らないと警告を出したらどのような商品であっても未成年者には販売しないだろうと考えます。 もちろん、レジスタッフはおかしさに気が付いているかもしれませんが、下手なことをして職を失うくらいなら、マニュアルに従って仕事を続けるほうが良いと考えているかもしれません。

実際のケース『キリンフリー』

キリンのノンアルコールビールテイスト飲料の『キリンフリー』は日本の法律では誰でも購入して飲むことができます。 しかし、コンビニで購入しようとした場合にはPOSが未成年者への販売を禁止する警告が出ていました。この動きは、コンビニ本部の意向が疑いを差し挟む余地なく全スタッフに伝わっているということなのでしょう。末端のスタッフはおかしいと思いながら未成年者にノンアルコールビールテイスト飲料を売らないという判断をしていると思います。 または、POSがそういう指示を出したのだからそれは正しいと本気で思っているのかもしれません。

映画『未来世紀ブラジル』が現実に?

古い映画ですが1986年に公開された『未来世紀ブラジル』という映画があります。この映画では、中央の機械式のコンピュータに虫が引っかかり、データが狂い冤罪者が逮捕されてしまいます。 そして、その誤認逮捕を目撃した女性とそれを手助けする主人公が不幸に巻き込まれるという悲劇的な話です。もちろん、娯楽作品ですが、この映画では、近いうちに訪れる情報化時代の、「間違えを誰も指摘しない」、「間違えに対して関心を持たない」、「中央の指示だから間違えはない」という考え方を警告していると考えます。

この映画のような世界が急に現実世界に現れるとは感じてはいないですが、現実世界もそれに近くなっているのではと感じます。

今回は誰がどう見ても「これはおかしいだろ?」と言う判りやすいミスですが、実のところ怖いのはより多くの場合は間違いなのか単なる余計な記載なのか判断しかねるようなものが世間に流通していて、場合によってはそれに従って処理を行われることで何かしら不利益を被ったりする危険性もあるということです。
しかし近頃ではコンビニの年齢確認に切れておじさんが暴れるといったニュースがたびたび報道されますけれども、「そんなもの20歳以上なのは見りゃ判るだろう?!」と言われても早老症のようなケースもありますから厳密には外見だけでは判断出来ないでしょうし、本音では微妙な年齢の方々を確認したいのだとしても何歳から免除にすべきなのかでまた一悶着ありそうだしで、マニュアルに従わざるを得ない事情というものもあるわけです。
スタッフの側でも一般に業務マニュアルというのはこれに従って作業していればリスクを最小化出来ると教育されていて、時々マスコミを騒がせるような大事故も発端は当たり前のマニュアルを守らず現場が勝手に作業手順を逸脱したのだと報道されているケースも多いですから、マニュアル通りであることを杓子定規に過ぎるじゃないかと批判するのはかわいそうではありますよね。
ただそうした対応が正しいものとなるためにはマニュアルそのものが正しいということが大前提であるはずですが、人間誰しもミスをするはずなのに大元の部分を手がけた人間だけはミスをしないはずだ、などと言う考えはとんでもない勘違いであるということを、これ以上ないほど端的に示した事例でしょうね。

記事の中で幾つか重要な指摘が行われていますけれども、現場で「これはおかしいのでは…?」と思ったとしても中央からのデータを無条件に正しいものとして優先させてしまうと言うのは、何しろこれだけ多種多様な情報があふれているだけに仕方がないところもありますが、考えて見ると非常に怖い話でもあります。
医療事故なども後日になって新聞ネタなどにされたものを見ると「いくら何でもこれはやってておかしいと思わなかったのか?」とびっくりするような話が少なからずありますが、おそらく現場では日常的に「あれ?これはこれでいいの?」と疑問符がつくような経験をしている、しかし多くの場合は確認してみれば結局自分自身の知識や技能の不足からくる疑問であったという学習体験も多く積み重ねていっているはずです。
新人看護婦が昼夜を問わず「先生この指示はこれで正しいんでしょうか?」なんてとんちんかんなことばかり訊ねてくれば大抵の温厚な医師でも「そんなことは先輩ナースに聞け!」なんて言ってしまいそうですが、そうした経験が「詳しく知っている人の指示だから正しいはずだ」という思い込みを生み、いずれどこかで地雷を踏むことにつながりかねないという危機感は持っておくべきでしょうね。
ではどうしたらいいのかということですが、やはりまず第一には指示の背後にある意図を理解出来るまでにきちんと知識を身につけていく、そしてそれでも判らないときは判る人間にその都度質問して確認を行うしかないかと思いますけれども、質問をするのはいいけれどもちゃんと論理的に判るように質問してくれと感じている先生方も多いのでしょうから、やはりここでも求められるのは基礎知識ということになるのでしょうか。

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コメント

深夜にギャル語で電話してきた茄子に殺意のわいたあの頃。。。。

投稿: | 2013年3月 5日 (火) 09時35分

>知識のない専門職はいらない

そう言いたいのは山々ですけど数の不足でとにかく資格さえ持っていれば使わざるをえないのも確かなので…

投稿: ぽん太 | 2013年3月 5日 (火) 10時10分

最終的には専門職の総数や施設数が妥当なのかという議論に結びついてくるのでしょうけれどもね。
ただ医学部学生の学力低下などは問題視されますが、看護師らコメディカルスタッフの卒然卒後教育の充実についてももう少し対策が必要かと思います。
特に看護の場合非専門的な接遇技術さえ熟達していれば患者さんからは優しくて気がつくよい看護師に見えてしまいますから。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月 5日 (火) 11時35分

あまりひどいときはねちねちって言われるくらい突っ込んでやるのも医者の務めだと思うけどね
ナースが失敗したって言っても最終的な責任はたいていこっちにかかってくるんだから

投稿: オオタ | 2013年3月 5日 (火) 12時10分

>コンビニで購入しようとした場合にはPOSが未成年者への販売を禁止する警告が出ていました。
これは内部的にはどういうルールでやってるんだろう?ノンアルコールでも帳簿上は酒類扱い?ビールと区別が難しいから未成年は禁止?

投稿: | 2013年3月 5日 (火) 17時28分

>深夜にギャル語で電話してきた茄子に殺意のわいたあの頃。。。。

土曜深夜にクダラン事で電話してきてなおかつ病院に来る事を強要した茄子に「オレは休みだ!休みは労働者の正当な権利だ!!人の休みを何だと思ってやがる!!!」とガチャ切りしてオーベンにチクられてしこたま怒られた挙句スタッフに総スカンくらったあの頃。。。。

>あまりひどいときはねちねちって言われるくらい突っ込んでやるのも医者の務めだと思うけどね

ねちねち言ったくらいで矯正されるならそもそも…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年3月 6日 (水) 09時49分

>ねちねち言ったくらいで矯正されるならそもそも…。

矯正はされずともおとなしくさせたり追い出したりする効果はあるでしょうが、枯れ木も山の何とやらと言うくらいでどちらが得かよく考えないといけませんな。
ちなみに研修医時代の同僚は衆目の一致するところトンデモさんレベルだと評判だった看護師に「二度と俺の患者に関わるな!」と通告したそうで、おかげで患者さんの受けるダメージは激減したそうですが。

投稿: 藪 | 2013年3月 6日 (水) 11時11分

田舎の病院でDQNなお局様が地域内有力者の血縁だった日には悲惨極まるものがありますよほんとうに

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年3月 6日 (水) 14時04分

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